アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
咄嗟のラリアットによる反撃でパラダイスキングからダウンを奪ったセイウチン。
そのきっかけを作ったのは、逃げ遅れたと思しき謎のトレンチコートの男……彼はいったい何者なのか?
セイウチンが訝しんでいるその間に、パラダイスキングは仰向けに倒れたままニィッ……と口角を上げた。
「いい~ネ」
称賛の言葉を口にしながら、パラダイスキングはゆっくりと起き上がる。
「お上品なガゼルマンとは違う。セイウチン、おまえの闘い方からは野生……いいや、獣性のようなものを感じるぜ」
ヘラクレス・ファクトリーという由緒正しき教育機関で技を磨いてきたセイウチンを指して、獣のようだと称するパラダイスキング。
この発言にはセイウチンの後方に立つトレンチコートの男が笑みで反応した。
「グフフ……いい表現だな。あのパラダイスキングという男の意見には私も同意する」
獣性。
それはこの試合の勝敗を決める上で重大な要素となるだろう。
「セイウチン……おまえはその内に秘めたる獣性を解き放てば、超人レスラーとしてさらに強くなれるだろうぜ」
「獣性……」
物知り顔で語る謎の男に、セイウチンは疑念を隠せない。
獣性を解き放てなど、名のある
「もっと見せてみろ。おまえの獣の本性ってやつを」
言いながら、パラダイスキングはおもむろに自身のアフロ頭に手を突っ込む。
ゴソゴソと中を探るような所作のあと取り出したのは、ガゼルの角を模した鋼鉄の爪だった。
『あ――っとこれは、先ほどガゼルマンから没収したアントラーフィストだ――っ!』
パラダイスキングが敵の武器を髪の中に収納したのはコレクションのためではない。
凶器は使ってこそ真価を発揮する。ゆえに一切悪びれることなく、鋼鉄の爪を右手に装着した。
「テ、テメェ~~ッ」
仲間の代名詞とも言える武器を無断使用され、セイウチンが憤る。
もちろんそんなものに怯むパラダイスキングではない。
おしゃべりはここまでとばかりに駆け出した。
「お友達の武器で地獄へ送ってやるぜ!」
『パラダイスキング、アントラーフィストを装着した右手でセイウチンを狙う!』
真っ向から近づき、アントラーフィストでの突きを仕掛ける。
セイウチンは最低限の体重移動でこれを回避。
アントラーフィストの攻撃は点。間合いを読み誤らなければ避けるのは容易だが、問題はその攻撃速度と「しくじればリスク大」というプレッシャーである。
『受けてもダメージは必定のこの攻撃、セイウチンはスウェーを駆使し巧みに躱すが……』
回避ばかりではいつか疲れが来る。どこかで反撃しなければ手詰まりだ。
タイミングを見計らうセイウチンだったが――
「ぶっ!?」
その慎重な眼差しに、アントラーフィストを装着していない左手が飛び込んできた。
『パ、パラダイスキングの左拳がセイウチンの顔面を捉えた――っ!』
セイウチンは相手の右手にばかり注意を奪われていたことを察し、己を呪う。
「アントラーフィストに気を取られすぎだ! やつは仲間の武器をチラつかせることでおまえの動揺を誘っている!」
トレンチコートの男も同様の助言を飛ばし、セイウチンは構えを正す。
「おっと、警戒を解けばガゼルの角でズドンだぜ!」
左手にも警戒を――と思いかけたところに、右手のみでの執拗な連続突きを繰り出す。
セイウチンはたまらずバックステップ。思わず必要以上に距離を取ってしまい、反撃の機会は完全に失われた。
「恐れるなセイウチン! おまえに角はないが……それに匹敵する強力な牙があるだろう!」
自分でも悪手とわかっているからこそ、背後の男の言葉が耳に留まる。
「牙……」
それは限られた超人しか持ち得ない身体的特徴。
セイウチの化身超人であるセイウチンももちろん立派な牙を有していたが、だからなんだというのか。
考える間もなく、パラダイスキングが突っ込んできた。
「シャー!」
アントラーフィストでの豪快なストレートパンチ。
男の言うことは理解できない――理解できないが、本能が体を動かした。
牙を使え、と。
セイウチンが顔を上げ、ガゼルの角に向かっていく。
『なんとセイウチン、アントラーフィストの一撃を牙で受け止めた――っ!』
硬質な音を鳴らし、
「オッホ!」
予想外の防御法にパラダイスキングは満面の笑み。
一方のセイウチンはほぼ無意識での行動だったためか、困惑していた。
「こ、これが獣性ってやつなのか……?」
確かに、セイウチンの牙の強度は武器足りえる。
しかしだからといって超人レスリングに用いるなど――
「シャッシャ!」
考えている暇はなく、パラダイスキングがアントラーフィストによる突きを繰り出してくる。
セイウチンは顔を振り、その切っ先に的確に牙を合わせていった。
『角拳と牙剣が激しく打ち合う! その様はさながらチャンバラのごとしだ――っ!』
角対牙など、それこそ野生動物の闘いだ。
獣性を解き放つとはこういうことなのか――否。
戸惑うセイウチンの背後で、トレンチコートの男は難しそうに唸っていた。
「ウム~~ッ。悪くはないがそうではない。セイウチンがもう一段高みへのぼるためには、さらなるブレイクスルーが必要だ」
正体不明の男がリングに熱意ある眼差しを向ける中、パラダイスキングが静かに舌打ちした。
「埒が明かねえな」
尺稼ぎのチャンバラなど王の望むところではない。
パラダイスキングはセイウチンを正面に据えたまま後退。リングロープを背にした。
『どうしたパラダイスキング!? セイウチンから大きく距離を取ったが、なにをするつもりだ――っ!?』
この技を仕掛けるには距離が必要。ゆえにパラダイスキングは後ろに下がったのだ。
「インスパイアだ」
パラダイスキングはニヤリと笑い、キャンバスを蹴る。
アントラーフィストを嵌めた右手を前に突き出す形で体を倒し、全身をきりもみ回転。
加速をつけ突進した。
「ジャングル・ヒート――ッ!」
『こ、この技は~~っ!?』
体を回転させて飛びかかる一撃は、ガゼルマンのサバンナ・ヒートを連想させる。
だがこのパラダイスキング流アレンジはより殺傷力を高めていた。
「ガゼルマンのサバンナ・ヒートは縦回転でダイナミックだがその分ムダも多い! こんなふうに螺旋回転で破壊力を前方一点に集中させたほうが合理的だぜ――っ!」
サバンナ・ヒートが殺人チェーンソーだとしたら、ジャングル・ヒートは超破壊ドリル。
どちらも命中すればただではすまない。
セイウチンは防御を捨て、身を翻した――が。
リング内に鮮血が飛び散る。
『あ、ああ~~っ! セイウチン、なんとかジャングル・ヒートの直撃から逃れようとしましたが……完全回避とはいかず、胸に深々とした裂傷を作ってしまった――っ!』
赤く染まるセイウチンの胸元。
血を吸ったアントラーフィストの切っ先。
攻撃成功を醜悪な笑みで表現するパラダイスキング。
「グァァ……ッ」
『セイウチン、大出血~~っ』
セイウチンが痛みに悶絶するようにキャンバスを転がり、ロープ際まで退避する。
アントラーフィストの攻撃に峰打ちはない。かすり傷でも致命傷となりえた。
さらにパラダイスキングが仕掛けた技は、超人レスリングの長い歴史で見ても、その武器を最も効果的に活用したと言える。
『し、しかし驚くべきはパラダイスキング! まさかガゼルマンのサバンナ・ヒートを自己流にアレンジした結果、伝説的知名度を誇るウォーズマンの
そう――鋼鉄の爪を先端としドリルのようなきりもみ回転で飛びかかる技の使い手には、偉大なる先人がいるのだ。
もちろん異邦人であるパラダイスキングには知り得なかった、まったくの偶然による一致だが……本人は不満げに唇を尖らせる。
「ケッ。どうやら俺が即興で思いついた技は、この世界にいるビッグネームの技とクリソツだったらしい。やっぱそう簡単にオリジナリティってのは生まれねえな」
残念がりながらも、視線を這いつくばるセイウチンに移した。
「まあいい。ダメージは十分……そろそろフィニッシュタイムだぜ」
右手を構え、アントラーフィストをギラリと光らせる。
「ウウッ……」
セイウチンはなんとか立ち上がろうとするが、やはり胸の傷が深く膝立ち状態で固まってしまった。
「セイウチン。おまえにひとつおとぎ話をしよう」
そんなセイウチンのすぐそばにやってきたトレンチコートの男が言う。
「こ、こんなときになに言ってるだよ、おっちゃん……」
「いいから聞け」
男はリングロープ越しに語りかける。
「イギリスに伝わる童話さ……ある日のこと、海岸で大工と巨大セイウチが大きな牡蠣を大量に見つけたんだ」
「お……大きな牡蠣……」
本当にこんなときになんの話だ?
訝るセイウチンだったが、男の真剣な声音には不思議な魔力のようなものがあり、つい耳を傾けてしまう。
「牡蠣はふたりに頼み込んだ。『お願いです。ボクたちを食べないでください!』と。心優しいセイウチは思わず躊躇したが……連れの大工はそんな牡蠣の願いを聞き入れず、その場でムシャムシャと食べてしまったんだ」
「わ、悪いやつだなその大工……」
童話とは往々にして世界観がダークだったりするもの。
セイウチンは生を懇願しながらも食べられてしまう牡蠣を哀れに思った。
「大工はセイウチに向かってこう言った。『さあ、家に帰ろうや!』と。ところが、なぜかセイウチは一言も答えようとしなかったんだ」
「え……ええ? 大工に腹が立ったからじゃねえのか?」
おそらく大工とセイウチは友達のような関係だったのだろう。
それなのに、信頼していた大工は無慈悲にも牡蠣を食べてしまった……いかに友達といえど怒りが込み上げてこないはずがない。つきあいをやめようと考えても不思議でないくらいのショッキングな出来事だ。
セイウチンはそう考えたのだが、トレンチコートの男はフッと笑い、大口を開ける。
「ハァ~~ッハハハハ! 残念~~っ!」
「……!?」
いきなり感情を乗せた大笑いを飛ばすトレンチコートの男。
まるでこの場にギターがあったら掻き鳴らしていたかのような勢いで、セイウチンに不正解を言い渡す。
そして、この童話のオチ――セイウチの“真理”を告げるのだ。
「セイウチが口を利けなかったのは、大工よりもたくさんの牡蠣をたらふく食っていたからさ――っ! 開けなかった口の中は牡蠣だらけ――っ!」
「ア……アアア~~ッ!?」
「所詮、獣のセイウチは牡蠣を食わずにはいられなかったのさあ~~っ! ハァ~~ッハハハハハ!!」
牡蠣が『ボクたちを食べないでください!』と懇願した?
だからなんだ。
牡蠣は美味いのだから、目の前にあれば喰らう。
それがセイウチ、それが獣――慈悲や理性などあったものではない。
「グガァ……」
セイウチは――自分は“そういう生き物”なのだと思い知らされたセイウチンは、衝撃のあまり姿を一変させていく。
目つきは肉食獣のごとくつり上がり、全身の毛が逆立つ。
トレードマークのドレッドヘアは意思を持つかのごとく暴れ、頭に巻いたハチマキを引きちぎる。
口の牙はより鋭く伸び、かつて万太郎に自慢した鼻ピアスはその変化の余波で弾け飛ぶ。
「セイウチンよ! おまえは内に秘めたる獣性を引き出さぬ限り野生の力で闘うパラダイスキングには勝てぬ~~っ! クリーンなファイトを捨て、“闘う獣”に変貌を遂げるのだ――っ!」
命乞いをする者にも容赦せず、その鋭い牙で肉だろうと骨だろうと噛み砕く――それこそが真の獣。
温厚な性格で知られるセイウチンの奥底に秘められた“真理”を見た男は、若者の覚醒に歓喜し熱狂するのだった。