アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
盛り上がる筋肉、逆立つ毛並み、一変する表情……まさしく二足歩行する
トレンチコートの男が語ったイギリスの童話をきっかけに、セイウチンは“変身”とも言える変化を遂げてしまった。
『ど、どうしたんだセイウチン~~ッ!? 突然勇ましく吠えたかと思ったら、獰猛な肉食獣のごとき顔つきにイメチェンしてしまったぞ~~っ!?』
しかし急激なキャラ変など、対峙するパラダイスキングにとってはハッタリにもならない。
「そういうお年頃かぁ!?」
右手に装着したガゼルマンの武器、アントラーフィストを構えセイウチンに肉薄。
鋭い突きでセイウチンを貫こうとしたが――その身は軽やかに跳ぶ。
『セイウチン、高いジャンプでアントラーフィストの一撃を躱し……』
強靭なバネを駆使した跳躍に、パラダイスキングが目を剥く。
行方を目で追うも体は追いつかず、そのまま背後に着地するのを許した。
そして降りる瞬間、セイウチンはパラダイスキングの肩目掛けて口を開き――
『噛みついた――っ!』
「ギャアア――ッ!?」
絶叫するパラダイスキング。
より鋭く凶悪になったセイウチンの牙が肩口に食い込み、血飛沫を上げる。
「そうだ、それでいい!」
グッと拳を握ったのが、リングサイドにかぶりつくトレンチコートの男である。
「おまえの本性はおとぎ話に出てくるセイウチと同じ、命乞いをする牡蠣を無慈悲に食らい……魚もウロコごと、堅い骨だってその鋭い牙で噛み砕き食らいまくる獣だ!」
セイウチンに獣性を見出し、それを意図的に解放してみせた手腕……もはやセイウチン本人に疑問を持つ余裕はない。
彼は今、目の前の捕食対象を喰らうことしか頭になかった。
「こ……この野郎!」
パラダイスキングはセイウチンの頭部を手で掴み、強引に肩から引き剥がす。
肩に牙が食い込んだ状態でそんな真似をすれば激痛は必至。
だが野生に生きる王は歯を食いしばって耐えた。
『パラダイスキング、セイウチンを引っ剥がすも肩からは大出血だ――っ!』
呼吸を整えながらセイウチンを睨みつけるパラダイスキング。
「バイティングとは味な真似をしてくれやがる。野生の闘いっぽくなってきたじゃねえか」
セイウチンはなにも言わず、パラダイスキングからかじり取った肩の肉をクチャクチャと咀嚼していた。
「いいぞ、セイウチン! やはり私……いやオレの目に狂いはなかった――っ!」
トレンチコートの男は大興奮で歓声を送り、セイウチンは応えるように笑みを見せた。
「グルガァ……」
笑みといっても、それはやはり獲物を前にした肉食獣の喜び。
教育番組で流れる世界の動物特集でも滅多に見られない光景だ。
「セイウチンの様子が……へん!」
宙に浮かぶ黒い球体の檻から事態を見守るボーちゃんも、セイウチンに異変を感じ取っていた。
そんな子供でもわかる変調を身に宿したまま、セイウチンがパラダイスキングに向かっていく。
「グガァ――ッ!」
猛々しく吠えながらの突進。両手は高く掲げ、開手。
「力比べがお望みか?」
相手の意図を察したパラダイスキングは右手に嵌めていたアントラーフィストを外し、再びアフロに収納。
セイウチンに応えるように両手を繰り出し、合わせた。
『セイウチンとパラダイスキング、手四つに組んだ――っ!』
互いに両手を握り合い、力をぶつけて押し合う構図。
超人レスリングではポピュラーな力比べの展開は、しかし――
「ウオオオッ!?」
すぐさまパラダイスキング側の膝が折れ、本人に動揺が走るという結果を迎えた。
『あ――っとセイウチン、先ほど怪力を見せつけたパラダイスキングを押している! どちらかといえば技巧派の印象が強かったセイウチンが思わぬ一面を見せる――っ』
優勢を掴み取ったセイウチンはさらにパラダイスキングを圧倒。
両膝が完全に折れたところで手四つを解除し、がら空きの腰に腕を回す。
「グオオオ――ッ!」
『セイウチン、そのまま腰に組みつき高くジャンプ――ッ!』
胴をホールドした状態での跳躍。
超人レスラーならここから多種多様な技を発動できるが、外様のパラダイスキングはまだその恐ろしさを理解していない。
「ハンッ! この程度のクラッチで俺が捕らえられたなど……」
怪力をもってセイウチンの仕掛けを制そうとするが――今のセイウチンは単純なパワー勝負を挑んでいるわけではないのだ。
「ウギャッ!?」
パラダイスキングの口からまたもや悲鳴が漏れる。
その原因は彼の脇腹にあった。
『な……なんとぉ~~っ! セイウチン、空中でパラダイスキングの脇腹に噛みついた――っ!』
肩に続き、食いでのある脇腹の肉を喰らう。
足が地についていない空中でのバイティングを引き剥がすのは困難。
パラダイスキングはされるがまま、セイウチンはさらなるムーブへと移行する。
『脇腹を牙で固定したまま、両腕で首と股ぐらを制し……逆さに落とす形で落下――っ!』
あっという間に上下がひっくり返るパラダイスキング。
首はセイウチンの左手が、股ぐらは右手が、そして脇腹は牙が押さえ、完全に身動きを封じられる。
そして重力の赴くままキャンバスへと落下していけば――
「変形のパイルドライバー! これは……」
トレンチコートの男は経験を持って悟った。
これは決まる、と。
「アトランティック・ドライバ――ッ!」
脇腹に喰らいつきながらの脳天激突パイルドライバー。
パラダイスキングの巨大アフロが潰れ、激しい音を鳴らした。
『決まった~~っ! セイウチン、獣性と技巧を重ね合わせたような新必殺技を叩き込み、パラダイスキングをキャンバスに沈めました――っ!』
うつ伏せにダウンするパラダイスキング、そして技を解き2本の足で立つセイウチン。
「ヨシ!」
トレンチコートの男は口角を上げガッツポーズ。
セイウチンは自身の勝利が告げられるのを待ち、春日部スタジアム本部席のジャクリーン・マッスルもゴングを叩くための木槌を構えた――そのときだった。
「だ~れが沈んだって~~っ?」
未だ余裕の感じられる声を発し、パラダイスキングがカメラに向かって笑みを見せたのである。
『あ、あああ~~っ! パラダイスキング、脳天から落とされたにもかかわらず起き上がってきた~~っ』
高所から頭を、それも受け身の取れない状態で叩きつけられたのだ。
普通なら気絶、そうでなくとも出血が免れないはずだが、パラダイスキングは頭からは一滴の血も流していなかった。
「バカな! 今のセイウチンの技はパーフェクトに決まっていたはず!」
セイウチンの勝利を確信していた男からも驚きの声が漏れる。
「グロロ~~ッ」
セイウチンは言葉でなく獣のごとき鳴き声で反応し、じり……と左足が後ろに下がった。
パラダイスキングはその変調を見逃さず、ニィッと口元を歪めた。
「獣ってのは本能に逆らえねえ。確かな手応えを感じつつも倒れない俺に、恐怖を感じているようだな~~っ」
ダメージは確かにある――が、
精神面での優位はこちらにあると判断し、パラダイスキングはじりじりと距離を詰めていった。
「ガルル」
セイウチンは喉を鳴らしてパラダイスキングを近づけまいとするが、
「そんな威嚇が俺に通じるか――っ!」
『パラダイスキング、セイウチンの鼻っ面に飛び膝――っ!』
構わず飛び込んできた飛び膝蹴りに全身が揺らぐ。
セイウチンの身は背中からダウンしてしまい、即座にパラダイスキングが体を乗せてきた。
「そ~ら、マウントポジションだ!」
セイウチンの腰にドカンと体重をかけ、両手で拳を握る。
倒れる者と乗る者、両者の目と目があい、血の香りを放つ。
『ダウンしたセイウチンに馬乗りになり、鉄槌の連打だ――っ!』
マウントポジションでセイウチンの身動きを封じ、固めた拳でハンマーパンチを繰り出すパラダイスキング。
狙いはもちろん顔面。特にその生意気な牙をへし折ってやろうと口周りを執拗に叩いた。
「オラオラオラ! どうしたどうした!? ガルル~なんて吠えちゃいるが、もう手も足も出てねえじゃねえか! テメェもガゼルマン同様、王に逆らった者の末路ってやつを教えてやるぜ――っ!」
ショープロレスならばともかく、実戦ならばマウントポジションはほぼ決着の形。
もはやセイウチンに逆転の目はなく、あとは意識が失われるまで殴り続けるだけだ。
「裸の王様だな……」
そんな様子を見て、リングサイドに立つトレンチコートの男がつぶやいた。
パラダイスキングは殴る手を止め、横目で男を睨みつける。
「ああ~? なんか言ったかオッサン」
さっきから部外者がセイウチンのセコンドじみたことをしているのには気づいている。
ゆえに男の目的はセイウチンのアシスト、そのための挑発だろうと考えた。
マウントポジションは崩さず、KO寸前の獣にも隙は見せない。
「知っているか、パラダイスキングとやらよ。北国の獣の帝王と呼ばれているのは北極熊だが……その北極熊が唯一恐れる天敵がいることを」
案の定、トレンチコートの男は突拍子もない問いかけを投げてきた。
「なにが言いてえ」
王は余裕を見せつけてこその王。
一応は聞いてやるが、つまらぬ内容ならばあとで制裁を加えるだけの話。
しかし、トレンチコートの男はニヤリと笑む。
この声掛けは挑発でもハッタリでもなんでもない――“おまえは今から逆転されるぞ”と、善意で教えてやっているだけなのだから。
「それが他ならぬ“海象”……つまりセイウチン! こいつは王を超える存在なのだ――っ!」
テンション高く男が言い放ったそのとき、パラダイスキングの右腕に激痛が走った。
「ニードルファー!」
『あ――っとセイウチンの全身の毛が逆立ち針のように硬くなり、パラダイスキングの腕を突き刺した――っ!』
剣山と化したセイウチンの体毛がパラダイスキングの肉を貫通したのだ。
なにが海象だ――これじゃハリネズミじゃねーか!
「グゥ……」
パラダイスキングはたまらず飛び退け、右腕を庇いながら距離を取る。
一方のトレンチコートの男はあっぱれと言わんばかりに手を叩いた。
「ホッホ~~ッ! やはり擬態だったか! 今のセイウチンは獣性だけじゃねえ……理性も兼ね揃えている――っ!」
獣性と理性を兼ね揃えれば体毛が針のように伸びるのか!?
パラダイスキングは超人、あるいは海象という種がわからなくなり、本能的に身を引いた。
だがそれはセイウチンから見れば、致命的な隙。
ダウンから復帰するや否や、セイウチンはパラダイスキングに肉薄する。
『セイウチン、怯んだパラダイスキングの顎を右腕で制し……左脚を自らの頭と右腕に挟んで捕らえ、担ぎ上げる――っ』
そのまま飛び、ニードルファーにより針化した右脚の脛を背中に突き刺し固定。
ふたりの体がぐんぐん空へとのぼっていく。
『完全にパラダイスキングの体を制した状態で上昇……空中で反転し、激突技を狙っているぞ――っ!』
顎と左脚を制されたパラダイスキングの体は極限まで海老反りにされ、胸から落とされようとしている。
この状態でキャンバスに叩きつけられればセイウチンの体重が乗るのはもちろん、突き刺さっているニードルファーがさらに深く体内へと沈み込むだろう。
常のセイウチンでは考えられなかった残虐攻撃の名は、北国の獣の帝王を仕留める海象の一撃。
「北極熊捕獲落とし――――っ!!」