アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面”   作:速筆魔王LX

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第042話 パラダイスキングに隠された真実!

『セイウチンが見たこともないオリジナル必殺技(フェイバリット)を発動――っ! 誰の目から見ても明らかな決着を狙う一撃が、白いキャンバスへと吸い込まれていく――っ!』

 

 上空高く舞い上がったセイウチンは、パラダイスキングを極限まで固め抜いた“北極熊捕獲落とし”の体勢のまま、激しい風を切って急降下。

 このまま激突すれば、いかにタフなパラダイスキングとて絶命を免れぬ破壊力。

 これぞ獣性と理性の融合、残虐攻撃の理想形とも思われたが――

 

(セイウチン……)

 

 風切り音の渦中で、突如として脳を揺さぶる切迫した声が聞こえてきた。

 セイウチンは視線を走らせる。

 

(ガ……ガゼルマン!?)

 

 声の主は、四隅のアニマル・チェンバー――直前の死闘で敗れ、鉄檻の中に収監されている相棒ガゼルマンだった。

 意識を失い、ぐったりと力なく垂れ下がっているはずの彼の口元が、微かに動き、必死になにかを語りかけようとしている。

 

(なんだ? もう少しでパラダイスキングを倒し、おめーの仇を討てるってのに……オラになにを伝えようとしてるんだ?)

 

 混乱しながらも、セイウチンは急速に近づくキャンバスとガゼルマンの表情を交互に見つめた。

 掠れるような声で紡がれたメッセージ。

 その意味を脳内で反芻した瞬間――セイウチンの瞳が極限まで見開かれる。

 

(あ……あああああ~~っ!?)

 

 衝撃のあまり、セイウチンの全身から力が抜け、強固だった固め技のクラッチが緩んでいく。

 

『あ――っとどうしたセイウチン!? 落下の途中で技が崩れたぞ――っ!?』

 

 千載一遇の機を、弱肉強食の理を生きる王が見逃すはずもなかった。

 

「呆けてんじゃねえぞ!」

 

 空中で技から脱出したパラダイスキングは素早く身を翻すと、無防備に体勢を崩したセイウチンの後頭部へ凶悪な蹴りを叩き込む

 

「ウォルラス・シュート!」

 

『空中で体勢を立て直したパラダイスキング、セイウチンをキャンバスへ向かって蹴り飛ばした――っ!』

 

 重厚な打撃音とともに、受け身すら取れぬまま無惨に撃ち落とされるセイウチン。

 

「ゴァッ」

 

 肺の空気をすべて吐き出すような悲痛な苦悶の声が漏れる。

 

「セイウチン!」

 

 リングサイドで見守っていたトレンチコートの男が、思わず叫び声をあげた。

 

「こっからは俺のターンだぜ!」

 

 着地と同時に反転したパラダイスキングは、すぐさま立ち上がりかけたセイウチンに接近。

 背後からその腰に両腕を回し、胴体を捕らえる。

 そして、キャンバスを強く蹴った。

 

『パラダイスキング、セイウチンの腰をクラッチし高く飛び上がる――っ! これはまさか、先ほどガゼルマンをKOしてみせたファンキー・ダイナマイトのセットアップか~~っ!?』

 

 通常のジャーマンスープレックスではありえない高度は、春日部スタジアムから中継を見る観客たちに先ほどガゼルマンがKOされたシーンを思い起こさせる。

 

「同じ技じゃギャラリーが退屈しちまうだろ! 今度のはよりダイナミックにいかせてもらうぜ!」

 

 頂点で上下を引っくり返したパラダイスキングは、獲物を抱えたまま殺意に満ちた角度で斜め下へと急降下を開始。

 落とすのはリングの中央ではなく――角。

 

『降下体勢に入ったパラダイスキング、その降下先はキャンバスではなく……コーナーだ――っ!』

 

 東武動物公園に置かれたこのリングはただのリングではない。

 四隅のコーナーポストの代わりに鉄檻が配置された、アニマル・チェンバー・リングなのである。

 

「チェンバーにぶつけるつもりか!」

 

 トレンチコートの男がその恐ろしい意図に気づき、目を見開く。

 

「セイウチーン!」

 

 黒い球体に囚われているボーちゃんも、新世代超人(ニュージェネレーション)のピンチに声を張り上げる。

 

「ファンキィイイイイイイイイイイ……」

 

 パラダイスキングは凶悪な笑みを浮かべ、もはや遮るものなしと鉄檻に落ちていった。

 

「ダイナマァ――――イッ!!」

 

 凄まじい衝撃音が響き渡り、頑丈なアニマル・チェンバーの天井が木っ端微塵に砕け散る。

 セイウチンの体は鉄檻の天井を突き破り、そのまま内部へと叩き落とされていた。

 

『セイウチン、アニマルチェンバーにダイレクト収監――っ!』

 

 一方のパラダイスキングは、華麗にキャンバスへ着地。

 鉄檻でぴくりとも動かなくなったセイウチンを背に、ニヒルな笑みをカメラへ向けた。

 

「フィナーレだぜ」

 

 春日部スタジアムで木槌を握るジャクリーン・マッスルが、その様子を見て沈痛な面持ちを浮かべる。

 感傷は一瞬、己はレフェリーとして務めを果たすのみ。

 彼女の振った木槌によって、決着の音色が奏でられた。

 

『無情なるゴングが鳴り響く~~っ! 優勢かと思われたセイウチン、まさかの逆転KO! 真・正義超人軍のパラダイスキングが、新世代超人の精鋭ふたりに連勝を決めた――っ!』

 

 実況が語るとおり、まさしく“まさか”の試合結果である。

 王を超えるはずだった存在が檻の中で倒れ、王は未だリング中央という玉座でふんぞり返る。

 信じられない光景を前に、トレンチコートの男は膝を折りかけるほど愕然とした。

 

「なぜだ……」

 

 男は鉄檻内のセイウチンへ向かって強く問いかける。

 

「なぜだセイウチン! 今のおまえの技は完璧に極まっていた! 自らの意思でクラッチをゆるめたりしない限り反撃の可能性は皆無だったはず……なぜ手心を加えた!?」

 

 卓越した観察眼の持ち主である男には、今の攻防が単純な逆転劇ではないとわかっていた。

 技の途中で変化が起こったのは、仕掛けていたセイウチン自身。パラダイスキングはなにもしていない。

 

「た……たしかに、そのとおりだ……」

 

 檻の中でぐったりと横たわるセイウチンは、血に濡れた顔をわずかに上げ、途切れ途切れに答えた。

 

「オラは自分の意思で技を解いた……技が決まる土壇場で、パラダイスキングをKOするわけにはいかないと……ある重大な事実に気づいちまったがために……」

 

 ゴクリと息を呑み、男は言葉の続きを促す。

 

「そ、その重大な事実とは……?」

 

 セイウチンもまた、これは意識を失う前に絶対伝えなければ――と唇を震わせる。

 

「パラダイスキング……あいつは……」

 

 勝利の余韻に浸るアフロ男を指差し、己がたどり着いた答えを口にする。

 

「人間だ」

 

 パラダイスキングは悪行超人でもなんでもない。

 我々超人が守るべき人間である――と。

 

「な、な……なんだと~~っ!?」

 

 トレンチコートの男も驚きをあらわにし、その情報は春日部スタジアムにも送られた。

 

『ああ~~っとここでセイウチンから告げられる衝撃の新事実! 大魔王サタンによって別世界から召喚されたアクション仮面と縁のあるライバルのひとりパラダイスキングですが……その正体が人間であるというのか~~っ!?』

 

 衝撃に包まれる春日部スタジアム、そして東武動物公園。

 セイウチンとは反対側のチェンバーに収監されたガゼルマンが、力なく言葉を紡ぐ。

 

「よ……よく気づき、踏みとどまってくれた……」

「ガゼルマン……」

 

 セイウチンが気づけたのは、先にガゼルマンが気づいてくれたからこそ。

 ガゼルマンは試合の中でのパラダイスキングの言動から、彼が人間である根拠を得ていた。

 

「パラダイスキングは……アクション仮面のことを特撮俳優と……そしてオレたち超人のことを、同じようなテレビの特撮ヒーローのように捉えていた。そこから推察するに、おそらくこいつのいた世界に超人はいなかったんだ……」

 

 満身創痍でそう語るガゼルマン。

 トレンチコートの男やボーちゃんの注目を集めながら、なおも続ける。

 

「そしてアクション仮面もまた、単なる特撮俳優……つまりは人間。だとすれば、そのライバルだったパラダイスキングもまた人間なのではないかと……そう思い至ったら、こいつを倒すわけにはいかなくなった……」

 

 大魔王サタンに召喚され、宇宙人ハイグレ魔王や悪の首領メケメケZと肩を並べていたパラダイスキングが、まさか人間であるなどとは誰も思うまい。

 彼が人間であるならば、この試合の意義は根本から崩壊する。

 

 しかしガゼルマンは最後まで言い終えることができず、ぐったりと目を閉じた。

 続く言葉は、同様の結論に至ったセイウチンが紡ぐ。

 

「だってオラたちは、人間の安全と平和を守る使命を帯びた正義超人だから……」

 

 それは、新世代超人として21世紀の世に発った者の誇り。

 偉大なる伝説超人(レジェンド)たちの意思を継ぎ、悪行超人と闘うために技を磨いてきた我らが、その力を人間に振るうわけにはいかない。

 ゆえに、ガゼルマンもセイウチンも自らその牙を折ったのだ。

 

「おまえたち……」

 

 青臭いまでに愚直な理念を貫き、敗北を受け入れた若きふたりに、トレンチコートの男は言葉を失った。

 

「セイウチン……ガゼルマン……」

 

 ボーちゃんもまた、黒い球体の中で彼らが背負う正義の重みに息を呑んでいる。

 

「ケッ!」

 

 しかしひとり、感動的な空気を叩き割るように、パラダイスキングが不快そうに唾を吐き捨てた。

 

「なにを言い出すかと思えば……俺が人間だと!? んなもん、見りゃわかんだろうが! 俺に角や牙が生えてるか!? そんなに毛むくじゃらか!? ちょっとアフロがご立派なだけのナイスガイだろうが!」

 

 パラダイスキングにとっては、今まで人間だと認識されていなかったこと自体が心外だ。

 トレンチコートの男は冷静に言う。

 

「超人とは必ずしも獣の特性を有しているわけではない。おまえのようにほとんど人間と変わらない風貌の者もいるさ」

 

 男は静かな足取りでロープを潜り、リングへと上がっていく。

 

「なるほどな。合点がいくと同時にあきれたぜ。ロビンマスクやラーメンマンみたいな昔やんちゃしてたやつらはいったいなにを教えていたのか……」

 

「お、おっちゃん……?」

 

 突然リングインした男に、セイウチンが驚きで目を丸くする。

 パラダイスキングは鬱陶しそうに男を睨みつけた。

 

「どいてなオッサン。手を抜かれたのは気にくわねえが、それでも勝ちは勝ち。正義超人とかいう甘ったれどもに、弱肉強食の怖ろしさを教えてやるぜ」

 

 そう吐き捨て、セイウチンが入れられた鉄檻へと歩を進めようとする。

 

『試合はパラダイスキングの2連勝で決着したが……ま、まさかガゼルマンとセイウチンのふたりにトドメを刺すつもりか~~っ!?』

 

 剣呑な空気が漂うリング内。

 しかし――

 

「待て」

 

 その凶行を遮るように、男がパラダイスキングの前に立ち塞がった。

 

「このふたりが甘ったれってのは同意見だが、正義超人全体をそう見られるのは気に入らねえ。人間だろうとなんだろうと、子供を人質に取るような卑劣漢……私の知る正義超人なら、こてんぱんに叩きのめしていただろうぜ」

「なにが言いてえ」

 

 パラダイスキングの眼光が鋭さを増す。

 男はすぐには答えず、頭に被っていたチューリップハットに手をかけた。

 静かにそれを取ると、続いて羽織っていたトレンチコートも脱ぐ。

 それを風に流せば、帽子もコートもリングの外へといざなわれていった。

 

「時代は変わったな……というオヤジの哀愁さ」

 

 帽子と上着を脱ぎ捨てた男は、素顔を覗かせながら言う。

 欧米人を思わせる金髪に、口周りだけを露出させるタイプの仮面をつけた容貌。

 着るのは刺々しい鉄鋲を備えたベスト。下はレスリングパンツだけの半裸。

 されどその肉体はこの場にいる誰よりも屈強であり、見苦しさを感じさせない。

 見る者が見れば、彼の肉体を指してこう唱えるだろう。

 

 ――完璧(パーフェクト)と。

 

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