アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ただ逃げ遅れただけと思われたトレンチコートにチューリップハットの男。
その正体はまさかの人物だった。
『あ……あああああ~~~~っ!?』
実況が驚きの声を上げる。
男の晒した正体には、鉄檻の中のセイウチンも見覚えがあった。
「き……金髪に目元だけを覆い隠すマスク。鉄鋲のついたベストにレスリングパンツ。この特徴的な格好……オラ、ヘラクレス・ファクトリーで習ったことがあるだよ。このおっちゃん……いやこの人は~~っ」
ヘラクレス・ファクトリー、要は学校で習うほどの人物。それこそが金髪の男の正体。
驚きのあまりその名をなかなか口にできないでいるセイウチンに代わり、声を発したのはこの少年。
「
人質として黒い球体に囚われている、ボーちゃんである。
名を呼ばれた金髪の男――ネプチューンマンは顔を上げ、リング上に浮かぶ黒い球体を見やった。
「ほう。私が現役だったのは今から34、5年前……下手したらパパやママだって世代じゃないってのに、よく知ってるな坊や」
どんなに有名人であろうと、それだけの年月が経てば名は忘れられていくもの。
まだ歴史を学ぶ歳でもあるまい。ネプチューンマンは彼に興味を惹かれた。
「名前は?」
簡素な問いかけに、ボーちゃんは鼻水を垂らしながら答える。
「ボ……ボー」
見たところ日本人、しかし本名とは到底思えない。
おそらくはニックネームだろうと察し、ネプチューンマンはニカッと笑った。
「よっしゃ。待ってなボーちゃん。おまえは不甲斐ない後輩たちに代わり、おじさんが助けてやろう」
ネプチューンマンのなにげない一言に、実況が逸早く反応する。
『な、なんと~~っ! セイウチンにアドバイスを送っていた謎の人物の正体は……かつてキン肉マンやテリーマンと“宇宙超人タッグトーナメント”で優勝を争った
ネプチューンマンという超人をより詳細に語り、春日部スタジアムに集った大人たちを騒然とさせる。
そう――彼はキン肉万太郎やテリー・ザ・キッドの父親たちと同じ、伝説超人と呼ばれる偉大なる先人。
かつては悪行超人の一部である完璧超人に属し、しかしキン肉マンたちとの闘いを経て正義超人に鞍替えした過去を持つ。
そんなセイウチンやガゼルマンにとっての大先輩が、まさか埼玉県の東武動物公園に現れるとは。
『しかも今……ボーちゃんを助けると言ったのか!? それはつまり……あのネプチューンマンがパラダイスキングを相手に34年ぶりに試合をするということなのか~~っ!?』
有名レスラーの復活試合など、ファン垂涎の大事件である。
ネプチューンマンは21世紀でも自分の名が知れ渡っていることに嬉しさを覚え、存在感を高めるべく腰に両手を当てた。
「フッ……宇宙超人タッグの頃は超人界を手中に収めんと完璧超人の代表として喧嘩を売った私だが、キン肉マンやテリーマンとの闘いで友情の尊さ、この世に完璧と呼べるものなど正義超人の友情しかないということを知った……だからこそ、後年の“キン肉星王位争奪サバイバルマッチ”では完璧超人の冠を捨て、正義超人としてキン肉マンチームの手助けをしたのだ。心はあの頃から変わっちゃいねえ」
デビュー時の印象が鮮烈だったため、ネプチューンマンといえば完璧超人と肩書きで呼ばれることが多いが……心は正義超人。
ゆえにここはあらためて、21世紀のお茶の間に向けて宣言をする。
「ここは帰ってきた正義超人ネプチューンマンとして奮起させてもらうぜ――っ!」
不甲斐ない新世代超人に代わり、人質の子供を救出するという“正義”を行うと。
ネプチューンマンの正義宣言に大盛り上がりの春日部スタジアム。
しかしあいにく、観客がパラダイスキングの手下のサルたちしかいない東武動物公園では歓声は沸かない。
それどころか「チッ」という舌打ちの音が聞こえてきた。
「ふざけてんのか?」
イラつきを隠さず物申したのは、実質挑戦状を叩きつけられたパラダイスキングである。
「テメェのことなんざ知らねえが……今の話が本当なら、テメェはブランク34年のロートル! 引退して長いジジイだろう!? そんなやつがこのパラダイスキング様と闘おうってのか!?」
ネプチューンマンの偉大さや過去の功績など、パラダイスキングの知ったことではない。
ただ唯一断言できるのが、目の前の男は齢50か60代のジジイであるということ。
超人はどうか知らないが、人間であるならばとても格闘技などできない年齢である。
「パ……パラダイスキングの言うとおりだ」
パラダイスキングの物言いには、正義超人側であるセイウチンも賛同した。
「キン肉マン……テリーマン……ロビンマスク……伝説超人と呼ばれるおっちゃん世代の超人たちは、みんな寄る年波には勝てず引退している。ロボ超人ウォーズマンみたいな例外はあるかもしんねえが……普通の年寄りに超人レスリングの試合は無茶だよ」
人間の世には年老いてなお達人と呼ばれる類の武道家もいるが、超人レスリングではどうしても肉体の強度を求められる。
ふたりの言い分は正しい――が、そんなものは所詮、一般論だ。
「テメェらの目は節穴か?」
ネプチューンマンは言い、全身に力を込める。
「フン!」
行ったのは、マッスル・コントロールによる筋肉のバンプアップ。
上腕二頭筋、大胸筋、僧帽筋、ありとあらゆる筋肉が盛り上がり、格闘超人としての貫禄を見せつける。
これにはネプチューンマンの衰えを疑っていたパラダイスキングとセイウチンも瞠目した。
「な……なんというハリのある筋肉。刻まれた無数の傷跡も相まって、歴戦の戦士の貫禄が漂っていやがる」
「ネプチューンマンの年齢は50代か60代のはず。肉体はとっくに衰えているはずだってのに、なんであんな立派な筋肉を維持できてるんだ~~っ?」
驚く両者を前に、ネプチューンマンは筋肉を誇示しながら語る。
「あの最後の闘い以降、他の正義超人たちが次世代の育成に奔走したり家庭を持つ中……私は人里離れたイギリス山中にこもり、肉体を鍛え続けていたのだ。いつ次なる悪行超人が攻めてきてもいいようにな」
あの最後の闘い――キン肉マンがキン肉星の王位を継ぐべく争ったというサバイバルマッチ。
たしかにあれ以降、悪行超人は鳴りを潜めた。だからこそ正義超人たちは皆故郷に帰っていったのである。
平穏な日常に闘いはいらない。各々が各々の形で、闘いとは縁遠い暮らしを送っていたはずだが……まさか変わらず肉体鍛錬をしていた者がいたとは。
「後進を育てるのではなく自分自身で闘おうとしてたってのか~~っ?」
セイウチンが驚きのあまり高い声を上げた。
備えあれば憂いなしとは言うが、普通ならば老いゆく己ではなく将来有望な若者を育てる。
事実他の正義超人たちはそうしていたというのに、このネプチューンマンという男は考え方からしてものが違うようだ。
「トレーニング機材はすべて山で手に入る材料を使った自作。食事も野草、虫、なんでもありの自然食。大自然で磨き上げたナチュラルパワーだ。野生の闘いを好む王様の相手として不足はないと思うが?」
純然たる事実として、目の前に立つ男はおまえの敵として足る――ネプチューンマンはそう言いたかった。
しかし、だが、そうは言っても、年齢が……という困惑が消えないパラダイスキングの様子を見て、さらにこう続ける。
「ああ、いや、すまん。この物言いは少しイジワルだったな」
「あん?」
ネプチューンマンは申し訳なさそうに視線を落とし、しかし口角は上げる。
ニヤァ……ッとした、どこか相手を小馬鹿にするような笑みを作ったのだ。
「なんせおまえはこれで3試合目。体はすでにヘトヘトで、本当はもう闘いたくないのだろう。だから私の年齢を理由に、必死に連戦を回避しようとしている……違うか?」
そのイラッとする口元から飛び出したのは、プロレス的な挑発――を通り越し、もはや侮辱と言えた。
パラダイスキングは敵の意図を理解しつつも憤慨を抑えられない。
「こ、このジジイ……寝ぼけたことぬかしやがって~~っ」
もとより、パラダイスキングは相手が老人だからといって戦意を失う男ではない。
王に逆らう不届き者には相応しい制裁を与えるのみだ。
「いいぜ! ジャングルの闘いに敬老精神なんてものはねえ! このパラダイスキング様が血祭りにあげてやる!」
『あ――っとこれは大事件発生――っ! ガゼルマンとセイウチンの敗北により万事休すかと思われた新世代超人軍ですが、まさかのまさか、伝説超人ネプチューンマンがボーちゃん救出ミッションに名乗りを上げ、ここ東武動物公園特設会場での3戦目が決定した――っ!』
ネプチューンマンの登場、そしてパラダイスキングの堂々たる宣言により、新世代超人の連敗でお通夜ムードだった春日部スタジアムも一気に熱を帯びる。
悔しそうに歯ぎしりしたのは、本部席のイケメン・マッスルだった。
「ネプチューンマンの試合なんて、興行として組めればどれだけの利益が見込めたことか~~っ」
「バカなこと言ってないで、我々は我々の仕事をしますよ」
頭を抱える銭ゲバの愚兄には構わず、ジャクリーンは木槌を振るう。
「レディー、ゴ――ッ!」
手元のゴングを叩き、東武動物公園へ開戦の合図を送った。
『ジャクリーン・マッスルの鳴らしたゴングを開戦の合図とし、ネプチューンマン対パラダイスキングの対決が火蓋を切った――っ』
ネプチューンマンvsパラダイスキング、開幕である。
ネプチューンマンはまずボキボキと拳を鳴らし、開手。
立ち上がった熊のごとき存在感でもって、パラダイスキングの正面に立った。
「私と対戦する以上、まずはこれにつきあってもらうぜ」
ネプチューンマンの仕掛ける初手――往年のファンであるならば、ピンと来るものもいるだろう。
それは正面から挑みかかり、相手と肩を掴み合うことにより成立する。
「“審判のロックアップ”――ッ!」
『ネプチューンマンとパラダイスキング、ファーストコンタクトは互いにがっちり組み合った――っ』
互いに立ったまま組み合い、力を押しつけ合う構図――ロックアップ。
頭に“審判の”と付くのは、ここからネプチューンマン固有の能力を発動させることができるからだ。
「私のロックアップは相手の力量を測る測定機の役割を持つ。こいつにかかれば、下手なハッタリは通用しないぜ~~っ」
そう、ネプチューンマンはこの組み合いによって相手の実力を知ることができる。
その目的は“相手が自分と闘うに値する実力か否か”。
ネプチューンマンとて暇ではない。相手が見せかけだけの雑魚ならロックアップを解き、「貴様は私が闘うに値しない」と突きつけプライドをへし折るまでだ――かつての“
「クッ……」
さてこのパラダイスキングはどうか。
本人は初めて組み合ってみたネプチューンマンのパワーが予想以上のものであったのを痛感しているのか、きつそうな表情を浮かべている。
「感じるぜ~~っ、パラダイスキング。おまえのパワーを~~っ。どうやら超人でなく人間というのは真実のようだな~~っ」
一方のネプチューンマンはこのロックアップを通して相手の実態を探り取る。
相手の力量を丸裸にする“審判のロックアップ”。一度組み合えばその属性が正義超人か悪行超人かはもちろん、超人か人間か否かもお見通しとなるのだ。
「ジェネラル・ストーンのおかげで我ら超人に引けを取らないパワーを得てはいるようだが、所詮は“井の中の蛙大海を知らず”。この程度で王を名乗ろうなどとは片腹痛い」
ネプチューンマンの審判結果は――パラダイスキング恐るるに足らず。
されど戦意喪失とまではいかず、さらに腕に力を込めた。
「ヌオオオオ!」
パラダイスキングが苦悶の声を上げる。
理由はもちろん、ネプチューンマンが腕を通して伝える圧力になった。
『絶叫するパラダイスキング! このままネプチューンマンに押しつぶされてしまうのか――っ!?』
たかがロックアップと侮ることはできない。この形から力で圧倒されれば、一気に膝をついて地獄行きだ。
早期決着の気配が窺えた、次の瞬間――
「なんてな」
「は?」
パラダイスキングが顔を上げた。
きょとんとするネプチューンマンを嘲笑うかのように、その首筋にグワッと肉薄する。
「ウ、ウワァアアッ!?」
飛び出したのはネプチューンマンの悲鳴。
それと同時に、首筋から噴水のような勢いの血も噴き出す。
『あ~~っとバイティングだ! パラダイスキング、ネプチューンマンの頸動脈に噛みついた――っ!』
暴獣セイウチンを思い出させる噛みつき攻撃。
人間であるパラダイスキングは鋭利な牙を持たない。が、然るべき箇所を狙えば大出血という結果をもたらすことは十分に可能。
「こ、このヤロ~~ッ!」
『ネプチューンマン、たまらずロックアップを解除し距離を取る――っ』
命の危機を感じたネプチューンマンは自分から仕掛けた“審判のロックアップ”を解除し後退。
口内を血に染めたパラダイスキングは、おかしそうに笑う。
「クハハハ。驚いたか? バイティングはセイウチの専売特許じゃねえ。れっきとした戦場格闘技だぜ」
お行儀のいいスポーツ格闘技では絶対に見られない攻撃手段、それがバイティングだ。
手痛い一撃をもらってしまったネプチューンマンは歯噛みし、野生に生きる王を睨みつける。
『さあ~~っ、実に34年ぶりとなるネプチューンマンの試合は、いきなりの流血戦! 早期決着もありうる深手を負ってしまったが、はたして試合続行はかなうのか――っ!?』