アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
試合開始早々、頸動脈に噛みつかれ大出血を負ってしまったネプチューンマン。
しかしネプチューンマンはフンッと鼻で笑い、僧帽筋に力を込める。
マッスル・コントロールによって収縮する筋肉が傷を塞ぎ、出血をピタリと止めた。
「この程度で深手とは笑わせてくれる。実況ってのはなんでもかんでも大げさに言えばいいってものじゃねえぜ」
頸動脈からの出血がなんだ。
ネプチューンマンはダメージを感じさせない笑みをまとい、あらためて構えを取る。
『あ――っとさすがは生きる伝説ネプチューンマン! わたくし実況に苦言を呈する余裕を見せながら再び戦闘態勢に入った――っ』
急所攻撃による瞬殺はならず。
だがパラダイスキングは不敵に笑う。
「そうこなくっちゃ」
相手はロートルとはいえ経験豊富な本職。
楽しまなきゃ損だろうと言わんばかりに、左腕を上げた。
「ならテメエにも見せてやろう。このパラダイスキング様の“プロレス”をな」
『左腕を高々と掲げるパラダイスキングのこの構えは~~っ!?』
その一振りはまるで大戦斧のような威容。
発達した筋肉により覆われし左腕は、まさしく斧のごとき破壊力を纏った武器と化す。
「パラダイスボンバ~~ッ!」
相手の首を狙い、横薙ぎに左腕を振るう――プロレスの代表的な打撃技、ラリアットだ。
『パラダイスキングの豪腕がネプチューンマンの喉元にクリティカルヒット――ッ!』
東武動物公園に肉が肉を打つ快音が鳴り響く。
リング周りにいるテナガザルの群れは王を称えるかのごとく猿叫を上げた。
――が、しかし。
『あ……ああ~~っとしかし、ネプチューンマン倒れない! パラダイスキングのラリアットが効いていないのか、涼しい顔で直立している――っ』
馬鹿な、首は人体の急所。しかもさっき頸動脈を傷つけられたばかりだというのになぜ耐えられる――と、パラダイスキングはラリアットを放った姿のまま大混乱に陥った。
ネプチューンマンは冷静に言う。
「無知とは恐ろしいものだ……よりにもよって私に“ソレ”とは。やまちゃんに声真似勝負を挑むようなもんだぜ」
なぜネプチューンマンはパラダイスキングのラリアットを耐えられるのか?
答えは簡単――パラダイスキングのラリアットが“なってない”からだ。
「手本を見せてやるからそっちで構えてろ」
困惑するパラダイスキングの身をドンと両手で押し、距離を開ける。
そして先ほどのパラダイスキングに倣うように、自身も左腕を上げたのだ。
『ネプチューンマン、丸太のように太く巨大な左腕を上げた――っ! いったいなにをするつもりだ――っ!?』
実況の煽りに合わせ、ネプチューンマンがニィッと笑う。
即座に駆け出し、電光石火の一撃を――左腕でのラリアットを、パラダイスキングの首にお見舞いした。
「
咄嗟、パラダイスキングは両腕を首の前に持っていきそれを受ける。
不格好なガードはネプチューンマンのラリアット、“喧嘩ボンバー”を確かに防ぎ――しかし結果として、パラダイスキングの体はロープ際まで追いやられた。
防御など関係ない。ラリアットの衝撃がパラダイスキングを弾き飛ばしたのだ。
『ク、喧嘩ボンバーだ――っ! 21世紀で語り継がれるネプチューンマンの代表的
20世紀の
「喧嘩ボンバー……ネプチューンマンという超人はタッグマッチを得意とし、タッグそれぞれがあの技を相手に仕掛け挟み撃ちにする必殺ツープラトン“クロス・ボンバー”はあらゆるマスク超人の仮面を剥ぎ取ったと聞く……とてもガードなんて通用するとは思えねえ」
ヘラクレス・ファクトリーの授業でもネプチューンマンやクロス・ボンバーの話はよく挙がっていた。
己の知識と目の前の試合模様が完全一致し、セイウチンは息を呑む。
一方のパラダイスキングは、ガード体勢のまま硬直していた。
追撃を警戒してガードを解かない……のではなく、先ほどの一撃のせいでガードが解けないのだ。
「な……なんだこりゃ。完璧に防いだはずだってのに、全身がビリビリ痺れて動けねえ。あんなロートルジジイのラリアットがなぜこうも効く~~っ」
固まるパラダイスキングの様子を見て、ネプチューンマンがニィッと笑む。
「じっとしてるのは悪手だぜ。それでは追撃が入れ放題ではないか~~っ」
獲物を狙うハンターの眼差しを向け、ダッシュと同時に跳躍。
『ネプチューンマンが飛んだ――っ!』
仕掛けてくるのは飛び蹴りか? ボディアタックか? それともフライングクロスチョップか?
頭の中のプロレス知識を総動員してネプチューンマンの攻撃に備えるパラダイスキングだったが――相手の身は自分の頭上を通り過ぎていった。
「ハァ!? リングの外に飛び出すぞ!?」
ネプチューンマンの奇怪な行動に、対処を迷うパラダイスキング。
「それはどうかな?」
ネプチューンマンはそんなパラダイスキングを嘲笑うかのように、相手の背中側――ロープを挟んだリング外に躍り出る。
体勢は上下逆さま。そのまま頭から落ちそうになるが、寸前で体を引っ掛け落下を防止。
その引っ掛けた箇所とは――パラダイスキングの体。
「掟破りの超人絞殺刑~~っ!」
ロープ際にいたパラダイスキングの両手首を掴み、さらに両脚を首に交差させて引っ掛けることで停止したのだ。
当然、こんな格好になればパラダイスキングの首にネプチューンマンの全体重がかかり骨が折れかねないほどの負荷がかかるだろう。
倒れてしまえば楽になれるが、間にロープが邪魔しているせいでパラダイスキングは倒れることもできない。
「あれは、キン肉マンの……48の殺人技のひとつ! アルティメット・デスペナルティ!」
またの名を超人絞殺刑。
キン肉マンが“宇宙超人タッグ・トーナメント”決勝でネプチューンマン相手に披露した技である。
セイウチンにとっては、ヘラクレス・ファクトリーの卒業試験でアニキと慕うキン肉万太郎が試験官だった父・キン肉スグルに繰り出された印象深い技だった。
「どうだ? 頸動脈がいい具合に絞められ気持ちよくなってきただろう? このままオネンネしてていいんだぜ」
人間のプロレス界では再現不可能な、仮に再現できたとしてもその危険度ゆえに禁止必至であろう極悪拷問技。
素人のパラダイスキングに抜け出すのは不可能だろうと判断した。
「ただし、目覚めた先はベッドの上ではなく地獄の冷たい土の上かもしれねえがな――っ!」
「あ、あがああ~~っ」
『鮮烈なるムーブで必殺のロープワーク・サブミッションを繰り出したネプチューンマン! パラダイスキング絶体絶命か~~っ!?』
首を絞め上げられ、悲鳴を上げることしかできないパラダイスキング。
だが王がこんなところで這いつくばるわけにはいかないとばかりに、言葉を絞り出す。
「サル共ぉっ!」
王の号令である。
答えたのは、配下の者たちだった。
「ウキキー!」
配下――リングの周囲にいた奴隷のテナガザルたちだ。
サルの群れは王の窮地を救うべく、リング外でパラダイスキングの首に吊り下がっているネプチューンマンに襲いかかる。
「なっ!? こ、こいつら……っ!」
超人絞殺刑はその完成度ゆえ、自身も身動き不可能。
そのため、第三者の妨害には無力。
『なんだ~~っ!? パラダイスキングの従えるサルの軍団が超人絞殺刑を仕掛けるネプチューンマンに襲いかかり、その拘束を解こうとしている――っ』
そもそも超人レスリングの試合中に観客が技を邪魔するなどあってはならない。
だが異世界から来たサルたちに超人界の道理は通じず、ネプチューンマンはパラダイスキングから引っ剥がされリング下に落ちた。
『今、技が解除――っ』
窮地を脱したパラダイスキング。が、その方法は反則もいいところだ。
チェンバーの中にいるセイウチンが、鉄格子を掴み野次を飛ばす。
「卑怯だぞ、パラダイスキング!」
「うるせえ! ジャングルの闘いってのは勝てば正義なんだよ!」
己の理に基づき行動するパラダイスキングは毅然と言い返した。
落下したネプチューンマンはそのままサルの群れに袋叩きにされそうになるが、腕を豪快に振って蹴散らしてみせる。
「ええい、退け! ケダモノ共が!」
全身各所に引っかき傷ができるものの、ダメージは軽微。
すぐさま戦線に復帰する。
『ネプチューンマン、サルの群れを振り払いリングに復帰――っ』
一方のパラダイスキングは自身のアフロに手を突っ込んでいた。
取り出したのは、ガゼルの角を備えた強奪武器である。
『そしてその間、パラダイスキングはガゼルマンから奪ったアントラーフィストを再装備! ネプチューンマンから大きく距離を取っているが、これは~~っ!?』
先ほどロープ際にいて痛い目に遭ったというのに、またもやロープ際に位置取るパラダイスキング。
しかし今回は隙は見せない。自ら作り出したこの距離を活かし、技を発動させる。
「オッサンもくらっとけ! ジャングル・ヒート――ッ!」
アントラーフィストを構えた右手を先端にし、全身を大きく捻りながら螺旋状に渦を巻いて突進する。
『出た――っ! パラダイスキング特注の超人削岩機だ――っ!』
前の試合でセイウチンに深手を負わせたパラダイスキングのオリジナル必殺技。
さすがのネプチューンマンも避けるのは困難なのか、一歩も動けず硬直。
否――動く必要がない。
揺るがず騒がず、ただ右手を突き出す。
右掌が回転するアントラーフィストを紙一重で避け――その奥に位置するパラダイスキングの顔面を打った。
『あ……あああ~~っ!? ネプチューンマン、パラダイスキングのジャングル・ヒートを紙一重で避け……掌底による反撃をくらわせた~~っ!?』
必殺技をただの掌底一発で迎撃されたパラダイスキングは、キャンバスの上に叩き落される。
すぐに起き上がり再び距離を取るが、その姿はさらなる反撃を恐れているようでもあった。
「ナメんじゃねえよ若造が。こんなもの、ウォーズマンの本家本元スクリュー・ドライバーを知る私からすればそよ風のようなもの。クレムリンの秘密組織に改造手術でもしてもらってから出直してくるんだな」
ロシアの“ファイティング・コンピューター”ウォーズマンのことならよく知っている。
彼がもともと所属していた組織はもちろん、彼の子供時代の境遇や、彼の父ミハイルマンが辿った悲しい最期まで……伊達に超人界を50年以上も生きてはいないのだ。
熟練の貫禄を漂わせるネプチューンマンだったが、パラダイスキングも闘志は衰えない。
反骨心を瞳に宿し、ロートルを睨みつける。
「テメェこそ、ナメんじゃねえぞジジイ。わかってねえようだから今一度教えてやる……ジャングルの闘い方ってやつを!」
威勢よく啖呵を切るパラダイスキング。その直後、
「ウキャー!」
リングの周囲にいた彼の奴隷たちが、次々とリング内のネプチューンマンへ飛びかかっていった。
『あ――っとリングサイドにいたサルの群れがついにリング内に乱入! けたたましい猿叫をあげながらネプチューンマンを襲う――っ!』
パラダイスキングの言うジャングルの闘い方とは、手下のサルに敵を攻撃させることか!
未知の相手ゆえ警戒していたネプチューンマンだったが、拍子抜けしたように向かってきたサルたちを振り払う。
「つまらん一手だなパラダイスキング! この程度の雑兵、物の数ではない!」
いくら数がいようとも所詮はサル。超人、それも元完璧超人であるネプチューンマンの前では無力だ。
だが、
「わかってるさ。そいつらはただの足止めだ」
ネプチューンマンの余裕っぷりを見て、パラダイスキングもまた余裕の態度でそう返した。
足止め――要は時間稼ぎ。
なんのためかといえば、本命の技を発動させるためのである。
『サ、サルの群れがリングロープを巻きつけたパラダイスキングを外側に引っ張り、ネプチューンマンを狙っている――っ!?』
伸縮性のあるリングロープを全身に巻きつけ、サルたちに指示して自分ごとリングの外側に引っ張らせる。
先端は再びアントラーフィストを構えた右手にし、その切っ先でネプチューンマンをロックオン。
「くっ! 小学生の図画工作のような仕掛けを!」
狙われた当人は次から次へと襲ってくるサルの対処に手いっぱいで、まだ回避に移れない。
ひとりでは不可能な大掛かりな仕掛け――しかしながら、奴隷たちを従える王にはそれができるのだ。
「これが奴隷共を従える王のやり方だ! くらえ!」
回避不可の相手に対し、回避不可の相手にだからこそ成立する攻撃を繰り出す。
狙うのは、ゴムの力を利用したパチンコ・スクリュー・ドライバー。
サルの群れが一斉に手を離し、ぐるぐる巻きにされたパラダイスキングが射出された。
「“嵐を呼ぶジャングル”――――ッ!」
まさしく