アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『パラダイスキング、リングロープのねじれと反動を利用し、パチンコの要領で射出――っ! 強化版スクリュー・ドライバー……いやジャングル・ヒートで、ネプチューンマンを狙う――っ!』
超高速で迫るパラダイスキングという名の殺超人ドリル。
それは百戦錬磨のネプチューンマンをたじろがせるほどのものだった。
「は、速い!」
たじろいでいる暇などない――ジャングル・ヒート改“嵐を呼ぶジャングル”は正確無比だ。
超人削岩機の切っ先は、寸分違わずネプチューンマンのど真ん中を捉えた。
『め、命中――っ! アントラーフィストがネプチューンマンの胸に深々と突き刺さる――っ!』
胸元に突き刺さり、回転し、肉を抉る。
当然そこからは鮮血のシャワーが吹き出て、真っ白なキャンバスを真っ赤に染めた。
ネプチューンマンはなんとか胴体貫通だけは避けねばと懸命に身を反らす。
結果、パラダイスキングの軌道がわずかにズレ、斜め方向へ弾かれた。
「ゴ、ゴハァッ」
難を逃れたネプチューンマンだったが、もはや手遅れだ。
胸板を血に染め上げながら、そのまま赤いキャンバスの上に沈む。
『ネプチューンマン、大出血の末にダウ――ン!』
軌道をズラされたパラダイスキングは回転を止め、その場に着地。
倒れ伏したネプチューンマンを背後に、血を浴びすぎ使い物にならなくなったアントラーフィストを投げ捨てる。
「俺の勝ちだ」
そして、ネプチューンマンの死体は見るまでもないとばかりにリングの外を向いて勝ち誇ったのだ。
「ウキャキャ!」
「ウキキキィ――ッ!」
リングの外に群がっていたパラダイスキングの応援団、テナガザルの群衆が歓声を上げる。
それはまさしく王を称える民衆のようで、ネプチューンマン側の応援団だったセイウチンとボーちゃんは言葉を失ってしまった。
『こ、これはパラダイスキングの勝利をたたえているのか――っ!? サルたちによる
これだけの血を流して勝負を続けられる超人などそういない。
ましてやネプチューンマンはブランク数十年の老体、心配するべきは試合続行可能かどうかではなく命そのものだろう。
しかしながら、この試合をジャッジする立場にいるジャクリーン・マッスルは判断を誤らない。
「待ちなさい! ネプチューンマンの体はまだ動いています! 試合は継続……ダウンカウントを始めます!」
ジャクリーンが目の端で捉えたとおり、ネプチューンマンの体はわずかだがまだ動いている。
絶命も失神もしていないのであればKOには程遠い。それが超人レスリングというものだ。
「おう、いいぜ! どうせ立ち上がっちゃこれねえよ」
超人レスリングをプロレスの尺度で考えるパラダイスキングは、無意味な延命だと言わんばかりに余裕の構え。
そんな若造の癪に障る態度に、ネプチューンマンは力を振り絞った。
「グウウ~~ッ」
『ネプチューンマン、肘と膝を立てなんとか起き上がろうとするが……見るかに苦しそうだ――っ』
超人レスリングに流血はつきもの。傷は深いが体が動かせるのであれば問題はない。
長年の試合経験から痛みへの耐性があるという点も大きいが……それよりもネプチューンマンにとって一番深刻なのは、“老い”という絶対的な枷だった。
「ま……まだまだ若いモンには負けねえと老体にムチ打ち出張ってみたが、心臓がしんどさを訴えてきやがる……いかに大自然の中で体を鍛えようとも、老いによる体力低下はいかんともしがたいか……」
肘と膝を立てた無様な四つん這い姿勢で、加齢の残酷さを嘆く。
「ジジイが無茶をした……ここらが潮時か」
弱々しい諦めの言葉すら口にした、そのときだった。
「そんなこと、ない!」
ネプチューンマンを叱咤するように、頭上から声が落とされた。
顔を上げ、声の送り主を見やる。
「ボ……ボーちゃん……?」
それは黒い球体状の檻に閉じ込められた、5才の少年だった。
ボーちゃんは鼻水を垂らしながらも、力のある眼差しでネプチューンマンを見つめる。
「ボクの家族、超人レスリングのファンだから……ボク、知ってる。ネプチューンマンは、ここにいる誰より……強い!」
たった今、対戦相手の
ある意味では子供らしいとも言える主張に、傍観していたパラダイスキングが鼻で笑った。
「ハッ! はなたれ小僧が冗談言ってんじゃねーよ! その誰よりも強いネプチューンマンは惨めに這いつくばってるじゃねえか!」
怖い大人を前に勇気を振り絞るのはけっこうだが、その相手が王ともなれば相応しい制裁を与えなければならない。
パラダイスキングは眼光を鋭くし、ボーちゃんを睨み据えた。
「あんまふざけたこと言ってると……喰っちまうぞ?」
本気の殺意を宿した、警告。
並の子供であるならばビビり散らかし、小便を漏らしてしまうだろう。
「……っ!」
ボーちゃんも例に漏れず、まずは恐怖で肩を竦ませた。
しかし、それだけ。
そんな脅しには屈しないとばかりに、眉根をつり上げる。
「それでも……ネプチューンマンは、強い!」
ただの5才児が、臆すことなく王に逆らう。
「こいつ……」
パラダイスキングとしてはもちろんおもしろくない。
だが、這いつくばるネプチューンマンにとっては――
「もっとくれ」
どんな金言にも勝る、“今一番欲しい言葉”だった。
「こちとら現役だったのは34年前……そんだけ昔のこととなると、『はたして私は本当に強かったのか?』と不安になってくるってもんだ。だが……おまえさんみたいなちびっこファンに応援されれば自信も湧いてくる。若者の言葉で言うのなら、自己肯定感バクアゲってやつだ」
おおよそネプチューンマンらしくない言葉選びをしながら、ボーちゃんからさらなる魔法の言葉を引き出そうとする。
「ボ……」
ボーちゃんも子供ながらに感じ取っていた。
自分の声援がネプチューンマンの力になる。ヒーローショーで客席にいるとき求められるそれのように。
そして今、ネプチューンマンというヒーローに声援を届けられるのは自分ひとりしかいない。
与えられた特別感が、少年の勇気を絞り出した。
「ネプチューンマンは、強い!」
力いっぱい声を張り上げるボーちゃん。
しかし、ネプチューンマンは立ち上がらない。
「ガゼルマンやセイウチンよりも?」
ただ強いだけでは足りないなぁ、比較対象が欲しいなぁ、とすぐそこにいる若手の名を挙げる。
「強い!」
ボーちゃんは間髪入れず断言した。
「パラダイスキングよりも?」
目の前の対戦相手よりも強いと評価されなければ、結局はまたやられてしまうよなぁ。
「強い!」
もちろんそんなことはないと、ボーちゃんは強く言い切る。
「今年引退した棚橋よりも?」
さすがに2026年の1・4東京ドームで引退した人間界のレジェンドレスラー・棚橋弘至には劣るだろう。
ネプチューンマンは謙遜の意味も込めた問いかけを投げるが、
「棚橋より……強い!」
ボーちゃんはいつか幼稚園でしんのすけに訊かれたときと同じように――超人ネプチューンマンは棚橋よりも強い、と喉を震わせて主張する。
瞬間、ネプチューンマンの瞳がギラリと光った。
「それが聞ければ十分だ~~っ!」
『ネプチューンマン、完全に立ち上がった――っ!』
さっきまでの弱々しさが嘘だったかのような、溌剌とした様子で立ち上がるネプチューンマン。
胸元の傷はバンプした筋肉によって塞がり、出血もピタリと止まっている。
幼い子供の声援を受けて立ち上がるロートル――そんなくだらない三文芝居を見せつけられ、パラダイスキングは苛立ちを募らせた。
「うるせえ! たかがガキひとりにおだてられたくらいで調子づいてんじゃねえ!」
怒鳴り声をぶつけるが、もちろんネプチューンマンは欠片も怯まない。
パラダイスキングは舌打ちをした。
「まあいい。まだやる気ってんなら、今度こそトドメを……」
根性ではどうにもできない状態にしてやろうと構えを取った、そのときである。
「――うぉおおおおおおおおおおおお!」
突如、後ろのほうから怒号のような唸り声が木霊する。
ネプチューンマンもパラダイスキングも試合中であるにもかかわらず視線を外にやることを強いられ、揃って仰天した。
『な……なんだ~~っ!?』
その模様は中継映像として春日部スタジアムにも届き、実況が驚愕の声を上げる。
東武動物公園特設リングに起こった異変は――予期せぬ来訪者であった。
大勢の人、である。
くたびれたスーツの男性、前掛けをしたおばさん、杖を持ちながらもしっかり両脚で立つ老人……様々な人間たちが、息を切らしながらリングを取り囲む。
まるで皆、たった今全速力で駆けつけたかのような面持ちだった。
「なんだこいつら!? どこから湧いてきやがった!?」
パラダイスキングは配下のテナガザルを使い、事前にこの東武動物公園から邪魔な人間を排除した。
今さらこんなに人が集まってくるはずがない――いや、そもそも彼らを見るに動物園の来園者という様子ではない。
仕事中、家事中、散歩中、急遽ここへやってきた風だ。だとすれば、こいつらは東武動物公園の外からやってきたのか。いったいなんのために?
『東武動物公園特設リングに突如現れた謎の群衆……見たところ中高年が多いようですが、彼らはいったい~~っ!?』
「ウキキ!」
正体がなんであれ、人間は徹底的に排除する。
事前に受けていた命令を全うするべくテナガザルが新たに現れた人々を威嚇するが、彼らは血走った目つきでサルたちをギロリと睨みつけた。
「ウ、ウキ……」
一睨みで野生のサルたちが怖気づく。それだけの迫力だった。
サルを黙らせたあと、眼鏡をかけた壮年の男性が代表して言い放つ。
「わたしたちは……かつてネプチューンマンのファンだった者たちだ――っ!」
「わ……私のファンだと!?」
名を出されたネプチューンマンはわけがわからず困惑する。
キッズファンから応援をもらい立ち上がれたと思ったら、今度は大勢のおじさんおばさんファンが押し寄せてきたのだ。
『あ――っと突然押し寄せてきた集団の正体は、なんとネプチューンマンのオールドファン! 全員が血走った目を向けているが……いったい彼らはなにをするつもりなのか――っ!?』