アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
東武動物公園に突如として押し寄せてきた、ネプチューンマンのファンを名乗る人間たち。
両親の影響でその名を知るボーちゃんとは違い、彼らは皆ネプチューンマンが輝いていた時代を生きてきたリアルファン――古参のおじさん、おばさんたちである。
その出会いは34年前にあった。
「34年前の“宇宙超人タッグ・トーナメント”……オレたちはそこで、あんたの圧倒的な実力に魅了された!」
「キン肉マンたちが負ければ
今でこそ完璧超人――ネプチューンマンが昔掲げていた肩書は悪行超人の一部とされ嫌われているが、その名が初めて世に出た当時はまだ恐ろしさが浸透しておらず、ただ圧倒的な強さの前に人々は魅了されていた。
特にロビンマスクやウォーズマン、ラーメンマンにバッファローマンといった人気超人を破ったネプチューンマン&ビッグ・ザ・武道の“ヘル・ミッショネルズ”の人気は凄まじく、当時の観衆は「未来なんか知るかぁ!」とばかりに彼らに声援を送ったものだ。
「だけどオレたちをそれだけ熱狂させてくれたネプチューンマンが、34年ぶりに試合をするという!」
「これは女房を質に入れてでも……いや動物愛護団体を敵に回してでも見なきゃ損だぜ――っ!」
まさかのネプチューンマン復活速報を耳にし、当時の“熱”を思い出したファンたちは、こうしてはいられないと仕事や家事を放りだしてここ埼玉県は東武動物公園に急行したのである。
観戦チケットの有無や先にリングサイドを陣取っていたサルなど知ったことではない。むしろこのサルたちは邪魔だ。
「ウキキ!?」
「ウキャギャッ!?」
興奮冷めやらぬファンたちは、威嚇してくるパラダイスキング配下のテナガザルたちを容赦なく殴り、蹴り、蹴散らしながら、乱暴にリングサイドの最前列を占拠していく。
『あ――っと恐るべきは古参ファンの情熱と執念! サルの群れを蹴散らし、リングサイドにかぶりつこうとしている~~っ! こ、これはお茶の間に放送するのが困難なシーンが撮れてしまった~~っ!』
圧倒的な人間の群れの前に手下たちが逃げ惑う様を見て、リング上のパラダイスキングは顎を外さんばかりに愕然とした。
「な、なんなんだこいつら!」
混沌とする現場を前に、ネプチューンマンの口元が低く揺れた。
「クハッ」
胸の奥から湧き上がる衝動を抑えきれず、やがてその声は大音量の高笑いへと変わっていく。
「クハハハハ! 久しぶりに人里に下りてみれば、よもやこんなヒーローみたいな体験ができるとはな」
その高らかな笑い声に、対戦中のパラダイスキングはもちろん、鉄檻の中に閉じ込められたセイウチン、そして球体の檻に捉えられたボーちゃんまでもが固唾をのんで視線を注ぐ。
「思えば、私はキン肉マンたちとの闘いを機に正義超人に転向したが、王位争奪サバイバルマッチを最後に半引退しちまったから、こういう応援を受け取る機会もなかった……」
遥か昔の激闘に思いを馳せるネプチューンマン。
己の誇りのために闘い、平和が訪れたあとは次なる闘いに備え孤独と背中合わせだった日々。
しかし今、目の前に広がる熱狂的な歓声を受け止め、その表情にはどこか晴れやかな笑みが浮かぶ。
「悪くない気分だ」
ネプチューンマンはニカッと口を大きく開けて笑う。
かつての冷徹な完璧超人時代には決して見せることのなかった、さっぱりとした人間味あふれる笑い顔であった。
「ニヤニヤしてんじゃねえぞ、ジジイ――ッ!」
自分を無視してファンと心を通わせる姿に激怒したパラダイスキングが、キャンバスを蹴り跳躍する。
突き出すのは、左の膝。
『パラダイスキング、飛び膝蹴りを狙う――っ』
襲い来る膝蹴りに対し、ネプチューンマンは笑みを絶やさぬまま、しなやかな動作で身を躍らせた。
「ハハハハハ――ッ!」
軽やかに空中を旋回する美しいバク転。
パラダイスキングの膝は虚しく空を切るのみ。
『笑うネプチューンマン、それを華麗なバク転で躱した――っ!』
目の前で繰り出された躍動感のある動きに、リングサイドのおじさんおばさんファンたちが大爆発する。
「ヒュー!」
「ステキ――ッ!」
「動けるぜ、ネプチューンマン!」
着地と同時に体勢を立て直したネプチューンマンは、力強い眼光で敵を射抜く。
「ここからは私のターンだぜ、若造」
高々と掲げるは――丸太のような左腕。
『そして左腕を高く上げた――っ!』
「ウッ」
それを見た瞬間、パラダイスキングの脳裏には先ほどくらった“
あれをくらうのはまずい、かといって防御が効く代物でもない、ならば回避しかない。
経験から来る回避行動により、左側――ネプチューンマンにとっての右側に身を滑らせるパラダイスキング。
「さっきガード越しにぶっ飛ばされた記憶があれば、当然そちらに避けるよな~~っ」
当然、それはネプチューンマンの狙いどおりだった。
ニヤリとした不敵な笑みを浮かべ、瞬時に技のスイッチを行う。
『ネプチューンマン、左腕を下げ……そっちは囮だと言わんばかりに右腕でパラダイスキングの首を引っかけた――っ』
回避したはずのパラダイスキングの首元へ、ネプチューンマンの右肘が蛇のように鋭く巻きつく。
そのまま相手の首を支点に旋回、背後に躍り出たところで右腕を離し代わりに左腕を喉に叩きつけた。
同時に首を巻き込みつつ背中から倒れ込めば、変形の旋回式ネックブリーカー・ドロップが完成する。
『これは……スリング・ブレイドだ――っ!』
空中で一回転しながら、自重と遠心力のすべてを乗せて相手の後頭部をマットへ打ち据える高度なプロレス技。
「タナハシ!」
2026年の1・4東京ドームで引退したレジェンドレスラー・棚橋弘至を思わせる妙技に、興奮したボーちゃんの鼻水が揺れる。
「強力な技で相手に警戒心を植えつけ、それをあえて囮にすることで他の技を通しやすくする。騙し打たれた相手は屈辱からメンタル面にもダメージを負うのだ」
激しくキャンバスに叩きつけられ、受け身も取れずに悶絶するパラダイスキングへ、ネプチューンマンは静かな足取りでじりじりと歩み寄る。
「そして生じたチャンスは最大限活かせ」
ネプチューンマンはダウンしたパラダイスキングの体を強引に引き起こすと、逃げ場のない関節地獄へと引きずり込む。
背後から相手を前傾にし右腕に左脚をかけロック。
さらに左腕を両手で掴んで締め上げれば、上半身全体に多大なる負荷を与えるだろう。
これぞ、喧嘩ボンバーと並ぶネプチューンマンのフェイバリット・ホールド――
「
『ここでネプチューンマンの代表的
完璧超人ケンダマン、悪魔超人サンシャインといった巨漢ファイターたちを沈めてきた絶技である。
いくら野生のごときパワーを持つパラダイスキングといえど、作りが人間の体である以上は等しく関節技の脅威に晒されるのだ。
「さあ~~っ、このまま意識もろとも命を奪い取ってやるとするか~~っ」
「グギギギ……」
それでも、持ち前のフィジカルで抗おうとするパラダイスキング。
素人ゆえにそれが無駄だとはわからないのだ。可哀想に。ならば残念だが、絶命という運命を迎えるしかない。
「ダ……ダメだ、ネプチューンマン……」
パーフェクトに極まった喧嘩スペシャルを見て、しかし消え入りそうな声でその技を止めようとする者がいた。
依然アニマル・チェンバーに入れられたままのセイウチンである。
「忘れちゃなんねえが、パラダイスキングは人間。人類の平和を守るという使命を帯びたオラたち正義超人が、磨き上げてきた技で人間を手にかけるなど……絶対にあってはなんねえ」
ガゼルマンや自分にかわりボーちゃんを助け出そうとしてくれている大先輩には感謝しかない。
だがそれでも、超人が人間に技をかけている目の前の光景は見過ごせなかった。
「このままさらに技が極まれば……パラダイスキングは死んじまうだよ……」
たとえ悪人であっても、人命は守るべきだ。
だってオラたちは、正義超人だから。
「クッ……」
完璧超人の称号を捨て、正義超人としてリングに立つことを決めたネプチューンマンである。
セイウチンの言わんとすることはもちろん理解でき、だからこそパラダイスキングの腕を締める手の力も緩んでしまう。
「隙が見えたぜ、ネプチューンマン!」
その隙を見逃す野生の王ではなかった。
封じられていた左腕を豪快に振り、ネプチューンマンの両手を弾く。
体勢が崩れたところで右腕も持ち上げ、左脚によるロックも外した。
『あ――っとパラダイスキング、喧嘩スペシャルからエスケープ!』
技を外されたネプチューンマンは不格好な体勢でさらなる隙を晒している。
どうぞ反撃してくださいと言わんばかりの好機。
パラダイスキングは拳を握りしめた。
「オラオラオラ!」
掛け声と共に叩き込むは、胸部への連打。
そして忘れることなかれ、ネプチューンマンの胸は“嵐を呼ぶジャングル”の一撃で裂傷を負っている。
『すかさずボディブローの連打! 負傷している箇所を狙い撃ちだ――っ!』
ネプチューンマンはなんとか腕を差し込んでのガード、あるいは脚を下げての回避を試みるが、パラダイスキングは瞬時に対応してみせ連撃を途絶えさせない。
「歳を取ると仏心が芽生えるって言うよなぁ! 昔はブイブイ言わせてたのかもしれねえが、技を途中で緩めるなんざ、耄碌したも同然よ!」
防御も回避も許さない打撃の冴え――この男、戦闘センスの塊か!
仮面の奥で瞠目するネプチューンマン。
その顎に、ひときわ強烈な一撃が飛んできた。
「ホ~ラ、ド――ン!」
突き上げのアッパーカットである。
ネプチューンマンの身が一瞬浮き、脳が、そして世界が激震する。
『大丈夫かネプチューンマン!? 顎にアッパーをもらいグラグラ揺れているぞ――っ!』
「大丈夫なわけねえだろ! このオヤジはもうおしまいだよ!」
パラダイスキングはネプチューンマンの背後に回り込み、両腕で胴を捕らえた。
そして、抵抗する猶予を与えることなくキャンバスを蹴る。
大空を目指さんばかりの大跳躍だった。
『パラダイスキング、ネプチューンマンを抱えて飛んだ――っ! これはガゼルマンやセイウチンを仕留めた超高度落下式ジャーマン、ファンキーダイナマイトのセットアップだ――っ!』
ただのジャーマンスープレックスも、規格外の高さから落とせばフィニッシュ・ホールドに相応しき破壊力を発揮する。
さらに叩きつける先が通常のキャンバスではなく、このアニマル・チェンバー・リング特有の鉄檻コーナーともなれば、訪れる結末は必殺と言えよう。
「テメーはセイウチンと同じく直接檻にぶち込んでやる! くらえや――っ!」
天空で上下逆さまになり、あとは重力に従って落ちてくるだけのパラダイスキング。
捕らえられたネプチューンマンは、
「ウウ……」
腰に回された腕を振りほどくこともできず、ただただ動揺するばかり。
相手は人間――正義超人を名乗る以上は人間に危害を加えることなどできない。
「ファンキィィィィィィィ……」
葛藤――あるいはそれも、パラダイスキングが唱えるとおり老いによって芽生えた仏心なのか。
自らの在り方に悩んでいる暇などない。天から地へと落ちていく時間は刹那の時だ。
「ダイナマ――――イッ!!」
思い悩むネプチューンマンを嘲笑うかのように、パラダイスキングはその必殺技の名を叫び終えた。