アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
パラダイスキングの
リングコーナーの鉄檻へ、ネプチューンマンを頭から落とそうと狙ったその技は――
『き、決まっ――えっ!?』
確かな衝撃音を奏でた。
無機質な鉄檻の天井に、超人の頭部が突き刺さっている。
そのショッキングな光景に、しかし黒い球体に閉じ込められているボーちゃんの眉根がつり上がった。
「決まって……ない!」
技は決まった――されど決まっていない。
現状はこうだ。
鉄檻の天井に激突しているのは、巨大なアフロヘアーの頭。
そしてその胴体は、天地を元通りにしたネプチューンマンが抱えている。
『あ、ああああ~~っ!? アニマルチェンバーの天井に突き刺さっているのはネプチューンマンではなく、パラダイスキングの頭だ――っ! 両者の体勢がいつの間にやら逆転! ネプチューンマンがパラダイスキングをパイルドライバーに切って返している――っ!? いったいなにが起こった――っ!?』
瞬きの間に起こった逆転劇。
ボーちゃんはその様子をしっかりとつぶらな瞳に刻んでいた。
「落ちてくる途中で、ネプチューンマンがパラダイスキングの腕を外した……フツーに!」
普通に。
そう。
ネプチューンマンはファンキーダイナマイトの降下中、腕力に物を言わせて拘束を振りほどいた。
そして熟練の早業で体勢を変え、パラダイスキングをパイルドライバーの形に拘束し返し、鉄檻の上に落としたのだ。
要するにパラダイスキングの技を利用し、見事なカウンターを成功させた形――ボーちゃんと同じく一部始終を見ていたセイウチンは、反対側の檻の中で困惑する。
「つまりそれを可能にするだけの余力があったということ……ネプチューンマンのおっちゃんはグロッキーだったはずだってのに、いったいなぜ?」
まさかネプチューンマンは瞬時に体力や傷を回復させる超回復の使い手だったのか?
時間を自在に操る超人でもあるまいに、そんなわけはない。
「グフフ……」
ネプチューンマンはセイウチンの困惑を嘲笑うかのごとく声を漏らし、パイルドライバーの形を崩す。
「グガァ……」
パラダイスキングは痛々しいうめき声を上げて、アニマル・チェンバーの上から落下した。
『ネプチューンマンとパラダイスキングが再びリングの上へ! しかしパラダイスキングは……』
2本の足でしっかりと立つネプチューンマンに対し。パラダイスキングの体勢はうつ伏せ。
どちらが優勢かは一目瞭然だった。
「ダウンカウント!」
春日部スタジアム本部席のジャクリーン・マッスルがパラダイスキングのダウンに対してカウントを取り始める。
意識があろうとも10数え終えればそれで敗北は決定。事実上の余命宣告だ。
「ウキィー!」
パラダイスキングを王と崇めるテナガザルたちは猿叫でもって彼を鼓舞する。
そんな獣たちの声援を嬉しいと思ったのかどうかは定かではないが、パラダイスキングはゆっくりと起き上がってきた。
『た、立ち上がってきた! パラダイスキングの闘志はまだ潰えていない~~っ!』
「ハァ、ハァッ……くそったれ」
息切れに不安定な姿勢。ダメージの窺える様子ながら、視線だけは鋭くニヤつくオヤジを射抜く。
「テメェ、死にかけだったのは演技だったのか」
ネプチューンマンは若者の憎悪を心地よさそうにしながら答える。
「そのとおり。おまえのような驕りに支配された相手にはこういったやり方がよく効く。勝ったと思ったところから逆転されるのは屈辱的だろう? それもナメ腐っていた相手から」
ロートルの掌で踊らされていたと知ったパラダイスキングの顔面が、怒りに震える。
ネプチューンマンはセイウチンほうを見て言った。
「よく覚えておけセイウチン。これぞ我が友人にしておまえもよく知るレジェンド・オブ・レジェンド、キン肉マンの得意としていた“たぬき寝入り戦法”だ」
正義超人の先輩として、後輩に実演での指導をしてみせたのだ。
だが肝心のその戦法は、率先して見習いたいと思えるものではなかった。
「ズ……ズル~~ッ」
セイウチンは素直な感想を口にするが、ネプチューンマンは愉快そうに笑い飛ばした。
「ズルくてけっこう! これがコンプライアンスなどという言葉が根づいていなかった時代の正義超人の闘い方よ!」
そして授業の時間は終わりだとばかりに、パラダイスキングに向き直る。
一瞬で距離を詰め、大きく開いた掌をその強靭な胸板に叩き込み始めた。
『逆襲のネプチューンマン、ダメージの激しいパラダイスキングに掌底の嵐――っ!』
まだ脳が揺れているであろうパラダイスキングはとても回避ができる状態ではない。
掌底の連打をくらいながら、しかしやられっぱなしではいられないと拳を握りしめる。
「このヤロウ!」
豪快な一撃がネプチューンマンのニヤケ面を狙うが、
「おっと」
その一撃は虚しく空を切った。
王の尊厳をかけた強烈パンチが次々と繰り出されるが、ネプチューンマンはわずかな動作でそのことごとくを避けていく。
『掌底のお返しに鉄拳の嵐! しかしネプチューンマン、これは冷静かつ華麗に回避していく――っ』
「遅い遅い~~っ」
余裕の態度で挑発までしてみせる。
パラダイスキング血管が千切れんほどに拳を固めた。
「ニヤけジジイが!」
渾身の左ストレートが負傷箇所である胸元を狙う。
が、
『今度は殴りに来た左腕をキャッチしたぞ――っ!?』
飛び込んできた手首を掴み、グイッと引き寄せるネプチューンマン。
両者が密着し、耳元で囁く。
「怒るなよパラダイスキング。今の攻防はおまえの精神面にダメージを与える意図もあったが……実はもうひとつ狙いがあったのだ」
「な、なんだと?」
パラダイスキングはすぐに体を引き離すべきだった――だがネプチューンマンの発した言葉が興味を刺激し、新たなる隙を与えてしまう。
戯言を言う隙、そして必殺技を仕掛ける隙を。
「その甲斐あり、ようやく決まったぜ。おまえを倒すのにふさわしいフィニッシュ・ホールドがな」
「ハッタリを……」
「確かめてみるか?」
問いながらも、返答を待つつもりはない。
ネプチューンマンは手首を掴む手に力を込め、強力を持ってパラダイスキングの巨体を動かす。
「セイリャ~~ッ!」
『ネプチューンマン、パラダイスキングをロープに振った――っ!』
凄絶な投げ放ちによりパラダイスキングの体が浮き、リングロープで反射する。
『パラダイスキングの身はロープの反動で跳ね返り……』
バイーンと戻っていく先は、もちろんネプチューンマンのもとだ。
「来い――っ」
ネプチューンマンは胸を張り、パラダイスキングを待ち構える。
しかし彼の胸には、着用するベストに仕込んだ刺々しい鉄鋲がある。
となれば当然――グサッ、と。
『ネプチューンマンの着るベストの鉄鋲に背中から突き刺さった――っ!』
鉄鋲の長さは胴体を貫通するほどではない。
だが相手の体を固定するには十分。
「な、なんだこりゃ……まるで抜ける気がしねぇ……」
その一瞬、パラダイスキングは確かに身動きを封じられる。
「キングよ! おまえにはこの技を献上するぜ!」
パラダイスキングの背中に密着した形となるネプチューンマンが次に仕掛けるのは――両脚のロック。
両太腿を持ち、そのまま強引に開脚させた。
そして、
『パラダイスキングの両脚を抱えたネプチューンマン、その体勢のまま高くジャンプ――ッ』
高度はファンキーダイナマイトに引けを取らない。
鉄鋲串刺し、さらに強制開脚による股裂き効果を合わせたこのスープレックス技こそ、かつて
「ダ……ダメだ……ネプチューンマン……」
そんな伝説的必殺技の予兆を感じ取り、しかしセイウチンは悲痛な叫びを絞り出す。
「パラダイスキングは人間……そんな大技、決まったら本当に死んじまうぞ――っ!?」
先輩超人の凶行を止めるべく、重傷の身で声を張り上げた。
だがしかし――無情。
「死ね――っ! パラダイスキング!!」
ネプチューンマンが殺意全開のセリフを吐き、空中で天地逆転。
開脚姿勢のパラダイスキングを頭から落とさんと下りてきた。
「ダブルレッグ・スープレックス――――ッ!!」
ズガドォォ――――ン……ッ!!
凄絶なる衝撃音が東武動物公園に響き渡り、ネプチューンマンのオールドファンたちが、彼らにボコボコにされたテナガザルたちが、一様に大口を開ける。
ネプチューンマンは全レスラーの見本にしたいほどの美しいブリッジ姿勢で、そしてパラダイスキングはダブルレッグ・スープレックスを決められた者特有の無様な開脚姿勢で……それぞれリング上に静止していた。
「グゴ~~ッ」
白目を剥いたパラダイスキングの口から、王らしからぬうめき声が漏れる。
直後に、鮮血も吐き出した。
「決着だぜ」
ネプチューンマンは言い、パラダイスキングから手を離して静かに起き上がる。
パラダイスキングは起き上がれず、そのまま仰向けにダウン。
起き上がれないのであればダウンカウントとなるが――起き上がる可能性が完全にゼロと見極められたならば、別の裁定がくだされる。
ジャクリーンがゴングを叩いた。
カンカンカンカン――――ッ!
『ここでゴングが鳴った――っ! 実に34年ぶり! ネプチューンマンの放つダブルレッグ・スープレックスがパラダイスキングを脳天串刺しの刑に処し、
春日部スタジアムに響き渡る実況と歓声が東武動物公園にも届き、リング上に立つ者は天高く人差し指を掲げた。
「ナンバ――ワ――ン!」
私こそがイチバンだ――そう誇らんばかりに。
20世紀の人々の人心を狂わせた、完璧超人だった頃の勝ち名乗りを上げたのである。