アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『ウィナー、ネプチューンマン! “イチバン”を示す人差し指が天を突き、21世紀の世に“ネプチューンマンここに在り!”と知らしめる――っ』
リング中央に陣取り勝利のポーズを決めるネプチューンマン。
キャンバスに倒れ物言わぬ骸と化したパラダイスキング。
訪れてしまった残酷な結果を前に、セイウチンは意気消沈する。
「や、やっちまった……」
超人は人間を守ることこそが最重要使命であるのに――悪人だからといって、まさかその命を刈り取るなど。
どれだけ嘆いても結果は覆らず、横たわるパラダイスキングが生き返ることもない。
『パラダイスキングは3連勝ならず……しかし人間離れした実力は我々に強烈なインパクトを残していきました。まさしく30年以上もの昔、まだ人間だった頃のジェロニモが悪魔超人サンシャインを倒すジャイアント・キリングを彷彿とさせた試合と言えるでしょう』
実況はセイウチンの悲嘆など気にも留めず、パラダイスキングの奮闘を称える。
「ネプチューンマン! ネプチューンマン!」
『かつて
34年前、キン肉マンたちを無視してこれからは完璧超人の時代だと熱狂したファンたちも大満足の結果。
ネプチューンマンは耳に手を当てて自身の名を呼ぶ歓声に酔いしれる。
そしてほどなく、彼の勝利を確かにする賞品が解き放たれた。
「ボ……ッ」
空中で黒い球体の檻に入れられていたボーちゃんである。
パラダイスキングが倒れたことで球体が消え、幼い身はそのまま空に投げ出された。
「おっと」
ネプチューンマンは腕を構え、落ちてきたボーちゃんをキャッチ。
貫禄のあるヒーローとしてその身を抱きかかえる。
「ありがとう、ネプチューンマン」
「こちらこそだぜ。ボーちゃんの声援には助けられた……まさかこの歳でキッズファンを得られるとはな」
助けられた子供と、子供を助けたヒーローの会話。
半引退していたネプチューンマンとしては、まさしくまさかと思えるような光景だった。
だが――悪い気分ではない。
「ネ……ネプチューンマン」
感慨にふけるネプチューンマンの背後から、弱々しく名前を呼ぶ声がふたつ。
「セイウチン。ガゼルマン」
試合終了に伴い、アニマル・チェンバーから脱出を果たしたセイウチンとガゼルマンだ。
ふたりともパラダイスキングにやられ傷を負っている。
しかしその表情の暗さは体の痛みによるものではないようだった。
「どうした、そんな通夜みてぇな顔して」
ネプチューンマンが訊くと、セイウチンが伏し目がちに答える。
「不甲斐ねえオラたちに代わってパラダイスキングを倒してくれたことには感謝しかねえ……ボーちゃんも助けられてよかった。けれども、今の一撃で人間だったパラダイスキングは……」
視線の先にいるのは白目を剥く楽園の王だ。
「心配するな」
ネプチューンマンが短く言った、次の瞬間。
「カハッ!」
死んだと思われていたパラダイスキングが息を吹き返し、その胸が激しく上下し始めた。
「パ……パラダイスキングが息を!」
「生きているのか!?」
驚愕するセイウチンとガゼルマン。
ネプチューンマンは冷静に語る。
「私のダブルレッグ・スープレックスはあの巨漢悪魔超人サンシャインをも仕留める破壊力バツグンの必殺技。それを人間がくらえば、たとえジェネラル・ストーンで肉体を強化しようとも絶命は免れぬだろう」
そのとおりだ。だからこそセイウチンは重傷の身をおしてネプチューンマンに技を止めるよう訴えたのである。
「だが今回、最悪の事態を回避することができた。これはひとえにセイウチン、おまえの頑張りのおかげなんだぜ」
「オ、オラの?」
名指しで呼ばれても、セイウチンは声を振り絞っただけで技にはなにも干渉できていない。
ネプチューンマンの言わんとすることの意味がわからず、隣のガゼルマンと顔を見合わせた。
ガゼルマンもわけがわからないといった表情でネプチューンマンを見る。
「わからん……いったいどうしてパラダイスキングは生きているんだ?」
察しの悪い
これ以上もったいぶっても仕方がないと、答えを口にする。
「アフロだ」
ネプチューンマンはパラダイスキングの特徴である巨大なアフロヘアーを指で示す。
そのヘアスタイルはダブルレッグ・スープレックスの一撃でグシャグシャに崩れてしまってはいるが……いったいただの髪形に過ぎないアフロのどこに生死を分かつからくりがあったというのだろうか。
「セイウチンがパラダイスキングに放った“アトランティック・ドライバー”という技があっただろう。獣性をフルに発揮したあの一撃は、本来ならパラダイスキングをKOしうる威力があったはずだ。それがかなわなかったのは、おそらくやつの巨大すぎるアフロが強力なクッションの役割を果たし衝撃を殺していたから……私はそう踏んだ」
まるで探偵ドラマの一幕のごとく推論を口にするネプチューンマン。
セイウチンとガゼルマンは愕然と口を開く。
「ア……アフロがクッション!?」
「ボケたのかネプチューンマン!?」
ガゼルマンのストレートな物言いに、ネプチューンマンの手が出る。
「失礼なこと言ってんじゃねえ」
バシィィンと頭をひっぱたき、若者の礼儀を正す。
「超人レスリングの試合とは、第三者が聞けば“まさか”と思うような事態が起こりうるもの。常にあらゆる可能性をイメージし、なんでも試してみるのが試合巧者への近道だ」
パラダイスキングのアフロヘアーはヨギボーのクッションにも引けを取らない巨大さ。そのとてつもない毛量はクッション性も抜群だろう。
「私は予感を確かなものにするため、やつのジャーマンスープレックスをパイルドライバーで切って返し、想定どおりの威力が出せるかどうかを検証した。結果はやはり、大きく威力を削がれることとなってな……それならば逆に、脳天を狙った技ならばいい具合に技の威力を調節できるのではないかと考えたのだ」
常の試合ならば厄介なストロングポイントだが、相手を殺すわけにはいかない今回の試合では最良の結果を呼び込むための重要なファクターとなる。
ネプチューンマンはその場にしゃがみ、抱えていたボーちゃんを下ろす。
「ボー……」
鼻水を垂らす無垢な瞳の少年の頭を撫で、年齢に見合った優しい声音で言う。
「人間であるコイツを殺さない程度にお仕置きするためにな」
そう。
令和のヒーローを名乗るならば、相手が悪人とはいえ子供の目の前で殺人など犯してはならない。
ネプチューンマンはボーちゃんへ与える影響も考え、使うべき技を吟味していったのだ。
「だ……だからネプチューンマンは数ある技の中からダブルレッグ・スープレックスを決め技に選んだのか~~っ」
「そこまで考えて試合運びを……これが
セイウチンとガゼルマンは偉大なる大先輩の生き様に舌を巻く。
そこまで尊敬されるのはむず痒いとばかりに、ネプチューンは肩を竦めた。
「仮に私がダブルレッグ・スープレックスではなく
かつては対戦超人のつける仮面のことごとくを狩りまくっていたネプチューンマンの豪腕ラリアット。
それがパラダイスキングに直撃したならば、仮面のかわりに顔面の皮膚が剥がれていたに違いない。
そんな恐ろしい可能性を唱えるネプチューンマンだったが、セイウチンはドッと笑う。
「な~に言ってるだよおっちゃん。ラリアットで顔の皮が剥げるわけねえだよ」
「おっと、それもそうか」
ネプチューンマンの話はジョークと受け取られたのだろう。ガゼルマンやボーちゃんも揃って笑う。
4人が平和そうに笑う中、
「ククククク……」
彼らの足もとにいた男――キャンバスに仰向けに倒れたままのパラダイスキングもまた、低い声で笑ったのだ。
意識を取り戻したパラダイスキングだったが、その身が動く気配はない。
「俺もヤキが回ったもんだぜ……アクション仮面ならまだしも、こんな老いぼれに負けちまうとはな……」
敗北を受け入れ、屈辱を噛みしめる男の顔だ。
ネプチューンマンはもはや警戒の必要はないと判断し、彼なりのねぎらいの言葉をかける。
「人間界で言うところの馬場や猪木に負けたようなもんだ。そう悲観することもあるまい」
「ケッ……簡単に言ってくれやがる。王に敗北は許されねえってのによ」
しかし、残念ながらお気に召さなかったようだ。
パラダイスキングは仰向けに寝たまま、チラリとリングの周囲を見やる。
そこにいるのは推し超人の勝利に狂喜乱舞する古参の超人レスリングファンたち……配下の獣はいない。
「見ろ。あれだけいたサル共が愛想を尽かしたのかキレイさっぱり消えてやがる。どうやら俺もお役御免……退場らしいな」
パラダイスキングの体は、まるで幻であったかのように透けていく。
配下を失った王はもはや王足り得ない。今のパラダイスキングにはお似合いの末路と言えた。
「王か……」
まさか本物の王族でもあるまいに、パラダイスキングはやたらとその肩書にこだわっているようだ。
ネプチューンマンとしては、まったくくだらない、という感想しか出てこない。
「私もその昔、キングを名乗っていた愚か者を知っているが、そいつに比べればおまえはまだマシな部類だぜ」
超人界にもキングを名乗る超人が複数人いる。が、彼らも別に王国を持っていたり家来を従えているわけではない。明確に王族の血を引いている“魔界の
そのあたりのエセキング共と比較し、ネプチューンマンはパラダイスキングを高く評価する。
「むしろなかなか見込みがある。どうだ? おまえもアクション仮面のようにスーパーマンロードの試練を乗り越え人間から超人になっては。今なら特別に、このネプチューンマンの弟子にしてやるぜ」
ニカッとした笑みを見せるネプチューンマン。
熟練の戦士である己が見込みある若者を弟子として迎える……実は密かに憧れていたシチュエーションだ。
「クハッ」
ネプチューンマンからのまさかの誘いに、パラダイスキングの喉奥から声が漏れる。
「クハハッ……ハーッハハハ! マジかよオッサン! 笑えるぜ。あー……くそ。傷に響きやがる」
腹の底から大笑いするパラダイスキング。
心の中で蟠っていた孤独という毒がデトックスされていくようだ。
「俺がレスラーか……少なくとも、退屈はしなそうだな」
異世界に召喚され、超人などというおかしな連中とプロレスをさせられた挙げ句、最後はレスラーに勧誘される。
まったく本当に……稀有な体験をしたものだ。
「どうだ?」
冗談じゃないぞとばかりに、ネプチューンマンは再度問いかけてくる。
パラダイスキングは穏やかな表情で、マスクのバイザーから覗く目を見た。
「ま、気が向いたらな……」
答えを濁し、全身の透明度をさらに上げていく。
薄れていく存在感は錯覚ではなく、実際にリング上からの消失という結果をもたらした。
「きえた」
ボーちゃんが目に見た現象を簡潔に告げる。
野生に生きた楽園の王、パラダイスキング――リタイアの瞬間だった。