アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「な、なんだ――っ!? こいつらは――っ!? 新手の悪行超人か――っ!?」
西武園ゆうえんちを散策していたスカーフェイスとジェイドを取り囲んだ異形の怪人たち。
体躯に見合わぬ巨大な頭部、尖った耳、ギョロリとした目、剥き出しの歯……人間ではありえない。
ここは大魔王サタンがいざなった敵地。すぐさま臨戦態勢を取るスカーフェイスだったが、
「落ち着けスカー。この遊園地のマスコットだ」
その肩を相方のジェイドが押さえた。
周囲の怪人たちは、よく見てみると細部が違う。
ジェイドが順々に説明する。
「あれがヘンダーくん」
この遊園地の代表格である、巨大な頭部、尖った耳、ギョロリとした目、剥き出しの歯の……キグルミだ。
「あれがヘンナちゃん」
ヘンダーくんに比べて仕草が女性的なのが特徴。
「あれがナンダくん。一緒にいるのはソーダくんだ」
ジェイドがまた別のキャラクターを指し示す横で、スカーフェイスが呆気にとられていた。
「マ、マニアだなジェイド……」
「いや、これは無料配布のパンフレットに書いてあっただけで……」
そう言うジェイドの手には、たしかにいつの間にか入手していたパンフレットが握られている。
それを見たスカーフェイスは、ある不可解な点に気づいた。
「待てジェイド。おまえ、そのパンフレットに書いてあるテーマパークの名前……」
スカーが指差すのはパンフレットの表紙。
ジェイドもそこに書かれた文字列を確認し、驚愕する。
「さ……“埼玉ヘンダーランド”!?」
埼玉ヘンダーランド――この遊園地の名称だ。
「こ、ここは西武園ゆうえんちじゃなかったのか――っ!?」
「バカ言うな! 入場ゲートはたしかに西武園ゆうえんちだった……いったいどうなってやがる――っ!?」
現在地が西武園ゆうえんちであるならば、埼玉ヘンダーランドなどという聞き慣れないテーマパークのパンフレットが置いてあるはずがない。
しかしそのパンフレットに記されているこの遊園地のマスコットキャラクター――ヘンダーくん、ヘンナちゃん、ナンダくん、ソーダくんは周囲を取り囲むキグルミたちと特徴が一致している。
であるならば、やはりここは西武園ゆうえんちではなく埼玉ヘンダーランドということになるが……
「チカゴロナンカヘンダー」
戸惑うジェイドとスカーフェイスの前に、ひとりの人間が躍り出た。
金髪に青い瞳、長いシルクハットを被った、コンパニオン風の女性である。
女性はヘンダーキャラクターの代表格であるヘンダーくんと並び立ち、
「変だ変だよ、ヘンダーランドー♪」
歌う。
「ウソだと思うならチョイとおいでー♪」
踊る。
「一緒に遊ぼうよ!」
「OH! ヘンダー!」
決めポーズ。
「オ……オレたちはいったいなにを見せられているんだ?」
「わからん……頭がどうにかなりそうだ……」
まるで平成の香り漂うTVコマーシャルを目の前で再現されたかのような戸惑い。
ジェイドとスカーフェイスは満足なリアクションを取ることも叶わず、棒立ちを強いられる。
そんなふたりの反応には構わず、ヘンダーキャラクターたちは立ち位置を変えた。
両端にずらりと並ぶことで道を作り、まるで「こっちだよ!」と示すように手招きしたのだ。
「い、行ってみるか」
「あ、ああ」
おそるおそる歩みを進めるジェイド、そしてスカーフェイス。
さっきまで遊んでいた他の来園者たちはいつの間にか消えている。
物言わぬヘンダーキャラクターロードを歩いた先、やがてとある施設にたどり着いた。
駅舎である。
「ステーション?」
「あのSLに乗れってことかよ」
駅舎にあったのは昔ながらのSL機関車――しかしながら、本物ではない。
その造形は子供の玩具を大きめにしたようなもの。
座席はジェットコースターのそれに似ていて屋根がなく、極めて小さい。
構わず乗り込もうとしたスカーフェイスをジェイドが止める。
「待てスカー。そっちのシートは子供用だ。オレたちのサイズじゃ座れん」
「じゃあどこに乗れってんだよ」
ジェイドは親指で列車の最後尾を示した。
そこには座席がない。そのかわり、動物を入れるような檻が取り付けられていた。
座席シートを取っ払っているからこそ大人でも乗れる……が、代償として投獄された野生動物の気分を味わわされるのだ。
「この先で待ってるやつはオレが八つ裂きにしてやる~~っ」
おとなしく檻に入りながらも、怒りに身を震わせるスカーフェイス。
ふたりの正義超人を乗せたSL列車はヘンダータウンと呼称される童話的な街を巡り、広大な湖の上に架かる橋を渡って、やがて荘厳な巨城へとたどり着く。
「ヘンダー城!」
「どうやらこの城がバトルフィールドらしいな」
巨大テーマパークのランドマークといえば城。
ジェイドとスカーフェイスも納得とばかりにレールの上の城門が開くのを見届ける。
そのままSLで入城し、ほどなくして停車。
檻を開き、絨毯が敷かれたその広大な空間を見渡した。
「ダンスパーティーでも開けそうな大広間だぜ」
「ああ。だがひとつだけ場違いなものが置かれている」
ジェイドは遠方に聳えるそれを目ざとく発見し、スカーフェイスと共に走り出した。
見間違いではない。すぐそばまで来て、確信と共に声を張り上げる。
「超人レスリングのリングだ――っ!」
自分たち超人レスラーの聖地――4つのコーナーポストに囲まれた四角いリング。
こんなファンタジーな城の大広間にあるわけがない代物だ。
「――遠路はるばるご苦労だったな、兄さんたち!」
ジェイドとスカーの叫びに呼応するかのように、新たな声が落ちてくる。
その男はどこにいたのか、遥か高い位置にある天井より降りてきた。
白いキャンバスの中央に着地し、ふたりの眼前にその姿を晒す。
「長旅で疲れただろう? なにもないところだがくつろいでいってくれや」
姿を晒す――といってもそれは仮初の姿。
全身に灰色のマントを纏い、頭はフードで隠す……声の質からして男性と推測できる、ただそれだけの存在だ。
しかし、ジェイドとスカーフェイスにはしっかりと見覚えがあった。
「あれは……サタンが呼び出した謎のマント男!」
「テメーがオレたちの相手か! さらっていった子供はどうした!?」
アクション仮面、ハイグレ魔王、メケメケZ、パラダイスキングと同じく真・正義超人軍を名乗った一団の一員。
大魔王サタンが別世界から呼び出したアクション仮面と縁のあるライバルということだが、テレビ番組“アクション仮面”に詳しくないふたりでは正体に察しがつかない。
それだけに人質をどう扱うかは未知数だったが――
「とっくに殺したよ」
「……ッ!?」
あまりにもきっぱりとそう告げられ、ふたりとも言葉を失った。
とっくに殺した――殺したというのか? 人質を? まだ5才の子供を!?
絶句するあまり怒りすら追いついてこない。
その様子を数秒眺め、マントの男が肩を揺らす。
「フフフ……フハハハハ! ビクついてんじゃねーよセンパイ! 人質なんだから殺すわけねえじゃねーか!」
フードの奥から漏れ出たのは、嘲笑。
言動からは、さっきの発言がこちらを翻弄するための嘘、悪ふざけだと読み取れた。
「こ……こいつ!」
なんという醜悪な真似をするのか。ジェイドとスカーは怒りに拳を震わせる。
マントの男は精神的優位に立ったつもりでいるのか、ひとしきり笑ったあと冷徹な声で言う。
「ほら、会いたがってたガキだ」
そう言った次の瞬間、合図もなにもなく天井のほうから黒い球体が下りてくる。
半透明で中の様子が窺えるようになっているそれは、大魔王サタンが用意した特製の牢獄。
中にいるのは、春日部在住の5才の女の子である。
「あれは……」
「さらわれた5人の子供たちのひとり! 桜田ネネちゃんか!」
スカーフェイスとジェイドが無事に生きている人質の姿を確認し安堵の息をつく。
直後、
「キャー!」
檻の中からネネちゃんの叫び声が上がった。
悲鳴ではない。
黄色い声、とでも表現すべき喜色に富んだ声だった。
「エー!? ジェイドとスカーが助けに来てくれたの!? 嬉しいー! ネネ、ファンだったの!」
喜びのトリガーは、目の前にいるジェイドとスカーフェイスふたりだった。
そんなふたりが自分を助けに、自分のために駆けつけてくれるなど、女の子にとっては憧れるシチュエーションだ。喜びを抑えられないのも無理はないだろう。
「こ、この状況で怖がっていないとは」
「肝の据わった
予想していなかった反応に戸惑うスカーとジェイド。この遊園地に来てから戸惑ってばかりだ。
「うるせーぞ、ガキ」
ネネちゃんが作る気の抜けた空気を、底冷えするような声が刺す。
その恐ろしき声は黒い球体の最も近くにいるマント男の口から発せられた。
「こいつらがここに来た時点でテメェは用済みだ。黙れねえってんなら今すぐぶっ殺してやったっていいんだぜ」
フードで隠した顔から、しかし確かな殺気を放つマント男。
「ひっ……」
さすがのネネちゃんも恐怖で声を詰まらせ、涙腺が潤む。
「あいつ……5才の女の子に対してなんという恫喝を」
「許せねえ」
ジェイドとスカーフェイスはリングの外からマント男への闘争心を滾らせる。
下手に動けばネネちゃんに危険が及ぶ……だがそれでも、怖がっている子供を放ってなどおけない。
「安心してくれネネちゃん! 君はオレたちが助ける!」
「こんなヤロウにオレたちニュージェネレーションが負けるかってんだよ――っ!」
恐怖を吹き飛ばさんと力強い言葉を送る。
「ジェイド、スカー……ネネのために……! そんなにネネのことを……!」
効果はてきめん。ネネちゃんはさっきの怖がっていた姿が演技だったかのように顔をぱぁーっと明るくした。
「な、なんか変なふうに受け取られてないか?」
ジェイドとスカーフェイスはふたりで顔を突き合わせる。闘いに明け暮れる男ふたりには5才の女の子の感情の機微がわからない。
「カッコいいね~、先輩方。俺も見習いたいぜ」
一方のマント男は、ジェイドとスカーのヒーロー然とした勇ましさに手を叩いた。
スカーフェイスがチッと舌打ちする。
「軽薄なヤロウだ。春日部スタジアムじゃ無口だったってのに、今はやけに喋るじゃねえか」
「そろそろそのマントを脱いで正体を見せたらどうだ」
ジェイドの要求に対し、男はマントの端に手をかけた。
「いいだろう……とくと見やがれ、これが俺の真の姿!」
バサッ――!と、男はあっさりマントを脱ぎ捨てる。
そうしてあらわになったのは――白色のダルマだった。
胴体が丸。頭部も丸。右手に手袋。左手にボクシンググローブ。頭の上にはバケツ。
顔はまるで海苔を切り貼りしたかのようなデタラメさ。
極限までシンプル化されたデザインは、幼稚園児でも容易に描けそうなほど簡単。
ジェイドとスカーは見たままを言う。
「ゲェ――ッ!? 雪ダルマの超人!?」
そう――白いダルマのような超人は見た目そのまま、雪ダルマ姿の超人であった!
「俺の名はス・ノーマン・パー! スノーマンではなくス・ノーマン! “ス・”で区切るのがこだわりの男よ――っ!」
正体を現したマント男、ス・ノーマン・パーは見た目に反した江戸っ子調の口ぶりで殺意の波動を放つ。
「さあ……血祭りの開催だ」