アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
西武園ゆうえんち……否。
埼玉ヘンダーランドなる謎のテーマパーク、そのランドマークであるヘンダー城を訪れたジェイドとスカーフェイス。
そこには超人レスリングのためのリングが置かれており、救出対象の桜田ネネちゃん、そして彼女をさらったマント男が待ち構えていた。
アクション仮面と敵対したライバルという名目で召喚されたマント男の正体は、ス・ノーマン・パー。
雪ダルマの見た目はなるほどたしかに、特撮番組の悪役と言われれば納得できるものがある。
ジェイドとスカーフェイスはリング上から放たれるス・ノーマン・パーと睨み合うが――
「待ちたまえ、ス・ノーマン・パー!」
そこに、新たな介入者の声が上がった。
ジェイド、スカーフェイス、ス・ノーマン・パー、そしてネネちゃんが一斉に顔を向ける。
リングのすぐ横に中継用のモニターが設置されており、画面には大昔の音楽家を気取ったようなたいへん濃い顔の男がドアップで映っていた。
「ぎょえええ~~っ! 暑苦しい顔のバケモノ~~っ!?」
家のテレビより何倍も大きなモニターに映し出されるその顔は、ネネちゃんの度肝を抜いた。
「カメラが近いぞイケメン!」
「ネネちゃんが怖がってるじゃないか!」
「ご……ごめんちゃい」
「俺んときよりビビってるじゃねーか」
身内の恥を叱りつけるスカーとジェイド、謝りながらカメラ位置を調整するイケメン、出鼻を挫かれた思いのス・ノーマン・パー。
「えー、気を取り直しまして」
モニターに映っていた濃い顔の男――春日部スタジアムから
ス・ノーマン・パーに対し、もはや恒例となった宣誓を行うためだ。
「宇宙超人委員会はただの殺し合いを良しとしない! 君たちの闘いは我々が超人レスリングの試合として取り仕切り、公平にジャッジさせてもらう!」
「認める!」
「は……話が早い!?」
ス・ノーマン・パーは超人レスリングの理を知らぬ異世界からの来訪者であるはず。なのにこの即決はどういうことか!?
「寿司の醤油は“ちょん”、蕎麦のつゆは“ちょんちょん、ズルッ”だ。江戸っ子ってのはせっかちなのさ。超人レスリングでもなんでも、相手の誘いには乗ってやるのが粋ってもんよ」
ス・ノーマン・パーは粋でいなせな江戸っ子。江戸っ子に御託はいらないのだ。
ともあれ、これで両者合意。試合開始の準備が整った。
「で、先に死にてぇのはどっちだい?」
超人レスリングの試合は1対1。相手がふたりなら順番を決める必要がある。
ス・ノーマン・パーは殺意と共に問いかけ、
「ここはオレが行かせてもらうぜ!」
それには緑のヘルメットを被る青年が答えた。
「ジェイド!?」
先を越される形となったスカーフェイスは、仲間の闘志燃えたぎる横顔を見やった。
「今回のギャラリーは可愛らしい
まだ5才のネネちゃんを思ってのことだろう。女性に紳士的なジェイドならではの配慮である。
いけ好かないアピールではあるが、スカーフェイスは怒りもなく微笑した。
「フッ……いつもなら“勝手なこと言ってんじゃねえ!“、“オレに任せて引っ込んでろ!”と言うところだが……」
チラリ、とリング上の対戦相手を見やる。
「相手が雪ダルマじゃな」
ス・ノーマン・パーはスカーフェイスの興味をそそる相手ではない。
ならばここは相方に花を持たせてやるのもいいだろう。
「いいぜジェイド。ここは任せた」
ぶっきらぼうに背中を押され、ジェイドがリングへ前進。
続けて鮮やかな宙返りでリングインを果たした。
『さあ~~っ、これより始まりますは西武園ゆうえんち……だったはずの場所に突如現れた謎のテーマパーク“埼玉ヘンダーランド”のヘンダー城を舞台とした新世代超人軍vs真・正義超人軍の一戦! 対戦カードはジェイドvsス・ノーマン・パー! ジェイドの公式試合といえば、超人オリンピック・ザ・レザレクション準決勝での対ヒカルド戦以来ですが……謎の雪ダルマ超人にどう立ち向かうのか――っ!?』
春日部スタジアムの本部席にいるイケメンは安堵の笑みを見せる。
メケメケZのときは自分にまで被害が及びそうになり大変な思いをしたが、今回はばっちり安全圏だ。
ゴングに木槌を叩きつける手にも力が入るというもの。
「試合開始~~っ!」
――カァァ~~~~ン!
『宇宙超人委員会委員長イケメン・マッスルがゴングを鳴らし……おおっ!? 開戦と同時にジェイドが突っ込んだ――っ!』
スタートダッシュを決めたジェイドが、絶妙な間合いでキャンバスを蹴る。
助走の勢いをつけて宙で体を反転、後ろ向きで蹴り足を繰り出した。
狙ったのは丸みのある雪ダルマの胴体である。
『勢いの乗った後ろ蹴りがス・ノーマン・パーに直撃――っ』
正中線を射抜く蹴りが、ス・ノーマン・パーの体を揺らす。
が、
「…………」
蹴られた本人はノーリアクション。
痛みを堪えるので精一杯なのか、まるで本物の雪ダルマのように固まってしまっている。
「デヤァーッ!」
動かないのであれば畳み掛けるまで。
ジェイドは後ろ蹴りに続き、パンチとキックを主体にした連続攻撃を繰り出していく。
『あ――っとス・ノーマン・パー棒立ち! 本物の雪ダルマのようにその場に立ち尽くし、その間ジェイドは打撃を入れまくる――っ!』
人体とかけ離れた雪ダルマの体はどこが急所かわからない。
ゆえにあらゆる箇所を攻撃していくが、どこを打ってもス・ノーマン・パーの反応は変わらなかった。
「どうした!? これじゃ雪ダルマどころか、ただのサンドバッグだぜ!」
まさしくサンドバッグのような感触を覚えるジェイドだったが、攻撃をやめる理由にはならない。
引き続き打撃での攻勢を続けるが、
「フン……」
ス・ノーマン・パーは不遜に鼻を鳴らす。鼻などないにもかかわらずだ。
そして、
「ス・ノーマン!」
「グアッ!?」
自身の名を呼ぶ掛け声を発すと同時、一瞬体が発光。
ジェイドが吹き飛ばされ、キャンバスを滑った。
『なんだ――っ!? ス・ノーマン・パーは微動だにしていなかったが、ジェイドがふっとばされた――っ!?』
「しょ……衝撃波だと!?」
すぐに体勢を立て直しながら、今の不可解な現象を分析するジェイド。
身に受けた攻撃は、まさしく衝撃波としか言いようがない。
突如としてス・ノーマン・パーの体から不可視のオーラが迸り、気がつけば後ろに吹き飛ばされていた。
「アハハハハ! なかなかいいマッサージだったぜ。兄さん東京で店開いてもやってけるよ」
愉快げに笑いながら、ジェイドの渾身のラッシュ攻撃をマッサージと評するス・ノーマン・パー。
ジェイドが苛立ちを見せる。
「おちょくりやがって」
雪ダルマに似合わぬ不思議な力に虚を突かれたが、衝撃波自体にダメージはない。
恐れる必要もないとばかりに、一旦後ろに下がった。
「だったらより強力な一撃をくれてやるぜ――っ!」
リングの後ろに張られたロープを目指したのである。
『ジェイド、ロープを使って高く飛んだ――っ』
伸縮性のあるリングロープをジャンプ台とし、通常よりも高く飛ぶ。
高所からの攻撃は体重が乗る分、より破壊力が出るという寸法だ。
『そのままス・ノーマン・パーの頭部めがけてオーバーヘッドキックだ――っ!』
体を回転させ、その勢いのまま逆さに蹴る一撃で雪ダルマの頭部をカチ割ろうとした。
しかし――ジェイドのオーバーヘッドキックは空を切る。
「なっ!?」
着地したそこに、ス・ノーマン・パーの姿はない。
雪ダルマはリングコーナーのほうに移動していた。
「か、躱しただけでなく……一瞬でコーナーまで移動したというのか!?」
白一面のキャンバスには、なにかが高速で駆け抜けたかのような黒い跡。
そしてス・ノーマン・パーの履く黄色いブーツの底からは、車輪のようなものが飛び出ていた。
「こいつを知ってるか? 令和じゃ隣の国で再ブームが来てるらしいぜ……子供の頃を思い出すんだとよ」
時代感を狂わせるようなことを言いながら、ス・ノーマン・パーが消える。
否――その足裏に展開したインラインスケートを駆使し、キャンバスを高速で滑り出したのだ。
『は……速ーい! ス・ノーマン・パー、足裏に90年代に流行したローラーブレードを展開し、リング内を縦横無尽に駆け回る――っ!』
ス・ノーマン・パーはジェイドの右へ、左へ、後ろへ、また前へ。
目で追うのがやっとなほどのスピードは、ローラーブレードのテクニックだけでは説明がつかない。
まるでスピードスケートのオリンピック代表レベル。
そうか、いや、まさか……雪ダルマだから、スケートなのか!?
「手抜きのアニメみてぇにボーっと突っ立ってんじゃねえぞ!」
意味のない連想をしてしまったと後悔するジェイド。
その身は宙を舞っていた。
「ガアッ」
『ジェイドが跳ね飛ばされた――っ! リング内で交通事故発生だ――っ!』
歩行者に衝突して跳ね飛ばすとは――ローラーブレードは危険だ!
しかし案ずることなかれ、ジェイドはヘルメットを着用している。ローラーブレードに轢かれても安心だ。
そしてヘルメットを着用しているからといった頭から落ちるようなヘマはしない。持ち前の身体能力で姿勢を制御し、2本の足で軽やかに着地した。
「思ったよりやるぜ、あの雪ダルマ」
着地したポジションはコーナー。
これも計算通りだ。
「悪いが保険に入る猶予は与えねえぞ!」
『ス・ノーマン・パー、正面からジェイドに向かっていく――っ』
四角いリングのコーナーならば、地を這うローラーブレードが仕掛ける角度はひとつしかない。
「それだけの加速がついていたら回避はできないだろう」
真正面――あとはタイミングを見極めるのみ。
ジェイドは深く腰を落とし、息を吐くと同時に右拳を突き出した。
「ごあっ!?」
まっすぐに放たれた突きが、雪ダルマのど真ん中に突き刺さった。
『あ――っと正拳! 正拳突きだ――っ! ジェイド、突っ込んできたス・ノーマン・パーの体にストレートパンチを突き刺した――っ! ジェイドの右腕がス・ノーマン・パーの体に埋没している~~っ!』
ローラーブレードの加速が正拳突きの威力を何倍にも跳ね上げ、胴体貫通という結果を生んだのだ。
誰の目から見ても間違いない致命傷。
リングサイドで試合を見守っていたスカーフェイスが大笑いを飛ばす。
「ハハハ~~ッ! どんなに速かろうと動きが直線的じゃ意味がねえ! 超人レスリングをナメてんじゃねえぞ雪ダルマ!」
雪ダルマもローラーブレードも公園でやれ。もっとも令和ではそんなふうに遊べる公園も減ったがな!
スカーフェイスはイキリ雪ダルマを滑稽に笑うが、
「ウウ……」
リング上で異変が起こる。
もはや勝利確定と思われたジェイドが、苦悶の表情を作り出したのだ。
そして――
「ギャアアア――ッ!?」
『あ~~っとどうしたジェイド!? 突然苦しみ出したぞ――っ!?』
致命の一撃を与えた側であるジェイドが我を忘れて絶叫したのだ。
スカーフェイスが困惑する目の前で、ス・ノーマン・パーの胴体から腕を引き抜く。
正拳の形のまま固定されたその右腕こそが、ジェイドの絶叫の理由だった。
『こ……これは~~っ!? ス・ノーマン・パーの体に突き刺さっていたジェイドの右腕が凍りついている~~っ!?』
右拳の凍結。
新世代超人として闘い始めてから、こんな異常事態を味わったことはない。
「高い勉強代になっちまったなぁ、先輩」
ス・ノーマン・パーは胴体にジェイドの右腕サイズの窪みを作りながらも、まったくダメージを感じさせない様子で言う。
「俺の体の雪はマイナス100度の超低温に保たれている。そんな中に手を突っ込めばそりゃそうなるってなもんよ……」
正拳突きによる胴体貫通。それこそが悪手であると告げるス・ノーマン・パー。
並の超人相手なら必殺となっただろう一撃が仇になるとは……この男、見た目も中身も雪ダルマということか!
「グググ……」
ジェイドは使い物にならなくなった右腕を左手で押さえる。
このままでは血流障害や細胞の損傷を引き起こすおそれがある。場合によっては切断すら考えなければならない窮地だが、敵は応急処置を待ってはくれないだろう。
「さあ、この一撃でテメェはオダブツだ!」
ス・ノーマン・パーはジェイドに背中を見せ、反対側のコーナーへ走っていく。
自慢のスケートテクニックで体の角度を変えた。
『ス・ノーマン・パー、コーナーポストを滑り高く舞い上がった――っ』
まさかコーナーポストをジャンプ台にするとは!
感嘆する思いでリング上空を見上げるジェイド。
そう、ス・ノーマン・パーはアクロバティックに宙を飛んでいたのだ。
「なっ――」
ス・ノーマン・パーが狙う技は至極シンプル――フライングボディアタック。
だがそのボディは、たった今ジェイドの右腕を凍結させたマイナス100度の超低温。
そんな体が頭上から降ってきたどうなるか。
「くたばれ」
答えもシンプル。
死だ。
「極寒雪身包み――っ!」
ズボッ!という音が鳴り、ジェイドの上半身が雪ダルマの胴体に埋没した。