アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『ジェ……ジェイドの上半身がス・ノーマン・パーの体に飲み込まれた――っ!?』
頭上からのフライングボディプレスにより、上半身を雪ダルマの胴体に飲み込まれることとなってしまったジェイド。
たかが雪ダルマ、ちょっと冷たいくらいだろう――と楽観することはできない。
なにせこの雪ダルマ、ス・ノーマン・パーの体はマイナス100度の超低温。
直前に突っ込んだジェイドの右腕は一瞬で凍りついてしまったのだから、頭から飲み込まれたりなどしたらどうなるか――答えは解説するまでもない。
「あの世で後悔するんだな。雪ダルマをナメたことをよ」
だからス・ノーマン・パーは答えではなく、手向けの言葉を送る。
今頃ジェイドは己の胴体の中で凍え死んでいることだろう――そういった確信を持っての勝利宣言だった。
「フフ……」
それに対し小さく笑ったのは、リングサイドのスカーフェイスだった。
「どうした先輩。仲間が凍え死んだってのにずいぶんと余裕じゃねえか」
ス・ノーマン・パーは直立するジェイドの体に突き刺さった状態でスカーフェイスに語りかける。
「凍え死んだ? 見た目どおりおめでたい野郎だぜ……テメーはジェイドって男のことをなにも知らねえようだ」
スカーフェイスは余裕に満ちた眼差しを向けた。
仲間の死をまるでなんとも思っていないような卑劣漢……否。
仲間の生存をまるで疑っていない――それこそが真実。
「あ~ん?」
訝るス・ノーマン・パー。
事態が急変したのは、直後だった。
「!?」
ス・ノーマン・パーの無機質な顔から、急激に汗が吹き出す。
汗――もしくは雪が溶け出す際の水滴のようでもあった。
「あぢ……あぢぢぢぢぢぢぢ! あぢあぢ! あぢぢぢぢぢぢぢ!」
続けて激しく苦しみ悶える。
感じるのは熱。胴体からは蒸気も吹き出す。
ジェイドの上半身に刺さったままじたばたともがくが、死後硬直でもしているのかその下半身が倒れることはなかった。
『なんだ~~っ!? ス・ノーマン・パーの体から蒸気のようなものが吹き出し、苦しみ出したぞ――っ!?』
さらなる異変として、雪ダルマの体内からくぐもった声が聞こえてくる。
「残念だったなス・ノーマン・パー。他のやつなら一撃必殺もありえただろうが……オレが相手じゃそうはいかねえ」
ジェイドだ。
馬鹿な、マイナス100度の雪の中に頭を突っ込んだ状態でなぜ平然と喋れる――ス・ノーマン・パーは感情に畏怖を込めて問う。
「て……てめぇ、俺の体の中でなにを……」
「すぐに教えてやるぜ」
ジェイドは簡潔に答え、次の瞬間。
ス・ノーマン・パーの胴体が、横に真っ二つに割れた。
「ベルリンの赤い雨――っ!」
断面図は赤くドロドロ――先ほどの水蒸気はス・ノーマン・パーの体の雪が高熱で溶けたものだった。
そしてそれを行ったのが、たった今割れたス・ノーマン・パーの体内から脱出したジェイド。
彼の両手は赤く燃える炎が宿り、手の形は刀。この炎と手刀で雪ダルマを中から分断したことが見て窺えた。
『で、出た――っ! ジェイドお得意の燃える手刀、ベルリンの赤い雨! ス・ノーマン・パーの雪ダルマボディを横真っ二つに分断した――っ!』
「ぐえ~~っ!」
苦悶の声を上げながらリングに転がるス・ノーマン・パーの上半身、そして下半身。
対して、ジェイドは2本の足でしっかりと立ったままそれを見下ろす。
明確な勝者と敗者の構図である。
「これは決まった――っ!」
春日部スタジアム本部席のイケメン・マッスルも喜々として木槌を振りかざした。
決着のゴングを鳴らす。
『ここでゴングです! さすがに体を真っ二つにされては続行不可能でしょう! ス・ノーマン・パーのボディプレスを受け凍死確実と思われたジェイドですが……必殺の“ベルリンの赤い雨”で一発逆転! 炎は雪よりも強し! 納得の早期決着だ――っ!』
「キャー! ジェイド、カッコいい――っ!」
ジェイドの快勝に、黒い球体の檻に閉じ込められたネネちゃんが黄色い声援を送る。
「さすがだぜ」
彼をよく知る相方、リングサイドのスカーフェイスもフッと口元で笑んだ。
炎を纏う手刀“ベルリンの赤い雨”の使い手であるジェイドが雪ダルマに飲み込まれた時点で――いや、なんなら彼が雪ダルマとの闘いに名乗りを上げた時点で、この勝利は予測できていた。
まさかス・ノーマン・パーもレスラーを名乗る相手が人体発火するとは思うまい。
「ふ……ふざけんじゃね~~っ。手から炎が出るなんざインチキじゃねえか~~っ」
さすがは雪ダルマ。胴体を分断されてもまだ息があるのか、ス・ノーマン・パーは埒外な超人レスラーに不平不満を訴える。
だがジェイドは平然と答えた。
「我が師より伝えられし伝統の技は物理を超越する。見識の狭さを呪うんだな、ス・ノーマン・パー」
ス・ノーマン・パーの世界ではどうか知らないが、炎を纏う手刀など超人レスリングの世界では珍しくもなんともない。
理不尽さを感じながらも、ス・ノーマン・パーはこの結果を受け入れた。
「チッ……まあいいさ。俺は所詮、前座だ」
「なに?」
聞き捨てならない言葉を拾うジェイド。
ス・ノーマン・パーは続ける。
「覚悟しとくんだな。うちの大将はハンパじゃねえ……てめえら全員あの世行きだ」
敗北した雪ダルマの辿る末路はただひとつ――水となること。
直前まで喋っていた上半身も、分断された下半身も、等しく個体から液体となっていく。
「溶けた」
そうして、ス・ノーマン・パーという雪ダルマは消滅した。
敵がいなくなったわけだが……ジェイドは緊張感を解く気にはなれなかった。
ス・ノーマン・パーの先ほどの言葉が気にかかっている。
「大将……アクション仮面か、それとも大魔王サタンのことか?」
「どうやら違うようだぜ」
「スカー」
背後のスカーフェイスがリング上空に浮かぶ黒い球体を指で差す。
「見てみろ。ス・ノーマン・パーが溶けてもネネちゃんは囚われのままだ。敵が敗北を認めていねえ証……やつの口ぶりから察するに、二の矢が来るぜ」
たしかに、ス・ノーマン・パーが倒れたのであるならば人質のネネちゃんが解放されないのはおかしい。
やつがルールを守るつもりがなかった……それか、もしくは。
やつは真・正義超人軍のマント男ではなく、ただの尖兵に過ぎなかったのでは――?
「ス・ノーマン・パーを従えていたやつがどこかにいるっていうのか?」
ジェイドがヘンダー城の大広間を見回す。
だだっ広い空間に潜む姿はない――が。
どこからともなく飛来した一枚のカードが、リングキャンバスに突き刺さった。
「これは……トランプのカード?」
なぜいきなりトランプのカードが?と訝しむジェイド。
その直後、トランプよりまばゆい光が放たれた。
「ウワッ」
強烈な光に目がくらみ、咄嗟に距離を取る。
リング外のスカーや球体檻の中のネネちゃんも眩しそうに目を細め、そこで起こった異変を観察した。
「な、なんだ~~っ!?」
やがて、光が人の像を形作っていく。
しかもその像の数は、ふたり分。
姿がだんだんと明瞭になっていくにつれ、声も聞こえてくる。
「人生ってなかなか思いどおりにいかないものよ」
「そこがおもしろいんだけどね」
男性的なシルエットに、男性的な声。
しかし口調は女性的という、どこかちぐはぐな印象。
「カッコいい王子様がかわいい王女様を助けるなんてお話は……」
「もう飽き飽きよねぇ」
片方はダイヤ柄のサスペンダーとバレエタイツを身に纏った、金髪で強面の男性。
片方はハート柄のチュチュを纏う、衣装は女性的だがやはり強面の、黒髪の男性。
風貌からして舞踊を専門とする表現者であることは見て取れた。
が、その人相が放つ強烈なまでの個性は、スカーフェイスとジェイドに時代錯誤な蔑称を叫ばせる。
「ゲェ――ッ!? こいつらは……」
「オ……オカマのバレエダンサー!?」
令和のメディアでは到底許されない表現を用い、見たままを言う。
これに対し、突如現れたバレエダンサーふたりはノンノンと指を振った。
「あら、失礼しちゃう。私たちはオカマのバレエダンサーじゃなくて……」
「オカマ魔女よ」
否定するのはそこなのか!?
「オカマ魔女!?」
「オカマなのか!? 女なのか!?」
初めて耳にする日本語に困惑するジェイドとスカーフェイス。
黒い球体の檻から見守っていたネネちゃんは、
「オカマでしょ……」
呆れ気味にそうつぶやいた。
バレエダンサーふたりは言う。
「はじめまして。私はマカオ」
「あたしはジョマ」
金髪のダイヤ柄タイツがマカオで、黒髪のハート柄チュチュがマカオ。
服装だけで捉えるならば、まさしくバレエの男女ペアのようにも思える。
マカオとジョマはまるで舞台でそうするかのごとく、来客に対しうやうやしく一礼した。
「ヘンダー城へようこそ」