アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
マカオとジョマの放った謎の黒いモヤにより、リング全体が覆い隠された。
はたして中にいたジェイドやスカーフェイス、ネネちゃんはどうなってしまったのか。
カメラ越しに試合を眺めていた者たちは窺い知ることができない。
ただし当事者たちにはしっかりとした意識があった。
「な、なんだここは……」
「オレたちはさっきまでリングの上にいたはずだぜ」
ジェイドとスカーフェイスは暗闇の中にいた。
しかしどういうわけか、光源がないのにお互いの姿ははっきりと視認できる。
戸惑っていると、パッと明かりがつくように暗闇の中で新たにふたりの姿が鮮明になった。
「ここはあたしたちの魔法で作り出した異空間」
「言ったでしょ? あたしたちはオカマ魔女。これくらい造作もないことよ」
対戦相手のマカオとジョマである。
ふたりは相変わらずのバレエダンサーのような格好でぴったり身を寄せ合っていた。
「い……異空間を作り出しただと!?」
「ケッ! それくらいなんだってんだ!」
敵がどれだけ特異な能力を使おうがビビることはない。それがスカーフェイスという超人だ。
「ここがリングの上だろうと外だろうと関係ねえ! 目の前に敵がいるならブチのめすまでだ――っ!」
呑気に突っ立っているマカオとジョマ目掛けて飛び蹴りを放つ。
が、
「おっ!?」
その身は空中で不自然に跳ね返され、スカーフェイスは尻もちをついた。
「大丈夫かスカー!?」
「ああ。だがなんだ今のは。見えねえバリアみてえのに弾かれたぞ」
マカオとジョマはチッチッチと指を振り言う。
「ここでの暴力は禁止よ」
「あなたたちふたりにはもっと平和的な勝負に挑んでもらうわ」
異空間の次は謎の力によるルールの強制ときた。
「いったいなにをさせる気だ?」
警戒心をむき出しにして問うジェイド。
マカオとジョマはパチンと指を鳴らした。
すると、彼らの後ろの位置がライトアップされる。
古ぼけた丸テーブルと、それらを囲むように置かれた5つの椅子。
そのひとつには、幼い少女がちょこんと座っていた。
「ネ……ネネちゃん!?」
「解放されたのか!?」
黒い球体の檻に囚われていたはずのネネちゃんである。
ネネちゃん自身も状況がわかっていないのか、可愛らしいぬいぐるみのようにきょとんとしていた。
「見ているだけじゃ退屈でしょ、お嬢ちゃん」
「一緒にやりましょ」
「……え?」
だがマカオとジョマにそう誘われ、だんだん驚きが追いついてくる。
「ええ~~っ!?」
ネネちゃんが……超人レスリングの試合を!?
「テメエら、5才の女の子を巻き込むつもりか!?」
「ネネちゃんにいったいなにをさせるつもりだ――っ!」
人質の子供をリングに上げるなど言語道断、外道にもほどがある。
スカーフェイスとジェイドは怒気を放つが、マカオとジョマはテーブル中央に置かれたカードの束を指し示した。
「なにって」
「ババ抜きよ」
「バ……ババ抜き!?」
そのカード束は――トランプカード。
世界で最も有名なカードゲームであり、もちろんジェイドもスカーフェイスもババ抜きは知っている。
が、しかし……超人レスリングの試合最中に、ババ抜きを!?
「そ。なんてことはない、楽しい楽しいトランプ遊び」
「ただし真剣勝負として行うババ抜き……負けたらただで済むと思わないことね」
マカオとジョマは正気を疑いたくなるような発言をする。
「ネネやるー! ババ抜きならネネでも勝てるかもしれないし!」
ババ抜きという幼稚園児でもわかる楽しげな遊びに、ネネちゃんも喜び参戦表明した。
その一方で、ジェイドは緊張に息を呑む。
「どう見る、スカー」
頭脳派の相棒に意見を求めた。
スカーは答える。
「十中八九罠だろう。だがここがやつらのテリトリーである以上、断るのも得策じゃねえ」
「なら答えはひとつだな」
ふざけた提案ではあるが、乗らざるをえない。
それがふたりの結論だった。
「決まりね」
「さっ、テーブルについて」
マカオとジョマが不敵に笑む。
そのどこか艶やかな相貌は、ジェイドとスカーの背筋に冷たいものを走らせるのだった。
◇
丸テーブルを5人で囲み、ババ抜き勝負が始まった。
カードを引く順番はスカーフェイス→ジョマ→ネネちゃん→ジェイド→マカオの順。
不穏な空気で始まりはしたが、そこはやはりババ抜き……特殊なルールが介入する余地はなく、各自淡々とカードを引いていき、札を揃えていくだけだ。
「やったー! 揃ったー!」
カードを揃えたネネちゃんが喜びの声を上げる。
「あら、よかったわ」
「調子が良さそうでなによりよ」
マカオとジョマは幼い少女の無邪気な姿に大人らしい笑みを見せていた。
「チッ」
対して、おもしろくなさそうに顰めっ面をしていたのがスカーフェイスである。
その理由は彼が握るカードの枚数にあった。
「そっちのお兄さんはあまり調子良くなさそうね」
「顔に出ているわよ」
挑発的に言うマカオとジョマ。
しかしスカーフェイスは怒り狂ったりなどはせず、余裕ぶった態度を取る。
「フン。こんなものはただの運勝負。ゲームの性質上、最終的には1対1までもつれ込む……序盤で焦るほど滑稽なことはないぜ」
言いながらジョマの手札よりカードを引く。
が、不運にも数字は揃わず。
「グッ……」
渋面を作るスカーに、マカオはクククと声を漏らす。
「それにしたってカードを持ちすぎだと思うけど」
「しっ。言ったら悪いわ」
ジョマがマカオをたしなめる。そのやり取りはスカーに対しての侮辱とも取れた。
「挑発だ。乗るなよスカー」
「ああ。わかっているぜ」
ジェイドの忠告に対しては冷静に受け答えるスカー。
しかし直後、スカーはジェイドの手札の枚数がこの中で一番減っていることに気づいた。
「なっ……ジェイド! テメー! 一番手が進んでるじゃねえか!」
「あ、ああ。なんだか調子がいいみたいだ」
申し訳なさそうに言うジェイドの態度が癪に障る。
怒りはどうしようもなく表情に出てしまい、マカオとジョマは軽蔑の眼差しでそれを見た。
「イヤねえ、男の嫉妬って」
「ホント」
批判の声は別方向からも上がる。
「たしかにちょっとないわよね~」
「ネ……ネネちゃん?」
ネネちゃんの物言いに、隣りに座っていたジェイドも困惑する。
人質の身でありながら怖がっていなかったり、敵と楽しげにババ抜きを楽しんだり……もしかしてこのお嬢さん、けっこういい性格をしている子なのだろうか。
「グウ~~ッ」
周囲からの散々な言われようを受け、スカーフェイスは悔しそうに唸る。
そうこうしている内にカードを引くループが一周し、今度はマカオがスカーから引く番となった。
「引け!」
今に目にもの見せてやる。そんな意気を込めてマカオの前に手札を出した。
マカオがカードを引く。
「ありがと。揃ったわ」
しかし――幸運の女神はスカーには微笑まず。
「……ッ!」
手札を2枚捨てるマカオを見て、愕然とするスカーフェイス。
その後もゲームは続き――
「ネネ、あがり――っ!」
まずはこの中で最年少の女の子が一抜け、
「オレもあがりだ」
続けて普段ゲームなどやらなそうな真面目男が続き、
「あたしも」
3番手にはチュチュ姿のオカマ魔女が躍り出た。
これで残ったのはふたり――スカーフェイスとマカオのみ。
マカオは残り2枚、スカーは1枚で、次はスカーがカードを引く番だ。
「さあ、ご期待どおりの1対1よ。しかもジョーカーを持っているのは私……千載一遇のチャンスね」
恐れることなく2枚の手札を翳してみせるマカオ。
スカーが鼻を鳴らす。
「へっ。この一撃で仕留めてやるぜ」
意気込んでカードを引く――が。
「クッ……」
手にしたのはジョーカー。
札は揃わず、勝負は続行となる。
「あら残念。チャンスがピンチに変わっちゃったわね」
アイラインの整った切れ長の瞳から、鋭い眼光が放たれる。
崖っぷちに立たされた上でのこの胆力……一流ギャンブラーのそれだ。
「さ……さっさと引きやがれ!」
「さっさと引かせていいの?」
スカーが翳す2枚のカード……右か左か、マカオがどちらを選ぶかでこの勝負の行方が決まる。
強気な言葉とは裏腹に、額からは冷や汗が流れた。
「待てスカー! 表情に出すぎだ!」
「あらいけないわ。助言は禁止」
相棒を助けようとするジェイドと、それに釘を刺すジョマ。
カードを持つスカーの手が震える。
マカオはスカーの手札2枚を交互に見つめ、時折スカー自身の表情も観察。
こちらの心を見透かすような視線だ……まさかこのオカマ、魔法で心を読んだりはしていないだろうな?
額からは嫌な汗が吹き出る。
息が詰まるような緊張の中、マカオの指が近づき――
「ドカ――――ン!」
「ウォッ!?」
突然マカオが発した大声に、スカーの体がビクリと跳ね上がった。
なんてことはない、ただ脅かしただけだ。
それなのに立派な体つきの男が、まるで爆弾でも爆発したみたいにビクビクして……おかしいったらない。
「クックック……」
「こ、このオカマ野郎~~っ!」
神経を逆なでされたスカーはマカオを殴りかからんほどの勢いで声を荒げた。
しかしマカオは勝負師の風格を漂わせ、スカーを子供扱いするように言う。
「トランプの秘訣はポーカーフェイスよ。そんなにカッカしちゃダメ」
虫酸が走るアドバイスだったが――スカーはハッとする。
「ククク……ポーカーフェイスか」
意味深に笑い、マカオに真っ向から言い返していく。
「たしかに、考えを読ませないよう鉄面皮を貫けば事は有利に運べるかもしれえ……だがおまえたちはどうやら知らねえようだ。世の中には、ポーカーフェイスよりもトランプに適した“面”があることを――っ」
その勝ち気な態度からは、確かな勝算のようなものが窺えた。
だからといって動揺するマカオとジョマではない。平静を保ったままスカーに尋ねる。
「な~にそれ?」
「ハッタリかしら」
スカーフェイスはニィ……ッと口角を上げ、額に手を伸ばした。
「今から見せてやるぜ」
額に備えた、目元を覆い隠すタイプのドミノマスク――それを目元まで下ろしたのである。
「“
そのマスクの真の名は、“狂乱の仮面”。
正義超人――否。
“悪行超人”スカーフェイスの代名詞といえるアイテムだった。