アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
スカーフェイスvsマカオの一騎打ちまでもつれ込んだババ抜き勝負。
そのクライマックスでスカーは突如、“
それは一度封印したはずの魔の力だった。
「マ……マッドネスマスク! 悪行超人だったスカーがその凶暴性、残虐性を底上げするために装着するパワーアップアイテム! 正義超人となってからは封印したはずのそれを……ババ抜きで!?」
なぜ!?
ジェイドの脳内が疑問符で埋め尽くされる。
常のファイトであるなら、正義超人としてあえて封印していた凶暴性、残虐性を引き出し戦法に用いるということでまだ理解できるが……これは暴力厳禁のルールが敷かれたババ抜きだ。
ババ抜きで凶暴性や残虐性を求める……意味がわからない!
「ポーカーフェイスなんてクソくらえだ! さあ、このマッドネス・スカー様からビビらずカードを引けるってんなら引いてみな――っ!」
ジェイドの困惑を吹き飛ばすように、スカーフェイスが豪快に言い放つ。
まさかスカーは……相手を怖がらせての戦意喪失を狙っているのか!?
「そんな虚仮威し……!」
強面のマカオがわずかにたじろぐ。
それでも強気に、スカーの持つ手札に手を伸ばそうとするが――
「ドガ――――――ン!」
「ッ!?」
スカーは先ほどのマカオを優に凌ぐ声量で威嚇し、その手を止めた。
「オラオラ! ビビってんじゃねーぞ!」
「クッ……」
正義超人の一員でありながら、悪行超人がごとき威勢でマカオを挑発するスカーフェイス。
ジェイドは相棒の手段を選ばぬ手管にごくりと息を呑む。
「即座にやり返すとは……さすがだぜスカー」
「そう? ただ大人げないだけに見えるけど」
ネネちゃんは呆れていた。
「こ……こっちよ!」
マカオが意を決しカードを引く。
が、
「くあっ!?」
その歯を食いしばる表情がハズレ――すなわちジョーカーを引いてしまったことを物語る。
「ハッ! どうやら追い込まれた精神状態が運を突き放しちまったみてーだなあ!」
「ぐぬぬぬ~~っ」
表情筋をフルに使い、全力で悔しがるマカオ。
そしてババ抜きのルール上、チャンスのあとは必ずピンチが訪れる。
「さあ! 次はオレがテメーを仕留める番だぜ! さっさとカードを出しな!」
そう、今度はスカーがマカオからカードを引く番だ。
「この……」
マカオが手札を向け、
「オラァ!」
スカーフェイスは一切迷うことなく右のカードを奪い取った。
「そ……即断即決!」
ジェイドが舌を巻く。
この大事な局面で……なんという豪胆さだろうか!
しかしながらこれはババ抜き。勝利の女神が微笑むかどうかは結局運次第だ。
「ハハハ~~ッ! ジョーカーだ! どうやら命拾いしたみてえだな~~っ!」
ひとり高笑いするスカー。その威勢はこれが平和的なババ抜き勝負である事実を忘れさせるものがあった。
もし敗北すれば取って食われるのではないか。そんな恐れすら感じてしまう。
特にこの場にはまだ5才の少女であるネネちゃんがいる。
すでにゲームを抜けたジョマは、女性的な視点から彼女の肩が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
「下品な大声はやめなさい。子供が怖がっているわ」
ネネちゃんは本来、人質の身分。助けに来た側のスカーフェイスは彼女を慮って然るべきだったが、
「知ったこっちゃねえな~~っ! 今は血で血を洗う真剣勝負の真っ最中! 刺激に弱いお子様はお呼びじゃねえんだよ――っ!」
敵からの忠言に対する返答は、傍若無人。
これではどちらがヒーローかわかったものではない。
見かねたジェイドが口を挟む。
「言葉が過ぎるぞスカー! 正義超人であるオレたちがネネちゃんを泣かせては元も子も……」
正論だが、この手の手合いは優等生の言葉など聞き入れないものだ。
悪ガキを黙らせるなら――実力でねじ伏せるのが一番。
ゆえに、マカオは手を伸ばした。
「ウッ!?」
スカーフェイスが持つ2枚の手札の内の1枚を、指でつまむ。
「子供はどっちかしら?」
スカー視点ではもちろん見えていた――たった今指をかけられたほうのカードが、ジョーカーではないことが。
マカオ視点ではカードは裏側。だが表を見ずとも、カードの種類は表情の固まった相手が教えてくれる。
「はしゃぎすぎのワルい子には天罰が下るものよ……その反応を見るに、どうやらこっちが当たりみたいね。これを引いたらジ・エンド……あなたはただのイキリ豚に成り下がる」
マカオは正解のカードを探り当てた。
今のスカーは喉元に刃を突きつけられたも同然――すなわち、詰みである。
「グ~~ッ」
今さら「いいやそっちは違う!」などと言っても無様な嘘にしかならないだろう。
ならばどうする? 素直にこのカードを渡すか? オカマ魔女などという妙ちくりんな敵に敗北を認めるというのか?
これはゲーム。
ルールのあるゲームだ。
いくら考えれど、選択肢などない。
「さあ、覚悟なさい!」
選択肢などない――などという考えは、弱者の諦めだ。
強者であるスカーフェイスはカードを持つ指に力を込めた。
「なっ……ビクともしない!?」
マカオは正解の札をスカーの手から奪い取ろうとしたが、動かない。
スカーが引かせまいと、カードを指で強く押さえているためだった。
「残念だったな~~っ! たとえそれがおまえのあがり札だったとしても、引くことができなければ勝ちは成立しねえ! 引けるもんなら引いてみやがれ――っ!」
カードを引かれれば負けが確定する――ならば、引かせなければいいのだ!
まさに“狂乱の仮面”を装着していたからこその狂気的発想。
スカーフェイス流ババ抜き必勝法に、マカオが唾を飛ばしながら怒鳴った。
「バ~カなこと言ってんじゃないわよ! ルールは守りなさい!」
「オレはルールどおりカードを手に持ってるだけだぜ! テメーこそちゃんと引く気がねえんじゃねーのか――っ!」
「んま~、なんてことを言うのかしら! 負けちゃダメよマカオ!」
スカーも唾を飛ばして怒鳴り返し、マカオ側もジョマが加わってふたりがかりでカードを奪い取ろうとする。
もはやルール無用。勝負はどちらの指力が勝つかの肉弾戦だ。
蚊帳の外に置かれたネネちゃんとジェイドは、呆れたふうに言う。
「みっともな……」
「さすがに擁護できん……」
スカーフェイスに味方はいなかった。
そうこうしている間に、ビリッ!
「あ――っ!?」
カードの強度が超人とオカマ魔女の指力に耐えきれず、真っ二つに破れた。
スカーの手にはカードの下半分、マカオの手にはカードの上半分がある。
半分だろうがなんだろうがカードは引いた。トランプはそのデザイン上、上半分だけでも数字がわかる。
マカオはすべての手札をテーブルに投げ捨てた。
「はい揃った~~っ! はい私の勝ち~~っ!」
「ふざけんな! カードを破ったんだから無効だ無効!」
「そんなわけないでしょうが! 潔く負けを認めなさ~い!」
言い争いを始めるスカーフェイスとマカオとジョマ。
このままゲームは終わり、暴力を解禁しての乱闘騒ぎになる雰囲気だった――が。
マカオとジョマはおもむろに手を握り合い、それをスカーに向ける。
「ンンン……マッ!」
謎の掛け声と共に、その手が発光。
暗闇だった空間全体をまばゆく照らし、圧倒的な白がスカーフェイスの身を一瞬で覆い尽くした。
「スカー!?」
ジェイドが目を閉じながらもパートナーの名を呼ぶ。
「な、なんだ~~っ!?」
スカーフェイスからの反応はあった。
しかし続く言葉はなく、まばゆい光はさらに光度を増し、やがて――
◇
――場所は変わり、埼玉県所沢市にあるベルーナドームの玄関口。
強敵メケメケZとの死闘を終えた
音の発信源はチェック・メイトが持つ、00年代の香り感じる折りたたみ式ケータイ。
電話に出たチェック・メイトが声を荒げる。
「え~~っ!? どういうことなんですかそれは――っ!?」
チェック・メイトの通話相手は、春日部スタジアムで新世代超人軍vs真・正義超人軍各試合のレフェリングを行っているはずの宇宙超人委員会副委員長ジャクリーン・マッスルである。
「どういうこともなにも……それ以上説明のしようがないといいますか……我々も困っているのです」
ジャクリーンはある緊急事態に直面し、助けを求めるつもりでチェック・メイトに電話をかけた。
内容はこうである。
「もう一度説明しますね。まずジェイド&スカーフェイス組はワープホールを抜けて埼玉県の西武園ゆうえんちに到着……しかしそこは昭和レトロを売りにした老舗テーマパークなどではなく、埼玉ヘンダーランドというまったく別のテーマパークに様変わりしていた。ふたりはその最奥に位置するヘンダー城で桜田ネネちゃんをさらった謎のマント男、ス・ノーマン・パーと遭遇し対戦……ジェイドが見事勝利するも、ス・ノーマン・パーは仮初の姿であり、その正体はオカマ魔女のマカオとジョマ……勝負はタッグマッチ形式での2回戦にもつれ込み、ジェイドとスカーは即席タッグチーム“スーパー・トリニティーズ”として挑むも、マカオとジョマの繰り出す複雑怪奇なバレエ殺法に苦戦……カンブレ・アリエールの隙を突いて反撃の流れになりかけましたが、マカオとジョマが謎の黒いモヤでリング全体を覆い隠し、現在消息不明……レフェリング困難な状況に陥ってしまったのです」
「ジャクリーンの言っていること、わかりますか?」
「わ、わからん……」
チェック・メイトはスピーカーモードで一緒に話を聞いていたイリューヒンとふたりで困惑する。
西武園ゆうえんちが埼玉ヘンダーランドに? オカマ魔女のマカオとジョマ? ジェイドとスカーがタッグチーム結成? バレエ殺法? カンブレ・アリエールってなんだ?
情報量が多すぎて2回説明されても飲み込めない。
「とにかく! チェック・メイトとイリューヒンのふたりには現場に急行し状況を確認してもらいたいのです!」
中継用のドローンカメラでは確認しようにも限界がある。
となれば、現地に行くしかないだろう。
そこで白羽の矢が立ったのが、ベルーナドームを戦場としていたこのふたりというわけでだった。
「西武園ゆうえんちなら、ここベルーナドームの目と鼻の先。加えてオレの飛行能力ならすぐに駆けつけることができる」
「ええ。今すぐ向かいましょう」
頷き合うイリューヒンとチェック・メイト。
そこへ、
「僕も行くよ!」
彼らよりずっと背丈の低いおにぎり頭の少年が声を上げた。
「マサオくん!」
イリューヒンとチェック・メイトが視線を落とし、その勇ましい姿に畏敬の念を抱く。
「ネネちゃんは僕の友達なんだ……友達を見捨てたりしたら男が廃る!」
佐藤マサオくんはキリリとした表情で強く言い放った。
「おお……」
「覚醒している……」
つい先ほどまで悪の首領に人質にされ、怪人に改造されるかどうかの瀬戸際だったのに……なんと勇敢なことか。
イリューヒンとチェック・メイトはマサオくんの気持ちを尊重し、彼を同行させる決心をする。
「オレの操縦席はひとりしか乗れないが、マサオくんならばチェックの膝の上で一緒に乗れるだろう」
「しかし、シンヤは……」
チェック・メイトが気にかけたのは、自身を応援するためすべてを投げ売ってベルーナドームに来てくれた青年のことだった。
シンヤは苦笑いを浮かべ言う。
「僕も一緒に行きたいのはやまやまだけど……みんなに迷惑はかけられない。僕は春日部スタジアムへ行ってカメラ越しにチェックたちを応援させてもらうとするよ」
ファンとしてはやはり一番近いところで応援したい。が、それが適わないのであれば素直に身を引くのもまたファン。
たとえ直に声が届かなくとも、シンヤにはすでに十分に助けられた……心はどこにいたって通じている。
「それは心強いな」
「頼みます。シンヤ」
イリューヒンとチェック・メイトはシンヤに感謝し、マサオくんと並んで3人で東の空を見やった。
「では行くぞ!
イリューヒンが大地を蹴り、マサオくんを抱えたチェック・メイトがそれに続く。
チェック・メイトは空中でイリューヒンに組みつき、続けてイリューヒンのボディが旅客機へと変形していった。
直前で組みついたチェック・メイトとマサオくんはそのままイリューヒンの操縦席へと移動。
一人乗りのシートについたチェック・メイトの膝に小柄なマサオくんが座り、乗り物図鑑で見た本物の操縦席というものに興奮した姿を見せる。
「うわ~~っ! すごいや! これがイリューヒンの操縦席なんだね!」
「しっかり掴まっていてくださいよ」
膝の上のマサオくんの両側から腕を伸ばし、操縦桿を握るチェック・メイト。
「出発進行!」
イリューヒンの掛け声を合図に、ぐんぐんと高度を上げていった。
さすがは飛行機だ。機影はあっという間に遠ざかり、地上に残ったシンヤはそれを名残惜しそうに見送った。
「……ぼ、僕もイリューヒンに乗ってみたかった」