アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
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戦地としていたベルーナドームより東に約2キロメートル、目的地はすぐに見えてきた。
「見えたぞ! あれがヘンダーランドか!」
イリューヒンの視界に映るのは、広大な敷地に異国のような街並みとジェットコースターなどの遊園地らしい大型アトラクションの数々が広がる光景。
見た目の印象は世界で最も有名なテーマパークである某夢の国に近いものを感じるが……昭和レトロを売りにした老舗テーマパークはどこに消えてしまったのか。
「西武園ゆうえんちって昔家族で来たことあるけど、ぜんぜん違う感じだったよ」
来園経験があるらしいマサオくんから見ても異常な事態。
操縦席のチェック・メイトは操縦桿を握る手が汗ばむのを感じた。
「おそらくオカマ魔女のマカオとジョマなる2人組の仕業でしょうが……いったいどんな力を使えばこんな真似ができるのか」
警戒心を最大限高めながら、ヘンダーランドの上空を行く3人。
イリューヒンが着陸地点を巨大な城に定めた。
「ナビによれば、ジェイドとスカーはあの城にいる! 突入するぞ!」
旅客機形態のまま豪快に窓をぶち破り、城内に突入する。
そこは舞踏会が開けそうなほどの大広間。
だだっ広い空間の中央には、ジャクリーンが言っていた異変――黒いモヤがドーム状に展開されていた。
「ジェネティック解除!」
降下しつつ、飛行機からヒト形の姿に戻るイリューヒン。
操縦席にいたチェック・メイトもマサオくんを抱きかかえた状態で離脱、イリューヒンと共に鮮やかに着地した。
「あれか! ジャクリーンの言っていた黒いモヤというのは!」
「リングらしき場所が覆い隠されていますが……中は一体どうなっているんだ――っ!?」
『あ――っと状況がまったくわからなくなってしまったヘンダー城特設リングの前に、ベルーナドームでの激戦を終えたばかりのイリューヒン&チェック・メイトが現れた――っ!』
超人レスリングの歴史で見ても他に類を見ない異例の事態。
いったいこの試合はどうなってしまうのかと、春日部スタジアムから中継映像を見守る観客たちも不安げな様子だった。
マサオくんがチェック・メイトの腕より飛び降り、黒いモヤに向かって呼びかける。
「ネネちゃーん!」
友達を心配するマサオくんの叫び。
友情パワーが奇跡を起こしたのかどうかは定かではないが、その無垢な眼差しが見つめる先に変化が生じた。
「っ! 黒いモヤが晴れるぞ!」
イリューヒンが言い、チェック・メイトとマサオくんが両目を見開く。
『今、リングを覆う黒いモヤが晴れ……中で闘っていたはずのスーパー・トリニティーズとマカオ&ジョマが姿を現す――っ!』
まず目に入ったのは、決戦の舞台となっていたリング。
その上には、“3人”の人物がいた。
『あ――っとこれはどうしたことだ――っ!? 晴れ渡ったリングの上でスーパー・トリニティーズのジェイドが膝をついている――っ! それに対し、対戦チームのマカオとジョマは余裕そうな表情でバレエ然としたポーズを取っているぞ――っ!』
“マカオとジョマ”のマカオ、そしてジョマ。ふたりはぴったり身を寄せ合いながら優雅な片足立ちポーズを決めている。
余裕のありそうなふたりに対して、“スーパー・トリニティーズ”は――
『そ……そして、スカーフェイスの姿が見当たらないが……?』
リングにいるのは、キャンバスに跪くジェイドのみ。
スカーフェイスはどこにもいない。
視野をリング上空――大広間の無駄に高い天井まで広げてみても、そこには宙を浮く黒い球体があるのみ。
中には人質として囚われ中のネネちゃんがいた。
「ジェイド! 無事か!?」
「ネネちゃん! 大丈夫!?」
イリューヒンとマサオくんがジェイドとネネちゃんそれぞれに声をかける。
ジェイドが背後を振り向いた。
「イリューヒン! チェック! マサオくんを救い出せたのか!」
囚われの身であるネネちゃんも新たなヒーローの登場にパァッと表情を輝かせる。
「えー! ジェイドとスカーフェイスだけじゃなく、イリューヒンとチェック・メイトまでネネのことを助けに来てくれたの!? うれし~!」
「あの……ネネちゃん、僕もいるよ」
ナチュラルに無視されたマサオくんが消沈した声をもらした。
チェック・メイトはジェイドに問う。
「いったいなにがあったんですか? スカーはどこに……?」
試合はタッグマッチで行われていたはず。
万が一もう倒されてしまったのだとしても、姿がまったく見当たらないのはおかしい。
「ババ抜きだ……」
「はい?」
様々な可能性を考えるチェック・メイトの脳内に、完全に思考の外にあったワードが流し込まれる。
ババ抜き……え? あの、トランプの?
「オレたちはマカオとジョマが放った怪しげな魔法により、異空間に閉じ込められた。そこでは暴力を禁止するルールが敷かれ、オレたちはやつらの提案したババ抜き勝負をせざるをえなくなった。ネネちゃんもまじえた5人勝負は最終的にはスカーvsマカオの一騎打ちになり、スカーはここで“
怒涛の説明を口にするジェイド。
聞き手に回っていたイリューヒンとジェイドは顔を見合わせた。
「わからん……どうしてそんなことに……」
「なぜババ抜きで狂乱の仮面を……?」
凶暴性や残虐性を底上げする“狂乱の仮面”を装着してババ抜きに挑む理屈がわからない。そもそもなぜババ抜き?
いや、それよりも考えるべきは消失したスカーの行方だ。
チェック・メイトがハッとする。
「ま……まさかスカーはババ抜きで敗北したペナルティによって跡形もなく消滅させられてしまったんじゃ――っ!?」
敵はオカマ魔女――魔女であるならば魔法を使うだろう。そういったことができても不思議ではない。
しかし、ジェイドは首を振った。
「いや……スカーならまだこのリング内にいる」
イリューヒンとチェック・メイトは再び顔を見合わせる。
「えっ?」
「どこに?」
首を傾げながら訊くと、ジェイドはリング内……自身のすぐ隣を指差した。
「そこだ」
指が示す先には、なにもない。
正確には――“なにもないように見える”。
だがよく目を凝らしてみれば――
「あ……あああああ~~~~っ!?」
イリューヒンとチェック・メイトがジェイドの言わんとすることに気づき、驚愕に顔を染める。
中継用のドローンカメラも望遠機能をフル活用、ジェイドの示す先を最大限までズームアップし、それを捉えた。
その――スカーフェイスの姿をした、直径4センチほどでペールオレンジ一色の、“消しゴム人形”を。
『こ、これはなんということだ――っ!? スカーフェイスがキン消しになってしまっている――っ!』
「キ……キン消し!?」
「なにそれ!?」
実況が興奮気味に持ち出したフレーズに反応が追いつかないでいるマサオくんとネネちゃん。
イリューヒンは語る。
「マサオくんとネネちゃんが知らないのも無理はない! キン消しといえば、1980年代に流行したジャパニーズ・トレンド・ホビー! 当時活躍していた
現代でも流通しているガシャポンの、80年代主流商品――それがキン消しだ。
ちなみに消しゴムと銘打ってはいるが、文房具の消しゴムとしての機能はない。あくまでもそれっぽい人形というだけ。
チェック・メイトが疑問を声にする。
「21世紀となり、超人界は我々
平成、令和と時代を経てときどき復刻されることはあれど、流行の移り変わりが激しい玩具業界でキン消しがメインストリームに乗ることはなかった。
それなのにスカーフェイスをキン消しにするなど……いったいどのような神算鬼謀があるというのか!?
「やい! マカオにジョマ! これはどういうことなんだ――っ!? なぜスカーをキン消しにした――っ!?」
ジェイドの強い問いかけに対し、マカオとジョマは。
「知らないわよ。なにそれ、怖っ……」
「あたしたち普通の人形にしたつもりだったんだけど」
困惑気味にそう返した。
あたりまえだ。異世界からやってきたオカマ魔女がキン消しを知るはずもなし。
とはいえ、彼らがスカーフェイスを魔法でキン消しに変えてしまったのは確からしい。
おそらくはババ抜きに敗北した代償だろうが……超人レスリングの試合的にはどう見るべきか。
「え、ええ~と、これは……スカーフェイスはKOされてしまったということなのか?」
春日部スタジアムから試合をジャッジするイケメン・マッスルも判断に迷う。
カメラでズームアップしたスカーフェイスのキン消しは仰向けに倒れているように見える。
となればダウン判定、そして起き上がれないであれば戦闘不能を言い渡すべきだが――
「違う~~っ! スカーはキン消しにされただけだ! オレたちスーパー・トリニティーズはまだやれる~~っ!」
ジェイドは猛々しく吠え、スカーのキン消しをキャンバスに立たせた。
バランスの悪い消しゴム人形はなかなか2足では立ってくれない。ジェイドは何度かやり直した。
ようやく立ってくれたので、自分は試合再開とばかりに眼前の敵に立ち向かう。
『ジェイド、ジョマに狙いを定め片足タックルを仕掛ける――っ!』
素人ならばまず対処できないであろう低い姿勢でのタックル。
KOは免れたものの、相方のスカーが戦線復帰できないのは確実。であるならば、まずは向こうもひとりご退場いただき数の釣り合いを取るべきだろう。
そういった意図でジョマの脚を狙ったジェイドだったが、
「グラン・バットマン!」
「ガッ!?」
ジョマはジェイドが間合いに入ってきたタイミングで鋭く、大きく、高く片脚を上げる。
その動作は組みつこうとしたジェイドの顎を穿つ強力な蹴りとなった。
『凄まじい角度の蹴り上げ! パートナーを失ったジェイドはひとりでは手も足も出ないか~~っ!?』
蹴り飛ばされたジェイドがキャンバスに背中を打ちつける。
やはりバレエダンサー恐るべし。ただの蹴りの一発が、とんでもない破壊力だ。
「立てジェイド!」
「キン消しになってしまったスカーはとてもじゃないが闘えない……ネネちゃんを救えるのはあなたしかいないんですよ――っ!」
リングサイドからイリューヒンとジェイドが声援を送る。
彼らふたりの傍らには心配そうに見つめるマサオくんの姿もあった。
「わ……わかっているさ」
正義超人としての仕事を完遂させた仲間の前で、己が不甲斐ない姿を見せることはできない。
幼い子供たちが見ているというのであればなおのこと。
「悪行超人を前にした正義超人はネバーギブアップが信条……ここでオレが立ち上がらないわけにはいかねえ~~っ」
ジェイドは瞳に炎を灯し立ち上がった。
たとえ敵がオカマ魔女ふたりであろうとも……たとえ相棒がキン消しにされひとりになろうとも……最後まで全力で闘い抜く。
それが、正義超人だ。
「イヤねぇ……暑苦しい子って」
「そういうの、本当に飽き飽き」
マカオとジョマはうんざりした顔で立ち上がるジェイドを眺めた。
「このまま弱いものイジメっていうのも趣味じゃないし、ここでもう一度趣向を変えてみましょうか」
「そうね。ギャラリーも増えてきたことだしみんなで楽しめる演目がいいわ」
ふたりだけで会話を繰り広げ、そしてリング上空に佇む黒い球体の檻に目を向ける。
「ねえお嬢ちゃん。次の勝負はなんにするか、あなたが決めてくれない?」
「え? ネネが決めるの?」
急に話を振られ、きょとんとするネネちゃん。
次の勝負――つまりさっきやったババ抜きのような勝負の“次”を提案してほしいと言っているのだ。
「私たちは魔法が使えるオカマ魔女」
「どんなイメージだって現実にしてあげるわ」
魔法。
女の子にとっての夢のフレーズが、ネネちゃんの思考回路を刺激する。
だが、一方で。
「ネ、ネネちゃんの提案……」
リングサイドから上空を見上げるマサオくんの背筋に悪寒が走った。
まるでメケメケZに人質にされていたときの再来……そばにいるイリューヒンやチェック・メイトとしても気が気じゃない。
「どうしたんだマサオくん?」
「やけに震えているようですが……」
「わかんないけど……なんだかすごく嫌な予感がする」
マサオくんが震えの原因を言語化できないでいる中、次なる展開は空よりもたらされた。
「じゃあネネ、みんなでリアルおままごとがやりたい!」
黒い球体の中から、ネネちゃんが溌剌とした声でそう唱えたのだ。
“リアルおままごと”――そのフレーズを耳にしたマサオくんは、
「ひぃいいいいいいいいい~~っ!?」
涙こそ出さなかったものの、ある意味では怪人に改造されそうになったとき以上の“嫌そうな顔”を見せた。
「おまかせ!」
「あれ!」
マカオとジョマはそんなマサオくんの気持ちなど知らず、ぴったり密着しながら両手を握り合わせる。
魔法の杖のように振りかざした腕からは再び黒いモヤが噴出し、あっという間にリング全体を包みこんだ。
リング上のジェイドや上空のネネちゃんはもちろん、今度はリングサイドにいたイリューヒンとチェック・メイトとマサオくん、それに中継用のカメラやモニターまで巻き込んで広がっていく。
『あ――っとマカオとジョマが再び黒いモヤを発生させ、今度はリングのみならず大広間全体が包まれた――っ! 観戦していたイリューヒンやチェック・メイトはもちろん、中継用のカメラまで巻き込みいったいなにが起こるのか~~っ!?』