アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
時刻は12時ジャスト。
定刻となる。
『皆様、たいへん長らくお待たせいたしました! 只今より本日のメインイベント、チャンピオン・ケビンマスク対チャレンジャー・アクション仮面の試合を執り行います!』
春日部スタジアム場内に大音量の実況アナウンスが響き渡り、歓声がワッと沸いた。
観客席の片隅では、合流を果たしたキン肉万太郎、アレキサンドリア・ミートくん、そして野原一家4人が並んで席についている。
「いや~、まさかしんのすけがあのキン肉マンⅡ世のお世話になっていたとは」
野原一家の長である野原ひろしは、迷子の息子を保護してくれた万太郎に対し言う。
それに対し偉そうな態度を取ったのが、他ならぬしんのすけだ。
「いやいや、当然のことをしたまでですゾ」
「あんたはお世話された側だっつの」
心配をかけた自覚なしの我が子に、みさえは呆れた表情を見せる。
そんなやり取りの中、しんのすけは「お?」とあることに気づいた。
「とーちゃんは万ちゃんのこと知ってるの?」
父ひろしが口にした“キン肉マンⅡ世”なる単語。
それは万太郎を指しているだろうことが子供のしんのすけでも読み取れた。
ひろしは言う。
「そりゃもちろん。キン肉万太郎といえば、“
“d・M・p”に“悪魔の種子”。どちらも21世紀の世の中を恐怖のどん底に叩き込んだ悪行超人の集団だ。
その脅威に立ち向かったのが“
特にキン肉万太郎はその先頭に立ち、数多くの強敵たちを破っていった実績がある。
「そんなに持ち上げられると照れちゃうな~」
「オラも~」
「なんでしんのすけくんまで照れてるの。Ⅱ世もだらしない顔しないでください」
にやける万太郎となぜか便乗するしんのすけだったが、ミートはそれを厳しくたしなめる。
万太郎は不服そうに唇を尖らせた。
「褒められて素直に喜ぶくらいいいじゃんか~」
「万ちゃんも苦労してるようですな」
「そうなんだよ~。ミートってば、いちいち小言がうるさくてさ~」
「おおー。オラの母ちゃんと一緒だ。妖怪ケチケチおばば~」
座席の上に立ち、器用にフラダンスのような動きをするしんのすけ。
万太郎も愉快げに笑うが、ふたりの両側にいる人物は愉快でもなんでもない。
「しんのすけ~~っ?」
「Ⅱ世~~っ?」
みさえとミートが揃って拳をボキボキと鳴らし、今にも雷が落ちそうな怒気を放つ。
おっかない空気が漂う中、ひろしがスタジアムの中央を指差した。
「あ、ああ――っ! アクション仮面が出てくるぞ!」
「たーい」
抱っこしていたひまわりも真似っ子で指差した、その方向。
決戦の舞台である四角いリング――から直線に伸びた花道の先に、選手入場口がある。
『青コーナーより、アクション仮面の入場です!』
その選手入場口、ブルーゲートから出てくるのは、挑戦者にして本日の主役であるアクション仮面。
まずは登場を盛り上げるためのBGMが奏でられる。
『さぁ~~っ、皆さんおなじみアクション仮面のテーマソングをバックミュージックに、今、青コーナーから“新世代リアル超人レスラー”アクション仮面の登場です!』
3万人もの観客が一斉にその方向を見つめ、ついに待ち望んだヒーローが姿を現す。
しかしながら、現れたのは“アクション仮面”ではなかった。
『あ――っと、現れたのはアクション仮面の正体にして大人気俳優、郷剛太郎だ――っ!』
マダムの黄色い声が飛び交うハンサムな青年の名は、郷剛太郎。
いわゆる“中の人”、アクション仮面の変身前の姿として知られる男性だ。
「アクション・トランスフォーム! ゴ――ッ!!」
郷剛太郎は掛け声と共に花道を駆け出す。
「トォ――ッ!」
走りながら全身を発光させ、リングの手前で大きく跳躍。
空中でくるりくるりと身を翻し、白いキャンバスに着地する。
降り立ったその姿はすでに郷剛太郎ではなく、アクション仮面に変わっていた。
『テレビで見たあのシーンのように瞬間変身をしてみせ……今、軽やかな宙返りでリングイン!』
青、緑、赤のトリコロールカラーで構成されたヒーローコスチューム。
象徴的なのは、口から上部分を覆い隠すタイプのハーフフェイスマスク。
正義のヒーロー“アクション仮面”の特徴を際立たせるように、彼は左腕を斜め上へ伸ばし、右手を胸のあたりに構える。
「ワーッハハハハハハ!」
そこから高笑いは、アクション仮面の代名詞とも言える仕草だった。
『そしてアクション仮面といえばこれ! といえる決めポーズ! ご覧ください! 客席にいる多くのアクション仮面キッズたちが真似をしております! 中にはアクション仮面変身セットを持参し装着している子も!』
周囲の客席にいる子供たちがアクション仮面グッズに身を包み、お揃いのポーズで高笑いをしている様子を見て、しんのすけは悔しそうな顔をする。
「あ~ん、オラも持ってくればよかったー」
あいにくしんのすけのアクション仮面グッズは家のおもちゃ箱の中。
ひろしとみさえは残念そうにする我が子を微笑ましく思い、笑みを作った。
会場の空気が変わったのは、次の瞬間だった。
『あ~~っと、このアクション仮面や子供たちの高笑いをかき消すおどろおどろしいミュージックは~~っ!?』
先ほどまで流れていたのは、テレビ番組『アクション仮面』の劇中でも使われた彼を象徴するBGM。
しかしその音楽が不意に止まり、代わりにホラー映画に用いられるような陰湿なメロディが流れ始めた。
『赤コーナーより、ケビンマスクの入場です!』
実況アナウンスにより、アクション仮面の対戦相手の入場が告げられる。
春日部スタジアムに集う人々は、レッドコーナーの入場口に視線をやった。
現れたのは、超人オリンピックの現チャンピオン――ケビンマスクである。
『出た~~っ! ご存知、超人オリンピック・ザ・レザレクション覇者、ケビンマスクです! “難攻不落の鉄騎兵”の異名を持つ彼といえば、ロビン
ケビンマスクといえば、フルフェイスの仮面に鎧を纏う、西洋騎士のごときレスラーである。
だが今日ここに現れたケビンマスクは、仮面こそいつもどおりであるものの――纏っているのは黒のTシャツだった。
彼のトレードマークである“歴史の鎧”はどうしてしまったのか。
逸早くその答えにたどり着いたのが、正義超人随一の頭脳を持つミートくんだった。
「あ……あああ~~っ! そ、そんなまさか――っ!?」
「ど、どうしたんだよミート!?」
大げさなほどに声を大きくするミートに、万太郎もまた声を大きくして問う。
ミートはケビンマスクを指差し叫んだ。
「見てください! ケビンマスクが鎧の代わりに着ている服を! あれは……“d・M・p”のTシャツですよ!」
ケビンマスクの着るTシャツは無地ではない。
その表面には、たしかに“d・M・p”のロゴが刻まれている。
あれは、かつて万太郎たち新世代超人が倒した悪行超人軍団“d・M・p”のオリジナルTシャツ。
そしてなにを隠そう、ケビンマスクは一時期この“d・M・p”に所属していたことがある。
数年前、日本を舞台に繰り広げられたその闘いを知るひろしは汗を流しながら言う。
「たしかにケビンマスクはデーモンプラントの悪行超人だった時代もあるが、今は立派な正義超人の一員だ。どうしてワルだった頃の服なんて……」
「あら、きっとまだ着れるから取っておいてるのよ。ケビンマスクって物持ちがいいのねぇ」
「いやそんなわけあるかよ」
主婦的な感性で答えるみさえの呑気さに呆れるひろし。
一方で、ケビンマスクを注視していた万太郎は新たな発見に至る。
「ああ――っ! ケビンが身につけているのは“d・M・p”のTシャツだけじゃないぞ――っ!」
ミートに倣いケビンマスクを指で指し示す万太郎。
その矛先はTシャツよりもやや下――彼の腰の位置。
「ケビンの腰に巻かれているのは……」
「アクション仮面の変身ベルトだゾ!」
万太郎に続き、しんのすけもそれの正体に気づいた。
アクション仮面の変身ベルト――子供の玩具、もしくはヒーローオタクのコスチュームグッズなど、気取り屋のケビンマスクが好き好んで身につけるはずがない。
だとしたら、その真意はいったい――
『ケビンマスク、おもむろに変身ベルトを外し、宙に放り投げた――っ!』
考えを巡らせる万太郎を嘲笑うかのように、ケビンマスクは行動を起こした。
空高く舞ったアクション仮面変身ベルトを追い、自らも飛ぶ。
「スラァ――ッ!」
そして、掛け声と共に空中蹴りを放ったのである。
『ア……アクション仮面変身ベルトがケビンマスクの蹴りによって真っ二つに――っ!?』
ケビンマスクの鋭いキックは、変身ベルトを綺麗に両断する。
地に落ちる変身ベルト。
自分のファングッズを破壊され、しかしアクション仮面の怒りは他のところにあった。
「危ない真似はやめろ! よいこがマネをしたらどうする!?」
この会場にいる観客は、従来の超人レスリングの試合に比べ子供の数が圧倒的に多い。
そんな子供たちの目の前で、非教育的な行いをするなど言語道断。
しかしケビンマスクは、アクション仮面のお利口なヒロイズムを鼻で笑った。
「オレはキッズの情操教育のために超人をやっているわけじゃねぇ」
吐き捨てるように答え、落下した変身ベルトを靴底で踏みつける。
会場中の子供たちが親に「買って~!」とねだったソレは返品不可のゴミと成り果て、花道に置き捨てられる。
本人はまったく気にした素振りも見せず、リングロープを潜った。
『ケビンマスク、今アクション仮面変身ベルトの残骸を踏み砕き、ふてぶてしくリングイーン!』
アクション仮面とケビンマスク。
これから激闘を繰り広げる予定のふたりが、リング上で堂々睨み合う。
「正義超人らしからぬ悪辣な態度……先輩超人といえど見過ごせるものではない」
「どうやらルーキーは正義超人ってものに幻想をいだいているようだな」
ケビンマスクに対し、闘志を超えた怒りを滾らせるアクション仮面。
対し、ケビンマスクはそんなアクション仮面の怒りを軽く受け流す。
相手と目線を合わせようとせず、どこかかったるそうで姿勢も悪い。
やる気がないのか――と野次を飛ばしたくなりそうな立ち姿を見て、ミートは得心を得る。
「そ、そうか……そういうことなんですね……」
「どういうこと?」
ケビンの心などまるで理解できない万太郎に対し、ミートは己の考えを説明し始める。
「おそらくケビンマスクは相手が自他ともに認める正義のヒーロー、アクション仮面であることを考慮し……あえて正義超人としてではなく、悪行超人として闘うつもりなんですよ。だからこそ、ロビン王朝の誇りである鎧を脱ぎ捨て、“d・M・p”時代のTシャツ姿で来た……」
アクション仮面というヒーローは、常に“悪”と闘ってきた。
今回の超人レスラー転向も悪行超人に備えるため。
であるならば、己も“悪”として立ちはだかるべきだろう――元“d・M・p”の悪行超人という経歴を持つケビンマスクには、それができる。
「新人のアクション仮面を立たせるため、プロレスでいうところのヒールレスラーを演じるってこと?」
「そりゃ元悪行超人のケビンマスクならではって感じだが……」
ミートの推論に、みさえとひろしはゴクリと息を呑む。
だが彼をよく知る万太郎は胡乱げだった。
「あのケビンがそんな相手のことを考えた演出するか~~っ?」
ケビンマスクといえば傲岸不遜、対戦相手や興行のことを考えるなど信じがたい。
ミートは万太郎の疑念はもっともだと思いながらも、腕を組んでリング上のケビンマスクを見つめる。
「ケビンマスクだって成長しているんですよ。Ⅱ世や“悪魔の種子”との闘い、それに父君であるロビンマスクとの和解を経て」
ここ最近行われたふたつの大きな闘いは、ケビンマスクという超人の転機となった。
そのどちらにも大きく関わったのが、隣りにいるキン肉万太郎。
実際のケビンマスクの思惑はどうあれ、この試合を観戦する意味は万太郎にとっても大きな意味を持つだろう――ミートはそう考える。
観客のほとんどがどよめきの声をあげる中、舞台の中心にいるふたりはまだまだ言葉を交わす。
「そもそも正義を志して超人になったやつが、華々しいデビュー戦を望むってのがおかしな話。悪行超人退治にいつも歓声や応援があるとは限らない……あんたはただ、超人レスラーとして脚光を浴び周囲からちやほやされたかっただけなんじゃないのか?」
ケビンマスクの挑発的な物言いに、しかしアクション仮面は激怒したりはしない。
超人としては後輩だが、年齢で言えばケビンよりも先輩。
安定した精神性でもって、冷静に返答する。
「とんでもない侮辱だが、一理あると言わざるをえないな。正義の闘いというものは、ときに孤独なもの。君を対戦相手に指名したのは純粋な腕試しのつもりだったが、心のどこかでは羨望があったのかもしれない……世界中の人々からチャンピオンとして祝福を受ける君に」
アクション仮面は悪と戦う正義のヒーロー。
しかしそれはフィクションの中の話――悪行超人の脅威に晒される現代において、真に誰かを救ったり、感謝されたりといったことはない。
正義超人という道を選んだ要因のひとつに、そういったものへの憧れがあったことは否定できないのだ。
アクション仮面の独白に対し、ケビンマスクは鼻を鳴らす。
「素直じゃないか、ヒーローアクター。だが超人が承認欲求を満たすには実力が必須。人気だけで栄冠が掴めるとは思わないことだ」
そう言って、ケビンマスクはファイティングポーズを取る。
試合前の問答はもう十分という、彼なりの合図。
アクション仮面もまた先輩に倣い、ファイティングポーズを取った。
『さぁ~~っ、両者気合十分! まもなくゴングです!』