アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
“リアルおままごと”の終幕に合わせ、カメラは再びヘンダー城の大広間を映し出す。
『あ~~っと今、ヘンダー城大広間を覆っていた黒いモヤが晴れ、勝負の舞台がリングに戻ってきた――っ』
ネネちゃんが昼下がりの2時間ドラマに影響されて筆を執った愛憎劇の一部始終は、カメラも巻き込んでいたことで春日部スタジアムの観客たちにも伝わっている。「我々はいったいなにを見せられていたんだ……」という困惑が抜けない者も多くいるが、見慣れた四角いリングが見えれば意識も徐々に正常になっていくというもの。
『そして、なんと……優勢だったはずのマカオとジョマがキャンバスに膝をつき、キン消しにされていたスカーフェイスがその姿を取り戻している――っ』
リングサイドにはイリューヒン、チェック・メイト、マサオくんの3人が立ち、少し高い位置には黒い球体の檻に囚われたネネちゃんの姿が。
リング上には、試合中の“スーパー・トリニティーズ”と“マカオとジョマ”の姿があった。
ジェイドは健在な様子の相棒に声を掛ける。
「スカー! 元に戻ったんだな!」
「ああ。おまえの名演に、やつらが敗北を認めた結果だろう」
ジェイドたちはなにも遊んでいたわけではない。
リアルおままごとも立派な勝負の枠組みのひとつ。ジェイドが見事に主演男優賞を勝ち取ったおかげで、キン消しに変えられたスカーフェイスを元に戻すことができたという理屈だ。
しかしよもや、あのジェイドがラブストーリーの主演を演じきるとは……。
スカーは相棒のまさかのファインプレーにフッと笑う。
「アクション仮面じゃねえが、おまえも俳優でも目指したらどうだ?」
何気ない軽口に、ジェイドは――
「悪くねえな」
まんざらでもないふうに答えた。
「ハッ! 冗談だよ! こいつめ、調子に乗りやがって!」
冗談を言い合える余裕があるなら大丈夫だ。
試合はまだ終わってはいない――むしろこれからが本番。
『さあ~~っ、先ほどまで我々はいったいなにを見せられているのかといった状況が続いていましたが、ここからは慣れ親しんだ超人レスリングの試合に戻る模様です! スーパー・トリニティーズも完全復活し、反撃開始となるか否か~~っ!?』
スカーフェイスの復活に伴い、いよいよ
リングサイドで見守るチェック・メイトとイリューヒンにも気合いが入るというもの。
「一時はどうなることかと思いましたが……こうなってしまえばわたしたちの土俵!」
「わけのわからん芝居につきあわされた甲斐があるというもの……オレたちも応援するぞ!」
ふたりの正義超人に続き、マサオくんも猛々しく吠える。
「気張れ――っ! スーパー・トリニティーズ!」
仲間から声援を受け、トリニティーズのふたりが頷き合った。
「いくぜジェイド!」
「おお! スカー!」
主演男優賞を奪われたマカオとジョマはまだショックから立ち直れないものの、向かってくる敵に備えるべく顔を上げた。
「くっ……ちょっと目立ったくらいでなによ!」
「主役の座は譲らないわ! また回転の力で弾き返してあげる!」
バレエのピルエットならばいかなる攻撃も跳ね除けられる。
立ち姿勢で迎撃準備を整えるマカオとジョマだったが、
「そっちが回転で来るなら!」
「こっちも回転だ!」
トリニティーズは一度ブレーキをかけ、互いに腕を突き出し合った。
肘を曲げてフックのようにし、組み合わせる。
『スーパー・トリニティーズ、互いに右腕を引っかけ合い、その場で回りだした――っ!』
バレエにはない奇怪なムーブ――これが彼らなりのパ・ド・ドゥか!
その場でぐるぐる回る動きは優雅さに欠け、芸術点も低い。
スーパー・トリニティーズ恐るるに足らず――マカオもジョマもそう思ったのだが、
『い、いや!? 軸となっているのはスカーのほうか!? ジェイドの体が遠心力により浮き始めた~~っ!』
回転の勢いはどんどん増し、風を巻き上げ始めたのだ。
いったいなにをするつもりだ……!?
全員の注目がトリニティーズに集まる。
「この技は反撃の機会を作ってくれたネネちゃんに送る!」
「スーパー・トリニティーズ流のファンサービスだぜ!」
そう言いながら、軸となっているスカーが肘に引っ掛けていたジェイドの身をぶん投げる。
「いけ――っ!」
投擲先はマカオとジョマ。
そして投げ放たれたジェイドは、フリスビーのように回転しながら右手を突き出している。
「スーパー・ベルリンの赤い雨――――っ!!」
バーニングフリスビーと化したジェイドがマカオとジョマをふたりまとめて薙ぎ払う。
「ぎゃああ~~っ!」
ピルエットの動作をするものの、回転力で上をいかれ胸部に火傷と裂傷を負うマカオとジョマ。
オカマ魔女の血がヘンダー城大広間のリングに舞った。
『す……凄まじい一撃――っ! スーパー・トリニティーズ、スカーフェイスが回転の勢いを乗せてジェイドを投げ放ち、ジェイドが投擲の速度と回転力を利用した必殺の“ベルリンの赤い雨”を放つという仰天ツープラトンを披露した――っ!』
攻撃成功後、鮮やかに着地するジェイド。
得意げな表情でネネちゃんを見やった。
「どうだネネちゃん! 見てくれたか!?」
この技はネネちゃんに送るスーパー・トリニティーズの記念すべきツープラトン第1号。
試合中ではあっても、それなりの反応を期待してしまうというもの。
「すごーい! カッコイイー!」
ネネちゃんは嬉しそうに表情を輝かせたが、しかしすぐ眉根を下げる。
「でもネーミングセンスはイマイチね」
ジェイドとスカーがズコーッとずっこけた。
「グゥ~~ッ、5才児のセンスに合わせたつもりだったのに~~っ」
「さすがにスーパー・ベルリンの赤い雨はダサかったみたいだな」
スカーとジェイドが5才児の辛口評価に悔しがる。
だが忘れるなかれ、今は試合中だ。
スカーは気を取り直し、敵の状態を分析する。
「それより見ろジェイド。やつら、攻撃が命中する瞬間に体を回転させダメージを最小限に抑えやがった」
「ああ。弾き飛ばされるまではいかなかったが、想定していた威力は出せていない」
ベルリンの赤い雨は本来一撃必殺の
それを受けてダウンすらしていないのはマカオとジョマの技量の賜物だろう。
「だがチャンスだ」
「おう。ここからはオレたちの“SHOW TIME”だぜ」
不敵に口角を上げるスカーフェイス。
ジェイドは相棒のエンジンがかかってきたのを感じ取り、先に仕掛けた。
「タァ――ッ!」
『ジェイド、負傷したジョマを狙って単身突っ込んでいく――っ!』
真正面からの突撃――狙うのは先ほどの燃える手刀、ベルリンの赤い雨か!?
「ナメるんじゃないわよ!」
標的にされ、相手の狙いを察したジョマは、姿勢をバレエ的に正し待ち構える。
「もう一度このグラン・バットマンで!」
脚を高く上げるグラン・バットマンは、ジョマほどの卓越したバレリーナが繰り出せば拳法家顔負けの上段蹴りとなる。
そしてジョマの脚はジェイドの右腕より長い。
攻撃が先に届くのはこちら――ジェイドが間合いに飛び込んできたタイミングを見計らい片脚を振り上げたが、
「ゲゲ!?」
ジョマの脚は空を切った。
ジェイドが緊急停止したためである。
『ジェイド、ジョマの間合いギリギリで急ブレーキ!』
ジェイドは初めからこれを誘っていたのだ――他でもない、ジョマのグラン・バットマンを。
「教えてやるぜ! オレの前で片脚を上げることの愚かしさを!」
なにせジェイドには相手に片脚を上げさせた状態で放つ必殺技がある。
即座にジョマの後ろへ回り込んだ。さらに相手の両手に手をかける。
『背後からジョマの上がりっぱなしの右脚を巻き込みながら抱え、さらに両腕を交差させる形でガッチリホールド! そこから飛び上がった――っ!』
捕らえ方こそ複雑ではあるが、ジェイドが狙うのは相手を頭部から落とすスープレックス。
異世界から来たオカマ魔女にその名を教えるべく、ジェイドは上昇しながら叫んだ。
「ビーフケーク・ハマ――ッ!」
ベルリンの赤い雨に次ぐジェイドのフェイバリット・ホールド発動に、イリューヒンとチェック・メイトも声を大きくする。
「これはジェイドの得意とするスープレックス技!」
「ジャンプに高さがある! 威力は出ますが……その分、隙も多く生まれる!」
チェック・メイトが懸念とするのは、これがタッグマッチであるということ。
フリーになっていたジョマの相方が動きを見せる。
「今助けるわ、ジョマ!」
ジョマを救わんと自らも飛び上がろうとするマカオ。
その背後から、両腕を捕らえる者がいた。
「おっと、油断大敵だぜ!」
そう、これはタッグマッチ。
ならばフリーになっている者はもうひとりいる。
『これは~~っ!? ジョマの救出に向かおうとしたマカオをスカーフェイスがゴリー・スペシャルに固めた――っ!』
背中合わせで相手の両脇に腕を通し、そのまま担ぎ上げるゴリー・スペシャル。
両腕をロックされ、足がキャンバスから離れるマカオ……これではジョマの救出に向かえないではないか!
しかし、スカーフェイスの狙いは単なる救出妨害などではなかった。
「ジェイドさんよ~~っ! せっかくのタッグマッチ、得意技だからって単発で終わらせちゃもったいねえよな~~っ!?」
スカーは空中から下りてくる相棒に呼びかける。
「そのとおりだ! しかしそこまで言うからにはしっかり合わせてもらうぜ!」
相棒は挑発気味に答えた。
「伊達にヘラクレス・ファクトリーで同じ釜の飯を食っていたわけじゃねえ! おまえと息を合わせるくらいお茶の子さいさいよ!」
意思疎通を図り、ジェイドは降下位置を、スカーは立ち位置を調整。
ツープラトンの基本は“敵を量るは目に在り、同志を察するはヘソに在り”。
即席タッグながら、ジェイドとスカーフェイスのふたりはその極意を体現できていた。
『ジェイドのビーフケーク・ハマーと、スカーフェイスのゴリー・スペシャルが重なろうとしている――っ!』
ゴリー・スペシャルに捕らえたマカオの頭の上に、ジョマの頭を下にしたビーフケーク・ハマーが降る。
「スーパー・トリニティー・コラボレーション――ッ!」
結果――脳天激突のツープラトンが炸裂。
これぞ三位一体のコラボレーション・アーツ。