アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
リング中央、麗しき白鳥のポーズで観客の拍手を待つマカオとジョマ。
足もとに転がるのは、破損した緑のヘルメットと
誰が見ても明らかな、超人レスリングの勝者と敗者の構図である。
「そ、そんな……」
「ジェイド、スカー……」
直前まで優勢だった実力派コンビのまさかの逆転ダウンに、イリューヒンとチェック・メイトが愕然とする。
「うわぁああああん! ジェイドとスカーが死んじゃった~!」
「うるっせーぞオニギリ! ジェイドとスカーが死ぬわけねぇだろーが!」
「ひぃいいいいいいいい!」
ヒーローコンビの勝利を信じて疑わなかったマサオくんは泣き叫び、ネネちゃんは癇癪を起こす。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
されど仕方がない――正義の敗北のその後とは、悲惨な展開が待ち受けるもの。
ヘンダー城大広間の様子は、もちろん中継先の春日部スタジアムにも伝わっていた。
観客たちは皆ショックで言葉を失い、正義超人サイドである放送席もお通夜のようなムードだ。
それでも己は毅然と仕事を遂行しなければならない――宇宙超人委員会副委員長、ジャクリーン・マッスルは沈痛な面持ちで木槌を振り上げた。
「残念ですが……」
決着のゴングを鳴らすための、ジェイドとスカーに敗北を言い渡すための予備動作。
その正面に、サッと腕が割り込まれた。
「お……お兄様!?」
無言で、しかし中継映像を流すモニターへ強い眼差しを向けたまま妹を制したのは、兄のイケメン・マッスルである。
「我々宇宙超人委員会は判断を誤れない……このやり取りも3度目だな、妹よ」
イケメンは見逃さなかった。
体勢は依然ダウンのままだが、先ほどまで白目を剥いていたジェイドとスカーの目に生気が戻ってきていることを。
「ジェイドとスカーの体はまだ動いている。ここはダウンカウントだ」
イケメンはジャクリーンのゴングを制し、そう判断する。
ともすれば身内の温情とも取れるイケメンの裁定。
スーパー・トリニティーズは首の皮一枚繋がったわけだが……希望は薄い。
『さあ~~っ、ダウンカウントが始まった! スーパー・トリニティーズはもはやKO必至かと思われましたが……はたして立てるのか~~っ!?』
試合はまだ終わっていない。
リングサイドに立つイリューヒンとチェック・メイトは必死に声を張り上げる。
「立て! 立つんだトリニティーズ!」
「ネネちゃんを救えるのはあなたたちしかいないんですよ――っ!」
未だ黒い球体に囚われたままのネネちゃん、先に救出されたマサオくんも、ヒーローの勝利を願ってやまない。
「ガンバッテー! ジェイド――ッ!」
「勝ってー! スカ――ッ!」
ジェイドとスカーフェイスの耳に届くのは、4人の仲間からの声援。
立て、頑張れ、勝って――多くの先輩正義超人たちが同様の言葉を受け取り、逆転の糸口を掴んできたのだろう。
声援はただの声。傷薬にはならず、体はまだ起き上がれない――しかし、スカーの口元は笑みを作った。
「へ……へへ……あのときを思い出すなぁ」
「あ、あのとき?」
スカーフェイスもジェイドも、クロスボンバーをくらって一瞬意識を手放してしまった。
だが戻って来れた。
その喜びを噛みしめるように、スカーは倒れ伏したまま昔を語る。
「オレにとっての……正義超人デビュー戦。対“
ミートくんのボディパーツを奪還し、“恐怖の将”降臨を阻止せんとアイドル超人を名乗り発ったあの闘い――スカーはそこで、正義超人の仲間や人間たちからの声援を受けたのだ。
「あのときオレは、アシュラマンに渾身のアルティメット・スカー・バスターを仕掛け……そこで初めて、オレはあたたかみのある応援ってやつを受け取ったんだ。こんな……こんなにキレイな世界があったんだなと……柄にもなく感動しちまったんだぜ」
悪魔・残虐・完璧の3大悪行超人が集った軍団“
しかしあの試合で知ったのだ。
仲間の声援は挫けた心を癒やしてくれる。
かつて対戦したキン肉万太郎も、瀕死の状態から仲間の声援を受けスカーに逆転勝利を収めてみせた。
己も万太郎のように――立派な正義超人として。
「あのときは一歩及ばず負けちまったが……今度は勝ちてえな……」
この声援を送ってくれるみんなに報いたい。
勝利という実績を手にし、正義超人軍に貢献したい。
「その気持ちはオレだって同じさ……」
スカーの願いに、ジェイドもまた己の胸中を語り出す。
「
その2戦はジェイドにとって最も重い敗北だった。
幼少期のトラウマを掘り起こされ、師匠ブロッケンJr.を信じきれなかったばかりに敗北を喫したスカーフェイス戦。
相手が正義を名乗る悪行超人であったことに動揺し、自らの正義を貫こうとするあまり意固地になってしまったヒカルド戦。
どちらも、もっと上手く立ち回れていれば……と悔いの残る試合である。
もうあんな苦い敗北は経験したくない。
だからこそ、ジェイドもスカーも拳に力を込めた。
拳をキャンバスに立て、過去の悔しさをバネに身を起こそうとする。
「スカー、オレたちがSNSで……一部だがなんて呼ばれているか知ってるか?」
「おまえ……そんなものチェックしてるのか」
情報技術が発達した21世紀の現代、正義超人である彼らの風評はソーシャルネットワークで絶え間なく発信されている。
そんな中、共に大事な一戦を落とした過去があるジェイドとスカーフェイスに対する世間の評価は冷ややかだった。
「“善戦超人”だってよ」
「ふざけたインターネットだぜ」
善戦超人――“善戦はするが勝ちはしない”、“強大な敵の強さを表すのにちょうどいい強さ”、“噛ませ犬”……そういった意味合いを込めた蔑称だ。
評価を覆すには、過去を忘れさせるほどの鮮烈な勝利が必要。
ならば、いつまでもキャンバスに沈んでいるわけにはいかない。
『スーパー・トリニティーズ、お互いの体を支え合いながらなんとか立ち上がった――っ! ふたりとも満身創痍といった様相だが……はたしてまだ闘えるのか~~っ!?』
なんとかテンカウント前に立ち上がったトリニティーズだったが、そのファイティングポーズは弱々しい。
マカオとジョマはうんざりした表情で言う。
「イヤねぇ、みっともない足掻きって」
「暑苦しいのは好みじゃないって言ってるのに」
闘いに優雅さを求めるオカマ魔女は、今にも倒れそうなふたりを前に自分たちから向かっていくような真似はしない。
醜く足掻くならクールに迎え撃ち、再び沈めるだけ。ゆえに白鳥のごとき構えは崩さず、ふたりの出方を窺った。
一方のスカーフェイスは、“蒼白き脳細胞”の異名を思い知らせるべく懸命に手札を模索する。
瀕死に近いオレたちにできることはなんだ、あのオカマ魔女たちを倒すのに必要な技は、求める勝利を確実に得るためにするべきことは――
「狂乱の仮面……」
ふと、スカーは自身の足もとに転がっているドミノマスクに目をやった。
先ほどクロスボンバーで剥ぎ取られた“狂乱の仮面”。
魔性のエナジーを全開にするパワーアップアイテムは、正義超人の闘いには本来不要なもの。
だが、この状況下では――
スカーフェイスの口元が、弱々しくもニヤリと笑む。
「ようジェイド。蓄積ダメージ的に、オレたちが仕掛けられる技はあとわずか……そんな土壇場でなんだが、ひとつ新ツープラトンを思いついた」
「奇遇だな。実はオレもひとつ思いついた」
スカーの狂乱の仮面と同じくヘルメットを弾き飛ばされたジェイドは、前髪の奥から相棒の表情を見やる。
なにかを悪いことを思いついたような顔だ。
ジェイドの耳元に、スカーが作戦を伝える。その内容は偶然にも、ジェイドの思いつきと一致していた。
「本当にそれでいいんだな?」
ジェイドの問いかけに、スカーが頷く。
「真の正義超人は、天使もが足を踏み入れるのをためらう魔の領域に飛び込んでいくもんだ」
「おまえ、それは……」
「テメェの師匠の教えだろう。リング上において、どんなに危機的状況になっても……たとえ死に直結するような目に遭っても決して試合を捨てるな」
ジェイドの師匠――伝説超人ブロッケンJr.の教え。
スカーフェイスはどこでそれを知ったのか、ジェイドに決断をさせるためのラストピースとする。
ジェイドは黙って頷いた。
それを満足げに見届け、スカーは足もとの仮面を拾う。
そして――
「“狂乱の仮面”――ッ!」
自身の目元に再装着したのだ。
『あ――っとスカーフェイス、剥がされた狂乱の仮面を拾い装着! かつてジェイドやキン肉万太郎をその残虐性のままに叩きのめした恐怖のマッドネス・スカー降臨だ――っ!』
春日部スタジアムに集う観衆にとっては、まさに恐怖の代名詞。
その反面、強豪悪行超人ボルトマンのテスラコイル攻略に役立った記憶もある。
この窮地で見せるからにはなにかしらやってくれるはず――超人レスリングファンは期待感を募らせるが、マカオとジョマにとってマッドネス・スカーは子供騙しの印象しかない。
「またそれ?」
「もうババ抜きの時間は終わったのよ?」
嘆息しながらも、敵の動きに合わせてアラベスク・オン・ポワントの体勢を解除。
バランスのいい立ち姿勢でトリニティーズの動きに備える。
「オレは昔から先輩超人をリスペクトし、古い技を新型にバージョンアップさせるのが得意でな~~っ! さっきテメェらが使った技も、先輩の技に酷似している! 後輩としては負けてらんねえとリスペクト精神が疼くのよ~~っ!」
マッドネス・スカーが威嚇目的で声を大きく張り、その間ジェイドが次なる攻撃の準備に取り掛かる。
『ジェイドがリングに対し体を水平に倒し……脇にリングロープを引っかける――っ』
自らロープで身動きを封じるような不可解なムーブ。
その真意はもちろん、タッグとの連携技――ツープラトンにある。
『さらにスカーフェイスはロープでジェイドをリング外まで引っ張っていく――っ』
リングロープは弦、体は矢――まさしく弓矢を射る要領で、スカーはリングの外までジェイドの身を引いていく。
チェック・メイトとイリューヒンがふたりの動きに驚きを見せた。
「まさか!」
「ジェイドを発射しようというのか!?」
形や方法こそ違うが、これは先ほどマカオとジョマが披露したツープラトン“オカマ火玉弾”と同じパートナー射出技。
だがスカーが直前に言ったとおり、これは敵の模倣ではなく先輩たちへのリスペクト。
あの20世紀最強の名タッグチームと呼ばれたキン肉マン&テリーマンの“ザ・マシンガンズ”――彼らが使用した“マッスル火玉弾”を原型とする。
「マカオ!」
「ええ! オカマ火玉弾ね!」
目には目を、火玉弾には火玉弾だ。
小癪なパクリ芸をねじ伏せるべく、ジョマは外へ飛び出すマカオのサスペンダーを掴む。
『マカオとジョマも対抗するようにセットアップ! ジョマがリング内でマカオのサスペンダーを固定し、マカオはリング外へ飛び出し反動をつける――っ』
マカオとジョマはこのままサスペンダーの反動でマカオを発射し、加速のついたヒップアタックを繰り出すつもりだろう。
対して、スーパー・トリニティーズの狙いはヒップアタックではない。
リスペクト先であるマッスル火玉弾は頭を先端にしてのヘッドバット。しかしスカーはこここそが最大のアレンジポイントだと考え、相棒に指示を飛ばす。
「ジェイドよ! 覚えているか!? オレがヘラクレス・ファクトリー一期二期入れ替え戦で奪ったおまえの異名を!」
その間接的な伝え方ですべてを察したジェイドは、右腕を手刀の形にして前へ突き出した。
「忘れるはずがねえ! オレにとっては屈辱の記憶だからな!」
“
まさしく弓矢のようなツープラトン。
そしてジェイドは、かつてのこの合体技に相応しい名を師匠になぞらえた異名として持っていたことがある。
「あのときの異名……オレたちふたりの技名という形で返還してやるぜ――っ!」
そう言いながらリングロープを極限まで引っ張りきったスカーフェイス。
マカオのサスペンダーも限界まで伸び切り、ジョマが手を離す。
「オカマ火玉弾――っ!」
強烈ヒップアタックが超高速でリングへと舞い戻る。
同タイミングでスカーもロープを離し、矢と化したジェイドが手に炎を纏いながら発射された。
「これが正真正銘、“ベルリンの蒼い矢”だ――っ!」
“オカマ火玉弾”対“ベルリンの蒼い矢”――今試合の大詰めとなるツープラトン対決が始まり、決着はすぐに訪れる。