アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
それぞれのパートナーの手によって射出されたマカオとジェイドがリング中央に飛んでいく。
『“オカマ火玉弾”対“ベルリンの蒼い矢”! 勝負の行方は~~っ!?』
リングロープとサスペンダーの違いはあれど、共にゴムの反動を利用した射出技。
ジェイドは先端を“ベルリンの赤い雨”による炎で強化しているが、マカオのヒップアタックも頑強だ。
どちらの技が先に相手を捉えるか。誰もが息を呑んで見守った――が。
ふたりの体が交差し、すれ違う。
『しょ……衝突回避~~っ!? 射出されたジェイドとマカオ、互いにぶつかることなく彼方へ消えていった――っ!?』
このツープラトン対決はパチンコとパチンコを打ち合ったようなもの。命中率は100%ではないのだから、狙いが外れることもあるだろう。
マカオは慣性の法則に引っ張られるままリング外へ飛び出し、広大なヘンダー城大広間の壁面にケツからぶつかった。
ジェイドもリング外へ飛び出すところだったが、寸前でベルリンの赤い雨を解除。炎を引っ込め、右手でロープをがっちりと掴んだ。
『い……いや! ジェイドはリング外へ飛び出す寸前でロープをキャッチし、なんとか戦線離脱を免れようとしている――っ!』
間一髪で踏みとどまったジェイドに対し、マカオを射出したジョマは我が目を疑った。
「ま……まさか! 今のツープラトンは囮!?」
冷や汗を流すジョマ――その視線はたったいま自分の脇を通り過ぎたジェイドを、すなわちリングの外側を向いている。
「そのまさかだ――っ!」
威勢の良い声が響き、咄嗟にリング内に視線を戻す。
声の主であるスカーフェイスが正面から走り込んできていた。
チュチュ衣装で飾った胴体に組みつき、一息で担ぎ上げる。
そして、強くキャンバスを蹴った。
『マッドネス・スカーフェイス、火玉弾の射手であったジョマを持ち上げリング上空を目指す! まさかこのセットアップは~~っ!?』
頭上で相手の体をひっくり返し、両太腿を開脚させて腕で掴みホールド。
伸ばした両脚で相手の首を挟み三角絞めの体勢に固めれば、“究極の
「アルティメット・スカー・バスタ――ッ!」
『スカーフェイスの最強最大
先ほどマカオの妨害によって不発に終わったはずの究極フェイバリットが、再びヘンダー城大広間の特設リングに顕現。
まさかタッグマッチでツープラトンをあえて囮にし、シングル技での各個撃破を狙いに来るとは!
しかしこの技の破り方はすでに確立済み。ジョマは冷静にその欠陥部分を指摘する。
「なにをするのかと思えば、再放送!? こんなシングル技、またマカオが妨害して……」
半身とも言うべきパートナーが助けに入るから無駄、そう言おうとした。
だがジョマは見落としている。
先ほどとは戦場の状況が根本から変わっていることに。
「甘いぜジョマ!」
リング外への転落を免れ、即座にキャンバスに復帰したジェイドである。
「火玉弾をくらわなかった分、今度はこのオレがフリーになっている!」
次のアクションのため空中で静止しているスカーとジョマめがけて、猛然とキャンバスを蹴る。
『あ――っとジェイドがスカーとジョマを追い、飛んだ――っ』
繰り出す技は、もちろん決まっている。
――森の木の葉の如くに体軽やかに、腕を弓の如くに引き、流れ星の如くにふり下ろす。
――その時、手刀筋骨“壮”となる。
――その壮拳もって風擦れば炎立つ。
――敵の懐に深く入り、肉斬り骨断てば、ベルリンに赤い雨が降る!
「ベルリンの赤い雨――っ!」
刃と化した手刀より放出された炎が、ジェイドより上の位置にいるふたりへと放たれる。
『必殺の“ベル赤”より放出された炎が、アルティメット・スカー・バスター発動中のスカーとジョマを容赦なく襲う――っ!』
逃げ場のない空中で、スカーとジョマの体は激しい炎に包まれた。
「アヂャ――ッ!?」
ジョマの口から聞いたこともないような大絶叫が轟き、ヘンダー城大広間に響き渡る。
勝利を掴むための一手だとしても、ジョマは今スカーによってアルティメット・スカー・バスターにかけられている最中……味方ごと攻撃するなど、正気の沙汰ではない!
「なっ……なにをやっているんだジェイド!?」
「あれではスカーまで丸焦げになってしまいますよ!?」
まさか、かつてヘラクレス・ファクトリー一期二期入れ替え戦で片腕をもぎ取られた恨みを晴らすための仲間割れか!?
一瞬そう考えてしまうイリューヒンとチェック・メイトだったが、炎の中心にいるスカーフェイスの表情に苦悶はない。
それどころか、スカーは不敵に顔を歪めて豪快に笑い声を飛ばした。
「ハハハ~~ッ! イリューもチェックも見くびんじゃねえよ! 狂乱の仮面をつけたオレにかかれば、こんな炎はちょっと強力なドライヤーみてえなもん! 一周回って涼しいくらいだぜ~~っ!」
そんな理屈が通るはずもない……やせ我慢だ!
全身を覆う炎など、熱による皮膚へのダメージはもちろん、酸素の供給すら絶たれるはず。
だが事実として、スカーフェイスの技は1ミリたりとも崩れていない。
まさしく究極のバスターの名に相応しい、完璧なフォームを維持していた。
「ギョワァァ……」
狂気一本で炎を耐えるマッドネス・スカーに対し、ジョマは抗いきれない苦痛に晒され悶絶する。
「だがおまえはそうはいかねえよな~~っ、ジョマさんよぉ~~っ! 炎によって酸素の供給が絶たれ、三角絞めの効果は倍増! そして炎熱によるシンプルな熱さが技からの脱出を困難にしている! 暑苦しいのは好みじゃねえと言っていたので弱点を突かせてもらったぜ――っ!」
アツい男や暑苦しい展開が嫌いだと言っていたジョマの言葉を皮肉るように、スカーはさらに容赦なく負荷をかけていく。
だが喋りすぎだ。
絶体絶命のピンチに陥ったパートナーを見捨てるほど、オカマ魔女の絆は軽薄ではない。
「勝ち誇ってんじゃないわよ――っ!」
壁面への激突から這い上がり、大広間の端からリングへ大急ぎで戻って来るマカオ。
マカオはリングコーナーの強固な鉄柱に自身のサスペンダーを引っかけ、そのまま外側へダッシュ。
ゴムの反発力を極限まで溜め込む。
「さっきみたいに撃墜してあげるわ! シングル・オカマ火玉弾――っ!」
ビヨ――――ンと、サスペンダーの反動を利用したヒップアタックでリング上空に飛び上がった
目的はもちろんアルティメット・スカー・バスターの撃墜及びジョマの救出。
燃えていようがいまいが関係ない。当たれば一瞬でぶっ飛ばす威力がこのオカマ火玉弾にはあった。
しかし、
「ダ……ダメよマカオ! 罠だわ――っ!」
技にかけられているジョマがスカーフェイスの恐ろしき“真の狙い”に気づき、マカオに危険性を伝える。
警告は間に合わない。ヒップアタックの姿勢を取ったマカオが、燃え盛るスカーへ一直線に突っ込んでいく。
「かかったなバカが~~っ!」
スカーフェイスはマカオの動きを見てほくそ笑み、いよいよ降下を開始。
ジョマをアルティメット・スカー・バスターに固めながら、フリーになっている背中――背面に備えた燕尾状の刃“スワロウ・テール”に意識を注ぐ。
「ウゲッ!?」
マカオがケツ越しに驚愕した。
鋼鉄のごとく硬質化した刃にも、もちろんベルリンの赤い雨の炎は宿っている。
それすなわち、先にマカオとジョマに深手を負わせた“あの”ツープラトンが発動可能ということ。
「レッドレイン・テイル――ッ!」
アルティメット・スカー・バスターでジョマの体を完全にロックしたまま、炎を纏ったスワロウ・テールで尻から突っ込んできたマカオの急所を切り裂く。
「ウギャア――ッ!?」
マカオの口から断末魔のごとき悲鳴が上がった。
『スカーフェイス、ジョマにアルティメット・スカー・バスターをかけたまま炎をまとったスワロウ・テールを伸ばし、飛んできたマカオを返り討ち~~っ!』
灼熱の炎と鋼鉄の斬撃を同時に、しかも尻から背中にかけて切り裂かれたオカマ魔女の片割れは鮮血を撒き散らしながらリングへと落ちていく。
ジェイドとのツープラトン“ベルリンの蒼い矢”による陽動、すでに破られていたアルティメット・スカー・バスターの再発動、それらすべては“蒼白き脳細胞”の異名を取るスカーフェイスがこの瞬間のために打った布石。
そう――マカオとジョマを切り離し、アルティメット・スカー・バスターとレッドレイン・テイルのコンビネーションで一網打尽にするため。
作戦どおりマカオは仕留めた。
あとはスカーフェイス自慢の“究極”を――いや、“地獄”を叩きつけるのみ。
「さあくらえ! スーパー・トリニティーズの究極ツープラトン! アルティメット・スカー・バスター改め……」
激しく燃え上がる炎を身に纏いながら、ついにスカーのバスターがキャンバスに着弾する。
「インフェルノ・スカー・バスタ――――ッ!!」
――ドゴォオオオオオオオオンッ!!
キャンバス全体が波打つほどの凄絶なる衝撃。爆発音にも似た轟音が、ヘンダー城の大広間を揺らした。
そして落下時の衝撃によるものか、スカーとジョマの体を包みこんでいたすべての炎が一気に吹き飛び、かき消される。
『ま……まさしく地獄の業火というフレーズを連想させる炎上スカー・バスターがキャンバスに着弾~~っ! 激突の衝撃でその炎はすべて消し飛びましたが……スカーフェイスとジョマの体はこんがり焼けてしまっている~~っ!』
実況が告げるように、スカーとジョマの身は焼死体と見紛うほどに焼けただれてしまっていた。
だがそれでも、スカーフェイスは三角絞めバスターの体勢を崩さない……少なくとも相手のKOが確認できるまでは。
「グググ……」
ジョマの口から微かなうめき声が漏れる。
続けて、技を仕掛けた側のスカーフェイスにも異変が起こった。
「カハッ!」
「ゲホホッ!」
双方共に大量の血を吐き、ガッチリと組まれていたアルティメット・スカー・バスターのホールドが崩れる。
ジョマ、そしてスカーが、もつれ合うようにしてキャンバスへ沈んだ。
『スカーフェイスがジョマをリリースし……両者共にダウーン! やはり炎を身にまといながらのスカー・バスターはスカー自身にも甚大な被害を与えていた~~っ!』
先ほど背中を裂かれ夥しい裂傷を負ったマカオの隣に、全身各所の骨を砕かれ火傷まで負ったジョマの体が横たわる。もちろんふたりに意識はなかった。
スカー自身も仰向けの姿勢でぐったりとし、白目を剥いている。それもそのはず、彼もジョマと同程度の火傷を負っていた。
目元に装着していた“狂乱の仮面”が、ひらりと剥がれ落ちる。
「…………」
荒々しかった闘争のリングに、静寂が訪れる。
一部始終を見届けたマサオくんとネネちゃんは、あまりの衝撃展開に目を丸くしていた。
「そんな~~っ! スカーがやられちゃった~~っ!」
「じゃあこの試合は……引き分け!?」
スカーは自らを犠牲にし、敵を道連れにする選択肢を選んだのだ。
悪行超人を前にした正義超人に敗北は許されない――それほどまでに凄まじい覚悟の結実。
しかしながら、それはこれがシングルマッチだったらばの話。
今回の試合はタッグマッチ……勝敗を分かつ決定的な要素が、まだそこには残されていた。
『あ……ああ~っとジェイドだ――っ! スカーフェイス、マカオ、ジョマの3人がキャンバスに伏す中……ひとりリングに立ち戦闘続行の意思表示――っ!』
ベルリンの蒼い矢での陽動役を引き受け、ベルリンの赤い雨でスカーに炎を放ち、自身はそれ以上攻撃に加わらなかったジェイドである。
彼はリングに転がっていた緑のヘルメット……マカオとジョマのクロスボンバーで一度吹っ飛ばされたそれを拾い、頭に被り直す。
「これは……」
「どうなるんだ!?」
これまで多くの試合を見届けてきたチェック・メイトとイリューヒンも勝敗の行方がわからず混乱する。
こういうときこそレフェリーの、そして宇宙超人委員会の役目。
中継先の春日部スタジアム本部席では、委員長のイケメン・マッスルが皆に説明をするべくマイクを取っていた。
「この試合は“No Tag Rule(タッチなしルール)”のタッグマッチ……生き残ったのがひとりであるならば、当然そのひとりが所属するチームに軍配が上がる」
タッグチーム“マカオとジョマ”は、マカオもジョマも完全失神によるKOと判定できる。
対して、“スーパー・トリニティーズ”はスカーフェイスが戦闘続行不可能と言えるものの、ジェイドが戦闘続行の意思表示をしている。
「よってこの試合……ジェイド&スカーフェイスの“スーパー・トリニティーズ”の勝利だ――っ!」
イケメンがゴングめがけて木槌を振り下ろした。
カンカンカンカン――ッ!
『今、長き闘いの終了を告げるゴングが鳴った――っ! 勝ったのはスーパー・トリニティーズ! スカーフェイスがベルリンの赤い雨を受け決死のアルティメット・スカー・バスター改めインフェルノ・スカー・バスターを仕掛けるという奇策を決行し、パートナーであるジェイドをひとり生かした――っ!』
勝者として高々と片腕を掲げるジェイド――いや、“ベルリンの蒼い矢”ジェイド。
その足もとでは、残念ながら勝者としてその瞬間を迎えることができなかったスカーが倒れている。
リング上空では、試合の決着に伴いネネちゃんを囚えていた黒い球体の檻が消滅した。
「キャッ!?」
浮力を持つものが失われ、重力に従い落下していくネネちゃん。
ジェイドは勝利の余韻に浸ることなく、素早い動きで優しく小さな体を受け止める。
「大丈夫かい、
「ありがとう、ジェイド!」
推し超人にしっかりと抱き止められ、ネネちゃんは両頬を真っ赤に染めた。
しかし感動は一瞬。
彼女はもうひとりの推し超人が黒焦げになっていることを思い出し、表情を険しくさせる。
「でも、スカーが!」
ネネちゃんはジェイドの腕から飛び降りると、ぐったりしているスカーのもとへ駆け寄った。
イリューヒン、チェック・メイト、そしてマサオくんも急ぎ足でリングに上がり、心配そうにその周囲を取り囲む。
「スカー!」
ジェイドが膝をつき、相棒に呼びかけた。
「スカー……死んじゃったの!?」
マサオくんが半泣き状態で声を絞り出す。
切迫した空気の中、スカーフェイスの罅割れた唇がピクリと動いた。
「……炎がぬるいぜ……ジェイド」
いつものスカーを思わせる、ぶっきらぼうな軽口。
それを聞いた瞬間、その場にいる全員の緊張の糸がふっと緩んだ。
スカーは生きている!
「最後までリングに立っていられなかったのは残念だが……相棒が仕事を果たしてくれたんなら、悪い気分じゃねえ……」
満身創痍でありながら、その顔にはかつての冷酷さの欠片もない、どこまでも晴れやかな笑みが浮かんでいた。
スカーフェイスは“
今のスカーには仲間がおり、そして誇り高き正義超人の魂があった。
「なにを言う、勝利したのはオレたちスーパー・トリニティーズ……オレの勝利はおまえの勝利だ」
ジェイドはスカーの手を握りしめる。
友と認めた正義超人同士の習わし――“友情の
「正直、最初はおまえとのタッグ結成に不安な気持ちもあったが、今ならはっきり言える。組めてよかったと!」
心からの感謝を伝えるジェイド。
悪行超人時代には知り得るはずもなかった“友情”という温かな絆に触れ、スカーフェイスは静かに目を閉じ、溢れそうになる涙をひっそりと抑え込んだ。
「ケッ……オレ様を丸焦げにしやがったくせにいい顔しやがって」
照れ隠しのような悪態をつかれながらも、ジェイドは相棒の手を握ることをやめない。
2人の間に通じ合った固い絆を見て、ネネちゃんとマサオくんはいつしか拍手を送っていた。
幼き子供に友情というものの尊さを教える。
それもまた、正義超人の仕事のひとつだ。