アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ジェイドとスカーフェイスの間に生まれた、正義超人の友情パワー。
その尊い光景を目の当たりにし、ネネちゃんとマサオくんは力いっぱいの拍手をいつまでも送り続けていた。
だがふと、ジェイドが激戦の末にくだした対戦相手のほうを注視する。
「マカオとジョマは……」
リングに倒れ伏すオカマ魔女ふたりの姿が、透けていく。
まるで幽霊かなにかだったかのように、なにも残さずスゥーッと消えていったのだ。
「技の破壊力が凄まじかったとはいえ……」
「なにも言い残さず消えるとは……」
イリューヒンとチェック・メイトも、まさに悪い夢でも見ていたかのような面持ちでその消失を見届ける。
過ぎ去った嵐に、ジェイドは安堵の息をついた。
「やつらはアクション仮面のことなどなにも知らないと言っていた。なにかの間違いで連れてこられたように語っていたが……いったい何者だったんだろうな」
異世界には悪行超人の他にも、あのような奇怪で恐ろしい悪人たちがいるのか。
そして――マカオとジョマの消滅に合わせ、周囲の景色がぐにゃりと歪み始めた。
「な……なに!?」
「周りの景色が変わっていくわ!」
マサオくんとネネちゃんが怪奇現象を前に身を縮こませる。
幼子ふたりを安心させんと、その小さな体をイリューヒンとチェック・メイトが抱き寄せた。
ヘンダー城の大広間の壁や床が溶けるように消失し、景色は屋外へ。
目に映るのは、どこか昭和の雰囲気を感じさせる商店が並ぶ街並み――コンセプトの違いからして、ここはヘンダーランドではない。
「こ、この昭和レトロな光景は~~っ!?」
「まさしく西武園ゆうえんちの夕日の丘商店街!」
ロシアを祖国とするイリューヒン、モナコを祖国とするチェック・メイトにも、昭和レトロという概念は理解できる。
提灯で彩られたアーケード街に並ぶのは、駄菓子屋、たばこ屋、薬局に床屋に豆腐屋に精肉店……そこかしこから香ばしい醤油やソース、甘いタレの匂いが漂う。日本人の大人ならば「そうそう、昔の商店街ってこうだったよなぁ」と懐かしく感じてしまいそうな街並みだ。
ジェイドは倒れるスカーの傍らに身を置いたまま、目の前の光景を完全勝利の結果と受け入れる。
「なるほど……ヘンダーランドはマカオとジョマの魔法が作り出したもので、やつらが消えたことにより元の西武園ゆうえんちが戻ってきたんだな」
「つくづくとんでもねえオカマたちだったぜ……」
ふたりにとっても史上最大と呼べる難敵だったが、得たものが大きい試合だった。しかしそれはそれとして、二度とあんな手合いの相手は御免被りたい。ジェイドとスカーのみならず、この場にいる誰もが心の中でそうつぶやいた。
一段落ついたところで、リングの脇にポツンと残されていたモニターが明るい光を灯す。
映し出されたのは、春日部スタジアムの本部席に控えるジャクリーン・マッスルであった。
「おつかれさまでした。ジェイド、スカー」
「おお! ジャクリーン・マッスル!」
カメラに向かって力強く手を挙げるジェイドへ、ジャクリーンは労いの言葉をかける。
「よくぞネネちゃんを助け出してくれました、これで救出できた子供は5人中4人……残すはあとひとりです」
「その残ったひとりというのは?」
イリューヒンが問うと、ジャクリーンは小さく息を呑み、重い口を開いた。
「最年少の野原ひまわりちゃん……さらっていったのはアクション仮面です」
今回のすべての騒動の元凶であり、恐るべき粛清宣言を掲げた張本人。
その名が出された瞬間、夕日の丘商店街の空気がピリッと張り詰めた。
「アクション仮面……敵のリーダー格が残りましたか」
チェック・メイトが険しい顔でダークカラーに染められてしまったヒーローの姿を思い浮かべる。
イリューヒンも懸念事項を口にし始めた。
「アクション仮面はジェネラル・ストーンの影響か性格が豹変してしまっている……ケビンマスクをKO寸前まで持っていったアクションビームもあるし、闘うとなると相当厄介だな」
マカオやジョマとはまた違った意味で、というか正統派に難敵であると予想できる。
ジェイドはジャクリーンに訊く。
「こちらは誰が残っているんだ?」
「万太郎とミートくんです」
つまり、このあとに待ち受ける対戦カードは――キン肉万太郎&アレキサンドリア・ミートくんのコンビvsアクション仮面。
イリューヒンとチェック・メイトは新世代超人10人で春日部スタジアムを出発した際のことを思い出す。
「ミートのこのミッションに傾ける熱意は並々ならぬものがあった」
「万太郎もデーモンシード軍との闘いを経て成長しています。あのふたりなら大丈夫でしょう」
ふたりの正義超人としての使命感、絆、実力などを信じ、期待を寄せた。
「いや、楽観はしないほうがいいぜ……」
ところが、満身創痍のスカーフェイスが冷ややかな声で空気を切り裂く。
喋ることすらためらわれるほどの重傷だったが、伝えずにはいられない。
おそらくあの場にいた超人の中で、スカーフェイスのみが感じたアクション仮面の変調を。
「春日部スタジアムを去っていく際のアクション仮面の様子……やつは誰か、特定の個人を強く敵視しているように感じた。元“
子供たちの憧れのヒーローであるアクション仮面が、殺意を向けるほどの相手……?
はたしてそれは誰なのか、一同の間に重苦しい緊張が走る。
ジェイドは夕暮れ時になってきた空を見上げ、仲間である万太郎の背中を思い浮かべた。
「万太郎……」
あるときは頼もしい先輩と慕い、またあるときは超人オリンピックの頂点を懸けて競い合った、友人にしてライバルのひとり。
はたして彼は、狂気に囚われたアクション仮面に勝つことができるのだろうか――?
◇
――シュラララララララ~~ッ!
時空の歪みを縫う漆黒のワープホールを抜け、開けた空間へと躍り出る3つの影があった。
軽やかに着地してみせたのは、3人の中で一番大柄な男。その背には5才の男の子がしがみついている。
隣にはその5才児と同じくらい小さい眼鏡の少年が着地し、3人で周囲を見渡した。
「ふい~~っ、やっとワープホールを抜けられたよ。どこだここは~~っ?」
眉根をやや下げた弱々しい表情を見せるのは、新世代超人のひとりキン肉万太郎。
その傍らに立つのは、万太郎とは対照的にキリリとした目つきで周囲に警戒を走らせるミートくん。
そして万太郎の背中から腰、脚へと器用に体を滑らせ地面に下りたのが、超人の闘いに帯同した人間・野原しんのすけだ。
「ああ――っ!? あれは――っ!?」
ミートくんが目を剥き、眼前の建造物を指差した。
万太郎もその方向を見やり、すぐに声を張り上げる。
目の前に聳える巨大建造物、その名は――
「SSA……さいたまスーパーアリーナだ――っ!」
そう。
彼らが降り立ったのは、春日部からワープホールという超常の移動手段を用いたにもかかわらず、同じ埼玉県にあるイベント会場『さいたまスーパーアリーナ』の敷地内であった。
「埼玉県が誇る多目的アリーナ! 特にアーティストのコンサート会場としての印象が強く、その収容人数は3万7000人にも上ります!」
流暢に解説を入れるミートくん。
ちなみに2026年からはGMOインターネットグループが命名権を取得し、『GMOアリーナさいたま』の呼称を用いることとなっているが、本作では平成の時代感でも通じるさいたまスーパーアリーナ(略称SSA)の呼称をメインで採用している。
まさかあのさいたまスーパーアリーナを訪れることになるとは――と、万太郎やしんのすけも興奮した様子を見せていた。
「近年ではFRUITS ZIPPER、ももいろクローバーZ、765ミリオンスターズなど多くのアイドルがライブをしたあのSSAか~~っ!」
「フォ~ッ! 櫻井優衣ちゃんや玉井詩織ちゃんや三浦あずささんに会える――っ!?」
鼻息荒く近年(2025年)開催されたライブとそこで活躍したアイドルの姿を妄想するふたり。
ミートくんは緊張感のない万太郎に呆れ果てていた。
「ったく、カワイイ女の子に目がないんだから~~っ」
万太郎が綺麗な女性に鼻の下を伸ばすのはいつものことだが、どうやらしんのすけもその同類である様子。まだ5才児なのにマセたお子様である。
「ですが……まったくの無関係とも言えません」
ミートくんはおもむろに腕組みし、ごくりと息を呑む。
「特にFRUITS ZIPPERは去年(2025年)からしんのすけくんのアニメの主題歌を担当……さらに今年(2026年)は映画をはちゃめちゃわちゃに盛り上げる“バケバケ応援隊”に就任し、PR活動や声優出演などの活動を行っていました。テレビ朝日本社ではコラボカフェも開催されたほどです……」
「オラより詳しいゾ」
「どの時空の話をしてんのさ」
さすが正義超人随一の知恵者として名を馳せるミートくんはアイドルやアニメに関しても博学だ。ちなみにももクロも2018年に映画主題歌を担当している。
閑話休題。
ミートくんはもうひとつ、さいたまスーパーアリーナを語る上で忘れてはいけないある特徴を挙げる。
「SSAは他にも、ヒーロー系特撮番組のロケ地として使われることが多い場所です。もしかしたら、ここに待っているのは……」
新世代超人軍に挑戦状を叩きつけた真・正義超人軍団の人数は5人。
この先にいるのが、実際にさいたまスーパーアリーナでロケをした経験があるあのヒーローであるという確証はないが――やはりどうしても連想してしまう。
ミートくんは額から流れた冷たい汗を拭い、気を引き締める。
「とにかく、中に入りましょう!」
「ええ~~っ、チケット持ってないのにいいのかな~~っ」
「うう……オラゆいゆいに会えると思ったらキンチョーしておしっこ漏れそう」
「会えないし、こんなところで漏らさないで――っ!」
「まずはトイレを探せ――っ!」
イマイチ緊張感に欠ける万太郎としんのすけを急かしながら、ミートくんたちはさいたまスーパーアリーナへと入場していく。
――一方その頃。
さいたまスーパーアリーナの薄暗い内部。
広大なメインアリーナの中央にぽつんと置かれた特設リングの上で、腕を組みながら万太郎たちの到着を待ち構える男がいた。
「……遅いな」
静寂に包まれた巨大アリーナの天井に、アクション仮面の低く冷徹なつぶやきだけが虚しく反響していた。