アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
SSAに到着して早々、アイドルのおねいさんに会えるかもという緊張感から尿意をもよおしたしんのすけのためにトイレを探し、そこでおしっこを済ませた万太郎たち。
スッキリしたところで下り立ったのは、SSA1階のメインアリーナだった。
「さあ~~っ、SSAのメインアリーナへ出るぞ!」
本日なんのイベントも開催されていないはずのそこは、当然無人――ではなかった。
「ゲェ――ッ!? な、なんだこいつら~~っ!?」
万太郎が驚き足を止める。
そこに集っていたのは、一言で言って面妖な集団……黒い全身タイツのようなスーツを着込み、顔面に大きくBと刻印した怪人。頭にベージュ色のパンティストッキングを被った不審者。手の長いサル。ずんぐりむっくりした体形のファンシーなキグルミ。
「ブラックメケメケ団だゾ!」
「と……頭にパンストを被ったヘンタイの集団!?」
「それに、テナガザルと遊園地のマスコットみたいなのもいますよ!?」
メケメケZ配下のブラックメケメケ団戦闘員、ハイグレ魔王配下のパンスト団、パラダイスキング配下のテナガザル、そしてマカオとジョマが支配するヘンダーランドの住人たちである。
万太郎たちは知る由もないことだが、彼らは主人の敗北に伴い、この場所に転送されてきた……その数およそ400人(匹)(体)。
しかしそのいずれもが石像のように固まり、直立姿勢で規則正しく整列している。アリーナ中央へと続く花道だけは避け、その先には……四角いリングがあった。
「彼らはただの見物客だ。気にしないでいい」
そしてそこに立つのは、2本の角とトサカのマスクが特徴的な子供たちのヒーローである。
「アクション仮面!」
アクション仮面は腰に両手を添え、不遜なポーズで万太郎たちを待ち構えていた。
「よく来たな。さあ、花道を通りリングまで上ってくるといい」
青・緑・赤のトリコロールカラーだったスーツは真っ黒に染まったまま、エセ正義超人と罵られた万太郎たちには、相変わらずの刺々しい敵意が向けられている。
「気にしないでいいと言っても……」
「こんな悪党っぽいやつらの間を通っていけって言うの~~っ?」
ミートくんは警戒心を働かせ慎重に、万太郎はおどおどしながら、花道をゆっくりと進んでいく。
周囲からは無機質な視線を向けられているが、たしかに襲いかかってくるような気配はない。
そんな中、しんのすけがひとりで走り出す。
「あっ! しんのすけくん!」
進行方向は前。アクション仮面が待ち受けるメインアリーナのリングだ。
「待ってしんのすけくん! ひとりで行っちゃ危ない!」
「ボクらも行きましょう、Ⅱ世!」
万太郎とミートも慌ててあとを追う。
しかし自由奔放な5才児の脚力は侮れないものがあり、あっという間にリングの目の前までたどり着いた。
「よっ! アクション仮面。お久しぶり」
元気に手を挙げ、気さくな挨拶を放る。
お久しぶり――初対面ではなく、すでに面識のある人物に対してかける言葉。
それを受け取ったアクション仮面は、
「君は……しんのすけくん!?」
まさかの人物との再会を果たし、びっくりした様子を見せた。
「ええっ!?」
あとを追っていた万太郎とミートくんもアクション仮面の予想外の反応に驚きを示す。
アクション仮面はリング上からしんのすけを見下ろした。
「なぜ君がここに……いや、そうか。たしか君は春日部の人間……君も私のデビュー戦を見に来ていたんだね」
アクション仮面の言葉に、しんのすけは得意げに頷く。
「そーそー。おムネまきまきされたんだゾ」
「お、お招きかな?」
しんのすけらしい言い間違いを正し、そうこうしている内に万太郎とミートくんもリングそばまでたどり着いた。
「アクション仮面と知り合いっていうのは本当だったのか~~っ」
「お、驚きの展開……」
「も~。初めからそう言ってたでしょ」
しんのすけはワープホールの中でアクション仮面のことをチクビの友……いや竹馬の友と言っていた。
テレビでよく見るヒーローを幼児ながらの思い込みでそう言っているだけかと思ったが、どうやら実際に面識があるらしい。
アクション仮面にとっても、野原しんのすけ少年は大切な友人――だからこそ、働かせなければならない警戒心というものがある。
「離れるんだしんのすけくん。こいつらは21世紀の堕落の象徴、正義を失った悪行・正義超人だ。君に危害を加えるかもしれない」
しんのすけは庇護すべき子供として、万太郎とミートは討つべき敵として扱う。
万太郎は呆れ、ミートは事態を深刻に捉える。
「まだ言ってるよ、あの兄さん」
「やはりアクション仮面はジェネラル・ストーンの魔力により人格が歪められているようです」
万太郎は一歩前に出て、しんのすけの横に立つ。
「やいアクション仮面! おまえが攫っていった野原ひまわりちゃんはそこにいる野原しんのすけくんの妹ちゃんなんだぞ! 赤ん坊をさらうなんて非人道的な真似をしておいてボクらを一方的に非難するっていうのか――っ!」
「なんだって?」
アクション仮面はまさか攫った赤子が知り合いの肉親であるとは思っていなかったのか、懐疑的な反応を見せながらも後方に合図を送る。
リングの奥にいたブラックメケメケ団戦闘員、パンスト団、テナガザル、ヘンダーキャラクターたちが立ち位置をずれ、生じた隙間から黒い球体が飛び出してくる。
薄い膜に覆われたそれは中の様子を見ることができ、無垢な赤ん坊が囚われていた。
「うー」
ベビー服に身を包み、よだれかけをかけた女の子――野原ひまわりちゃんである。
妹の姿を見て、しんのすけの声も高くなった。
「お~! ひまわり~!」
「たーい!」
生まれて1年も経っていないひまわりは状況を理解できていないのだろう。恐怖など微塵も感じていない様子で返事を返してくる。
しんのすけはアクション仮面に言う。
「アクション仮面、ひまわりをあそこから出してあげて」
「すまないしんのすけくん。君の頼みでもそれはできないんだ」
純粋なお願いは、しかし確固たる正義の意思によって却下される。
「これは悪しき悪行・正義超人を粛清するために必要なこと。見栄を張ることだけは立派なやつらは人質を放ってはおけないだろうからな」
ひまわりを解放すれば万太郎とミートくんは一件落着と満足し帰ってしまうだろう。
つまり彼女は悪行・正義超人をリングに立たせるための餌――アクション仮面はニヤリと笑った。
「そんなのおかしいゾ!」
「し、しんのすけくん」
悪っぽい笑みを見せたアクション仮面に、しんのすけが強い眼差しで言い放つ。
「アクション仮面はいつだって人質を助けるほうで、人質を取ったりなんてしないんだゾ! そんなことゆーのは、ニセモノのアクション仮面だ――っ!」
「ニ……ニセモノ!? わ、私が……」
アクション仮面を慕う者として、厳しい正論をぶつけるしんのすけ。
子供は純粋――純粋だからこそ、アクション仮面の抱える矛盾を正面から否定できる。
アクション仮面にとっても、しんのすけは自身の熱烈なファン。
ヒーローショーでたびたび交流し、春日部では道に迷っていたところを助けてもらったこともあった……そんな友人が、自分のことを“ニセモノ”と断じ否定している。
「ウ……グウ……!」
その場に膝をつき、胸を押さえるアクション仮面。
表情にも苦悶の色が見えた。
「アクション仮面がしんのすけくんの言葉に苦しんでいる」
万太郎とミートくんもその明らかな変調に気づいた。
「もしかしたら、アクション仮面の人格は完全に塗り替えられたわけではないのかもしれません。心のどこかでは、自分がおかしなことを言っていると気づいている……そこにしんのすけくんという純粋無垢な子供からの指摘を受け、自分を取り戻そうとしているのかも」
アクション仮面が押さえる胸元――あそこは大魔王サタンによってジェネラル・ストーンを埋め込まれたと思しき箇所だ。
ミートの推論に、万太郎も希望を感じ始める。
「じゃあ、このまましんのすけくんが呼びかけ続ければ……!」
ミートと頷き合い、足もとの5才児に希望を託す。
「しんのすけくん! 君ならアクション仮面を説得できるかもしれない!」
「なんでもいいからアクション仮面に話しかけるんだ――っ!」
「ほーほー」
しんのすけはふたりの意図が理解できているのかいないのか、呑気な顔で数度頷いた。
一歩リングに近づき、顔を上げてアクション仮面に話しかける。
「FRUITS ZIPPERだと誰推し?」
「誰がアイドルの好みを訊けと言った~~っ」
ズコーッとずっこけるミートくんと、ツッコミを入れる万太郎。
直前まで苦しんでいたアクション仮面はスッと真顔になり、質問に対する回答を探す。
FRUITS ZIPPERは7人のメンバーから成る女性アイドルグループ……なんてことはない“推し語り”を求められているのはわかったが、アクション仮面は曲がりなりにも芸能界に身を置くアクション俳優。迂闊な発言はメディアに曲解されるおそれがある。
なので当たり障りのない答えを絞り出した。
「私は箱推しだ」
「お~、やりますな」
ズコ――ッ!
今度は万太郎も揃ってミートくんとずっこけた。
「いいかい、しんのすけくん。FRUITS ZIPPERのようなアイドルたちが平穏に暮らすためには、人間を守る立場にある現代正義超人界の改革が急務。堕落しきった
「おおっ、リストラってやつですな」
我を取り戻したアクション仮面の主張により、しんのすけにも事の重大さが伝わる。
こうしてはいられないとばかりに、どこからともなく取り出したビジネススーツに着替え始めた。
それを見た万太郎も、どこからか取り出したビジネススーツに着替える。
あっという間にしんのすけと万太郎が社会人風の身なりになった。
「万太郎くん、明日からこの部署に君の机はない。この意味がわかるね?」
「ひどいですよ部長~~っ! 会社のために何十年も尽くしてきたっていうのに~~っ」
ドデ――ンとひっくり返るミートくん。
しかし即座に起き上がり、これまたどこからか調達した巨大ハンマーで万太郎の頭をぶっ叩いた。
「遊んでる場合ですか――っ!」
「ぎょえ――っ!?」
衝撃でスーツが脱げる。しんのすけもミートくんの強烈ツッコミを目の当たりにし、自発的にスーツを脱いだ。
そのまるでギャグ漫画のようなやり取りのあと、
「うっ……」
言葉を理解できずとも感受性豊かな赤ん坊がグズり出す。
「うわぁあ~ん!」
黒い球体の中で突然泣き出してしまうひまわり。
新世代超人を許さぬアクション仮面の怒り、しんのすけの大声、ミートくんの暴力的なツッコミ……リング周辺に渦巻く様々な感情を感じ取った結果だろう。
「ひま……」
大泣きする妹には慣れているしんのすけだったが、これはミルクが欲しいわけでもオムツを替えてしほしいわけでもない。
しんのすけはふざけている場合ではないとばかりに、アクション仮面に向き直る。
「やっぱりアクション仮面のゆってることはおかしいゾ! 人質なんてワルモノのすることだ――っ!」
再び突きつけられる5才児の正論に、アクション仮面がたじろぐ。
その隙を縫い、しんのすけが動いた。
「今おたすけするゾ、ひまー!」
リングを回り込み、コーナーへと移動したのである。
そしてそこに立っている鉄柱――コーナーポストを支えるための支柱をよじ登り、てっぺんに立つ。
まん丸の瞳を向けるのは、空に浮かぶ黒い球体。妹を囚えている魔の檻だ。
とても手が届く高さではない。ならば当然、やることはひとつ。
「あ、危ない!」
「無茶だしんのすけくん!」
意図を察した万太郎とミートくんが止めようとするも、嵐を呼ぶ5才児の行動は早い。
「トオッ!」
しんのすけは鉄柱から高くジャンプし、宙に浮かぶ球体めがけて飛んだ。
が――5才児のジャンプ力などたかが知れている。
浮力はあっという間になくなり、その手が妹に触れることはなく、重力の赴くままに落ちた。
そして不幸にも、落ちた先はピーンと張られたリングロープの真上。
股を通り、ロープが股間に直撃する。
「いいいいいいいい~~~~~~っ」
しんのすけはそこからリング内に落ちた。
股間を両手で押さえ、痛みに悶絶しながらキャンバスの上を転げ回る。
なんという凄惨な事故……クレヨンしんちゃんでなければ死んでいた!
万太郎が怒声を放つ。
「アクション仮面……おまえ、こんなに小さなお兄ちゃんが妹を助けようとしてるってのに、その想いを踏みにじるつもりか――っ!?」
周囲を男なら誰もが共感できる痛みに耐える5才児に転げ回られ、アクション仮面の正義もさすがに揺らぎそうになる。
「だ……黙れ! 私は正義超人を粛清する……粛清するのだ!」
しかし言葉で強くそう唱えることにより、自我を保つ。
「このリングはそのための戦場……部外者にはお引き取り願おう!」
アクション仮面は信念を見せるべく、リング上にいるしんのすけの身を優しく両手で転がした。
「のわあああ――っ!」
そのままリング下に落っことされる。
万太郎が咄嗟に駆け込みそれをキャッチ。
リング落下による怪我はなかったが、股間を打った痛みはまだ少し残っているようだった。
「大丈夫か、しんのすけくん」
「オラ、女の子になっちゃったかもと思った」
「安心していい。ちゃんと立派なものがついてるよ」
「あは~ん」
股間をにぎにぎする万太郎。しんのすけが頬を赤らめた。
ぞーさんの無事が確認できたところで、万太郎がしんのすけを下ろす。
「でもアクション仮面の言うとおり、リングは戦場……子供の君が立ち入るには危険な場所だ。ここはボクに任せてくれ」
万太郎はリング上のアクション仮面を見やる。
アクション仮面はフッと口元だけで笑っていた……まるで万太郎からの敵意を心地よく感じるかのように。
「Ⅱ世……」
妹を救おうとするしんのすけの熱意に当てられたのか、今日の万太郎はいつになくやる気だ。
これなら期待できるかも、と長らく彼の臆病な性格に手を焼かされていたミートくんは息を呑む。
だが、
「ン?」
そんな万太郎の周りを、黒い全身タイツの怪人たちが取り囲む。
ギャラリーの一部であったブラックメケメケ団戦闘員だ。
襲いかかってくる気配はない。気配はないのだが、壁となって万太郎を囲んでいるためこれでは身動きが取れない。もちろん、このままではリングに上がることもできないだろう。
「ちょっとちょっと! 人が珍しく最初からやる気モードになってるっていうのに、こいつらなんなのさ~~っ」
出鼻を挫かれた思いの万太郎。
それに対し、アクション仮面が言う。
「あいにくだが万太郎くん。私は君と闘うつもりはない」
「へ?」
出鼻をさらに挫くような発言。
困惑する万太郎に、アクション仮面は続ける。
「君は新世代超人の代表格として多くの悪行超人を撃退してきた功労者……ケビンマスクのような輩とは違う。現代超人の中でも、真に正義の心を持った若者と言えるだろう」
新世代超人の代表格! 真に正義の心を持った若者!
かつて万太郎をここまでストレートに褒める人物がいただろうか。
根が純粋な万太郎は、アクション仮面と敵対していることも忘れニマ~ッと笑みを作った。
「いや~、それほどでも~」
「テレますな~」
「なぜ君まで」
同じようにニマ~ッとするしんのすけに呆れるミートくん。
そのミートくんに、アクション仮面の眼差しが向く。
「私の標的は別にいる。悪行・正義超人の中でも、特に私が鉄槌を下しておかなければと思う超人……それは」
視線に乗せる感情は、敵意を超えた――殺意。
それがしんのすけと同じくらいの背丈しか持たぬ超人に向けれていた。
「アレキサンドリア・ミート! おまえだ――っ!」
ビシッ!と指を突きつけて宣言するアクション仮面。
キン肉万太郎を差し置いて鉄槌を下すべきと判断した相手――それこそが。
正義超人軍の参謀役、非戦闘員であるはずのミートくんだったのである。
「え……えええええ~~~~っ!?」