アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「アクション仮面の標的が……ミート!?」
万太郎は開いた口が塞がらないといった様子で、リング上の漆黒に染まったスーツに身を包むヒーローを見据えた。
「な、なんでボクが!?」
ミートくんは信じられないといった感じに青ざめた表情を浮かべる。
しんのすけはひとり、驚愕する万太郎やミートくんの横できょとんとしていた。
「ひょーてきって、なに?」
「ええと……すごく狙ってる相手ってことかな」
「ほう。カキタレってことですな」
「そう、それそれ~」
「ぜんぜん違います。テキトーなこと言わないでください」
緊迫した空気の中、相変わらずマイペースなしんのすけ、そしてそのノリに引っ張られる万太郎に、ミートくんは事務的なツッコミを入れた。
ミートくんはしんのすけにもわかりやすいように言う。
「アクション仮面はつまり、ボクをメッタメッタのギッタギッタにしたいと言っているんです」
「幼稚な表現ですな」
「しー」
頭を抱えるミートくん。しんのすけはある意味、キン肉スグルやキン肉万太郎を相手にするよりよっぽど手間のかかるお子様だった。
しんのすけにばかり手間取ってはいられない。
今考えるべきは、アクション仮面がミートくんを狙っているという事実である。
「でも、なんで……」
繰り返すが、ミートくんは正義超人の一員ではあるものの非戦闘員。
アクション仮面の恨みを買う要素はないはずだ。
しんのすけはハッとし、なぜか頬を赤らめる。
「もしかして、そーゆーおシュミが?」
「ない」
「ありません」
おそらくSM的なプレイを妄想したのであろう。さすがは30~40代がメイン購買層の成年向け漫画雑誌出身の5才児だ。
もちろんアクション仮面もミートくんも即座に否定する。
「そういえば……ミートは30年以上もの昔、今は
万太郎はある可能性に思い至り、自らの考えを口にし始める。
だが30年以上も前に活躍したという経歴は、5才児でもおかしいと思える明らかな矛盾だった。
しんのすけはミートくんを胡乱げな眼差しで見やる。
「えっ……ミートくんって実は若作りのオジサンだったの?」
「そのへんは説明すると長くなるから、もう少し大人になってから週刊プレイボーイコミックス『キン肉マンⅡ世』1巻を読んでね」
簡単に説明するとミートくんはコールドスリープで時を跨いでいるのだ。詳細はコミックスを読もう。
万太郎は続けて語る。
「怨敵・正義超人の快進撃は裏で知略を巡らせていたミートのせいと悪行超人たちの恨みを買い、ミートの生みの親であるミンチ様をターゲットに、殺し屋ボーン・コールドへの抹殺依頼が出されるなんて事件もあった……」
「その話も1巻で読める?」
「いや、これは12巻だったかな……」
手元で『キン肉マンⅡ世』のコミックスを山積みにし確認するミートくん。
その冊数は“肉”になぞらえ全29巻。ミートくんに関していえば無印『キン肉マン』から登場しているため、エピソードを検索するのも一苦労だ。
「それに! 類稀なる頭脳を持ったミートの肉体はあの大魔王サタンが直々に狙っていたりもした! もしやサタンはまだミートのボディを諦めていないんじゃ――っ!?」
「それは何巻?」
「21~29巻かなぁ」
「んも~、商売上手なんだから」
ため息と共に小言を言うしんのすけ。ミートくんは5才の子供と向き合う大変さというものを思い知った。
万太郎の推理は、要するに『大魔王サタンがミートのボディを欲しがり、アクション仮面に悪行・正義超人を叩くならまずは参謀のミートを狙えと囁いたのでは』というもの。
それならばアクション仮面が万太郎を差し置いてミートくんを名指ししたのも不思議ではないが――
「そのどちらでもない」
本人は首を振った。
「アレキサンドリア・ミートが正義超人軍のブレーンとして悪行超人退治に貢献したのは称賛に値する。正義の味方である私が、そのことに関して恨みを抱くはずもない」
アクション仮面の冷徹な瞳がミートくんを射抜く。
「サタンの思惑も知ったことではないな。私がミートを標的とするのは、個人的な警戒心からだ」
「こ、個人的な警戒心……?」
そう言われても思い当たることがない。
ミートくんはごくりと唾を飲み込み、アクション仮面の続きの言葉を待つ。
「こいつを野放しにしてはおけない……私の正義超人としての本能がそう警鐘を鳴らすのだ。アレキサンドリア・ミートこそ、真っ先に粛清すべきエセ正義超人だと」
たしかに、敵が複数であるなら最も危険と考える相手から狙うのは理にかなっている。
だがそうは言っても、ミートと他の正義超人では明確に立場が違うのだ。
万太郎は叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! そもそもミートはボクみたいな超人レスラーじゃない! アクション仮面はそんなミートを相手に闘うっていうのか~~っ!?」
その主張に、アクション仮面は冷たく微笑んだ。
「フフフ……超人レスラーではないなど冗談を」
笑みは一瞬、すぐに刺々しい敵意を剥き出しにしミートくんを睨み据える。
「ミートはその昔、君の父親であるキン肉マンに黒星を突きつけた相手……悪行超人ミキサー大帝と闘い、それを打ち破った経験がある」
語られたのは、万太郎が超人レスラーではないと主張したミートの知られざる過去の戦績。
あいにくミキサー大帝という名に覚えはない。しかしそれよりも聞き捨てならないのは、あの“キン肉マンに黒星を突きつけた相手”という部分。
「ミ、ミートが……父上を倒したほどの相手に勝った~~っ!?」
キン肉マンといえば、万太郎の実父にしてキン肉星第58代大王キン肉スグルのこと。
超人レスラーとしては超人オリンピックV2チャンピオン。伝説超人を代表する正義超人だ。
そんなキン肉マンに土をつけた悪行超人がいた……しかもその相手をミートが倒したなど、にわかには信じられない。
「大王様……キン肉スグル様が現役だった頃に行われた、とある団体戦での話です」
ミートくんが緊迫した様子で情報を補足し、万太郎はアクション仮面の話が嘘ではないのだと察する。
「その試合ではスグル様が先鋒として闘い、破竹の2連勝……しかし3戦目で敵チームの計略にかかり、惜しくも敗北してしまいます」
件の闘い――“キン肉星王位争奪サバイバルマッチ”の詳細は、キン肉スグル自身が“自分の闘いは記録されるためにあるんじゃない。宇宙の平和のためにあるんだ”とすべての映像資料を燃やしてしまったため、息子の万太郎にも伝わっていない。
だが、その闘いのあとコールドスリープに入り、21世紀の世に渡ったミートくんからしてみれば、それほど大昔のことではない。記憶も鮮明だ。
「ボクはそんなスグル様からバトンを引き継ぎ、次鋒として闘い……確かにミキサー大帝に勝利しましたが、あれはスグル様が敵を削ってくれていたことが大きい。アクション仮面の相手が務まるほどの実力では……」
あれは勝ち抜きルールの団体戦だったというところが勝因のほとんどを占める。ミートくんはそう主張したかった。
しかしながら、アクション仮面は鼻で笑うのだった。
「謙遜のつもりかもしれんが、姑息だな」
ミートくんの主張など聞く耳持たず。
アクション仮面は恐ろしいものを見るような目つきで言う。
「私は過去のアーカイブビデオであの試合を見たとき、言葉にできぬほどの衝撃を覚えたのだ。こんな年端もいかぬ子供が、なんと残虐なファイトをするのかと」
その恐れの対象は、もちろんミートくんである。
そんなことを言われるとは夢にも思わなかったミートくんは困惑した。
「ざ、残虐って……」
どうにも難しい話が続いている。
しんのすけはこのあたりで小ボケを挟むべきだと思い、口を挟む。
「カメラを立てるのに使う?」
「それは三脚」
万太郎からシンプルかつスピーディなツッコミで処理される。どうやらそういう雰囲気ではないようだ。
アクション仮面はいよいよミートくんの――いや、悪行・正義超人アレキサンドリア・ミートの深淵に触れる。
「アレキサンドリア・ミート。おまえはその試合で、対戦相手であるミキサー大帝をバラバラに惨殺したな?」
アクション仮面の罪を糾弾するような問いかけに、ミートくんが愕然とする。
“キン肉星王位争奪サバイバルマッチ”1回戦、キン肉マンチームvs飛翔チーム――その第4試合であるミートくんvsミキサー大帝の試合は、たしかにミートくんが繰り出したバックドロップによってミキサー大帝の体が木っ端微塵に砕け散るという凄惨な結末を迎えた。
当時のことを知らない万太郎は声を上げる。
「ええ~~っ!?」
まさかミートが、そんな21世紀の悪行超人でもやらないようなことを……いや、超人オリンピック・ザ・レザレクションでケビンマスクがオランダのレゴックスをバラバラにしたりしてたか……とにかく驚愕の一言である。
その横で、話が理解できていないであろうしんのすけが踊り出す。
「おお~! パラパラならオラも踊れるゾー!」
「90年代にブームになったダンスのことじゃないってば~~っ」
楽しげに踊るしんのすけだったが、そこに笑いは生まれない。
剣呑な雰囲気のミートとアクション仮面。
ひりついた空気を裂くように、アクション仮面は自身のファンである少年に語りかける。
「バラバラとは、頭や手足が千切れて死んでしまうということ……想像するんだしんのすけくん。そこにいるミートは、そういったことを喜んでやる極悪超人なのだ」
「えっ……」
しんのすけの眉根が下がり、おっかなびっくりといった様相でミートくんの顔を見る。
まさか……ミートくんが本当に、そんな悪者みたいなことを……?
「あ、あれは……スグル様がミキサー大帝のネジをあらかじめ外してくれていたからで……」
ミートくんはラーメンマンやロビンマスクとは違う。たしかに試合のリングに立ったことはあるしミキサー大帝に勝利したのも事実だが、なにも好き好んで彼をバラバラにしたわけではないのだ。そう、あれは勝利を求めた結果相手がバラバラになってしまったにすぎない。
そんな主張は、今のアクション仮面にとっては言い訳だ。
「黙れ! しんのすけくんのような小さな子の目の前で言い訳など、見苦しいと思わないのか! しんのすけくん、こんなふうになってはいけないよ!」
「お、おお……」
アクション仮面の鬼気迫る熱弁に、しんのすけも圧倒されてたじたじになる。
アクション仮面は子供たちの憧れのヒーロー。だからこそ子供というものの生態を熟知している。
ただの残虐超人であるならばここまでの警戒はしない。大人の残虐超人顔負けの所業を、年端もいかない子供がしでかしたという点が重要なのだ。
「貴様のような危険分子を野放しにしておけば、必ずしや将来……極悪悪行超人へと成り果ててしまうだろう! そうなれば超人界は脅威に脅かされ、人間たちの平穏は壊されてしまう! それを阻止するためにも、災の芽は今のうちに摘み取っておかなければ――っ!」
スーパーマン・ロードの試練を乗り越え超人となり、
「んなムチャクチャな……」
だがミートくんにとっては言いがかりだ。
今までキン肉スグルや万太郎と共に多くの悪行超人の相手をしてきたが、こんな形でこちらの精神を揺さぶってくる超人はいなかった。
いったいどう対応するのが正解なのか、正義超人界随一の頭脳であっても言葉を詰まらせずにはいられない。
ミートくんですらそうなのだから、ただの子供であるしんのすけなど余計にどうしたらいいのかわからないというものだ。
「オラ……むずかしいことはよくわかんないけど……やっぱりアクション仮面の言ってることはなんかおかしいゾ……」
それでも、なんとなく、子供の直感として思ったことを口にする。
しかし表情には自信がない。野原しんのすけらしからぬ弱々しい姿だった。
「しんのすけくんも大人になればわかる日が来る。今はただ、私を信じ応援してくれ……」
思い悩む少年の心の隙間に入り込むように、アクション仮面はヒーローショーがごとく声を張り上げる。
「そう……いつものように『がんばれアクション仮面!』と!」
敵対するふたり――友達と、憧れのヒーロー。
この場における正解はなんなのか。5才児に難題が突きつけられる。