アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
大好きなヒーローから“応援”を求められる。
テレビの中、あるいはヒーローショーではお決まりのシチュエーション……普段ならノータイムで「がんばれアクション仮面ー!」と叫んだことだろう。
「オラ……」
しかししんのすけは言葉に詰まる。
ここでアクション仮面を応援するということは、彼がなぜか敵視しているミートくんと闘うということ。
「オ、オラ……オラ……なんかヤだぞ……」
がんばれアクション仮面、がんばって悪行・正義超人ミートくんを倒せ――などとは、口が滑っても言えないしんのすけだった。
望んだ応援が得られず、アクション仮面はわずかに肩を落とす。
だがそれも一瞬。すぐに覇気を纏い、ミートへ向けて声を張り上げる。
「さあミートよ! 貴様も正義超人を名乗るならリングに上がれ! ひまわりちゃんを助けるという気概を見せてみろ!」
リングに上がれ――キン肉万太郎ではなく、おまえがこのアクション仮面と闘えと要求される。
万太郎はブラックメケメケ団の戦闘員に周りを囲まれ身動きが取れない。
それ抜きに考えても、依然としてひまわりちゃんが人質に囚われている状況……拒否はできないだろう。
「……着替えるので少し時間をもらいます」
「いいだろう」
ミートくんは了解の意味を込めそう返答する。
これにて対戦カード決定。
ブラックメケメケ団戦闘員が一斉に捌け、自由になった万太郎がミートのもとへ駆け寄る。
「ほ、本当にやる気なのか? ミート……」
「ひまわりちゃんを人質に取られている以上、要求を拒否するわけにはいきません」
ミートはつけていたマントを外し、荷物の中から自前の白タイツを取り出す。
「それにボクだって正義超人のはしくれ。立派に闘い上げてみせますよ」
万太郎には緊張を孕んだ不器用な笑みを見せる。
「ミート……」
万太郎は心配を募らせる。
何遍も言うが、ミートは非戦闘員。いくら昔一度ジャイアントキリングを成し遂げた経験があるとはいっても、今回の相手は超人オリンピック現チャンピオン・ケビンマスクに膝をつかせた難敵なのだ。
はたして勝算などあるのだろうか……そうこう考えている間に、ミートは古ぼけた白タイツに着替え終わった。
「フフッ」
バトルコスチュームに身を包み見せたのは、緊張感のない笑みであった。
「こら~~っ! 今からあのケビンマスクを苦しめたアクション仮面と闘うっていうのに、なにを呑気に笑っとんじゃ~~っ!」
思わず叱り飛ばす万太郎。
ミートは頭を掻いた。
「すいません。このタイツを着たら、Ⅱ世とチェック・メイトが試合をしたときのことを思い出して」
「え? ボクとチェックの?」
キン肉万太郎vsチェック・メイト戦といえば、万太郎が日本駐屯超人として派遣された最初期の頃の闘い。
あの頃のチェック・メイトはまだ悪行超人連合“
「Ⅱ世がまだ正義超人として歩み出して間もない頃……あなたは父譲りの臆病風に吹かれ、一度試合会場から逃げ出そうとした。最終的には戻って来てくれましたが、ボクはあのとき、Ⅱ世が戻ってこなければ代わりにリングに立ちチェック・メイトと闘う覚悟だったんです。この白タイツ……かつてキン肉マンチームの一員として正義のために闘った思い出の品を身に着けてね」
まさか自分が臆病風に吹かれている裏でミートがそのような決意を固めていたとは。まだ未熟だった頃の話とはいえ、さすがの万太郎も恥ずかしくなってくる。
ミートはそんなことなど気にせず、悩ましげな表情を浮かべる少年に優しく語りかける。
「しんのすけくん。ひまわりちゃんのお兄ちゃんでありアクション仮面のファンである君としては複雑な気持ちだろうけど……」
繊細な5才児の胸中を慮るミート。
しんのすけは伏し目がちに言う。
「あとオラ、ミートくんともおトモダチだから……どっちを応援すればいいんだか」
「しんのすけくん……」
出会って間もないミートくんを友達と言い、憧れのアクション仮面との間で真剣に悩んでくれている。
優しい子だ。
「こんなビミョーな気持ちになるんなら、恋なんてするんじゃなかった」
それでいて、ユーモアにも溢れている――こちらが抱える憂いまで晴れてしまいそうなほどに。
ミートはプッ、と声を漏らした。
「どこで覚えたのさ、そんな言葉」
朗らかな笑みでそう返し、彼の肩に手を置く。
「君はムリに応援なんてしなくてもいい。ただ待っていて。ボクがきっと、ひまわりちゃんを助け出しアクション仮面も正気に戻してみせる」
「ミートくん」
同じ子供同士ではあるが、ミートくんは正義超人。そしてしんのすけは人間だ。
ならば、彼を笑顔にするための仕事をしよう。
ヒーローになろう――と、ミートくんは勇ましい戦士の表情を作り出す。
その顔をリングへ向けた。
「準備は整ったようだな」
白タイツにレスリングパンツという昔ながらのレスラースタイルに身を包んだミートくんを見て、アクション仮面が立ち位置を調整する。
ミートくんは速やかにリングインを果たし、アクション仮面と適度に距離の開いた場所に立つ。
いつゴングが鳴り、試合が始まってもいいように。
そう、あとは開戦のゴングが鳴るだけという状況だ。
「お待ちください!」
そのとき、リングのすぐ隣に置かれていた巨大モニターにある女性の姿が映し出された。
万太郎は見慣れたその人物の名を叫ぶ。
「ジャクリーン!」
春日部スタジアムよりカメラで映像を送るその女性は、宇宙超人委員会副会長ジャクリーン・マッスル。
万太郎やミートくんと同じく頭に奇抜なトサカを生やしてはいるが、可憐な容姿はまさしく美女のそれ。
特に谷間ができるほどのグラマラスな胸元は、しんのすけの鼻の穴から『しゅぽぽ~~っ』という機関車のような音を鳴らすほどのインパクトがあった。
「うっひょ~! トサカのキレイなおねいさ~ん!」
「さっきの真面目な空気はどこいったんだ~~っ?」
友達やヒーローも大切だが、それよりなにより、きれいなおねいさん。
野原しんのすけとはそういう男の子であった。
ジャクリーンは真面目さを崩さずに言う。
「話は聞かせてもらいました。両者了承済みというのであれば、この対戦カードにとやかくは言いません。ただし、どんな遺恨があろうともリングの上で闘うからには正々堂々……我々宇宙超人委員会のジャッジのもと、公平なルールに従っていただきますわ」
超人レスリングの習わしを知るアクション仮面とミートくんも、ジャクリーンの申し出に揃って頷いた。
「もちろんだ。快く従おう」
「同じく」
「いちじく!」
アクション仮面、ミートくんに続き、力いっぱい頷くじゃがいも頭があった。
いつの間にかリングに立っていた野原しんのすけだった。
「君はリングに上がらなくてもいいの!」
「あ~んいけず~」
ミートくんに背中を押されてリングの外に追い返されるしんのすけ。
なにをしでかすかわからない5才児が落ち着くまで、ゴングはお預けとなった。
◇
一方その頃――さいたまスーパーアリーナの外周では。
3人組のスケバン女子高生がヒーロー然としたポーズを取っていた。
「ふかづめ竜子!」
「魚の目お銀!」
「ふきでものマリー!」
「3人揃って、埼玉紅さそり隊!」
ポニーテールの髪形をしたリーダー・ふかづめ竜子が中央で腕組みをして立ち、左側でバツ印のマスクをつけた魚の目お銀がビシッと腕を伸ばし、右側で太めの体型のふきでものマリーが左右対称になるように腕を伸ばしている。
その後ろには、埼玉県が誇る有名施設であるさいたまスーパーアリーナ。
いつもは春日部の空き地や公園を背景にしている彼女らの決めポーズが、今日ばかりはSSAの効果で一層豪勢な仕上がりを見せていた。
ひとしきりポーズを取って満足したところで、3人は女子高生らしいきゃぴきゃぴした声を出す。
「やりましたねリーダー!」
「SSAをバックに決めポーズを取るってあたいらの野望達成っすよ!」
「おうよ! あたいらのシマは春日部だけじゃねえ……なんたって“埼玉”紅さそり隊だからな!」
「ヒュー!」
主に春日部を縄張りとするスケバン集団“埼玉紅さそり隊”がなぜここに!?
答えはただ遊びに来ただけである。
普段ほとんど春日部から出ることなどない3人は不良の肩書を忘れ、テーマパークにでも来たようなテンションで会話に花を咲かせていた。
そのせいで周りにいた他の人物に気づけず、竜子は通行人に肩をぶつけてしまう。
「おっと」
不意にぶつかられ、その場でよろけてしまう通行人。
だが倒れない――その体はがっしり大柄で、背も高く、竜子よりも体重がありそうだった。
それでも無礼を働いたのは自分。竜子は即座に頭を下げる。
「すんません! 自分が不注意でした!」
リーダーが通行人に迷惑をかけてしまった。となれば自分たちも、とお銀とマリーも続けて頭を下げる。
「いや~~っ、ボクも注意力散漫だったよ。あの建物のほうばかり見ててね」
男性の声だ。
3人は顔を上げ、その姿を観察する。
全身をボロ布とも形容できそうな古めかしいマントで覆い、顔もフードで隠しているため容姿は窺えない……浮浪者とも思えそうな、怪しい人物だった。
「あれはなんて名前の建物?」
男は埼玉県在住の者ではないのか、目の前の巨大建造物を指して埼玉紅さそり隊に問う。
「さいたまスーパーアリーナっす」
「略称はSSAっす」
「2026年4月からは改名して“GMOアリーナさいたま”っすけど、本作では一貫してさいたまスーパーアリーナっす」
ふかづめ竜子、魚の目お銀、ふきでものマリーの詳しい説明を受け、男がフードの奥で目を細める。
「さいたまスーパーアリーナ……」
はたして男はなにを思ったのか、ふらふらとした足取りでその施設を目指し歩いていく。
「におう……におうなぁ~~っ。忌々しい血のニオイだ~~っ」
おおよそ正常者とは思えぬセリフを声に出しながら……古めかしいマントに覆われた背が遠ざかっていった。
取り残された埼玉紅さそり隊の3人は、ぽかーんとその場に立ち尽くす。
忌々しい血のニオイとはなんのことだろうか。少なくとも自分たちは血のニオイなど感じないが……?
竜子がすんすんと匂いを嗅ぎ、隣にいたお銀をジト目で見やる。
「おまえ香水つけてきた?」
「だ、だって都会行くんすよ~!」
「SSAって都会か?」
マリーの冷ややかな視線がお銀に突き刺さる。
まさか中で顔見知りのじゃがいも小僧が修羅場に立ち会っているなど夢にも思わないであろう、欄外の話。
しかしただひとり、SSAの入口に足を踏み入れていったマントの男だけは――後に大きな役割を果たす。