アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
――カァアアアアアアア~~~~ン!
春日部スタジアムからゴングの快音が鳴り響く。
カメラが映すのはSSAメインアリーナに設営された特設リング。そこに立つふたりの正義超人だ。
『さあ、始まりました! ここ、さいたまスーパーアリーナを舞台に繰り広げられますは、ミュージシャンライブでも文化的展示会でもなく超人レスリングのビッグファイト! それも古くから正義超人軍の参謀として名を馳せてきました知将アレキサンドリア・ミートくんと、つい数時間前に超人レスリング現チャンピオン・ケビンマスク戦を経て衝撃デビューを果たしましたアクション仮面の一戦! この異色の対戦カードの行く末は、はたしてどうなるのか~~っ!?』
対峙するふたりの正義超人の名は、アレキサンドリア・ミートとアクション仮面。
その身長差はまさしく子供と大人。
しかしリングに立った以上は対等な対戦相手として、公平なジャッジのもとに技を競い合うのみ。
『ミートくん、まずはじっくり距離を取りアクション仮面の動きを見ます』
ミートくんは正義超人軍の参謀。自ら率先してリングに立つような超人レスラーではない。
ゆえにがむしゃらな攻めは行わず、慎重にチャンスを窺うが――
「フフッ。ずいぶん蹴りやすい高さ」
アクション仮面にとっては、ただの小兵。
特に背丈は自分の脚くらいしかなく、パンチを当てるのは苦労するだろうが、ただのローキックが顔面直撃となりうる……そんな身長差の相手なのだ。
臆する理由もなしと、蹴りを放つ。
『アクション仮面から草を刈るような鋭いロー! ミートくん、これを間一髪避ける――っ』
当たる箇所は顔面であろうと胴体であろうと構わない。
アクション仮面は殺人的なローキックを連続して繰り出す。
「ウリャ! ウリャ!」
『さすがは数々の打撃系格闘技を修めるアクション仮面! ローキックのフォームを崩さず、リズミカルに連打していく――っ! ミートくんも避けるので精一杯か~~っ!?』
ミートくんは巧みなフットワークでそのことごとくを回避していった。
体重差もあるため受けが効かない。ゆえにそうせざるを得ないのだ。
「ハラハラする~~っ!」
当たれば一撃で勝負が決まりかねない攻防に、リングサイドに立つ万太郎も気が気じゃない。
そんな中、ミートくんがその小さな身をさらに小さく屈める。
「ここだ!」
『アクション仮面のローキックを掻い潜り、ミートくんが軸足に体当たり――っ!』
ローキックを放つその瞬間は、必然的に体勢が片足立ちになる。
ミートくんはそこを狙い、アクション仮面の軸足に肩からぶつかっていった。
『さしものアクション仮面も転倒~~っ』
両足で立っていればグラつくだけで済んだだろうが、不安定な片足立ちではそうはいかない。
アクション仮面は受け身にも失敗し、仰向けにダウンする。
鮮やかな反撃――しかし、鮮やかすぎる。
キン肉ハウスで何度もスパーリングしてきた万太郎は不思議に思う。ミートはあんなにテクニックに秀でた超人だっただろうか?
タイミングの見極め方、全身でぶつかっていく思い切りの良さ、あれはまるで――
「い、今ミートの動きにケビンマスクを見たような……」
慣れ親しんだ小さな姿に、自身最高のライバルの影が重なった。
『ミートくんはその間、トップロープにのぼり……』
ロープ上段から狙いを定めるミート。
ターゲットはもちろん、ダウン状態にあるアクション仮面だ。
「ミートキッズ魚雷――っ!」
『アクション仮面のみぞおちにヘッドダイブだ――っ!』
トップロープという高い位置から、頭を下にして落ちる必殺技。
わずかでも目測がずれれば自爆。そんな大人でも躊躇する技をスピーディに繰り出すこの勇猛さは――
「こ、今度はテリー・ザ・キッドがタブって見える!」
まさしくテキサス・ブロンコのそれだった。
「グオオオオ~~ッ」
『アクション仮面、悶絶~~っ! 小兵であるミートくんの一撃が効いているぞ――っ!』
鳩尾直撃弾をくらい、キャンバスの上を叫びながら転げ回るアクション仮面。
対するミートは後ろに下がる。
『そしてミートくんは絶好の追撃チャンスだが……警戒しているのかアクション仮面から十分に距離を取り、次なる攻撃タイミングを窺っている――っ』
ロープ際まで後退してきたミートに万太郎が話しかける。
「ちょっと慎重すぎないかミート」
敵は強大。警戒は必要だが、万太郎には今が絶好のチャンスだったように思えてしまうのだ。
だがミートくんは首を振った。
「相手はあのアクション仮面。超人レスラーとしては新人でも、戦士としての経験値はボク以上。加えて、ボクと彼との体格差では生半可な打撃技、関節技はたやすく返されてしまうでしょう。ここは天使のように細心に、相手の隙を狙い続けるのが寛容です」
天使のように細心に――そのフレーズはまさしくケビンマスクが超人オリンピック・ザ・レザレクションで多用していたものだ。
「フッ……天使のように細心に、されど悪魔のように大胆にはならずか」
アクション仮面もそのことに気づいたのか、起き上がりつつ不敵な笑みを浮かべる。
「アレキサンドリア・ミート。おまえはそこにいる万太郎くんのような一流の戦闘超人ではないが……新旧の一流たちを間近で見てきた経験がある。攻撃タイミングを読むのはお手のものだろう」
『さすがはケビンマスクの猛攻にも耐えたアクション仮面。鳩尾直撃弾とはいえ、一発程度では沈まない~~っ』
新旧の一流たちを間近で見てきた経験――それはミートだけが持つ、唯一無二の武器。
万太郎は震撼する。
「そ、そうか……ミートはボクら
30年以上前に活躍した伝説超人と、21世紀の最前線で闘う新世代超人。
時代を跨ぎ2大正義超人の長所を間近で見てきたミートは、実年齢以上の経験値を積み上げているのだ。
「おお……」
経験という武器を活かしたミートの立ち回りは、5才の子供であるしんのすけを感嘆させるほどのものだった。
「しんのすけくん、君にもわかるんだね。ミートがどれだけレベルの高いことをやっているのか」
さすがは日頃からアクション仮面などのテレビ番組を通してバトルものの流儀を知るキッズ。
万太郎もうんうんと頷くが、
「ぜんぜんわからん」
直後にしんのすけが困り顔でそう言い、ドテーッとひっくり返るハメになった。
しんのすけはどこからか持ってきたカーディガンをプロデューサー巻きにし、テレビ業界の大御所のような佇まいで言う。
「もっと子供が楽しめるような内容じゃないと視聴率取れないよ。来期は覚悟してね」
「そんな~~っ、打ち切りだけは~~っ」
万太郎は現場の苦労を知るディレクターの思いでプロデューサーに縋った。
緊張感のない掛け合いに、リング上のミートくんがハリセンを抜く。
「人が真剣に闘ってるときになにやってるんですか――っ!」
「のわ――っ!? だからなんでボクだけ――っ!?」
万太郎をひっぱたき即座にリングへ戻った。
一瞬中断してしまったが、試合再開。
アクション仮面はしんのすけの発言から次に仕掛けるべき一手を選び取る。
「子供が楽しめる試合内容か。となれば、やはり……派手な必殺技だろう」
ニヤリと笑み、腕を胸の前に持っていった。
『あ――っとアクション仮面が両腕を前に構えた――っ! これはまさか――っ!?』
ボクシングのピーカブースタイルに似た構え。
アクション仮面がこの構えを取る意味といえばひとつしかない。
左右の腕から電撃のようなバチバチとした光が迸る。
「アクション……ビィ――――ム!!」
日本中の子供たちが真似するその技名を叫び、両腕から光線が放たれた。
一直線にミートくんを狙った、必殺“アクションビーム”である。
「うわっ!?」
ミートはそれを横っ飛びで回避。
ビームの着弾した箇所が黒く焼け焦げる。
『出ました~~っ! ケビンマスクをKO寸前まで追いやった恐怖の殺超人光線アクションビーム! ミートくん、これまたギリギリで躱す~~っ!』
間一髪の回避に冷や汗をかくミート。
アクション仮面は立ち位置を変えず、体の向きだけを変えて再度ミートを狙う。
「アクションビーム! もう一発……アクションビーム!」
アクションビーム――まさかの連射。
テレビ番組“アクション仮面”内でもそうそう見る機会はない豪勢な連続攻撃だ。
が、しかし。
「よっ! ほっ!」
ミートは器用に体を操り、そのことごとくを避けていく。
アクション仮面も標的が動くたびに照準を合わせ直し、ビームを発射した。
『アクション仮面、アクションビームの乱射! ミートくんはこれを飛び跳ね、寝転がり、なんとか避け続けるが……危なっかしくて見ていられない~~っ!』
射撃とは的が小さければ当たりづらいもの。それが動く的ともなればなおさらだ。
歯噛みするアクション仮面。
なかなか攻撃を当てられず苛立っているようにも見えるが――
「まずい……」
万太郎は別の懸念を抱く。
「たしかにまずいな」
「えっ?」
万太郎のつぶやきに続く声があった。
足もとにいるしんのすけではない。
すぐ後ろに立っていた――古めかしいマント姿の男である。
身長は万太郎と同程度。全身を包み、頭もフードで隠しているため正体が窺えない。
少なくともブラックメケメケ団や遊園地のマスコットではないようだが……何者だ?
「あのアクションビームという技……連発するのにさほど消耗はないと見える。となれば、先に尽きるのはミートの体力のほう……アクション仮面もビームの出力をわざと抑え、体力削りを主眼に置いているふうだ」
謎の男は万太郎やしんのすけは眼中にない様子で、リングのほうを向いている。
その試合内容を正しく分析しているといえる独り言には、万太郎も同意見だった――が。
「逃げ惑わせじわじわと追い込む……これは超人格闘技というより狩りの手法だぜ~~っ」
どうにも不気味だ。
というか、シンプルに怪しい。
「なんだあいつ~~っ? いつの間にSSAに入ってきたんだ~~っ?」
イベントもないSSAに……それも悪の戦闘員やパンストを被った変態、テナガザルにキグルミが大勢集まる空間に平然と入ってくるなど、不審者以外の何者でもない。
万太郎は静かに距離を取ろうとするのだが、
「あ! しんのすけくん!」
恐れ知らずなしんのすけはマント男の足もとまで歩み寄っていく。
そして言うのだ。
「今日はFRUITS ZIPPERのライブやってないよ」
ズデ~~ン!とコケる万太郎。
「教えてくれてありがとうよ。だがあいにくアイドルには興味ないねぇ」
「えー。オラのアニメの主題歌歌ってくれてるのに?」
明らかな不審者を相手に怖がりもせず会話するしんのすけ。大物だ……。
怖がらないどころか、しんのすけは目を細めゾゾゾと顔を青くする。
「もしかしておじさん……オトコが好きなヒト?」
今日日5才児の発言だったとしても許され難いセリフだ。
しかしマント男は怒ったりせず、脅かすように言う。
「そうだなぁ~~っ。おまえみたいな幼いガキや……今リングで闘っているようなチビには興味津々だぜ――っ」
オトコ……いや、オトコのコが趣味なヒト!?
しんのすけはそそくさと万太郎のもとに戻り、その後ろに隠れた。
「オ……オラには、ななこという心に決めた相手が」
「ククク……横恋慕の趣味はねえから安心しな」
「なんて会話をしとるんだこの5才児は」
呆れる万太郎だったが、それよりも気にかかるのは目の前のマント男だ。
この声、話し方は――
「あんた……どこかで会ったことがある気がする」
正面に立ってもフードの奥の素顔は見えないが、どうにも聞き覚えがある。
万太郎が指摘すると、男はより深くフードを被り直した。
「気のせいだろ。ボクは田舎者の観光客さ」
自分で田舎者を自称するとは、どうにも胡散臭い反応だ。
だが万太郎の疑りなど知ったことではないのか、マント男は引き続きリングのほうを注視する。
「偶然この大きな建物を見つけて……なんだかおもしろそうなことをやっている気配を感じ見物に来ただけ。詮索は無用だぜ」
「そ、そうか……」
万太郎も男が放つ妙な迫力に押され、言葉を見失う。
その次の瞬間――
『あ、あああ~~っ!?』
実況の大声が耳に飛び込み、咄嗟に万太郎もリングのほうを見た。
ちょっと目を離した隙に試合展開が動いている。
なんとアクション仮面がミートの首――それも喉元を掴み、自身の頭の高さまで軽々持ち上げていたのだ。
万太郎の絶叫が飛ぶ。
「ミート――――ッ!?」