アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面”   作:速筆魔王LX

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第007話 開戦!ケビンマスクvsアクション仮面!!

 春日部スタジアムの放送席には、今試合の運営を務める宇宙超人委員会委員長、イケメン・マッスルが妹のジャクリーン・マッスルと並び座っていた。

 イケメンは21世紀のトレンドとはほど遠い暑苦しい顔をカメラに近づけ、張り切ってマイクを取る。

 

『開戦のゴングはこの私! イケメン・マッスルが鳴らさせてもらう!』

 

 手にした小型の木槌で、超人レスリング開戦の際に鳴らすゴングを叩く。

 カ~~~~ンという高い音が響き渡り、ついにその瞬間は訪れた。

 

『今、イケメン氏によりゴングが鳴らされた~~っ! アクション仮面vsケビンマスク、幕開けです!』

 

 ワッと沸く場内。

 リング上のふたりも動き出すが、どちらもいきなり突っ込んでいったりはしない。

 まずは互いに距離を測りながら、先制するタイミングを窺う。

 

「超人レスラー・アクション仮面の記念すべきファーストアクション……繰り出す技は最初から決めていた」

 

 感慨深げに一歩前に出たのは、挑戦者であるアクション仮面のほうだった。

 

「アクション……パーンチ!」

 

 掛け声と共に駆け出し、ケビンマスクへ肉薄。

 Tシャツを着る彼の胸元、“d・M・p(デーモンプラント)”のロゴ付近を狙い拳を打ちつけた。

 

『出た~~! アクション仮面の伝家の宝刀、アクションパンチ! ただのパンチと侮るなかれ、その威力は鉄板を穿ち怪人を粉砕する威力だ~~っ!』

 

 アクション仮面の必殺パンチはケビンマスクの体をたやすく吹き飛ばし、大きく後退させる。

 

『ケビンマスク、いきなり直撃をくらってしまった――っ!』

 

 ダウンには至らなかったものの、ロープ際まで運ばれ膝がやや折れる。

 鉄仮面の上からでもわかるほどに表情を歪め、

 

「ウッ」

 

 苦しげな声を発したあと、折れかかっていた膝は結局折れた。

 チャンピオンがいきなり片膝をついたのだ。

 

 アクション仮面の先制攻撃成功を受け、客席の野原一家も盛り上がる。

 

「おおー、アクション仮面つよい~~っ」

「あら、ケビンマスクってたいしたことないのね」

「ま、まさか。超人オリンピックのチャンピオンだぜ?」

 

 推しの活躍に嬉しがるしんのすけ、拍子抜けしたようなみさえ、困惑のひろし。

 始まって数秒で醜態を見せるライバルの姿に、万太郎はぐぬぬと顔を赤くした。

 

「こら~~っ! ケビン! おまえが瞬殺なんてされたらボクの格まで落ちちゃうだろうが~~っ!」

 

 万太郎は超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝でケビンと闘い敗北した身。

 ケビンが“たいしたことないやつ”になってしまったら、それに負けた自分は“もっとたいしたことないやつ”になってしまう。

 

 ただ、それは建前。

 万太郎は自分への評価を抜きにしても、本心ではケビンを応援したいのだろう。

 だがそれを正面から口にするのは恥ずかしいから、こんなふうに不器用な罵声を浴びせている。

 

「も~~っ、Ⅱ世ってば。もっと素直に応援できないんですか?」

 

 ミートは万太郎の気持ちを理解しながら、微笑ましそうに苦言を呈した。

 

 そんなライバルの大声は、リングにいるケビンマスクの耳にも届いている。

 

「フフ……万太郎のやつが客席で騒いでやがるな。あいつの見ているところで無様は晒せねえ。気合を入れ直すか」

 

 超人レスラーはタフなもの。

 やられ役の怪人のようにパンチ一発で終わったりなどはしない。

 

『ケビンマスク、難なく立ち上がった――っ!』

 

 ケビンマスクはダメージを感じさせない様子でアクション仮面に語りかける。

 

「よおヒーローさんよ。テレビの怪人相手なら今の一撃でエンディングまでもっていけたんだろうが、あいにくあんたの目の前にいるのは老舗の超人レスラーだ。勝負はまだまだこれからだぜ」

 

 多くの敵を退けてきたアクションパンチを耐えられ、しかしアクション仮面はニヤリと笑う。

 

「ふっ。私としても、憧れの超人であるロビンマスクの息子がこの程度とは思っちゃいないさ」

「ダディが……憧れだと?」

 

 偉大なる父親の名を出され、ケビンマスクは意外そうな反応をした。

 アクション仮面は続ける。

 

「ロビンマスク先生をはじめとした伝説超人(レジェンド)のお歴々は、いわばヒーローの先輩だ。尊敬しないわけがないだろう」

 

 今から30年以上前に活躍していた伝説超人と呼ばれる正義超人たち。

 生きた時代は違えど、いやだからこそ、彼らはアクション仮面のヒロイズムに多大な影響を与えたのだ。

 ケビンマスクはフッと笑い、反撃に移る。

 

「ならば味わわせてやろう! ロビン王朝(ダイナスティ)の恐ろしさを!」

 

 片手をキャンバスにつけ、姿勢を落として前のめりに。

 ラグビーなどで見られるタックルのフォーム――これは大学時代にラグビーをやっていた父ロビンマスクを源流とする技だ。

 

『あ――っと、これは――っ! 父ロビンマスクも得意とするライナータックルの姿勢だ――っ!』

 

 実況が反応したところで、ケビンマスクはスタートを切った。

 

「デリャァ――ッ!」

 

『ケビンマスク、突っ込んだ――っ』

 

 イノシシのごとき突進。

 されどケビンマスクに牙はなく、代わりに両腕を突き出す。

 相手の腰にしがみつき、テイクダウンを狙った。

 

「グゥ~~ッ」

 

 組みつかれ、倒れまいと下半身に力を込めるアクション仮面。

 しかしケビンマスクの突進の勢いを殺す手段はなく、全身が後方へ押しやられる。

 

『アクション仮面の体が滑るように下がる――っ!』

 

 このままではリングの外側まで追いやられてしまう――とアクション仮面に緊張が走った矢先。

 

「グッ!?」

 

 後ろへ向けられていた力のベクトルが、急に下へと変わっていった。

 結果、

 

『膝をついた――っ!』

 

 アクション仮面の両膝がキャンバスにつき、ダウンも同然の体勢となる。

 ケビンマスクが仕掛けた技は、原始的な体当たりなどではなく技術的なタックル。

 単発で終わらせるものではなく、次の技への“繋ぎ”が目的だ。

 

「ロビン王朝を味わってもらうなら、やはりこの技をおいて他にないだろう!」

 

 ケビンマスクは体勢が崩れたアクション仮面の首と脚を左右の手で捕らえ、一息に頭上まで持ち上げる。

 空中で仰向けの体勢にされたアクション仮面は、そのままケビンの頭上で体を弓なりにされた。

 

「タワーブリッジ――――ッ!!」

 

 相手の背中にロビン王朝の象徴である鉄仮面の突起を突き刺し、そこを支点にして首と脚を腕で下方向に引っ張る。

 さすれば相手の背中はアムステルダムの跳ね橋のように真っ二つに折れてしまうことだろう。

 

『出ました~~っ! こちらも伝家の宝刀、ケビンマスクのタワーブリッジだ――っ! ロンドンの誇りが埼玉県春日部市に完全顕現! 日本のヒーローを背骨からへし折りにかかる~~っ!』

 

 伝説超人ロビンマスクが得意とし、新世代超人(ニュージェネレーション)ケビンマスクももちろん大得意とするこの技。

 餌食となったアクション仮面は、苦しそうにする一方で一種の感動を覚えていた。

 

「こ……これがタワーブリッジ。ギロチンキングにジャンクマン、パルテノン等……数々の悪行超人を打ち破ってきた技か~~っ」

 

 憧れの超人の必殺技をその身に受ける。一格闘者としてこれほど光栄なことはなかった。

 しかし追い詰められているのも事実。感動している間にKOなど笑い話にもならない。

 

「ヒーロードラマに背骨を極められるシーンなどないだろう! さあ、どうやって攻略するつもりだ!?」

 

 ケビンマスクの言うとおり、子供向け特撮ヒーロー番組は“派手な画”が求められるもの。

 ゆえに、こういう実戦的だが地味な技はアクション仮面のレパートリーにはない。

 

「ウググ……」

 

 だが――それはそんじょそこらの中堅ヒーロー番組ならの話。

 長年続く老舗ヒーロー番組“アクション仮面”の主役を務めてきた彼は、無数の手札を持っている。

 それを証明すべく、アクション仮面は極められていない両腕を伸ばした。

 

「こちょこちょこちょ」

 

 手がフリーになっていることを活かし、タワーブリッジを極めているケビンマスクの脇腹をくすぐったのである。

 

「ぶはははは!」

 

 思いもよらぬ刺激にケビンマスクの体が弛緩し、両腕による拘束も緩んだ。

 その隙を見逃さず、アクション仮面は身をよじることでタワーブリッジから逃れる。

 

『な……なんと、くすぐり攻撃だ――っ!? アクション仮面、天下のタワーブリッジをくすぐりで脱出した――っ!』

 

 伝家の宝刀を、まさかのくすぐりで攻略されたケビンマスク。

 アクション仮面を忌々しげに見つめながら、頭にはブタ鼻のライバルの顔を思い浮かべていた。

 

「ヤロ~~ッ、どこぞのアホみたいな真似しやがって~~っ」

「誰のことを言っているのかはわからんが、ヒーロードラマもシリアス一辺倒というわけではない。ときにはこういう闘い方を求められるときもあるのさ」

 

 方法は冗談じみていても、アクション仮面は大真面目にやっている。

 客席から笑いが飛ぼうとも緊張感は崩さず、毅然とした態度でケビンマスクに向き直った。

 

『さあ~~っ、アクション仮面vsケビンマスクの一戦は早くも大白熱! まさに大人気ヒーローのデビュー戦にふさわしい展開だ――っ!』

 

 試合はまだ始まったばかり。

 ここからさらに盛り上がる展開が待っているに違いない――観客の誰もがそう思っていた。

 

 しかし、ただひとり。

 リングから視線を外し、空を眺めている子供がいた。

 

 春日部在住の幼稚園児――鼻から垂れた鼻水がトレードマークの男の子、ボーちゃんである。

 

「…………」

 

 ボーちゃんは無言のまま、空をじっと見つめる。

 

「空が気になるの?」

 

 隣りにいたボーちゃんの母親が、我が子の様子に気づき尋ねた。

 ボーちゃんは答える。

 

「この空……暗い!」

 

 彼が得た気づき――それは、急激に暗くなっていった空模様。

 先ほどまで快晴だったはずなのに、いつの間にか暗雲が立ち込めてきたのだ。

 

 その変化には他の観客たちも気づき始める。

 野原夫妻もまた、視線を空にやっているところだった。

 

「な、なんか急に空がどんよりしてきたなぁ」

「やだ~、洗濯物干しっぱなしで来たのに」

 

 春日部スタジアムに屋根はない。

 このまま雨でも降ろうものならずぶ濡れになってしまうだろう。

 

「おかしいですね。天気予報では春日部は一日中晴れのはず……」

 

 そばにいたミートくんもまた、黒雲を眺めながら訝しげな表情を浮かべる。

 事件はその次の瞬間に起こった。

 

 

 ごろごろごろ…………

 

 ぴしゃーん!

 

 

「アア――ッ!」

 

 突如として響き渡った、雷鳴と悲鳴。

 頭上の暗雲により暗くなっていたリング内が一瞬、閃光により白む。

 

『な……なななななんということだ――っ!? 突如として春日部スタジアムを覆った雷雲から雷が落ち……あろうことか試合中のリングに直撃~~っ!』

 

 落雷によるものか、リング内は黒いモヤのようなものに包まれる。

 客席からではアクション仮面もケビンマスクも視認することができなくなっていた。

 ミートと万太郎は椅子から身を乗り出しよく目を凝らす。

 

「アクション仮面に落ちたように見えましたよ!」

「そんなバカな……アクション仮面は無事なのか――っ!?」

 

 しんのすけも椅子から飛び上がり、大声量で憧れのヒーローの名を呼んだ。

 

「アクションかめーん!」

 

 試合中開始早々に起こってしまった最悪の天災(アクシデント)

 はたしてアクション仮面とケビンマスクは無事なのか――?

 

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