アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『ミートくんが捕まった――っ! 回避の連続で疲労したところをアクション仮面が一掴み! 片手でのネック・ハンギング・ツリーに極めた――っ!』
大人が子供の首を掴み高々と持ち上げる――シンプルだが強力な極悪技だ。
そのショッキングな絵面に、リングサイドで観戦中の万太郎としんのすけも悲鳴を上げる。
「ミート――ッ!」
「あひぃいい! 母ちゃんでもあんなことしないぞ!」
子供への折檻描写ひとつ取っても厳しい昨今のメディア事情、首を掴んだりすればクレームの嵐は必定。
だがアクション仮面はそんなバッシングなど微塵も恐れたりはせず、己の正義を実行する。
「さて、このまま首の骨を折ってやろうか。それともコーナーの鉄柱に叩きつけられるのがお好みか?」
ねっとりとした笑みを見せながら握る力を強くするアクション仮面。
「ンググ~~ッ」
ミートくんは苦しそうに抗う。
自身の首を掴む腕を引き剥がそうと己も両手に力を込めるが、そもそも腕力が違いすぎる。ネック・ハンギング・ツリーはまったく解ける気配がなかった。
「無駄だ。貴様のような小兵では私の力には抗えまい」
もはや勝利を確信しているのか、アクション仮面は高笑いでもしそうな雰囲気だ。
大人の力は絶対。子供であるミートくんにはもはや為す術なし――とはならない。
「こ……小兵だからこそできる技というものもある」
勝ち筋を模索する瞳が眼鏡の奥で光る。
ミートはアクション仮面の腕から手を離し、上方向へ大きく振り上げた。
そして、吊り下がっていた両脚と共に肘・膝を突き出す形で繰り出す。
「閉門クラッシュ!」
『あ――っとミートくん、両肘と両膝でアクション仮面の右腕をサンドイッチだ――っ!』
両肘と両膝で門を閉じるかのような一撃。間に肉が挟まれようものならひとたまりもない。
「グアアッ!?」
アクション仮面の右腕と顔が悲鳴を上げ、握力消失。
解放されたミートくんがキャンバスに降り立つ。
そしてすぐさまアクション仮面の左脚に狙いを定め、反撃へと移った。
「ミート・カーフチョッパー!」
『続けてふくらはぎにダイレクトキック――ッ!』
蹴りで狙い撃ったのは、脚の裏側――カーフ(ふくらはぎ)。
正面からでは狙いづらい箇所ではあるが、小柄なミートくんであるなら潜り込んでそこを打つことができる。
「おお! 21世紀格闘技界のトレンド技カーフキック!」
「え? 20世紀のミスタータイガース掛布キック?」
しんのすけの小ボケはノーツッコミで流し、万太郎はカーフキックについて解説する。
「その名のとおり相手のカーフを狙うローキック! ふくらはぎは脂肪や筋肉が少なく、衝撃が神経へダイレクトに伝わりやすい……軽く打たれただけでも脚のコントロールが効かなくなり、立っていることすら困難になるまさに魔法のような蹴り技だ――っ!」
小兵が巨人を倒すにはうってつけ、それでいて
ミートはコールドスリープから目覚めた21世紀にそれを修得したのか、淀みのないフォームで連続蹴りを繰り出す。
『アクション仮面の足もとに潜り込んでの連続カーフキック! まさに小兵のミートくんならでは! 体格差があるとはいえこれは効く~~っ!』
キック一発一発の威力は大したことはない。それでも弱所を執拗に狙われればダメージは蓄積する。
アクション仮面の膝がガクッと折れた。
「グウウ、小癪な」
『アクション仮面、片膝をついた――っ』
万太郎としんのすけの後ろで試合を眺めていたマント男が言う。
「ありゃしばらく動けないねぇ」
素人目でもそう判断できるほどの苦しそうな表情。
実際そのとおりで、アクション仮面はしばし身動きが取れなくなった。
チャンスとばかりにミートくんが次の手を打つ。
『ミートくんはその間に背後から腰を捕らえる――っ』
超人レスリングならばここから多種多様な技が展開できるであろう腰へのクラッチだ。
ミートはアクション仮面の腰を捕らえながら、リングサイドの万太郎を見て言う。
「クイズですⅡ世。あなたのお父上であるキン肉スグル様……伝説超人キン肉マンの技の中で、ボクが一番好きな技はなんだと思いますか?」
唐突なクイズに思考を巡らせる万太郎。
父キン肉マンの技など“48の殺人技”を筆頭に無数にあるが、一番ともなると選択肢は絞れそうだ。
「ミートの一番好きな父上の技……やっぱりキン肉バスターかキン肉ドライバー?」
「オラはキン肉マン音頭でファイナルアンサー」
「それは技じゃねえなぁ」
万太郎はキン肉マンのレパートリーの中でも知名度が高い技を、しんのすけは昔のテレビアニメでは定番だった夏の盆踊り風ソングの名を挙げマント男にツッコまれたりなどするが、ミートの反応は――微笑。
「残念ながら不正解! 正解は今からお見せしましょう!」
それはキン肉バスターでもキン肉ドライバーでもキン肉マン音頭でもない、誰にも予想できないであろう意外な選択肢。
ミートは両腕に力を込め、強くキャンバスを蹴った。
『ミートくん、アクション仮面を捕らえたまま飛んだ――っ』
自身の倍以上あろう体重を持ち上げて飛び、
『そして後方へ……美しい曲線を描いて反り投げる――っ』
そのダイナミックなムーブはハワイ諸島にある有名な活火山のように雄大。
「あれは……48の殺人技のひとつ、キラウエア落とし!」
万太郎はミートが繰り出した技の正体に気づくが、
「ボクはあえてこう呼びます!」
技を仕掛ける張本人はこだわりを込めてその名を叫ぶ。
「バックドロップだ――――っ!!」
プロレス技としてはオーソドックスにもほどがある、しかしその実確かな技術とフォームが備わっていなければ完成しない妙技。
それこそが、プリンス・カメハメ直伝“48の殺人技”キラウエア落としこと至高のバックドロップ。
かつて飛翔チームの一員・ミキサー大帝に炸裂させた
『ぶ……ぶん投げた――っ! あのちびっ子ミートくんがアクション仮面を豪快にバックドロップ! 往年のキン肉マンを思わせる溌剌としたファイトを見せつけた――っ!』
ミートはまだ子供。子供ならもっと派手で格好いい必殺技を好みそうなものだが、これが一番とは。
「シブいな~~っ、ミート」
万太郎はそう言いながら感心する。
技を決められたアクション仮面は、
「ゴハッ」
『アクション仮面、ダウーン!』
首から倒れ、そのままキャンバスに伏した。
その横で、ミートくんがハァハァと息をつく。
「ミ……ミキサー大帝はこれでKOできたけど……」
乾坤一擲の思いを込めて放ったバックドロップ。ミート自身の消耗も激しい。
願わくばこのまま倒れていてほしいという願いを込めた眼差しを向ける。
「ボクの目から見ても完璧なバックドロップだ! このままミートのジャイアントキリングだぜい!」
多くの悪行超人を倒してきた万太郎は、身内の贔屓目なしでそう見ていた。
しかし隣にいるしんのすけは、
「アクション仮面、負けちゃうの?」
どこか悲しそうな表情を浮かべて問いかけてくる。
「そ、それは……」
ミートが勝利するということは、アクション仮面が敗北するということ。
憧れのヒーローが目の前で負けて悲しまない男の子はいない。万太郎はしんのすけの心中を察した。
「心配はいらないよ、しんのすけくん」
そんなしんのすけへ、キャンバスに伏したままのアクション仮面が優しく語りかける。
「私は正義の味方アクション仮面。これしきの攻撃で沈むほどヤワではない」
アクション仮面がバックドロップなどという平凡な技で沈むものか。
キャンバスに片肘を立て、そこから一気に体を持ち上げた。
『アクション仮面が立ち上がる~~っ! さすが数々の悪の軍団と闘ってきたヒーローオブヒーロー! そのタフネスは尋常のものではないか――っ!?』
が――しかし。
「なっ……!?」
立ち上がった途端に体を支える両脚がガクガクと震え、本人の意志とは関係なしに全身が崩れ落ちてしまう。
『あ~~っとどうしたアクション仮面!? 立ち上がったかと思えば再びダウン! やはりミートくんのバックドロップは効いていたのか~~っ!?』
真っ黒になってしまったマスクの奥で困惑の表情を作るアクション仮面。
おかしい。今しがたくらったバックドロップはたしかに見事な一撃だったが、それにしてもダメージが大きすぎる。
いったいなぜ……?
「効いていたのはバックドロップだけではありませんよ」
困惑が続くアクション仮面を見下ろしながら、ミートくんが言う。
「忘れていませんか? アクション仮面。あなたはついさっきケビンマスクとの激闘を終えたばかりということを」
ついさっき――それはワープホールで場所をSSAに移す前、春日部スタジアムで行われたデビュー戦のことだ。
万太郎たちが駆けつけるまでインターバルはあったものの、たしかにあれから時間はそう経っていない。
そして先の試合で、アクション仮面はケビンマスク最大の必殺技をくらってしまった。
そう――レゴックスやイリューヒン、キン肉万太郎など数々の強豪を沈めてきたビッグベン・エッジを。
「ケビンが放ったビッグベン・エッジのダメージはあなたの首に蓄積されている! ボクはバックドロップで同じ箇所を狙いダメージを上乗せした……つまり今の一撃は、ボクとケビンの力を合わせた豪華コラボレーション技というわけだ――っ!」
ビッグベン・エッジもバックドロップも、相手の首に特大のダメージを与える一撃。
ミートはなにも、お気に入りだからという理由でバックドロップを仕掛けたわけではない。
アクション仮面が先のケビンマスク戦で首を弱めていると考え、最も効果的な技を選択したのである。
「な、なんだと~~っ!?」
驚愕するアクション仮面。
これが正義超人界随一の頭脳と呼ばれる超人の戦略……さすがは2世代を渡り歩いた“叡智の子”!
「スゲ~~ッ! ミート!」
他の超人では真似できない、ミートならではの試合運びに万太郎も大興奮。
「おお~! な、なんだって~~っ!?」
超人レスリングには明るくないしんのすけもそれに続いて甲高い声を上げた。
だがそのどこかわざとらしいリアクションに、マント男が小声で言う。
「意味わかって言ってんのかい、坊や」
「……流行りには乗っかっておかなきゃと思って」
「子供も大変だな」
細かな戦術や戦略といったものは、5才の子供にはどうにも理解できないもがあった。