アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
敬愛する主、キン肉星第58代大王キン肉マンことキン肉スグルの魂が乗り移ったかのような美しいバックドロップを決めたアレキサンドリア・ミートくん。
ダウン状態から起き上がることができないアクション仮面は、キャンバスに顔を伏せたままギリッと歯を噛み鳴らした。
「グググ……相手の弱所を集中的に狙うなど、なんたる陰湿な真似を」
呼吸を荒らげながら吐き出される負け惜しみに、リングサイドから固唾をのんで見守っていたしんのすけと万太郎が顔を見合わせる。
「弱点狙いならアクション仮面もよくやるゾ」
「敵の弱点見つけて必殺技撃つのって盛り上がるもんな~~っ」
ギャラリーの無邪気かつ真理を突いた指摘に、アクション仮面は悔しさに身を震わせた。
それでもなお、折れぬプライドが彼を突き動かす。
「正義の味方がこの程度の傷でやられるわけには……」
立ち上がろうと腕に力を込めた瞬間、しかし激痛が走り、口から鮮血が吐き出された。
「カハッ!」
『アクション仮面、吐血――っ! やはりチャンピオン・ケビンマスクの
もはや立ち上がる余力すら残されていない。
まさか小兵ミートくんのバックドロップがここまで効くとは――春日部スタジアムから中継で試合を見守る観衆たちも、アクション仮面のデビュー2連敗を想像し始めた。
が、しかし。
「まだだ……まだ私は……」
アクション仮面は諦めない。
「倒れるわけにはいかん!」
怨念めいた執念で強引に体を起こす。
そして次の瞬間――彼の胸元と腰元から、空間を切り裂くような強烈な光が迸った。
「っ!?」
直前まで油断なく敵を観察していたミートくんが、思わず両腕で目を覆って後退する。
リングサイドの万太郎たちも激しい光の奔流に目を焼かれ、悲鳴を上げた。
「な、なんだ~~っ!?」
「まぶしぃ~~っ」
強烈な光はもちろん中継用のカメラをも焼く。
『こ、これは――っ!? アクション仮面の胸に埋め込まれたジェネラル・ストーンと、ベルトのバックルに収納されたアクション・ストーンが共鳴し……まばゆい光を放っている――っ!?』
キュインキュインキュイン……!
耳鳴りのような高周波の音が鳴り響く。
あまりの光量に試合は中断を余儀なくされ、実況アナウンサーすらモニターを細めで見るのが限界の様子だ。
『ひ、光の勢いはだんだんと弱まっていき……』
やがて発光が収まり、目が慣れてくると、リングの上の光景が再び視界に飛び込んできた。
『発光が完全に収まったリング上では……な、なにも変化は起きていないように見えるが……』
アクション仮面は依然として満身創痍のまま肩を上下させている。
対戦相手のミートくんにも特に変わった様子はない。
「なんだったんだ、今の?」
リングサイドの万太郎が首を傾げ、訝しげに眉をひそめた。
「ウウ……」
アクション仮面は立ち上がりはしたがやはり限界なのか、今にも倒れそうな様子。
と、そこへ。
「――アクション仮面!」
リングの外、アクション仮面の背後から、凛とした甲高い少女の声が静寂を破った。
「なっ!? 君は……」
ハッとして振り返ったアクション仮面の目が、大きく見開かれる。
「ミミ子くん!」
そこに立っていたのは――お団子頭にセーラー服を纏った、可憐な少女の姿であった。
「なんだあの女の子は――っ!?」
「ボクのようについ迷い込んでしまった観光客か~~っ!?」
「オラ知ってるー!」
突如現れた闖入者に万太郎とマントの男が面食らう中、しんのすけだけが手を挙げてそう言った。
それもそのはず。
テレビ番組『アクション仮面』のレギュラーヒロインを、アクション仮面マニアの彼が知らないはずがない。
「私は桜ミミ子! アクション仮面の頼りになるパートナーよ!」
セーラー服の裾を翻し、ポーズを決めて颯爽と名乗る少女ミミ子。
万太郎もその名に聞き覚えがあった。
「ミ……ミミ子ちゃんって……よく敵に捕まっては人質となり、アクション仮面の足手まといになる、あの!?」
「失礼ね! ……否定できないけど」
本人としても自覚のある汚点を突かれ、恥ずかしそうに頬を染めるミミ子。
ミートは言う。
「彼女はアクション仮面と同じくテレビ番組上の存在……フィクションのキャラクターです。ということは、ミミ子ちゃんを演じる役者の子が?」
アクション仮面こと郷剛太郎は役名と俳優名が同じであり、今回正義超人としても同名で活動することになったため、ある意味ではノンフィクションキャラクターと言える。
だが桜ミミ子は違う。正真正銘、架空のキャラクターのはずだ。
だからといって、役者の子がわざわざ桜ミミ子を名乗ってアクション仮面のもとに駆けつける意味がわからない。
「い、いや……あれはもしかして……」
考察を重ねていくうちに、ミートはまた別の答えにたどり着く。
しかしそれはにわかには信じがたい、はっきり言って自分でも否定したいような荒唐無稽な回答だ。
心の内で驚愕するミートを尻目に、ミミ子は小さな小瓶を取り出す。
「私はピンチのアクション仮面を助けるため、北春日部博士が作った新パワーアップアイテムを届けに来たの!」
「なんだって!?」
反応したアクション仮面に見せつけるように、手に持った小瓶をババーンと突きつける。
「その名も……
それはまるで、大衆薬局で売られているような栄養ドリンクの瓶であった。
ラベルには凛々しい姿のアクション仮面のイラストがプリントされている。
「DXアクションドリンク……SA!?」
「第2類医薬品よ!」
医薬部外品でない……つまり、効能が強くお値段もお高いドリンク剤ということか!
「受け取って! アクション仮面!」
ミミ子の手から放たれた小瓶が綺麗な曲線を描いてリング上へ飛ぶ。
それを危なげなくキャッチしたアクション仮面は、素早い手つきでキャップをひねり外すと、腰に手を当てて一気に口へと流し込んだ。
「喉越しスッキリ後味さわやか。溜まっていた疲れが一瞬で吹き飛ぶようだ」
アクション仮面はそのままテレビコマーシャルに使えそうな感想を口にし、キャップをしめ直して空き瓶をミミ子へ投げ返すと、今度はミートのほうに向き直った。
「ウォオオオ! 力がみなぎってきた――っ!」
先ほどまでの死に体の姿が幻想であったかのように、全身の筋肉を脈動させて力強く咆哮するアクション仮面。
その勇姿を満足そうに見届けたミミ子の体はスゥーッと薄くなり、まるで霧のように消え去ってしまった。
「ミ、ミミ子ちゃんが消えた!?」
反対側のリングサイドで怪奇現象を目撃した万太郎としんのすけ。
生身の人間が透明になって消えるなどあり得ない。ミートくんの推察は確信へと変わった。
「やっぱり! あれはジェネラル・ストーンとアクション・ストーンが干渉し合った結果、次元の扉を開き……別世界から召喚されたミミ子ちゃんだったんだ――っ!」
別世界からの召喚――ハイグレ魔王、メケメケZ、パラダイスキング、マカオとジョマ等“真・正義超人軍団”を呼び寄せたのと同じ現象を、アクション仮面はサタン抜きでやってみせたのだ。
そしてただ呼び寄せるだけに終わらず、ご都合的なお助けアイテムまで作り出してみせるとは。
偶然この場に居合わせたマントの男は、壮絶な展開に眉をひそめる。
「アリかそんなの?」
「アクション仮面にはよくある展開ですな」
特撮番組の定番パターンを熟知する5才児の言葉どおり、ピンチの場面でヒロインが博士の新発明を持って駆けつけるのは、この作品における勝利の方程式であった。
『こ……これはもしや、アクション仮面が回復したのか~~っ!? 元気ハツラツと言わんばかりの表情でしっかりと立ち上がってきている~~っ! まさかこんな方法でダウンから立ち上がってくる超人がいようとは――っ!?』
ドリンク一本でこれまでのダメージがすべて帳消しになり、完全に形成が逆転してしまった。
「さすがにインチキじゃないの~~っ!?」
頭を抱えて抗議する万太郎へ、背後からマント男が静かに声をかける。
「アクション仮面はもともと、オレたちとは別のフィールドで闘ってきた戦士。なんでもかんでもオレたち超人の常識で計ることはできないってことさ」
素顔を深く隠したマント男の口ぶりに、万太郎が訝しげな表情を浮かべる。
「オレたちって、おまえ……」
「おっと」
マント男は慌ててフードを目深に被り直し、そっぽを向いて言葉を濁した。
問いただしたい発言ではある――が、リングの状況はそれどころではない。
アクション仮面の体力回復により、問答無用で試合が再開されようとしていた。
「完全復活を遂げた今、私が貴様に遅れを取る理由はない。覚悟しろ! アレキサンドリア・ミート!」
「クッ!」
身構えるミートくん。
次の瞬間、アクション仮面の姿が視界から消えた。
かろうじて目で追えたその移動先は――背後。
「う……後ろ!?」
察知したときにはすでに遅い。
「トア――ッ!」
長い脚が容赦なく振り抜かれる。
『アクション仮面、体格差がありすぎる極悪延髄斬りを放つ――っ!』
ドガッ!と凄まじい衝撃が後頭部を襲い、ミートはたまらずキャンバスへと突っ伏した。
「ア……ググッ」
視界が歪み、脳が激しく揺れる。
必死に意識を保とうともがくミートくんを、アクション仮面はあざ笑うかのように両手で掴んだ。
「そら!」
『倒れたミートくんを拾い、宙高く放り投げた――っ!』
大人が子供にやる“たかいたかい”などという微笑ましいレベルではない。
殺意の籠もった超高空への投げ放ち。
アクション仮面は落ちてくるミートくんの軌道を見極め、真下で両腕を広げて待機する。
「い、いったいなにをするつもりだ――っ!?」
万太郎が叫ぶ中、アクション仮面は落ちてきたミートくんの胴体を両手でがっちりと掴み直す。
『落ちてきたミートくんの胴を両手で挟み込むようにキャッチし、頭の上の位置に!』
アクション仮面の頭上で、小さな体を完全に捕らえられたミート。
両腕で脇腹を圧迫され、肋骨が悲鳴を上げる。
ここからまた投げつけるのか、それともキャンバスへ激突させる気か――アクション仮面の狙いはそのどちらでもない。
『そして……両腕に力を込め、ミートくんの体を万力のごとく圧迫する――っ!』
答えはその体勢を維持したまま、さらなるパワーを込めての圧迫。
アクション仮面は初お披露目となるその技名を叫ぶ。
「スクランブル・アクション・バイス――ッ!」
小さな体を絞め上げるその様は、まさに万力――いや“ザ・マンリキ”のごとし。