アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『こ、これは――っ!? アクション仮面のパワフルアームがミートくんのボディを押しつぶさんと
アクション仮面の頭上で両脇腹を押さえつけられる格好となったミートくん。
傍目から見れば、大人が小さな子どもを高く持ち上げてあやしているようにも見える微笑ましい絵面であるが――アクション仮面はこれに“スクランブル・アクション・バイス”と名をつけ、必殺技のつもりで放っている。
「なんだありゃ~~っ!? ただ両手で持って強めに押すだけ……あんなの必殺技でもなんでもない! 簡単に抜け出せるよ!」
リングサイドからその光景を眺め、万太郎は大したことないなとホッと息をつく。
しかし、その背後でフードを深くかぶったマントの男が冷ややかに言う。
「いや、ミートの体躯ではそれも難しい」
万太郎の注目を誘いながら、淡々と語った。
「あの状態……ミートの短い手足ではアクション仮面の体に満足に届かず、まさに手も足も出ないといった状態だ。先ほどはミートが小兵の強みを活かした攻撃を仕掛けていたが……このアクション仮面の技も相手が小兵のミートだからこそ成立する技。野郎、いやらしい意趣返しをしやがる」
男の指摘どおり、ミートは必死に手足をバタつかせているが、体勢的にも上手く力が込められずなかなか抜け出せない様子だ。
その顔つきは徐々に青ざめていく。
脳裏に蘇るのは、かつての悪夢のような記憶であった。
「か、体の両側からじわじわと圧されていくこの感覚……こ、これは……」
ミートの瞳に恐怖の色が浮かび上がる。
それを敏感に察知したアクション仮面は、底意地悪く口角を吊り上げた。
「フフフ、懐かしかろう。かつての貴様を苦しめた技は」
かつての貴様を苦しめた技――そう。
この痛みは、ミートくんにとって既知のものだった。
「ボクはこの痛みを知っている……ま、まさかこれは……」
思い起こすのは、アクション仮面の敵意の発端となった対ミキサー大帝戦と同じく“キン肉星王位争奪サバイバルマッチ”。
実はミートがリングに上がったのはその一戦だけではない。
「そう! この技は貴様がミキサー大帝を惨殺し勝ち上がった先……次戦で闘った技巧チームの超人ザ・マンリキのスクランブル・バイスを元にした技! 貴様にはあのときの苦しみを今一度味わってもらう!」
両肩にスクランブル・バイスという万力を備えた超人ザ・マンリキ――ミートはかつてその餌食となり、殺されかけた過去があるのだ。
「ウ……アアア~~ッ!」
『ミートくんの口から恐怖を訴えるような悲鳴がこだまする――っ! どうやらこれは見た目以上に恐ろしい技であるようだ――っ!』
肉体的な圧迫の激痛と、過去のトラウマのダブルパンチに、ミートくんの表情が歪む。
「フハハハハ! 怖かろう! これは過去に貴様を絶命寸前まで追い詰めた拷問技! そのときの貴様は超人墓場より復活したウォーズマンに救出されるという奇跡を経て生還したが……21世紀の新時代ではそんな使い古された奇跡は起こらない! 潔く死ね――っ!」
アクション仮面が語るとおり、この技は自力での脱出がかなわなかった因縁の技。
試合の最中に当時死んでいたウォーズマンが助けに来てくれるなど奇跡以外のなにものでもない。21世紀の世でそんなご都合的な展開は望めないだろう。
じゃあ……ボクはこのまま押しつぶされて死んでしまうのか!?
ミートくんの脳内が死という絶望で埋め尽くされる。
「ウギャアアアア――ッ!」
『さいたまスーパーアリーナにちびっ子の絶叫が轟く~~っ! これがヒーローのすることか――っ!?』
見るに堪えないミートの苦しみように、リングサイドの万太郎は居ても立っても居られなくなる。
「ミ……ミート――ッ!」
万太郎はミートを救うべく試合への乱入を強行しようとした。
しかしその進路を遮るように、ブラックメケメケ団の戦闘員やパンスト団が壁となって立ちふさがる。
「な、なんだおまえら~~っ! これじゃミートのところへ行けないじゃないか~~っ!」
大勢の怪人たちに四方を囲まれ、立ち往生を余儀なくされる万太郎。
その隣では、しんのすけも小さく唇を噛みしめていた。
「ミートくん……」
母みさえのどんなお仕置きよりも残酷なアクション仮面の所業。
恐怖の形相で叫び声を上げるミートくん。
必死に助けに向かおうとするもそれが難しい万太郎。
聡明な5才児であるしんのすけは、自分がやるしかないという使命感に駆られる
「オラがおたすけする!」
堂々宣言すると、しんのすけは自らの短パンのウエスト部分に両手をかけた。
「フン!」
勢いよく、短パンとその中に穿いていたパンツをまとめて下に下ろす。
当然、ぷりんとしたお尻が丸出しになる。
「お、おケツを出した!?」
絶望的な状況下で繰り出された謎の行動に、万太郎は目を丸くして硬直した。
しんのすけは続いて頭を反対側へ向け、お尻だけを前に突き出しながら、奇怪なステップで前進を始める。
「ブリブリー! ブリブリー!」
そう口ずさみながら。
前から見れば、顔が隠れ、まるでお尻だけの生物が動いているかのよう。
悪行超人プリプリマンを思わせるその姿の名は、人呼んで“ケツだけ星人”。
どんな超人レスラーにも不可能であろうムーブは、密集するブラックメケメケ団の足もとの隙間を器用に縫いながら進んでいく。
「スゲ~~ッ」
万太郎は思わず驚嘆の声を上げた。
これなら何百人立ちふさがろうと関係ない……ミートがいるリングまでたどり着ける!
そう思われた、が。
「ブリブリー! ブリブリー! ブリブ……」
しんのすけの進路方向で、ブラックメケメケ団やパンスト団よりも体の大きいヘンダーくん、ヘンナちゃん、ナンダくん、ソーダくん――遊園地のキグルミマスコットたちが肩を組み、どっしり腰を下ろして障壁となった。
「あ~~っ! アブナイ!」
隙間もなにもない、まさしく壁。そんなヘンダーウォールに、お尻を前に突き出しているためよく見えていないであろうケツだけ星人が突っ込む。
「ひぎゃん!」
当然、跳ね返される。
「ああああああああああ」
跳ね返った衝撃でケツだけ星人は崩壊。
しんのすけは買い物袋から落っこちたじゃがいものようにゴロゴロと転がり、万太郎のもとまで帰ってきた。
「あふん」
「おかえり」
5才児の健闘を労う。
ケツだけ星人でもミートくん救出は為らなかったか……!
「よせよ、おふたりさん」
そんな二人の背後から、マントの男がどこか達観したトーンで声をかけた。
「この試合はミートとアクション仮面の一騎打ち……仲間がピンチだからって助けに入ろうとするのは、無粋ってもんだ」
男の目の前にもパンスト団やテナガザルたちが不気味な気配を漂わせて立ちふさがっているが、わざとらしく両手を挙げ無抵抗をアピールする。
「お~っと、オレはミートを助ける気はねえ。そんなにディフェンスしなくて大丈夫だぜ」
偶然この場に居合わせただけのマントの男には、当然ながらミートくんを救う義理も理由もない。
彼はただ冷徹に試合観戦する姿勢を貫いていた。
そうしている間にも、アクション仮面の攻勢は続く。
「さあ、このまま肋骨を粉砕し、砕いた骨で内蔵をぐちゃぐちゃに破壊し殺してやろう! 最終的にはこの白いキャンバスが貴様の血で赤く染め上がるのだ――っ!」
フィナーレを盛り上げようとしているのか、あえて猟奇的な脅し文句を唱えるアクション仮面。
万太郎としんのすけは救出に向かえないなら言葉で説得するしかないと悟り、声を張り上げる。
「そんなのアクション仮面らしくないぞ――っ!」
「アクション仮面の必殺技はもっとカッコイイんだゾ! そんなバンザイしながらぎゅ~ってするだけの技なんてぇ~~~~~~~~っ」
しんのすけが言葉を溜める。
そして瞬間的に無表情を作り出し、目を細めた。
「地味だゾ」
純粋な子供ならではの、辛辣な批評だった。
「じ……地味!」
テレビヒーローであるアクション仮面にとっては、あまりにも致命的かつショッキングな評価。
アクション仮面がショックを受けているのを見た万太郎は、チャンスとばかりにそれに乗っかる。
「そうだそうだー! それにそのままミートをぐちゃぐちゃになんかしてみろ……見ている人たちから悪印象を抱かれるのは必至! テレビ局や番組制作会社、所属している芸能事務所に苦情殺到! SNSでは叩きコメントにあふれ……YouTubeチャンネルだってBANされてしまうぞ――っ!」
この世紀の一戦は、宇宙超人委員会によって生中継されている。
もしアクション仮面がカメラの前でミートの殺害を果たそうものなら、コンプライアンスの厳しい現代社会において、その代償は計り知れない。社会的な死は確実だ。
「クッ! まるで令和のようなバッシングの仕方を!」
時代の波に怯み、わずかにアクション仮面の手が緩んだ。
その隙を突いて、ミートくんが掠れた声を絞り出す。
「ア、アクション仮面……このままボクを惨殺すれば、しんのすけくんがそれを目撃することになる。アクション仮面の大ファンである彼が、大好きなアクション仮面が子供を惨たらしく殺すところなんて見たら……それは消えない心の傷、一生もののトラウマとなってしまう……」
ミートの言葉を受け、アクション仮面は冷たく言い放つ。
「しんのすけくんの情操教育を盾に命乞いか?」
アクション仮面には醜い抵抗のように映ったのだろう。
だが――ミートくんの瞳からはまだ闘志が消えていない。
「そんなカッコ悪い真似はしない! これは正義超人としてそうはさせまいというボクなりの決意表明……そして自分への闘魂注入だ――っ!」
慈悲はいらない。正義超人のはしくれとして、最後まで自分の力で抗ってみせる!
ミートは手足を動かし、身を捩り、なんとかアクション仮面の両手から抜け出そうともがく。
『あ――っと、ミートくんがメチャメチャに暴れまわる! そのアグレッシブさはまるで釣り上げたばかりの魚のよう! さすがのアクション仮面もこれを素手で捕らえておくことは難しいか――っ!?』
小さな体に秘められた底知れないガッツを見せるミートくん。
が、
「正義超人としてだと……」
その不屈の姿勢こそが、皮肉にもアクション仮面の歪んだ逆鱗に触れてしまった。
自分以外のすべてを“悪”と認定した狂気の男の瞳が、真っ黒に濁る。
「片腹痛いわ――っ!」
「ウッ!? ガアアアアッ!!」
アクション仮面の両腕にさらなる力が入り、ミートの抵抗を封じ込める。
「貴様のような悪童に正義を語る資格なし! そっちがその気なら、お望みどおり圧殺してくれるわ――っ!」
もはや一切の躊躇もない。このままミートの体が潰れるまで力を緩めることはないだろう。
「ミート!」
「ミートくん!」
万太郎としんのすけの悲鳴のような声が飛ぶ。
「よく見ているんだ、しんのすけくん! 子供とは、数多の衝撃的体験を重ねて大人になっていくもの……君も友達の死という経験を経て成長するのだ――っ!」
アクション仮面はしんのすけに向けて狂気に満ちた笑みを浮かべる。
変わり果ててしまったヒーローの姿、そして苦しそうな友達の姿を見て、身を縮こませるしんのすけ。
目尻から涙が溢れそうになった――そのとき。
「知ったようなこと言わないでよ!」
突如として、さいたまスーパーアリーナのスタンド席から怒声が響き渡った。
しんのすけと万太郎、さらにリング上のアクション仮面も声のした方向を向く。
「あれは……」
スタンド席の通路で、荒い息を整えながら立つ2人の男女の姿があった。
それは、本来なら春日部スタジアムで
「父ちゃん! 母ちゃん!」
しんのすけとひまわりの両親、野原ひろしと野原みさえだった。