アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
さいたまスーパーアリーナに突如現れた野原ひろし・みさえ夫婦。
ふたりは春日部スタジアムで
「ひろしさんにみさえさん!? なんでここに!?」
予想外の事態に万太郎も声を張り上げた。
ひろしもみさえも鼻息を荒くしながら答える。
「こちとらマイカー族! 春日部からSSAなんてひとっ飛びよ!」
「そうよ! 子供の危機だってのに法定速度なんて守ってられないわよ!」
「お、おいみさえ……あんまりそういうことは言うなよ」
この試合は宇宙超人委員会によって生中継されている。交通ルールを無視したなど知れ渡れば、世間体が……というか法的にも……と、小心者のひろしは声を潜めた。
だが妻のみさえはそんなもの知ったこっちゃないとばかりにリング上のヒーローへ食ってかかる。
「アクション仮面! あなた子供を育てたことあるの!?」
「えっ!? い、いや、ありませんが……」
あまりの覇気を浴びせられ、つい敬語で答えてしまうアクション仮面。
みさえはさらに捲し立てる。
「じゃあ子供の成長がどうのこうの、偉そうなこと言わないで! 友達を目の前で殺されるなんてツラい経験、常識的に考えてしないほうがいいに決まってるでしょ!」
子を持つ親としての一般論をぶつけるみさえ。
妻の真っ当な主張に、夫のひろしも語調を強くする。
「そうだそうだ! 若い頃の苦労は買ってでもしろなんて言うが、今どきそういうのは流行んねーんだよ!」
嫌なこと、辛いこと、苦しいことなどは避けて通れるならそれに越したことはない。
時代は20世紀でも平成でもなく令和。子供の育て方というのもトレンドというものがあるのだ。
「はっきり言って迷惑! 子供に悪影響!」
「うちの子が真似したらどうすんだ!」
ここぞとばかりに罵声を浴びせる親の姿に、アクション仮面は顔を顰めた。
「クッ……まるで90年代、某アニメにクレームを入れまくっていたPTAのようなことを」
テレビの影響というのは令和でも大きいと考えられるもので、少しでも過激な内容を放送すれば即座に視聴者からのクレームが殺到する。
「しかし子供がテレビなどの影響を受け悪い子になってしまうというのは、きちんと教育できないダメ親の言い訳みたいなもの! このアクション仮面はそんな悪質なクレームには屈しない!」
あれもダメ、これもダメ、と制約をつけてばかりではいい番組は作れない。
メディアに携わる者として、アクション仮面は確固たる意志でお茶の間に子供の惨殺シーンを届けようとする。
今のアクション仮面はたとえPTAだろうとBPOだろうと止められないのだ!
「ふざけんじゃないわよー!」
「深夜枠に移動させられちまえー!」
ひろしとみさえは世の親御さんを代表して身勝手なメディアに怒りを叩きつける。
そのときだった。
「カ……カハァッ!」
アクション仮面の頭上、両手で脇腹を押さえつけられていたミートくんが血を吐いたのだ。
苦悶の表情からは赤みが消え失せ、さっきまで暴れていた手足はいつの間にか力なくぶら下がるのみ。
「ミートはもう限界だ――っ!」
万太郎が、
「ダメー! アクション仮面!」
しんのすけが、
「やめろー!」
ひろしが、
「いやぁー!」
みさえが、
「びええええええ!!」
ひまわりが――野原一家がそれぞれ悲痛な叫びを上げるも、アクション仮面の凶行は止まらない。
「あ……」
ミートの口から観念したような声が漏れる。
もはや絶命待ったなし。
誰がもそう悟り、小さな体がついに拉げようかというそのタイミングで――
ザシュ。
『……あ~~っとこれは――っ!?』
血しぶきが飛んだ。
それはミートの体から飛び散ったものではなく、アクション仮面の腕より散った血であった。
『ミートくんを捕らえていたアクション仮面の腕に、突如飛来したナイフが突き刺さり……技を妨害~~っ! ミートくんを助け出した――っ!』
「グアア~~ッ」
思わぬ奇襲にアクション仮面が悲鳴を上げ、スクランブル・アクション・バイスも崩壊。
ミートが投げ出され、キャンバスへと落下する。
いったいどこの誰が投げナイフなど――いや、これは投げナイフではない。
『つ、突き刺さったナイフを握るのはヒトの手か!? 手首のあたりからワイヤーかケーブル……いや、よもや骨!? リング外から伸びているぞ――っ!?』
アクション仮面の腕に突き刺さっているのはたしかにナイフ。
だがそのナイフには“手”がくっついており、さらに手首から先は腕というには細すぎる管が長々と伸びていた。
「なんだありゃ!?」
「マジックハンド!?」
ひろしとみさえは見たままの印象を言う。まさしくそれは遠くのものを掴むのに使うマジックハンドのようであった。
あるいは、チェーン式のロケットパンチ。しかもナイフ付き。いったい誰がそんなものを伸ばしたというのか――
『アクション仮面を襲った凶刃は……万太郎くんやしんのすけくんと一緒に試合を観戦していた何者かに繋がっている――っ!』
ナイフを握る手、そこから伸びる管を目で追っていけば、それは万太郎としんのすけの背後から放たれたようであった。
「ダメだぜ万太郎ちゃんよ~~っ。本気でミートを救いたいんなら、そんな雑兵共は蹴散らしていかなきゃ。それか、オレのように嘘を使って油断でもさせねえとな~~っ」
ふたりの背後にいた人物といえば――古めかしいマントで全身を覆っていた、謎の男。
偶然この場を訪れた田舎者の観光客と自称していた人物は、外からの乱入を阻んでいたパンスト団やテナガザルたちの隙間を縫い、右手を射出させリングまでナイフを届かせた。
ほかでもない――ミートを救うために。
「お、おまえ……まさか~~っ」
薄々感じていた会ったことがあるような予感――そしてなにより、この伸縮する腕の骨で刃を放つ
そう――たしか技名は、シューティング・アロー。
万太郎は確信する。
やはりマント男の正体は既知の人物だ。
こいつは――
「ハァ――ッ」
かけ声と共に高く飛び、リングへと着地するマントの男。
伸ばしていた骨を引き戻し、アクション仮面の腕から刃も抜いて手首に嵌め直す。
「き、貴様……いったい何者だ!?」
アクション仮面は負傷した箇所を庇いながらも語気強く問う。
「だ……誰……?」
窮地を助けられたミートくんは、虚ろな目ですぐそばに下り立ったマントの男を見やる。
男は応えるようにマントを脱ぎ捨てた。
――ムヒョヒョヒョヒョ~~ッ……と。
頭にはターバン。肩には恐竜の指を思わせるような意匠。
顔面には傷跡、さらに左目を眼帯で覆い、口には咥え煙草。
風体からして異様な雰囲気を漂わせるこの男の名は――
「ボ……ボーン・コールド!」
叫んだのは、彼の一番近くにいたミートである。
その表情は凍りついたような驚愕の色。
それもそのはず、この男との因縁が最も深いのはミートなのだから。
『あ――っとアクション仮面を襲撃し試合に乱入を果たしたのは……かつてキン肉万太郎と“火事場のクソ力
キン肉万太郎が倒してきた数多くの悪行超人の内のひとり。それが世間のボーン・コールドへの認識だ。
その闘いは日本の沖縄を舞台に行われたため、当然野原ひろしとみさえも名は知っている。
「正義超人専門の
「キン肉星の刑務所に収監されていた悪行超人が、どうしてここにいるの!?」
ノーリスペクト三人衆――数年前、キン肉星第58代大王キン肉スグルの兄・キン肉アタルが万太郎の修行のため野に放った囚人の3人である。
いずれも手強い悪行超人であったが、万太郎は見事この3人を撃破し監獄に送り返している。なのでこんな場所に、埼玉県のさいたまスーパーアリーナになどいるはずがないのだが――
「万ちゃんのお知り合い?」
まだ5才のしんのすけにとってはもちろん知らない凶悪犯だ。
無垢な質問の前に、万太郎は緊張の面持ちで頷く。
「ああ。昔ボクと激闘を繰り広げたライバル……だけど今は、悪いことをたくさんしたせいで遠いところで反省しているはずなんだ……」
ごくりと唾を飲み込む万太郎に対し、ボーン・コールドは煙草の煙を吐きながら言う。
「キン肉星のプリズンなら脱獄した」
「なぬ――っ!?」
一切悪びれた様子のない脱獄宣発言。キン肉星の者として、容認できるものではない。
しかし今は、脱獄の理由よりもここにいる理由が先だ。
「ボ……ボーン・コールド……なんでおまえが……」
スクランブル・アクション・バイスのダメージが残るミートは掠れた声を絞り出す。
肉体・精神の両面で瀕死になっていたところ、まさかの人物の登場によりミートの心はさらに摩耗している。
「なんで……ミンチ様を……ボクの父さんを殺したおまえがここにいるんだ――っ!?」
助けられはしたが、二度と顔など見たくはなかった――それが、ミートにとってのボーン・コールドという超人。
誰だって、自分の親を殺した凶悪犯と対峙などしたくない。
親の仇と罵られたボーン・コールドは、
「なんでだろうな」
しかし、この質問に対し答えを持たなかった。
ふざけているわけではない。
「オレはそれが知りたくてここに来た」
なぜこんなところにいるのか。
ボーン・コールド自身、よくわかっていないのである。
「万太郎に敗北し……プリズンに戻されたオレは、どこか魂の抜けた抜け殻みたいな生活を送っていた。父ミンチの死にむせび泣くミート……友達の声援を受けオレに勝利してみせた万太郎……オレに幼少期の虐待の謝罪を述べ、自分自身の抹殺依頼をし贖罪を果たそうとした親父……あの試合の日のことを思うと、柄にもなくセンチメンタルになっちまう」
SSAの高い天井を見上げながら、自分語りを始めるボーン・コールド。
なぜここに来たのか。あるいはこの述懐が答えとなるような気がしたからこその行動だった。
「そんなある日、“
今回の騒動以前の、最新の悪行超人事件である。
それはミートや万太郎にとっても記憶に新しい、壮絶な闘いであった。
「子細を聞いた際にはもうすでに万太郎たち地球の正義超人が事態を収束させていたが、あのときのオレはひどく狼狽したものだ……あのミンチがあれだけ愛し幸せを願ったミートが、願い届かず死んでしまうところだったのかと。最悪な想像が頭を駆け巡り、眠れない日々が続いた」
ボーン・コールドは自らの腕を抱き、ガクガクとなにかに怯えるように震える。
演技などではない本物の恐怖心に、万太郎もミートもあのボーン・コールドが……と意外そうな顔を浮かべた。
そういった視線を意識しながら、ボーンは自嘲気味に笑う。
「笑っちまうぜ。今まで殺し屋として数多くの超人を手にかけてきたオレが……殺しへの後悔の念や呵責の心など微塵もなかったオレが、老いぼれひとり殺したことでPTSDを患っちまってるってんだからな……」
ボーン・コールドが語る間に、スタンド席にいたひろしとみさえがアリーナのリングそばまで下りてくる。
駆けつけるのはもちろん心配していた我が子のもとだ。
子供ながらに難しい話を聞いていたしんのすけは、両親に問う。
「PSPと3DSって?」
「PTSDな」
「要は怖いことをずっと思い出しちゃうことよ」
子供には理解の難しい心の病については、簡単に説明する。
ひろしとみさえにとってもボーン・コールドは凶悪犯。この告白は意外すぎる印象を感じていた。
ボーンは引き続き語る。
「今日この日、プリズンを脱獄しここにやってきたのは本当に偶然だ。このつらく苦しい思いをどうにかしたくてさまよい歩いていたが……まさかこんなシーンに立ち会えるとは」
ここに因縁の相手であるミートや万太郎がいると聞いたわけではないし、そもそも新世代超人がアクション仮面たちと対抗戦をしているというのも知らなかった。
偶然――しかし、偶然で済ませるにはあまりに出来すぎている。
「いや……あるいはおまえの父であるミンチの亡霊が、オレに取り憑き囁いたのかもしれねえな。“ワシに代わり息子の命を守れ”とかよ……」
そういった心霊的な力が作用したと考えるほうがまだ自然だ。
今は亡き――ボーン・コールドが殺害した――ミートの父・ミンチ。
その優しげな顔が、残された子の脳裏に呼び起こされる。
「ミンチ様……と、父さん……」
ミートは死に別れた父親が自身を救うべくボーン・コールドを遣わしたのだと感じ取り、眼鏡の奥から涙を流した。
「あ、あああ~~~~っ」
全身を襲う痛み、父を喪った喪失感、親の仇に助けられたという複雑な思い……様々な要因が入り混じり、ミートの心はぐちゃぐちゃにかき乱されるのだった。