アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
アレキサンドリア・ミートvsアクション仮面の一戦は完全に中断してしまった。
試合に乱入したボーン・コールド、攻撃の手を止め静観するアクション仮面、子供らしく泣きじゃくるミートくん……レフェリーである宇宙超人委員会からも試合を再開しろというお咎めはない。リング上はもはやそういう雰囲気ではなくなっていた。
「ボーン……」
リングサイドでかつての強敵ボーン・コールドの述懐を聞いていた万太郎も複雑な心境だ。
ボーンは自分に代わってミートの命を助けてくれた。だがボーンはミートの父親ミンチを殺した人物でもある。
なんと言葉を投げかければいいのか――万太郎が思い悩むその間に、別の人物が口を開く。
「話を聞いていれば……貴様はただ、罪の意識から逃れたいだけではないか」
それはリング上のアクション仮面だった。
「被害者ぶってはいるが、貴様が152人超ものキン肉星将校を殺した極悪超人である事実は変わらない! それなのにPTSDなどそれっぽい病名を出し同情を誘おうなど……卑劣極まれり!」
憤怒の表情でボーン・コールドの罪を糾弾するアクション仮面。
正義を為すために人間の身を捨て、超人となった彼がボーン・コールドという悪行超人の中の悪行超人を見過ごすはずがなかった。
「なんてことを言うのよアクション仮面! 心の病で悩んでいる人にそんな発言……許されないわ!」
「そうだ! 生きづらい現代社会、そういった人たちは大勢いる! 俺の会社だって、そういう人向けの支援制度はちゃんと整えてるぜ!」
言論についていろいろ厳しい現代社会を生きるみさえとひろしは、アクション仮面の発言に問題アリと声を張り上げる。
「惑わされてはいけない野原さん! その前にこいつは殺人犯で脱獄犯だ!」
だがアクション仮面にそう返され、すぐに押し黙ってしまった。
「そ……それもそうか……」
「法律第一よね」
「オトナって大変だゾ」
悲しいかな、ルールを第一に考えてしまうのが大人という生き物。ボーン・コールドのことについて野原夫妻がこれ以上言えることはなかった。
「おまえがオレをどう言おうが構わねえさ」
しかし、糾弾された本人はどこ吹く風で煙草を吸う。
そのままアクション仮面ではなく、ジャクリーン・マッスルやイケメン・マッスルの映るモニターを見やった。
「それよりも、ここいらで一区切りつけたほうがいいんじゃねえか? 宇宙超人委員会さんよ」
よりにもよって試合を止めた乱入者本人からそう言われるとは。
レフェリーを務めていたジャクリーンは悔しく思いながらも、為すべきこと為すためマイクと木槌を取る。
「本来ならここは、部外者乱入による無効試合……しかし今回の場合、アクション仮面が優勢の中、第三者が明らかにミートくんを助けるために乱入している……」
もしもボーン・コールドが乱入しなかったら――試合の結果は誰が見ても明白。
「よってここは、ミートくん側の反則負けとなります」
ジャクリーンは終戦のゴングを鳴らした。
カンカンカンカン――!
『あ――っとここでゴングが鳴った――っ! アクション仮面vsミートくんの一戦は、ボーン・コールドがミートくんを助ける形で乱入したことによる強制終了! 判定はアクション仮面の勝利となり……い、いやこれから先の展開はどうなってしまうんだ~~っ!?』
結果は
「決まっている」
悪を前にしたアクション仮面がたかが1勝ごときで満足するはずもなかった。
「この私が悪を見逃すはずもない! ミートの粛清は後回しだ……悪行超人ボーン・コールド! まずは貴様を成敗してやる!」
本当ならミートにトドメを刺したいところではあるが、この場は脱獄犯優先。
アクション仮面はビシッと指を突きつけるが、ボーン・コールドは悠長に煙草を吸い、たっぷり時間をかけてから紫煙を吐き出した。
そして、答える。
「やなこった~~っ」
「な……なにィ!?」
リング上で対峙した相手からの挑戦状を堂々と拒否するなど……こいつ、本当に超人か!?
愕然とするアクション仮面を尻目に、ボーン・コールドは言う。
「オレは依頼された相手以外はやらない主義でな。どうしてもオレと闘いたいっていうんなら、どこかの誰かさんのように金を積んで“アクション仮面を殺してくれ”と依頼しな」
ボーン・コールドは一般的な超人レスラーではなく、正義超人専門の“
そのことをよく理解する老超人が“ワシを殺してくれ”とバカな依頼をしてきたこともあったが――と、ボーンは失笑する。
「もっとも、オレは万太郎戦を機に殺し屋を廃業した身。頼まれたって突っぱねるがよ~~っ」
「こ、こいつ~~っ!」
対戦確実と思われたところで意地悪く梯子を外すのは、まさしく悪行超人の所業。
歯噛みするアクション仮面には構わず、ボーン・コールドはリングの外を見た。
「それに……ミートをこんな目に合わせたおまえに闘志を燃やしているやつが他にいる。そこのじゃがいも頭にも言ったが、横恋慕の趣味はねえよ」
そこには、熱烈な視線を傾けるひとりの超人が立っていた。
ミートはキャンバスを這いながら、その超人の顔を見やる。
「Ⅱ世……」
瞳に闘争心を宿し、一直線にアクション仮面を睨み据える超人の名は――キン肉万太郎。
もとより、野原ひまわりちゃんを助けにここへ来たのは彼とミートくんのコンビ。
相棒が倒れた今、次に闘う者がいるとすればそれはひとりしかいない。
「ここは……」
万太郎が一歩前に出た――その真横で。
「俺がいく!」
二歩前に出る男がいた。
ヒゲの剃り跡が目立つ、角張った輪郭が特徴のその男の名は――野原一家の大黒柱、野原ひろしである。
「あなた!?」
「父ちゃん!?」
「たたや!?」
妻が、息子が、黒い球体に囚われたままの娘までもが、ひろしの意外な行動に面食らっている。
だが本人は俄然やる気だ。
「野原ひろし35歳! 職業サラリーマン、双葉商事営業係長! これでも学生時代は卓球をやっていた……会社の同僚からは“人間凶器のひろちゃん”と呼ばれ恐れられてきたんだぞ! 我が子を人質に取られて黙っていられるほど冷めちゃいないぜ!」
“人間凶器のひろちゃん”! 異名だけなら“ミスター・バスター”と呼ばれるキン肉万太郎と遜色ない。
ひろしの見せる勇ましさに、家族たちも大いに盛り上がる。
「そうよ! 野原一家の大黒柱ナメんじゃないわよ!」
「おお~~っ! カッコイイぞ父ちゃん!」
「たいあ~!」
全員がひろしを戦場へと送り出そうとする。そのあまりの迫力に、見せ場を奪われた万太郎も口を挟めずにいた。
しかし真・正義超人軍サイドの彼らは違う。
「ビィ――ッ!」
「ウキィ――ッ!」
立ちふさがったのはブラックメケメケ団戦闘員、そしてテナガザルの群れだ。
超人ではない野原ひろしの参戦は歓迎しないのか、それとも“人間凶器のひろちゃん”を本能的に恐れているのか、さっきまで無言だったのが急に威嚇の声を上げ始める。
だからといって、娘を救いに向かう父の歩みは止まらない。
「なんだ? やんのか?」
おもむろに靴を脱ぎ、さらに履いている靴下まで脱いだ。
その靴下を前方、すなわち立ちふさがるブラックメケメケ団戦闘員やテナガザルたちに向ける。
「フン!」
放たれるのは――悪臭。
足で仕事を取ってくる営業マンの靴下の臭いは日々の洗濯程度で消せるものではない。
ブラックメケメケ団戦闘員、テナガザル、さらには後ろに控えていたパンスト団やヘンダーキャラクターたちまでもが一斉に鼻を曲げて道を開いていく。
「待ってろよひまわり! 今父ちゃんが助けにいくぞ!」
障壁がなくなったことでひろしは靴を履き直し、リングへと向かっていった。
そしてエプロンの真ん前まで来て思わず息を呑む。
「ちょ……超人レスリングのリングってそばまで来るとけっこうな高さがあるな」
超人レスラーのように颯爽とジャンプしてリングインをしたかったが、高さが思ったよりあってこれでは無理そうだ。
ひろしは仕方なくキャンバスに両手を突き、そこから自身を持ち上げるべく脚を上げる。
「よっ! ほっ! はっ! くそっ! こんにゃろ!」
ところが、上手くいかない。
あと10歳若ければ軽々上がれただろうに、と35歳に焦りが生まれる。
しんのすけとみさえはぴょんぴょん飛び跳ねるひろしの姿を心配そうに見つめていた。
「階段あるけど」
「気づいてないのかしらあの人」
そう、リングの反対側にはちゃんと小さな階段が設置されている。
だが格好良くリングインを果たそうと躍起になっている今のひろしに周囲を見渡す余裕はなかった。
結果、
「ぐげっ!?」
ひろしは右脚を大きく上げた体勢で固まり、苦悶の声を漏らす。
「父ちゃん!?」
「どうしたのあなた?」
息子と妻に声をかけられ、ひろしは冷や汗をかきながら振り向く。
「こ……股関節がビキッていった……」
そしてそのまま、どでーんと後ろに倒れてしまった。
右脚のみを開いた不格好な体勢でぴくぴくしている。
再起は見込めそうになかった。
「リングに上がれないのではどうしようもない」
モニター上では、春日部スタジアムにいるイケメン・マッスルが決着のゴングを叩いていた。
カンカンカンカン、と音が鳴る。
まさか挑戦者がリングインを果たす前にリタイアしてしまうとは。アクション仮面も困惑するほかない。
「で……では野原さんと私の試合は私の不戦勝ということで……」
「すいません、うちの主人が……」
「父ちゃん……かっこわるいゾ……」
「め、面目ねえ……」
みさえとしんのすけに介抱されるひろしに、万太郎が語りかける。
「ひろしさん。ひまわりちゃんを助けたい気持ちはわかるけれど、どうかここはボクに任せてほしい」
「ま、万太郎くん」
万太郎の眼差しがリング上に浮かぶ黒い球体――野原ひまわりを捕らえる檻に向く。
「人類の平和を守るのはボクら正義超人の使命。たとえ相手が同じ正義超人のアクション仮面だろうと……泣いている子供がいるなら率先して闘うのがヒーローの務めだ」
確固たる決意を口にする万太郎の目は、いつになく燃えていた。
そんな万太郎のもとに、リングから下りてきたミートとボーン・コールドが歩み寄る。
「Ⅱ世……」
「ミート」
掴まれ、蹴られ、絞められ……アクション仮面の猛攻に晒されたミートの体はボロボロだった。
小さな体で立派に闘い抜いた友――しかしその表情は、悔しさと申し訳なさにあふれ涙を流す。
「ごめんなさい。正義超人の一員として、やっとお役に立てると思ったのに……ボクはいつもⅡ世の足を引っ張ってばかりだ」
ケビンマスクとの超人オリンピック決勝戦に立ち会えず、“
今回の試合は捲土重来を期すつもりで臨んだというのに、この体たらく……悔しくてたまらない。
頭を下げる従者の悲痛な姿に、万太郎は毅然と言う。
「なにを言うんだミート。おまえはいつだって立派に正義超人界に貢献してくれているよ」
その威厳ある口調は、彼の父親であるキン肉星第58代大王キン肉スグルを思わせるものがあった。
「幼少の頃から実の両親と離れ離れにされ、
万太郎は視線をリング上に残ったアクション仮面へと移動させる。
「そんなミートを捕まえて悪と罵る輩……正義超人どうこうの前に、友達として許せないよ」
人間を守るという正義超人の使命も大切だが――その前に、友達を傷つけられたのが許せない。
万太郎は拳を握りしめる。
対“
相手が誰であろうと変わらない。
今日も同じように、その言葉を口にするのみ。
「股間にイチモツ、手にニモツだ」
ミートの想いという荷を抱え、万太郎は一歩リングへと進んでいく。
「よく見ておけ、しんのすけ」
幼少の頃から正義超人というものに触れてきた元男の子、野原ひろしは息子に語る。
「ヒーローはアクション仮面だけじゃない。あれが友情パワーで闘う正義のヒーロー……“キン肉マンⅡ世”だ」
あの大きな背中を見ろ。
あれがおまえの生きる時代のヒーローだ――と。
「……」
ヒーローはテレビの中だけの存在じゃないんだ。
しんのすけはたくましいその背を見つめ、静かに父に教えてもらった名をつぶやく。
そう――キン肉マンⅡ世と。
「ニンニクマシマシクセェ……」
「キン肉マンⅡ世だっつの」
「台無しだわ」
両親にツッコまれるしんのすけを後ろに置き、万太郎はズデーンとひっくり返った。