アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ギャグ漫画のようなずっこけ方をしてしまったが、気を取り直して立ち上がるニンニクマシマシクセェ、いやキン肉マンⅡ世。
「さあアクション仮面! 次はボクが相手だ! ミートやひろしさんに代わって、ひまわりちゃんを助けたるぜい!」
リング上のアクション仮面に向かって勇ましくそう言うが、
「あいにくだが、君と闘う気はない」
「え?」
そっけなくそう返され、思わず足が止まる。
「君はあの偉大なる
尊敬に値する先輩超人!
ヘラクレス・ファクトリーの後輩であるジェイドだってここまで敬ってはくれなかった。
「ア……アクション仮面がそこまでボクのことを評価してくれているなんて~~っ」
万太郎は感激のあまり身を震わせる。
「だからこそ、私は万太郎くんとの対戦を望まない。いやむしろ、真・正義超人軍の一員としてスカウトしたいと思っている」
スカウト!
気分はプロスポーツ選手か芸能人だ。万太郎の顔つきがデレっと弛緩する。
「え~~っ! なんか困っちゃうな~~っ!」
アクション仮面から破格の高評価を受ける万太郎を見て、しんのすけは唇を噛んだ。
「キィー! あんな男のどこがいいっていうのよ!」
「なんでおまえが嫉妬してんだよ」
呆れ気味に言う父・ひろし。
そんなやり取りを尻目に、万太郎はハッとする。
「で、でもアクション仮面がボクと闘ってくれないとなると、ひまわりちゃんを助け出すことができなくなってしまう」
この闘いには野原ひまわりちゃんの身柄がかかっているのだ。
是が非でも勝たなければいけないのに、勝負すら受けてもらえないとなれば大問題である。
「どうしてもというなら、そこは代役を立ててもらおうか」
アクション仮面は律儀にも代案を提示してくれる。
しかし――
「そうはいっても……」
万太郎はこの場にいる面々を順に見回す。
「ミートは戦線離脱」
激闘を終えたばかりのミートが再びリングに立つことはないだろう。
「ボーンはやる気がないし」
ボーン・コールドはアクション仮面の挑戦状を直接突き返している。答えを変えるとは思えない。
「ひろしさんは負傷」
昔ほど体が思うように動かなくなる30代半ばのお父さんに無茶をさせるわけにはいかないだろう。
「しんのすけくんはまだ子供」
論外だ。
「となれば……」
万太郎の視線は残されたひとりであるその女性――野原みさえに向く。
29歳、専業主婦。
ほぼ毎朝ママチャリで息子を幼稚園に送り届けている(いつもバスに乗り遅れるので)健脚の持ち主。体力は折り紙つきだ。
「やだ~! わたしってば、か弱い女の子なのよ? 布団より重たいものなんて持ったことないのに、アクション仮面と闘うなんてできないわ!」
期待の眼差しを感じ取ったみさえは、高い声を出しながらわざとらしく身をくねらせる。
「か弱い女の子……?」
「かわいそうなオバサンの間違いでは?」
胡乱げに見つめてくる夫と息子。
みさえは即座にふたりの後ろに回り込み、両拳で両者のこめかみを挟み込む。
そしてそのまま力を込め、グリグリと拳を動かし始めた。
「なんですって~~っ!」
「おわあああ~~」
令和では許されない母のお仕置き殺法、グリグリ攻撃である。
みさえの鬼神のごとき形相、悲鳴を上げるしんのすけとひろしを見て、万太郎やミートはもちろん、あのボーン・コールドやアクション仮面までもが恐怖で竦み上がった。
アクション仮面はうぉっほん!と咳払いをしてから言う。
「万太郎くんはもちろん、人間の皆さんと闘うというのも本意ではない。私はもっと平和的な解決を望む」
「平和的って……いったいどうするつもりさ?」
万太郎が問いかけると、アクション仮面はなんとリングを下りた。
続いてギャラリーのパンスト団に指示を出す。
指示を受けたパンスト団がガラガラと音を立て運んできたのは――白板。
「ホワイトボード!?」
そう。抗議や会議で使われるあのホワイトボードだ。
「アクション仮面はいったいなにを!?」
野原一家の面々が息を呑む。
まさかあのホワイトボードを往年のヒールレスラーが振りかざすパイプ椅子のように凶器として使用するつもりだろうか。
そう考えたが、アクション仮面はホワイトボードのそばに置かれた黒のサインペンを手に取った。
そして白板にこう書くのである。
『アクション仮面が教える! 真・正義超人講座』――と。
「今から現代の正義超人がいかに腐っているか! 真・正義超人として彼らを粛清することにどのようなメリットがあるか! それを事細かく説明し君の心を掌握してみせよう!」
「え、ええええ~~~~っ!?」
仰天する野原一家。
アクション仮面は特撮ヒーローでありギャグ漫画の住人ではない……つまり、大真面目だ!
「んなアホな――っ!?」
万太郎も信じられない展開に声を張り上げる。
その肩をボーン・コールドが掴んだ。
「待て万太郎。これはチャンスだぜ」
「はあ?」
ボーンは口に咥えた煙草に指を添え、悪っぽい笑みを見せる。
「やつはおまえを敵と認識していない……つまりは油断しまくっているんだ。だったらそれを利用し、話に乗ったフリをして後ろからズドン……ミートの仇討ちも達成だ」
それは殺し屋ボーン・コールドならではの作戦提案だった。
しかし万太郎は首を振る。
「アクション仮面相手にそんな卑怯な真似できるか~~っ! ただでさえしんのすけくんも見てるんだぞ」
21世紀のヒーロー、キン肉マンⅡ世が子供の前で姑息なことはできない。
断固拒否の姿勢を示すと、ボーン・コールドは他人事のように煙を吐いた。
「なら自分で別の案を考えるんだな。もっとも、とりあえず話に乗ったフリをするってのは悪くないと思うぜ……時間稼ぎになる」
「時間稼ぎ……そ、そうか」
ボーン・コールドの案をそのまま採用することはできない……が、万太郎はそこから新たなひらめきを得た。
「しんのすけくん!」
「ほーい」
しんのすけを呼び寄せ、耳打ちして作戦を伝える。
しんのすけは不思議そうな顔をした。
「なんでそんなのがほしいの?」
「ひまわりちゃんを助けるのに必要なんだよ」
万太郎が思いついた、ひまわり救出のための作戦――それを行うには助手がいる。
ミートが負傷し動けない今、適任といえるのはしんのすけだけだ。
「子供の君が一番怪しまれずに動ける。対アクション仮面のための隠密行動……アクションスパイだ。頼まれてくれるね?」
アクションスパイ。
初めて聞くフレーズのはずだが、不思議と胸が熱くなるような……ワクワクする響きである。
「おお~~っ、ブ・ラジャー!」
しんのすけは使命感にも似たやる気を得て、万太郎に敬礼で応える。
そして後ろへ振り返り、ひとりでアリーナの出入り口に向かって走っていった。
「ちょっとしんのすけ! どこ行くのよ!?」
「おかまいなくー」
母・みさえの制止すら振り払い駆けていくしんのすけ。
一方の万太郎はアクション仮面に対し言う。
「よ~しアクション仮面! その真・正義超人の講義とやらに興味が湧いた――っ! 真・正義超人がどれだけ素晴らしいのか、とくと教えてもらおうか――っ!」
「おお!」
万太郎の前向きな態度に喜色をあらわにするアクション仮面。
もちろんこれはただのポーズ。
時間稼ぎ――ボーンの言ったそれこそが万太郎の狙いだ。
自分がアクション仮面の講義を聞いている間に、しんのすけが仕事を果たしてくれるのを願って。
「しんのすけ、ひとりにして大丈夫かしら」
「万太郎くんがなにか指示してた。信用して任せてみよう」
みさえはひとりで行ってしまったしんのすけを心配し、ひろしはそんな妻に寄り添う。
はたして万太郎は5才児に過ぎない彼になにを頼んだのだろうか――?
◇
――一方その頃、さいたまスーパーアリーナの外では。
建物内で世紀の超人レスリングマッチが行われているとは夢にも思わない人々が、普段どおりの日常を送っていた。
イベントの予定はなくとも、さいたまスーパーアリーナは埼玉県が誇る有名施設。
訪れる人も多く、そういった人たちのためにキッチンカーが出店している。
入口からそう遠くない位置に停車するのは、一台の軽自動車。
提供するのは、酒と軽食――それはクラフトビールをメインに提供するキッチンカーであった。
「それじゃ、私は少し離れるから店番は任せたよ」
キッチンカーの店主は所要のため、アルバイトの女の子に持ち場を託す。
「はい。任せてください」
答えたボブカットヘアの大学生の名は、四杉遥。20歳。
自意識過剰な性格を治すために飲食系のアルバイトを転々とする、少し変わった女性だった。