アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
アクション仮面vsケビンマスクの試合最中、突如としてリングを襲った落雷。
衝撃により発生した黒いモヤの中で、アクション仮面はうずくまっていた。
「うう……今のはいったい……」
雷は自分に落ちた……ような気がする。
しかしそのわりには痛みはない。五体も満足に動かせる。
周囲を見回してみるが、四方八方が黒いモヤに覆われなにも見えない。
すぐ近くにいたケビンマスクの姿も確認できず、観客や実況の声まで聞こえないのはどういうわけか。
「アクション仮面……アクション仮面よ~」
そんな静寂の中、己の名を呼ぶ声が聞こえた。
「誰だ、私の名を呼ぶのは……?」
聞き覚えのない男の声だった。
アクション仮面は再度周囲を見回し、声の主を探す。
そして――その人物は頭上に佇んでいた。
「ゲギョゲギョ~~ッ。アクション仮面……病的なまでに正義を欲する者よ~~っ」
黒いモヤの中に浮かぶ、“悪魔”のイメージを具現化したような顔だけの存在。
それが肉声を発し、アクション仮面に語りかけているのだ。
「お……おまえは!」
アクション仮面は知っている。
頭上に佇む悪魔のようななにかが、真実“悪魔”であることを。
「超人デビューおめでとうと言わせてもらおうか、アクション仮面。こうして話せる機会を得られたこと、光栄に思うぞ」
慇懃な態度で接しながらも、その実こちらのことを見下しているのが見え見えな、尊大なる口調。
アクション仮面は口角を歪め、刺々しく言い返す。
「ふざけるな。私が貴様のことを知らないとでも思ったか。憎き悪魔の領袖――“大魔王サタン”が、いったいなんの用だ!?」
大魔王サタン。
今から30年以上もの昔――“7人の悪魔超人”や“悪魔六騎士”との闘いの際、黒幕として構えていた存在だ。
一度はキン肉マンたち
こちらもやはりキン肉万太郎ら
アクション仮面にとっては、悪行超人の恐ろしさを思い知らせ、正義超人へと生まれ変わる決意をしたきっかけとなった存在――そんな悪の親玉が、目の前で不気味に佇んでいる。
アクション仮面に敵意を持った眼差しを向けられながらも、サタンは言う。
「祝福さ」
おおよそ悪魔には似つかわしくない言葉を選びながら、さらに続けた。
「人間の体を捨て、超人となってまで正義を為さんとするその意志……称賛に値する。だが悲しいかな、元人間のおまえでは超人レスラーとしての大成は望めないだろう……それはジェロニモという先人が証明している」
自らと似た境遇を辿ったジェロニモの名を出し、アクション仮面の心を揺さぶる。
超人レスラーとしての大成――超人となったからには、やはり一角の人物にはなりたいものだ。
だが……ジェロニモと同じく元人間であるアクション仮面には限界があると、サタンはそう告げるのである。
「ケビンマスクに勝つことはもちろん、テレビ番組『アクション仮面』のような主役になることもできまい。おまえの今後の人生はジェロニモのような脇役……しかしおまえが望むなら……」
元人間であるおまえは超人として“劣っている”という前提を作り出しながらの、甘言。
すべてを言い終わらずとも、サタンの言いたいことはわかった。
「フ……ハハハハハ!」
だからこそ、アクション仮面は笑った。
滑稽な悪魔の企みを笑い飛ばしたのだ。
「わかったぞ、貴様の狙いがな」
「なに?」
「貴様は私の体が欲しいのだろう」
アクション仮面はサタンを糾弾するように続ける。
「貴様は先日、アシュラマンを筆頭としたデーモンシード軍団をけしかけミートくんの体を自身が実体化するための依代にしようとした。だがその目論見はキン肉万太郎くんやケビンマスクくんの手によってもろくも崩れ去り、惨めに敗走したと思っていたが……私というご馳走を見つけ、慌てて戻ってきたというところか」
サタンは実体を持たない。
かつてはゴールドマンや悪魔六騎士の肉体を依代に悪魔将軍として降臨したり、先の闘いではミートくんのボディをバラバラにした上で復活のための触媒にしようとしたりなどした。
ゆえに、アクション仮面はサタンの目的が『己が実体化するための依代の獲得』であると推察したのだ。
そしてその依代の目処こそが、我が身であると。
「超人になったばかりの私なら心に隙がある。そう見越しての企みだろうが、ナメてもらっては困る。たとえ超人としては若輩者でも、私は正義の味方アクション仮面だ。貴様の口車などには乗らん」
毅然と言い切るアクション仮面に、幻影のサタンはニヤリと口角を上げた。
「ゲギョゲギョ……さすがはアクション仮面。すべてお見通しか。そのとおりだ。私はおまえの体が欲しい」
「やはりか」
「が、論理が飛躍しすぎだ。いくら我でも、そう簡単に他人の体を奪ったりなどできん」
「あっ……そ、そうなのか」
自信満々に言ったのに、思いのほか冷静に反論され赤面するアクション仮面。
サタンはミートくんのボディを奪おうとした際にも面倒な段取りを踏んでいた。
肉体を持たない幻影が実体を得るのには、イメージ以上に困難なものがあるだろう。
サタンは言う。
「しかし……しかしだアクション仮面。超人になったばかりのおまえの心に隙があるという分析はまったくもってそのとおり。ゆえに我はおまえを勧誘に来たのだ。他ならぬ悪行の道へな」
悪行の道への勧誘――それはつまり、正義の味方であるアクション仮面に『おまえも悪行超人にならないか?』と誘っているということ。
アクション仮面は鼻で笑う。
「なにをバカなことを。この私が悪の誘いに乗ったりなどするものか」
正義のために人間をやめたアクション仮面相手に、悪に染まれなど笑い話にもならない。
サタンにもそれはわかっているのか、落胆も憤慨もなく言葉を続ける。
「乗らんだろうなぁ。“悪魔の種子”の面々は皆一様に人間共から迫害を受け悪行に走る理由があったが……おまえにはそういった恨みつらみというようなマイナス感情はあるまい」
人が悪の道に染まるには、なにかしらの理由があるもの。
人々への怒り、虐げれてきた怒り、正道では成せない野望――その形は人により様々だろうが、アクション仮面にとって無縁な感情であることは間違いなかった。
「わかったなら引っ込んでいろ。私は今、大事なデビュー戦の真っ最中なんだ」
目の前にいる大魔王サタンは所詮、実体を持たぬ幻影だけの姿。
害意はあっても実害はない。ゆえに、アクション仮面は彼を雑にあしらおうとしていた。
今はこんなゴミクズよりも、ケビンマスクとの試合のほうが大事だ――と。
しかし、その試合中にわざわざ割って入ったサタンは引き下がらない。
「勧誘できぬのならば仕方ない。ここは少々、強引な手段を取らせてもらうとしよう」
不気味に笑み、幻影の口を大きく開けた。
「カ――ッ!」
奇怪な声とともに、口からなんらかの固形物を吐き出す。
その固形物――光り輝く“石”は、アクション仮面の胸元に飛び込んでいった。
「こ……これは!?」
胸に触れ、すうっと体内に入り込もうとする謎の石。
アクション仮面はこの石に見覚えがあった。
「ジェネラル・ストーン! あのデーモンシード軍団を生み出した魔の宝石よ! これをおまえの体に無理やりねじ込み、悪の傀儡としてやろう!」
ジェネラル・ストーン――以前、“悪魔の種子”の軍勢が持っていた魔性の力を秘める石。
デーモンシード軍団はもともと人間に虐げられていた弱小超人がこの石の力を得て変貌した姿だったと聞いているが、まさかサタンは同じ要領でアクション仮面を悪行超人に変えるつもりか!?
「ふざけるな! 正義の超人であるこの私が、そんな強引なやり方で悪に染まったりなどするものか!」
アクション仮面の精神に揺らぎはない。
たとえジェネラル・ストーンであろうと、彼の持つ正義の心を悪に染めることは不可能なはずだ。
だがサタンは、
「できるのだよ! キーとなるのはおまえが超人となる際、神より授かったその石だ!」
自信たっぷりにそう言ってのけ、アクション仮面の腰のあたりを視線で示した。
彼の腰にはベルトが巻かれ、中央には“A”を刻んだバックルがついている。
そしてその中には、ジェネラル・ストーンとは別の力を持った、特殊な石が内蔵されているのだ。
「ア……アクション・ストーン!」
その石――アクション・ストーンがバックルから飛び出し、ジェネラル・ストーンと共鳴するように輝きを放っている。
「次元に干渉するその石と、我がジェネラル・ストーンが合わされば……数多のパラレルワールドより、悪の心に芽生えしアクション仮面の思念がおまえに流れ込むだろう!」
サタンの言うとおり、アクション・ストーンは多次元に干渉し次元間移動すら可能にする特性を秘めている。
それはテレビ番組『アクション仮面』におけるただの設定であったが……アクション仮面が超人となった今、その付随物であるアクション・ストーンの特性もまた本物であるはずだ。
となれば、まさか――サタンの言うようなことが、本当に可能だというのか?
「わ……私は正義のヒーロー、アクション仮面だ。たとえパラレルワールドの私であろうと、私が悪に屈するなど……っ」
言葉では強く否定しながら、苦しげに膝を折るアクション仮面。
胸の内から沸いてくる、得体の知れぬなにか――それがアクション仮面から抵抗するパワーを奪っている。
「アクション仮面よ。正義を為すには力が必要なのだ。現におまえは、人間の身では悪行超人の魔手に対抗できないと悟り超人になったのであろう。弱きままでは正義を為せないと絶望したのであろう。ならば受け入れ、求めるのだ。ジェネラル・ストーンという蠱惑の力を~~っ」
正義を為すには力がいる。
力を求めたがゆえに超人となった。
サタンの言葉を一切否定できず、アクション仮面は体内に深く埋まったジェネラル・ストーンに身を、そして心を預けていった。
「グ……グワァアアア!」