アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
リング上の黒いモヤは晴れつつあった。
雷が落ちたかと思われたそこは、しかし焼け跡ひとつなく白いキャンバスが一面に広がっている。
試合をしていたアクション仮面とケビンマスクも無傷。
それぞれが五体満足で立ち、距離を取っている。
次なる異変が起こったのは、彼らの上空だった。
「ゲギョゲギョ~~ッ」
不気味な笑い声とともに、黒い影が悪魔のような顔を形作っていく。
客席からその様子を見ていたキン肉万太郎が言う。
「な、なんだ~~っ? あの不気味な顔みたいな影は」
突然の落雷による試合中断、対戦中のふたりの無事が確認できた矢先に、次なる異変。
状況についていけず不思議がることしかできなかったが、隣にいた“叡智の子”アレキサンドリア・ミートくんは違う。
「大魔王サタン!」
驚愕の表情で、その幻影の正体を叫ぶ。
傍らのしんのすけは呑気に尋ねる。
「サンタさん?」
「あんな禍々しいサンタクロースがいてたまりますか! サタンですよ!」
サンタはクリスマスにプレゼントをくれる赤服のおじさん、対してサタンはユダヤ教やキリスト教における悪魔のおじさんだ。
もちろん、超人界におけるサタンの名はそんな抽象的な存在ではない。
ミートくんは緊迫した口ぶりで続ける。
「古くはあのバッファローマンさんに1000万パワーを植え付けた悪魔の領袖……先日の“
最前線で“悪魔の種子”とやり合った万太郎も、ようやく事の重大さに気づく。
「ええ~~っ!? じゃああれが、ミートの体を乗っ取ろうとした“恐怖の将”~~っ!?」
あの強敵アシュラマンが心酔し、父キン肉マンが最も恐れた巨悪。
一度は追っ払ったはずのその巨悪が、よもやアクション仮面のデビュー戦の場に現れるとは。
「ゲギョゲギョ……憎き正義超人の衆よ~~っ。久しぶりだな~~っ」
空に浮かぶ悪魔の顔は、まさしく悪魔のようなおどろおどろしい声音で声を発した。
「あの日宣言したとおり、舞い戻ってきたぞ~~っ」
あの日の宣言――“悪魔の種子”との最終決戦の場にいたキン肉万太郎は、その言葉を鮮明に覚えている。
『バゴア、バゴア。さ……騒ぐな凡人ども~~っ。オレは不死身の“恐怖の将”だぁ~~っ! ま……また何者かに取り憑き、こ……この次こそ本当に転生を遂げてやる~~っ!! そ……それまで万太郎及び正義超人軍よ……首を洗って待ってるがいいぜ~~っ』
ミートのボディを依り代に“悪魔将軍”として復活するというサタンの野望はあの日頓挫したはず。
であるならば、今日ここに現れた目的はなんなのか――万太郎の額に汗が流れる。
「ワルの美学がわかってねぇな」
その一方で、サタンの登場を冷徹に非難する者がいた。
リング上のケビンマスクである。
「悪党の登場にもタイミングってもんがある。今はこのケビンマスクとそこのアクション仮面による正義超人対決の真っ最中だ。無粋な横入りはやめてもらおうか」
悪党に道理を解くケビンマスク。元悪行超人であるからこその物言いだ。
ケビンに乗っかるように、観客席の万太郎も騒ぎ出す。
「そうだそうだ! そういうの、KYっていうんだぞ――っ!」
「ほーほー。ケーワイサンタクロース!」
「ちょっとⅡ世! しんのすけくんに変な言葉教えないでくださいよ!」
ちなみに“KY(空気が読めない)”は2006~2007年頃に流行った言葉である。
しかしながら、サタンは外野の野次にも怯まない。
「ゲギョゲギョ……さすがはケビンマスク。スネに傷を持つ男の言葉は違うなぁ」
「なにィ~~ッ」
小気味よい笑いとともにケビンマスクを煽り返し、サタンは語る。
「我は先の闘いで学んだのだ。悪魔という輩はいつも正義だの友情だのに絆され己を曲げる。もはや信用ならん」
先の“悪魔の種子”によるミートのボディパーツ争奪戦、サタンは土壇場でアシュラマンに裏切られた苦い記憶を呼び起こす。
アシュラマンだけではない。
自分を見限ったくせに悪魔にも友情はあるだのなんだののたまったサンシャイン……1000万パワーを授けられた恩がありながら手のひらを返したバッファローマン……いつの間にかその友人として元悪魔超人という肩書きを名乗っていたスプリングマン……悪魔超人とは蝙蝠野郎ばかりだ。
「が……それと同時に気づきも得た。唯一絶対、己を曲げず信念を貫き通す“悪”がいることを」
ニィ……と口角を怪しげに歪めるサタン。
ケビンマスクはチッと舌打ち叫ぶ。
「うだうだと……いったいなにが言いてぇ!?」
超人オリンピックチャンピオンとしての試合中、いつまでもこんな部外者に構ってはいられない。
迅速な答えを求めるケビンマスクに対し、サタンは告げる。
「それは“正義”だ」
己を曲げず信念を貫き通す“悪”――それは“正義”であると。
「正義が……悪だと!?」
正義と悪。
子供でもわかる真反対の属性が、同一であるかのように言う。
「あいつ、いったいなにを言ってるんだ~~っ?」
万太郎をはじめ、この答えには春日部スタジアムにいる誰もが首を傾げた。
これは一休さんのようなトンチ回答なのか、それともサタン流のデーモンジョークなのか。
そのどちらでもない。
「私の言わんとすることは、この男が行動で示してくれよう。我が新たなる傀儡……アクション仮面が!」
サタンがそう唱えた、次の瞬間である。
リング上、幽鬼のように黙り佇んでいたアクション仮面の身に異変が起こった。
『あ――っと、これはどうしたことだ――っ!? アクション仮面のヘルメットとスーツが、ドス黒く変色してしまっている~~っ!?』
アクション仮面の衣装を彩る青・緑・赤のトリコロールカラー。
それが濃度の違いはあれ、すべて黒く染まっていた。
客席の野原みさえがある可能性に思い至り、同時にミートくんが指で指し示す。
「もしかしてさっきの落雷で焦げちゃったの!?」
「いや! 胸の部分を見てください!」
ミートくんの小さな人差し指が示すのは、まさしくアクション仮面の胸元だ。
隣の万太郎もすぐに気づき、声を荒げる。
「あ……あああ~~っ!? アクション仮面の胸の部分にダイヤモンドのような石がめり込んでいる~~っ!?」
「あれは……ジェネラル・ストーンです!」
ミートが口にしたその名称には、万太郎も覚えがあった。
「ジェネラル・ストーンって……あの“魔界の
先に行われた“悪魔の種子”との闘いでも猛威を振るった闇アイテム。
それがよりにもよって、人間から超人になって間もないアクション仮面の体に埋め込まれているのだ。
「グググ……グオオオオ~~ッ!」
『アクション仮面が断末魔のごとき苦しげな悲鳴をあげる――っ!』
瞬間、万太郎の脳裏にジェネラル・ストーンにまつわる忌まわしき記憶が蘇る。
「て、敵を騙すための演技ではあったけど……
「であれば、アクション仮面の心が悪に支配されてしまうおそれも!」
ミートくん危険性を訴えるが、すぐそばにいたしんのすけが強く言い放つ。
「アクション仮面は悪の心なんかには負けないゾ!」
その強い眼差しを受け、万太郎もミートくんも落ち着きを取り戻す。
そうだ……バッファローマンとて、強い精神力でジェネラル・ストーンの魔性をねじ伏せた。
子供たちに支持される正義のヒーロー、アクション仮面がそうやすやすと悪に染まるはずがない。
「そうだそうだー! アクション仮面はおまえの手下になんかならない!」
「彼の正義の心は子供たちのお墨付き……おまえは目論見を外したんだ――っ!」
万太郎やミートくんの叫びに呼応するように、悲鳴をあげていたアクション仮面が我を取り戻す。
「そう……そのとおり」
試合中の超人として姿勢を正し、頭上のサタンには一瞥もくれず目の前のケビンに向き直る。
「私は正義のヒーロー、アクション仮面。悪の手先になるなど言語道断。よって……」
「待てアクション仮面。ここは……」
しかし今は大魔王サタンの乱入という大アクシデントが起こってしまった。
試合を続けるのであればまず部外者にご退場してもらってからのほうがいいのではないか。
ケビンマスクのそんな一瞬の迷いを突き――
「悪行超人ケビンマスク! 貴様を成敗する――っ!」
アクション仮面は鉄仮面の頬っ面に鉄拳を叩き込んだ。