オリジニウムをコラボ先にばら撒アークナイツ!   作:まっすァき

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プロローグ: ようこそ新エリー都へ!

 唐突に、世界が閃光に白く塗りつぶされたと私は知覚する。

 

 目の前に広がっていたはずの、平和なチェルノボーグの風景は瞬く間に掻き消えた上に……そこにあったのは見慣れぬ都市の景観だった。

 

 つい先程まで居たカフェはどこへやら。気がつけば、どこかの街で壁に寄りかかっていた。

 

「これは……誰かのアーツのせいか?」

 

 

 はじめ、ゼプトスターは歩きながらそう推測した。突発的な環境の変化など、長く歩んできた歴史の中では珍しくないが、一瞬にして街ごと前触れもなく景色が変わるなんて事は、初めてだった。

 

 まさか自分が『異世界』に放り出されたなどという、荒唐無稽な可能性に一瞬で思い至るはずもなく、微かに残る眩暈を堪えながら、足元の硬質なアスファルトを踏みしめて不思議そうに見渡した。

 

 

 辺りに広がる風景は交差点に歩道橋、そして何かしらの見慣れぬ建物たち。

 

 車が停止し、人々が横断歩道を行き交っているところを、彼女がぼんやりと見る。

 

 

 数分ほど歩みを進めるうちに無視できない違和感が肌を刺していく。閃光はともかくとして、少なくともテラ全土の言語を学習したゼプトスターでさえ読めない文字で書かれた看板は、異常を示している。

 

 頭脳はここがウルサスでもなく、かといって何処かも分からないと結論を出す。

 

 が、リンチピンは『正しい方向に思考を導いて』修正した。

 

 分からないことが分かる、という停滞した状態を受け入れる思考……それらは薄まりやがて消えていく。

 

 

(所見ではここはチェルノボーグではない……しかし凡そ……まあ、テラのどこかへ飛ばされたにすぎないとしよう)

 

 自らを納得させようとしたが、突然芽生えた強い違和感は拭い去れない確信へと変わり、やがて胸を突く焦燥が、冷たい恐怖へと姿を変えていった。

 

 テラを形作り、時に人々を情報の宇宙へ記録し、そして文明の基盤となってきた源石が、この世界には存在しない、という確信と実感。

 

 

 

(道行く人々のなかに、サルカズやフェリーンをはじめとするテラ特有の種族と合致する種族の姿が一切見当たらない)

(それどころか、先程からここの周囲に『感染者』を感知できない……)

 

(テラに存在する地下鉱脈、あるいは情報の海に頼らなくとも源石塵が肺にあるとか、血液に源石が溶け込んでいるとか、そういう微弱な感染状態にある人間ならば感知ができる。というかつい先程まで完璧にできていた)

(順接的に考えて、何らかの要因で源石に起因する『自己完結的でない能力』が使えなくなっている……?)

 

 ゼプトスターがそう考えたのは、例えどのように距離が離れようとも、感染が始まってさえいれば絶対に逃れられない─────はずだからだ。

 

(つまり、鉱石病に罹患した人間が、この世界にはただの一人も存在しないということを意味しているのか?)

 

 ゼプトスターにとって、ここが『異世界』であるということは……単なる文明の差異に留まらない。

 地下鉱脈が無い、と言うだけでも衝撃だ。『惑星改造計画』が行われていない……つまるところ、ここが『眠りの橋プロジェクト』に含まれていない惑星であることを確約し、スターゲートを用いなければ帰れないことを意味する。

 

 

 

 

 一般的感覚を持つ者にとっては惑星が違うことこそ最も重要な事だが、彼女は、それより心象を覗き見ることができないという制限を重視している。

 

 彼女にとって……他者との繋がりがないことは五感を縛られたに等しい、圧倒的な閉塞感を意味していた。他者の思考の海に触れられないもどかしさが、精神を焦燥感で満たす。

 

 

 

 ███

 

 私は浮浪者となって、一週間が経った。

 

 なにせ持っている紙幣といえば龍門といったところで、この世界の金が無いから。

 二日間は資金不足に悩んだし、路地裏で生活する存在であった。

 

 排気ダクトの風が吹くので、家々の隙間は風通しが良かったし、何より人目についたとて……まだ家の鍵を無くしたから座っている、という言い訳が着くと初日に考えた。

 

 

 

 が、ずいぶんとまあコレは能動的ではない行動、言うなれば時間の無駄だった。

 

 尋ねど尋ねど、この世界の人間たちは、オリジニウムについて一切の知識を持っていなかった。

 この世界の言語を解読しただけ前進だと思うべきか。

 

『ホロウ』『エーテリアス』……そして、それらからある程度身を守ることができる『輝磁』という鉱石や『音動機』というもの。

 

 前提条件から、全く違う……未知の知識が、この都市にある。

 

 そしてこのエリー都以外に、都市は存在せず、外郭や郊外などの都市近郊を越えれば全て『ホロウ』に呑まれていると。

 

 なんとも酷いというか、あまりにも過酷な惑星である。

 

 私をひどく世間知らずな存在として浮き彫りにしただろうが、少なくともホロウという名前の付けられた空間異常も、内部に生息するエーテリアスという異形の存在も、全ては知らない言葉だ。

 

 

 結果として、この世界の危機が常態化した住人たちから見れば、私は……かなり世間知らずのように映っている。かもしれない。

 

 

 

「……やっぱり、オリジニウムについて知っているのは、私だけというわけか……この世界の通信機器は獲得したが」

 

 

 人目を避けた路地裏で、彼女はスマートフォンを片手に小さく息を吐き出す。

 すぐ隣にある家の持ち主は三日目に死んだ。

 

 周囲を見渡せば、走る車両のエンジン音も、街を満たす電子工学の部品も、すべてが源石を一切使用せずに稼働しているらしく。そして彼女に注視する運転手や市民など、誰もいなかった。

 

 ゼプトスターの肉体は、源石そのもので構成されている。

 

 無機物・有機物を問わず自己複製に使用することが可能な……『テラではごく一般的な』源石だ。尤も、ここがテラではないと云うだけで異常な存在になるが。

 

 もちろんゼプトスターも自己増殖を行える。それには十分な『源石塵』が必要で、そして拠点を確保するためにも、多角的な視点からも早急にこの世界の知識を吸収する必要があった。

 

 

 家に定住せず、路地裏を闊歩しているのもその一環だ。

 

 

 誰かが失踪した所で、それは対して問題にならないと割り切った。ゼプトスターは近隣の邸宅街で手当たり次第に『源石塵』を作った。

 

 

 

(しかし、この肉体はプリースティスによって作成された特製の品であるし、どれほど高い再生能力を誇ろうとも、この身体に無駄な傷を付けるわけにはいかないな。現住する生命との衝突は避けるべきか)

 

(クリーンな方法で金を稼ぐためには……こんな非効率な事をやっていては根本から無理だし、略奪では成り立たないモノもある)

 

 

 ███

 

 二週間目、正確に言えば十五日目の私にとって大きな発見があった。

 

 それは、目の前に広がる紫色の『異常』。

 

 紫色の球体のような物が淵から溢れてきていて、しかしそれは自然と消えていく。

 

 

 襲撃を行おうとぼんやり考えながら路地裏を歩いていたとき、コレと遭遇した。

 

 これがホロウという存在なのだと、仮定するにしても情報が食い違う。

 

 路地裏に空いたホロウの裂け目を触ってみても、私の腕は、手は、指はすり抜けるばかり。

 この先に広がる異常な空間へと進めないのだ。

 

 

 

 生物として認められていることが条件なのか? と思案する彼女は、路地裏での王者だ。誰も武力で勝つことができない存在。

 しかし、誰もそんな事は知らない。その強さが広まる前に、源石へと変貌する自らの身体と、塵になる感覚を全身で知るからだ。

 

 

 

(全く入ることが出来なかったという結果。そして基本的に全ての人間がホロウに入れるという情報から、そう考察できるな)

 

 

 この『暫定的なホロウ』からは赤いシャツの人間たちが出てきたりすることはたまにあるが、彼女は全員をきちんと見逃している。

 赤牙組がどうたらとか言ってぶつかってきた男。彼は謝ったし、塵にしてやるほどでもないなと考えたのだ。

 

 尤も……情報を仕入れるのには、この『スマートフォン』があればいいという思考が根底にあり、ホロウの謎を解き明かすために『DWDB-A1』を使うのも大袈裟だという、慈悲とは程遠いモノによるもの。

 

 それは慈悲ではなく、気分で覆るような脆弱なものだ。

 

 しかし『テラと同じような隠匿』を選べたのも、生来の性格を鑑みて、プリースティスがリンチピンを仕込んでいなければ有り得なかっただろう。

 

 

 

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