オリジニウムをコラボ先にばら撒アークナイツ! 作:まっすァき
ロケットの適切な打ち上げ場所について、あるいは研究の進展について『Chemi3try』が社長室で考えていた時。ものすごい勢いで、ドンドンとノックが鳴り響いた。
ラミネートされた職員証を確認すれば、それは新しく管理スタッフから特務部隊に登録した研究員だった。
「おうい、すみません! 緊急で耳に入れたい事が! 開けてくださいゼプトスターさん! とてつもなくまずいことが起きました!」
ゼプトスター。これは石棺のオリジナルが有していた名である。
調査の限り、誰も『テラ』の賛同者がこの世界にいないのだから、名乗ったところで彼らの転移の際の布石にしかならない。
最初に使用したのは身元調査の際。しかし表で名乗る名前として、これほど便利なものはなかった。
「入室を許可する。入りなさい」
扉に対してアーツが作動し、開いていく。転がり抵抗は数t以上あり、開閉するためには毎度、慣性質量を乗り越えなければならない。これを解決するのがアーツによるシンプルな力技だ。
「まずいこととは何か? 私に教えて欲しい」
「まあ、ホロウレイダーと我々が公安局から思われた、あるいは共生ホロウ内部の探索において衝突が発生した、これら二項と私は推測する。が、それらは……いや、もちろん、別の可能性もありうる」
「ハッキリさせておきたい。君の報告は何かな? 安心していいさ。私にとって処罰は自由に可能な行動だが、素直に報告した人間を潰すほど愚かじゃないと明言しておこう」
(とりあえず、この狼狽ぶりから何かしらのハプニングがあったのだろうと分かる。ならば安心させるべく、笑みを絶やさないでおこう)
『Chemi3try』は椅子に座ったまま、流れるような動作でジェスチャーを行った。
実際にはアーツを用い、ゼプトスターが遠隔でリモコンを押しただけだが。まるで人感センサーがあるかように窓の上部が開いていき、夜も電飾で明るい十四分街の空気を取り入れた。
「結論から言えば、讃頌会の残党が我々の運んでいたオリジニウムを強奪しました! 奪還には成功しましたが……流出の不安が!」
研究員は緊張した面持ちでゼプトスターに伝えた。極秘研究にまつわる報告を社長にする役目は、彼にとって初めてのこと。
報告内容がマイナスの事象であるということを考えれば、ハズレくじも同然だった。
「なるほど、なるほど。なるほど、なるほど、実にヒドい報告だな! いやあ私の想定を遥かに超えていた! 報告、実にありがとう」
「しかし思うにオリジニウムの運搬車両は装甲化済みだったはずで、讃頌会のサクリファイスやエーテリアスは確かに脅威だが、立ち向かえないほどでもあるまい」
「奪われるほどの何かがあった、ということだね?」
頷きで、研究員は返した。
天を仰ぐように、手で目を覆う上司。それがどんなに恐ろしいか……彼の心情は荒れていた。それはもはや嵐に等しい。
「恐らく、我々を狙った讃頌会による襲撃です。突如現れた極小の共生ホロウに車両が迷い込んでしまい、護衛戦力が乏しい中、大量のエーテリアス……ええと、記録によれば二十体の敵勢力と交戦しました!」
「はは、それでなんとか源石を奪い返したが連絡が遅れたとかだよね」
「いや、どう連絡したらいいか分からないとかそういう感じかな? 電子機器もエーテルの浸蝕を受けるし」
「そして結果的に報告する時、遅れに遅れて全ては終わった後に」
淡々と返されて、もはや自分の指が震えていないか、あるいは動揺を見せていないか……そう、取り繕うことに手一杯になった。
「これで安全性の説得力が無くなったと思って隠蔽しなかっただけマシだねえ」
「正直に報告してくれてありがとう、君に感謝しよう」
「でも非活性源石でさえ貴重な昨今に、こんなことが起きたら困るよねえ? 全くもってそうさ。オリジニウムを作るのに時間は必須なのだし、まあそうだね……損失は大きいけど、まだ挽回できる」
独り言をなにやら言っているな、と研究員は思ったが、社長の言動は偶にこうなると聞く。
研究員にとっても、ゼプトスターにとっても……この状況下で、冷静になれるはずがなかった。
オリジニウムの流出はつまり、誰かがアーツを用いるようになる可能性を意味し、社外秘の物資たる源石研究もまた野放図に行われる可能性もある。
リスクは魔法の言葉だ。それだけで、負の可能性がいくつあるか整理できる。
「ああ! 讃頌会って毎度の如く妨害してくるし、何なんだ……ムカつくなあ……源石が流出した可能性もあるんだろう? ホロウ内部を探査しなくちゃならないじゃないか」
「この手間がどれだけ大きいか……はあ、分かったよ。ありがとうね。君の退室を許可する!」
言い終わると同時に、扉は再び動いた。
ブチ切れた上司を前に、スタッフは一礼して足早に去っていった。
「あーもうだんだん腹立たしくなってきた」
「エーテルに侵蝕されない素材はオリジニウムと輝磁……まあアーツユニットになるしオリジニウムはあんまり使いたくないなあ……だがやはり、そんなことは言っていられない、希少な金属を含めて車両を再設計すべきだ」
リンチピン施術は実に効果的だ。思考の逸れを規制し、助長する記憶への関心を抑制する。
最初の目標……観測者からの逃避。
第二の目標……源石に全ての情報を記録すること。
第三の目標……全員を源石の内なる宇宙から外部に実体を持つ存在として析出し、永劫の存続を果たすこと。
「こういう時、プリースティスがいてくれたらなあ……まあ無い物ねだりか」
ゼプトスターにとって、志しを同じとするプリースティスとは研究の同胞だった。それは『Chemi3try』になった後でも変わらない。
「ゼンレス限界を超えるようなホロウは近場に無かったはず……クソ……全て讃頌会のせいだ! 腹立たしい!」
唐突に、菱形の結晶が社長室に現れる。ストレス発散の合図だ。
瞬く間にエーテリアスの外見を再現した源石。それらは直立している。
複数のオリジニウム結晶へと赤黒いビームが襲いかかると、命中した部位が消滅し、衝撃でバラバラの破片となった。
盾を貫通して、頭のコアまで貫く閃光。硬度は決して柔らかくないし、その材料的な強さはおよそ鋼鉄の五倍近くはあるだろう。
壊れた原因としては……ただ『Chemi3try』の放ったアーツの火力が強すぎた、その一点に尽きる。
「エーテリアス狩りに行けたらいいのだがなあ、生憎、私は体質の関係でホロウに行けないし……」
「特務部隊を送り込んで、エーテリアスを狩ってやるべきか。彼らはもっとも替え難い人材であり、恒久的な源石活性状態の維持に関する重要な人物だ。しかし……ふむ、こうなれば、車列のルートを変更しなければいけないし、仕事は膨大だな」
一旦気分を紛らわすべく、『Chemi3try』は端末を開いてニュースを眺めた。タイムラインには、郊外のブレイズウッドで暴走する走り屋集団の噂や、ホロウ内部でゴールドボンプの目撃例が増えているという他愛もないトピックが流れている。
どこか他人事のような世間の喧噪だけが、漏洩で苛立つ彼の思考をわずかに現実の関心事へと繋ぎ止めていた。