オリジニウムをコラボ先にばら撒アークナイツ! 作:まっすァき
昨今のエリー都では大企業の汚職を含む様々な不祥事がもはや珍しくないような頻度で明らかになっている。
ヴィジョン社など、一部の巨大企業の不祥事は未だに話題となるところであるし、入札競争で敗北した白祇重工などにも注目が向いた。
住民爆破未遂事件の紙面はニュースで暫く踊ったし、というか今も掘り返される話題だ。治安局によるパールマンの逮捕で下火になりつつあるものの、まあこれで全体的に、企業への目が厳しいものになった。
とんだ流れ弾だが……企業を監査する公機関、『会計局』がプリースティス社にやってきた。
巨大企業も新興企業も、彼らの手にかかれば大なり小なり汚職や脱税が見つかるという通説がある。『死神』とさえ呼ばれるらしい機関ゆえ、最大限の警戒はすべきだろう。
「ええ、特殊スタッフの皆様にお知らせを! これよりプリースティス社の汚職疑惑を晴らすべく、会計局の監査を受けます」
「全ての部門に出した予算は監査の対象となりました。しかし安心してください、我々が汚職をしたという証拠はありません!」
「ええ、研究員たち、この後が私の本音です」
「手間がかかる! とにかく面倒だ! しかも調査期間が中途半端……この本音は一般スタッフも思っていることでしょう」
「……しかし! しかしです! 我々は使命のために動かなくてはなりません。監視の目が向かないように、特殊スタッフは全員がカバーストーリーを熟知し、それに従わなくてはなりません」
「事前に通達したように、特務部隊にエーテル回収の任務は存在しませんし、あなたたち研究員も実は研究なんてしていません」
「と、まあとっくのとうに理解したことでしょうが、確認します。 私の企業は『全ての人に源石の恩恵を』がモットーですからね、その為には隠蔽の力が大切です!」
「しかし、もしも研究員が一般スタッフと混じりきれなかった場合」
「これはもはや分かりきっていることですが……会計局からの要求があるからと機密事項を開示してはなりません。『ロッド&ワンド』などの、アーツユニット製造に関連する全ての事項は一型機密事項に相当します」
「一型機密事項、二型機密事項、三型機密事項は全て非開示対象に相当します」
「再三の注意を……機密事項の未回答を徹底してください。もしも誤って回答した場合、あるいは全くの偶然で情報を開示してしまった場合も、処分を免れることはできません」
「私は、あまり処分を行いたくない。なぜなら、君たちを信頼しているからだ!」
「昨日の確認を繰り返すが、局員からの情報開示請求は機密事項に関連する物事以外にのみ限り許可する」
「機密事項の漏洩が発生したなどの重大事件が発生した場合に、どうしても回避できない場合は……迅速に私に連絡を。緊急事態において、機密事項連絡係の当番制は解除!」
「私は君たちの尽力に期待している……」
放送で言い切った後に、ゼプトスターは研究所の管制室から素早く離れた。精神伝播などの手段はあったものの、それはいちいち触らなければならないし、何より時間が惜しい。
源石で構築された隠し床を、アーツで変形させる。
そして廊下を疾走するのだ。なんとも忙しい風にする理由として、一般スタッフがいなくとも監視カメラがあるからだ。
意図的に死角を作っているが、それはそれとして画角に入っている時は外面を繕うことが大事であると自覚しているのだ。
ホール前のスマート化されたドアを開け、マイクを手に取った。
静寂に包まれたホール内部では、多くのスタッフが一堂に会している。
数にして五百、いや六百はあるだろうか。ホールの収容人数ギリギリである。
「えー、スタッフの皆様! どうも、社長です。いちおうこの企業の顔、あるいは看板を務めている人間ということですね!」
「ビッグニュースが舞い込んできました。そうです、会計局について、このビッグニュースです!」
「まあスタッフの皆様は知っての通り、会計局は公共のために働く、いわば正義の組織です」
「我々の営利活動を監査しますが、元より不正や腐敗があるとは私は考えていません。なぜならスタッフたちを私は信頼しているからです!」
「しかし……もしも不正が発覚した際には、私が失望に陥ることは想像に難くない!」
「きっと、私は泣きますし、不正によってこの企業の培ってきた希望そのものが潰えることになります」
「あなたたちはただ、通常通りの業務に励むのです!」
「監査が予算の透明性を高め、資金を追跡するという目的によって行われていることも、あなたたちに周知します」
「会計局は予算全てを、口座の一切に至るまで疑っています。なぜなら、それがもっとも汚職に使われてしまうから!」
ゼプトスターはそう言って、スタッフに圧をかけた。ホール内部の静粛は保たれているものの、神妙な面持ちで聞き入るスタッフと、どこかぼんやりとしたスタッフに二極化している。
これを規律の悪化だ、とゼプトスターは捉えた。しかし凡長なセリフを読み上げつつ、熟考に入る。もはやスタッフに対する演説は予定調和の極みであり、考え事をしていてもいい時間として捉えているからだが……それは、誰にも悟られなかった。
(会計局の局員ほど面倒なものは無い。彼らは極めて優秀だが、同時に探りすぎてしまう。スタッフたちの汚職がないか心配だ……)
(資金の追跡からバランスシートの監査まで三日以内に行い、銀行預金と各種口座の預け入れ金額を五日以内に行う。そして七日以内に一次調査を終える……こんな情報まである)
(これが意味するのは七日があれば、一次調査を終えてしまうような集団だということ)
(さすがに比喩だと思いたいが、そもそも資金経路に裏が無いとも言えない。預金口座は数十以上あるし、そもそもプリースティス社が融資を受けている企業あるいは財団は多数ある)
(これだけの精密な回路に、汚れが無いと断定するのも難しいし、一般スタッフが何をやっていたとしてもそれは私の責任だ! ああ、腹立たしい……)
(会計局のエピソードとしては……融資元を追跡した結果、融資元の会社の役員が個人資産を避難させていたとか、関連する企業をフロント企業扱いだの、シェル企業だのと言って調査を波及させるという行いがある)
(会計局が目をつけた時点で、その企業がどれほどクリーンな面を装って居たとしても、必ず何かしらの隠し口座や、非合法なホロウ資源の密輸ルートを含む不祥事が発見されるとか……)
(ホロウレイダーを企業が雇っていた、『可能性』について会計局は言及する)
(するとイメージは大暴落、クリーンなイメージは崩壊。つくづく厄介な組織だ)
(あまりに的確に不正を暴くために、『最初から潰す企業を狙い撃ちにして、証拠を後から捏造しているのでは?』という陰謀論を絶えず聞く組織でもある)
「〜〜、ええはい、それらが意味するのはですね、我々が一丸となって、企業という枠にあっても、我々はあくまでも公共の利益を追求する団体であるということなんですね」
「それでは皆様、並々ならぬ緊張感を持ち、応対してください」
ゼプトスターが退室した直後、ホールの空気は温和なものとなった。空調によって『緊張と緩和』を精神的に与える、いわゆる心理的な効果を目的とした環境の操作。
環境の変化によって誘導された結論とは知らずに、多くのスタッフは安堵している。
:ゼプトスターについて
生前、アーツに関連する研究を行っていた。AMa-10などとも交流があったが、ドクターが石棺から目覚める前に自殺した。
プリースティスによって源石に情報が記録され、新しく『Chemi3try』として誕生する。
生前の彼を知る者は少ないが、ドクターが望めばPRTSは彼の存在を教えるだろう。