「それで、何かわかったか?」
茶々丸を修理する眼鏡の少女葉加瀬に、金髪の幼……少女エヴァンジェリンは尋ねる。
尋ねているのはつい先日、麻帆良に侵入し茶々丸の片腕を奪った男だ。
「う〜ん。なにもありませんね」
「まあ、だろうな。私でさえ知らぬ力だ。だが、性質だけでも解析出来るか?」
「あ、いえ、データがないのではなく………何も観測されてません」
「何だと?」
茶々丸は科学と『魔法』のハイブリッド。その観測機能は科学的のみならず魔術的なものまで効果を及ぼす。その茶々丸のデータを調べても、何も観測出来ない。
「はい、何も。この『闇』は、エネルギーとして存在もせず、観測上何もありません」
「………………回りくどい言い方はよせ。そっちょくに言え」
「
「………………は?」
「絶対真空………とも違いますね。あの『闇』は、何もありません。あるいはあったとしてそれを外から観測するのは不可能です」
それこそ、光すら飲み込むブラックホールのように。
例えば科学的な観測ならば光の反射、音の反響などがあるが、光も音もレンズやマイクに戻ってこなければ機械的にはそこに何もないのと同じ。あるいは穴があると認識するかもしれないが。
「穴………そうですね。まさに、世界に空いた穴。全てを飲み込む闇です」
エヴァはふむ、と考え込む。茶々丸の切り飛ばされた腕は完全に消えた。あれは闇に飲まれたからだろう。茶々丸本体も飲まれかけ、しかしあの男はその光景が予想できなかったかのように慌てて解除し、結果苦しんでいた。
「ふん、まあ良い。私の従者を傷物にしたのだ。封印が解けた暁には覚えているがいい!」
「記録しました。封印解除後の最優先事項に『不審者の撃退』を登録」
「その言い方だと真面目に働いているみたいですね」
それから一度の満月を挟み、茶々丸は不審者と再開した。
「あ、えっと…………」
「……………………」
向こうも予想してなかったのか困惑しているようだ。と、幼女の泣き声。優先事項を思い出した茶々丸は飛ぼうとして、その前に不審者が跳んで風船の紐を掴む。そのまま地上に降りると紐の一部を結んで輪を作る。
「はい。ここに手首を通せば、今度は簡単に飛んでいかないよ」
「わぁ! ありがとう、怖い顔のお兄ちゃん! バイバーイ♡」
少女はお礼を言って走り去る。
「こ、怖い顔。う〜ん、高身長イケメン顔の筈なのに。まあ、この傷跡かなぁ」
「一般的にイケメンと称される容姿と照合した結果、貴方の容姿はイケメンであると判断します」
「ありがとう?」
で、いいのだろうか。とりあえずお礼を言うオウギ。そんな2人に孤児院の職員は提案する。
「オウギ君、茶々丸さんと知り合いだったの? じゃ、買い物は私だけで言ってくるから遊んできなさい」
「え、いや、でも」
「いいのよ。内に来てからずっと働き付く目だった蛇ナチ? 少しは子供らしく、友達と遊んできなさい」
そう言うと職員は『お若い二人でごゆっくり〜』と去っていった。残された茶々丸とオウギ。
「えっと…………その、腕は平気か?」
こちらを心配するような様子に茶々丸は不思議そうな顔をした。無表情だけど。
「
「まあ、ああなるのは予想外だったし。殺したいわけじゃない……………。ただ、あの子……血を吸われてた子………無事か?」
バサバサと周囲の鳥が逃げ出す。茶々丸に内蔵された感知システムは何一つ反応を示さないのに、何故かピリピリと圧覚センサーが震えた気がした。
「……………はい。マスターに彼女を殺害する意図はありませんでした。少々血を頂き、貧血で翌日は休みましたが」
「吸血鬼になったりは」
「していません」
「……………………そうか」
「…………信じるのですか?」
主の異名を思えば、仕える自分の言葉など一蹴されるかと思った。
「さっき、子供のために風船取ろうとしてたろ? なら、多分お前はいい奴だろうから」
「…………………そうですか」
「でも、だからこそ聞きたい。何で人を襲った? 食事のためか?」
「……………マスターにはある呪いがかけられています。その呪いを解くために、ある魔法使いと戦う必要があり、力を溜めているのです」
「呪い?」
「はい。登校地獄です」
「登校地獄? それって、呪いなのか」
「登校を強制する呪いです」
登校が苦痛なのかの思えばおもっきり呪いだった。嫌な呪いだ。
「それは、その………大変だな」
「以来15年、マスターは中学生活を繰り返しています」
「え、15年?」
中学って三年だけじゃ、と疑問を返される。
「卒業後、また1年からやり直しです。マスターは不老なので見た目の問題はありません」
「それ、他の友達はどう思ってるんだよ」
「おそらくどうにも…………魔法について知らぬ者は、記憶の調整がされているようです」
「………………………それって」
と、その時
「あー、茶々丸だー!」
「茶々丸ー♪ 男の人と歩いてる、彼氏ー?」
子供達がやってくる。どうやら茶々丸の知り合いらしい。
「いや、知り合いだよ」
「はい、彼氏ではありません」
「なーんだ」
「うわっ、傷跡すごい! 痛くないの?」
彼氏じゃないと聞き詰まらなそうな男の子。もう1人はオウギの顔の傷に気付き心配そうに尋ねる。
「痛くないよ。ありがとな」
茶々丸が歩き出すと子供達も笑いながらついていく。
「ほら、傷の兄ちゃんも。おいてくぞ〜」
「え、俺は…………」
用事がある……………けど今潰れたのだった。どうせ予定もなくなったし、と子供達に促されるままついていく。
(……………つけられてるな。2人………いや、3人? 1人、気配は感じるのに音だけ完全に消してる)
茶々丸をつけていた何者かも気になるし。
「あの人、茶々丸さんの知り合いみたいだけど………」
「凶悪そうなあの顔、間違いなく闇の福音の仲間っすね!」
「そうかしら? 優しそうな人だったけど………」
茶々丸をつけていたのは厳密には二人と一匹。飛び級で大学まで進学し、卒業試験として麻帆良学園に教師としてやって来た十歳の天才児ネギ・スプリングフィールド。その生徒神楽坂明日菜。そして、由緒正しきお使え妖精オコジョのカモ。
数日前生徒が襲われたネギは魔法の残滓を確認し警戒。そこで出会ったのは生徒の一人エヴァ。なんとネギを狙っているたのだ。
彼女を何とか追い詰めたと思ったら現れて詠唱の妨害、拘束をしたのはエヴァの従者である茶々丸。
カモの提案により仮契約という魔法使いが契約して従者に力を与える特殊な契約をした明日菜と茶々丸を奇襲に来たのだ。
「本当に仲間だったらどうするの?」
「う〜ん。その場合次は3対2になるかもしれませんぜ。なら数が揃ってる今行動したほうが」
「や、だから仲間とは限らないじゃない」
「少なくともカタギにゃみえねっすよ」
顔に斜めに走る縫合跡。普通に生きててつくものではあるまいと断言するカモ。
一先ず後をつけていくと、歩道橋で息を切らせる老人がいた。茶々丸と謎の男はすぐに老人の下へ向かい、何やら話し合って男が老人を担ぎ茶々丸が杖を運ぶ。
「いつもありがとうございます、茶々丸さん。最近お世話になるね、扇君」
良くやっているらしい。
「「………………」」
ネギと明日菜が後をつけていくと、人が騒いでいた。河に流されていく段ボールに猫が切なげに鳴いている。
流れの速い河を茶々丸は平然と進む出遅れた男は上がる際に手を貸した。あの鎖何処から出てきたのだろう?
流石茶々丸さんだ、とか坊主もよくやったと褒める声が聞こえてくる。
「めちゃくちゃ良いやつじゃない! しかも街の人気者だし!」
「え………えらい!」
「いやいや、油断させるための罠かもしれねーですぜ!」
二人はとても純粋だった。
そして、茶々丸と男は教会へ。
茶々丸がずっと持っていた袋から缶詰を取り出すとこの時間によく現れるのか野良猫が現れる。
「…………あまり良くないぞ、こういうの」
「はい。ですが、ここにはよく肋が浮かんだ猫が…………毎日ではありません。彼等が野生を忘れぬように」
「………………そっか」
男はスリッと足に頬をこすりつけてきた猫を、しゃがんで撫でてやる。ニャーニャーと野良猫達が茶々丸と男を囲んで、チチチと鳥が現れる。
「………………良い人だ」
その光景に明日菜とネギは感動の涙を流した。
「ちょ、待ってください2人とも! ネギの兄貴は命を狙われたんでしょ! しっかりしてくださいよう! あ、ほ、ほら! 男が別れましたよ! 今がチャンスっす! 心を鬼にして一丁ポカーとお願いします!」
「で、でも………」
「仕方ないわね」
気乗りしないというように二人は缶詰を片付ける茶々丸の求め向かう。
「………こんにちはネギ先生、神楽坂さん。油断しました。でもお相手はします」
後頭部に突き刺さった歯車を抜きながら立ち上がる茶々丸。ネギはまだ戦いたくなさそうに尋ねる。
「茶々丸さん、あの………僕を狙うのをやめてもらえませんか?」
「申し訳ありませんネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので」
「うう、じゃあ仕方ありません」
ネギは明日菜に目配せし、明日菜も仕方ないというように頷く。
「では茶々丸さん………」
「ごめんね………」
「はい。神楽坂明日菜さん……よいパートナーを見つけましたね」
ネギはすぅ、と息を吸い魔力を集中させる。
「いきます!
「んっ!」
ズッと己の中に流れ込む己のものではない力に呻く明日菜。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
始動キーを唱え、完全にラインが繋がる。
魔力によって強化された明日菜は己の体重が羽になったかのように軽く感じた。
一瞬で茶々丸に接近し、迫る拳を茶々丸が弾くも反対の手が迫る。ギリギリ防御に成功するもバチンと曲げられていた指が伸び額を叩く。その衝撃で後ろに傾く茶々丸。
「速い。素人とは思えない動き……っ!?」
それでも自分の身体能力に振り回されていた明日菜。彼女が作った隙を逃さぬように詠唱を唱えていたネギが動く。
迫る11の光の矢。追尾機能のあるそれを回避するのは不可能と判断。
「すいませんマスター………オウギさん、もし私が動かなくなったら猫達に餌を…………」
「! や、やっぱり駄目ー! もど──」
ギャギィ! と硬質な音を立て光の矢が弾かれる。
切り飛ばされた矢は闇に包まれ飲み込まれた。
「…………オウギさん」
「さっきの!」
現れたのは先程の男。しかし何処にでもいる普通の格好から、剣を持ち西洋の兵隊を思わせる黒いコート、身を守る漆黒の鎧を纏った現代にそぐわぬ格好をしていた。
「やっぱり
「………この二人に無理やり戦わせたのはお前か?」
ギロッと黒く染まった眼球の中、夕日に浮かぶ太陽のような朱金色に輝く瞳がカモを見据える。
「………………」ジョバ
カモは恐怖した。
「ま、待ってください! 中止、中止です! やめー!」
「ネ、ネギ?」
「兄貴!?」
「や、やっぱり茶々丸さんは僕の生徒だし、怪我をさせるわけには………」
「……………」
解けるように形を失う剣がそのまま体内へ吸い込まれていく。鎧や服もザワザワと形を変え一般的な服装に。
「…………って、生徒?」
「はい。ネギ先生は私やマスターの先生です」
「子供に見えるけど」
「子供先生と呼ばれていますね」
そんな会話を聞き、改めて自分が生徒を襲った事を自覚するネギ。
「うう………うわーん! ごめんはさーい!!」
「あ、ネギ!」
「兄貴ー!?」
逃げ出したネギを慌てて追いかける明日菜とカモ。
「オウギさん、何故」
「ずっとつけてたみたいだからな。戦う気のない子供を戦わせてたのはあのイタチか?」
「オコジョです」
「……………オコジョ?」
「はい。食肉目イタチ科イタチ属に分類される動物の1種、ヤマイタチ、エゾイタチ、クダギツネとも。その妖精は由緒正しき魔法使いの使い魔です」
「そ、そうなんだ。闇の福音とか言ってたけど………やっぱ狙われる立場なのか?」
この前の戦いでも、エヴァは自分の首を狙いに来る相手がいるのは当然というような態度だった。もっともそこに誇らしさはなく、少なくともオウギには諦念を感じ取れたが。
「マスターは昔から魔王、闇の福音と恐れられてきました。多くの魔法使いを殺し、恨まれてもいます」
「殺し…………それ、あの子が自分から?」
「申し訳ありません。私がマスターに仕えた時には既に力を封印されており…………ですが、その」
「いや、いい。そうだな、きっと、あの子から殺しにいったことはないんだろう」
「はい」
悪い事をしたな、と頭をかくオウギ。
「……………なあ、中学を繰り返しても違和感を持たれないってことは…………交友関係は?」
「?」
「一緒に過ごした三年間を、卒業したクラスメイトは忘れているのか?」
「……………私は起動してまだ3年経っていないので、確証はありません。ですが、マスターの下に旧友が訪ねてきた事は一度も。恐らくは」
「……………」
その言葉にオウギは自分に向けられた言葉を思い出す。
動かないで! あんたは誰なの!?
お前…誰だ?
ププッ。お前はもう、仲間から名前も呼んでもらえないんだ
「……………………そっか」
「オウギさん………」
「いや…………なんでもない」
感想待ってます