「大停電?」
「ああ、オウギ君は来たばかりだから初めてだったろう?」
学園都市の年2回のメンテ。街中の電気が落とされ、医療施設など予備電源を持つ場所以外は暗闇に包まれるらしい。
「小さい子はいつもより早めに寝かせるの。食事も何時もより早めだよ、お願いできる?」
「わかりました。任せてください!」
「!?」
停電になった瞬間、突如巨大な気配が現れた。
「んぅ、オーギ?」
「どうしたの〜?」
オウギにくっついていた子供達が目を覚ましてしまう。
「あ、悪い。起こしちまった………なんでもない。ほら、寝ようぜ。起きてるの見つかったら怒られちゃうぞ〜」
「んぅ〜、やだ〜」
「ねる〜」
コロリと横になり寝息を立て始める子供達。オウギはまた起こさぬようにそっと服を掴む手を離し、ソロリソロリと部屋から出て窓を開ける。
大きな気配が一つ。
その気配に紛れるように小さな気配がいくつか。タイミング的に、どちらも停電を待っていたと見ていいだろう。
停電を待って行動を起こす。あまりいい目的は想像できない。オウギはまどから飛び降りる。黒いパジャマが形を変え、兵士服と鎧、マントとなる。
音もなく着地し、マントのフードで顔を隠すと、オウギは夜闇の中を駆け出した。目指すは巨大な気配………ではなく、孤児院に近付く気配から。
オウギは知らぬ事だが、この地は魔法に関わる地。
オウギの世界ではまず存在しない巨大な樹木………『世界樹』は22年に一度莫大な魔力を放つ。その管理も魔法使いの役目の一つと言うわけだ。
そんな魔法使い達は元々国外にて発展した魔法を使う
先の大戦も引きずりその恨みは根深い。
大停電に攻め込んでくるくる程度には。いや、そうでなくとも攻める時は攻めるが。
そして対処する者達は、数が足りているとは言えない。少なくとも、学徒動員した上で予備電力がやられれば解放されるエヴァンジェリンという悪の大魔法使いに監視が付かない程度には。
「ぐぎゃあああ!?」
「アニキィ!?」
人員不足の穴をついて入り込んだ鬼が切り刻まれる。
「西洋魔術師! 魔法剣士っちゅうやつか、ええのう!」
「大兄貴!」
鬼の群の中から出てくる甲冑を着た鬼武者。魔力量こそ先程刻んだ大鬼に劣るが、感じる威圧感はこちらが上。
「参る!」
「!!」
瞬間移動と見紛う縮地。振るわれる斬撃を防ぐオウギは大型車両にぶち当たったかのように吹き飛ばされる。
(強い………
魔王軍幹部を思い出し、しかし否定する。奴等よりは弱い。ただ、あの時と比べ
「しゃあ!」
「ぐっ!!」
所詮はその強さもツギハギだらけの剣士。肉体に刻まれた経験は文字通り接ぎ接いだ他人の物で、彼等を人の世に返す為にオウギが吐き出させた。
肉体に刻まれた経験とは言うが
「…………それでも」
それでも接ぎ接ぐ前からエドマンドは強かった。肉体才能は同じ。なら、オウギが使いこなせていないだけ。
それでも剣士達の剣を振るったのはこの身体だった。振るえないのは蓄積が消えただけ。振るった事実はこの肉体にある。思い出せ!
「剣の形…………」
イメージする剣の方に聖剣の形が一致しない。取り込んでない相手の剣の形には出来ない? いいや、あの時は中から取り出そうとしたからだ。いない奴から借りれない。
まだ接ぎ接ぐ前のエドマンドも剣の形を変え、服を生み出していた。自分の鎧だって中の誰かではなく自分から形作った筈だ。
より
「戦いを最中に考え事か!」
振り下ろされる鬼武者の刀。岩すら断ち切る人外の一撃は、しかし金属音と共に防がれる。
「…………なんや、これ」
剣と呼ぶには規格外のサイズ。側面についた櫛状の凹凸が鬼武者の刀を咥え込む。
ソードブレイカー。16、17世紀に使われた、レイピア程度なら圧し折る短剣。短剣?
「おお!」
あまりに巨大なそれは、刀どころか腕を絡み取り拗じ砕く獣の顎。
「ぬ…………!」
千切れ飛ぶ己の腕から零れ落ちる刀を噛み、上半身と首の力で振るう。バキンと刀が砕け、首を斬り落とされた。
「………やるやん、あんちゃん」
鬼武者がこの世から消える。残された鬼達が狼狽え、しかし命を実行するべく襲い掛かり………鎖の先端についた巨大な斧のような刃に切り飛ばされた。
鬼を全滅させたオウギはそのまま駆け出した。
場所は変わって学園橋。ブルックリン橋を思わせる巨大な橋の上にてエヴァとネギは戦っていた。その戦いも、もう終わったようなものだが。
(あのツギハギ男、結局現れなかったか………)
茶々丸曰く、まだ都市にいたとのことだが。
警戒して決着を急ぐ必要はなかったか。おかげで服が消し飛んだ。いや、敢えて正面から挑んだ自分の落ち度だけど。
「マスター、残り30分14秒です」
「ふん、じゅうぶんだ。坊やも魔力を使い切ったようだしな」
「うっ………」
おまけに本命の杖は奪われ投げ捨てられ、予備の杖も先程の打ち合いで過剰な魔力がかかり砕けた。最早打つ手はない。
「ネギ! この!」
「ふん」
明日菜が慌てて迫る。通常なら一般人の攻撃など障壁で防げるが明日菜は何故か真祖の障壁を容易す突破する。だが突破出来ると分かっているなら障壁を当てにしなければいいだけ。
突出した拳は回避され手首を掴まれる。グルリと天地がひっくり返った。
「え………きゃっ!?」
「明日菜さん!」
投げられた、と理解したのは地面に激突してから。ネギが慌てて駆け寄る。
「ば、バカ、ネギ! そいつの狙いはあんたなのよ!」
「で、ですが!」
自分を庇おうとするネギに叫ぶ明日菜。
「庇っているつもりか、坊や。まあいい、その身に流れる忌々しい奴の血、存分に吸わせてもらうぞ!」
「うぅ!」
と、その時。ネギとエヴァの間に何かが落ちてきた。
「な、壁!?」
「剣だ」
血管が張り巡らせたかのやうな異様な、巨大すぎる剣。その剣の柄に立つ男にエヴァは顔色を変える。
「貴様、ツギハギ男!」
「オウギさん………」
忌々しげに睨みつけるエヴァと困惑する茶々丸。友好的とは言えない態度に明日菜もまた混乱した。
「え、エヴァちゃんの仲間じゃなかったの!?」
「誰がだ!」
と、叫びながら闇の矢を撃ち込むエヴァ。しかしそこにオウギは居ない。ズルリとエヴァの正面の剣から現れ拳を振るう。
「ぬぅ………!」
「…………!」
ギシギシと軋む障壁。しかし砕けること無く、エヴァは押されながら吹き飛ぶ。
「はっ、今の私をあの時の私と思わぬことだな!」
「………………」
エヴァを睨みつけながら、オウギは剣を戻しネギへ振り返る。おい、とエヴァが叫んだ。
敵か味方か不明のオウギの登場にネギは両手を広げ明日菜を庇う。
「………お姉ちゃんを守ってるのか?」
「………………え」
「偉いな」
そう言ってオウギはまだ幼いネギがそれでも立つことを褒めるように頭を撫でる。
「かっこよかったぞ。後は任せとけ」
「あ、ま、待ってください! エヴァンジェリンさんはすごく強くて! あと、あの………僕の生徒なんです! だから」
「…………ああ、酷いことはする気はないよ」
そう言って手が離れる。オウギはネギに背を向けエヴァに向き直った。
「待たせた」
「ふん。貴様如き、背後から襲わねば勝てぬと思われる方が屈辱だ。しかし私相手に手加減する気とは、大きく出たな」
「……………戦いに来たわけじゃない」
「なんだ、今さら怖気づいたか?」
「俺は、お前の呪いをどうにか出来るかもしれない」
「────」
その言葉にネギ、エヴァ、明日菜、茶々丸は固まる。
「な、なに言ってやがんだあんた! 相手はあの『
カモが叫ぶがオウギはエヴァの返答を待つ。
「…………私の封印を解いて、何がしたい」
「………え?」
「誰か殺してほしいやつでもいるのか? 私が西洋魔術師共を怒りのまま殺して回るとでも思ったか? それとも混沌がお望みか? 或いは、対価にこの身を要求するか?」
「俺は、そんな………」
「誰が信じるものか! 私の呪いを解く!? その方法があったとして、何故お前が!!」
吹き荒れる魔力の圧は先程までと比べ物にならない。ネギ達相手に、本気も出さず遊んでいた事が嫌でも理解出来る。
「私の力か? 不死か? 体か? 言ってみろ、何が望みだ!」
「マスター………」
オロオロとする茶々丸。オウギは暴風のような魔力の圧に冷や汗を流しながらも、その瞳はエヴァを真っ直ぐ見据える。
「えっと………その、まずは服を着てほしいかな」
「…………む」
その言葉に自分が全裸である事を思い出したエヴァ。無数のコウモリが現れ、黒衣と黒いマントに変わる。
「今の願いではなく、私の封印を解く対価を言え」
「…………なら、友達を作ってほしい」
「…………………なに?」
「呪いが解ければ、繰り返しが終われば………今度はきっと、忘れられないと思うから。光に生きてほしい」
「……………………」
俯き震えるエヴァ。ネギは明日菜を起こしエヴァの様子を見守る。次の瞬間、オウギの片腕が魔力の剣で切り飛ばされた。
「っ!!」
黒い糸が傷口から伸び繋げ直す。剣を構えたオウギ。その剣に叩き込まれる蹴り。同時に爆ぜる魔法。オウギは砲弾のような速度で吹き飛ばされる。
「お、お兄さーん! エヴァンジェリンさん、なんてことをー!?」
橋塔にぶち当たり瓦礫に沈むオウギを見て叫ぶネギ。
「ふん、煩いぞ坊や。あの程度で死ぬか………彼奴も私と同じ、不死身の化物だ」
瓦礫が吹き飛ばされる。現れたオウギの頭部が潰れ眼球が零れ落ちるま、傷口から現れた糸が細胞単位で縫い合わせる。
「づぅ〜〜!」
「光で生きろだと? なんだそれは、お前の未練か? 今更、光など歩けるものか! どうせ私達をおいて逝くだけの連中に、付き合う必要が何処にある!」
痛い。
リエちゃんの中で何度も殺された時を思い出す。ゾンビじゃなくなったから?
「ぐぅ………!」
痛い苦しい熱い暗い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
「………づぁあ!」
痛くて苦しくて、逃げたい。挑みたくない。怖い!
だけど、あの顔…………何回も見た! 自分が大嫌いで、自分自身を消してしまいたい人間の顔。
「認めてたまるか………」
女の子がそんな顔で、この先、闇の中を生きていくなんて、そんな悲しいこと………
「認めてたまるかぁぁ!!」
飛んでくる氷の槍を切り飛ばす。迫る爪を回避し蹴りを放つ。先程より力を込めた一撃が障壁を砕きエヴァを吹き飛ばす。
「意地でも
「
勇者と魔王。
700年生き続けた女と2度死んだ男。
真逆の2人が麻帆良でぶつかった。
感想待ってます