ジェダイ聖堂、最高評議会室。
普段であれば、共和国の命運に関わる議題さえ静かに論じられるその部屋に、今日はどこか異様な空気が漂っていた。
円形に並ぶ十二の座席。その中央に立たされているのは三人。
ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジン。
ジェダイ・ナイト、オビ=ワン・ケノービ。
そして十三歳のパダワン、アナキン・スカイウォーカー。
彼らは誰も拘束されてはいない。
ライトセーバーも取り上げられていない。
だが、どう見ても通常の任務報告ではなかった。査問会にしか見えず実際そうだった。
今まで色々絞られたが、此処までのは初めてなアナキンは落ち着かなげに周囲を見回し、一度だけ隣の師を見上げ、いつもと変わらぬ横顔を確認して落ち着いた。
オビ=ワンは、半ば諦めたような顔で正面を見据えている。
クワイ=ガンだけは、普段と何一つ変わらず穏やかな表情を浮かべていた。
その三人を正面から見つめていたメイス・ウィンドゥが、手元の端末を閉じた。
「……では、始めよう」
低く、静かな声だった。何かを抑える声だった。色々な意味でよくぞやってくれたなという声だった。
「これは査問ではない。現時点で君たち三名に対する訴追も行われていない。共和国法務省からも、ジェダイ・オーダーに対して処分を求める要請は来ていない」
実際は査問だという事は分かっているなという目のメイス・ウィンドゥは、そこで一度言葉を切った。
「むしろ、その逆だ」
救済の気配に、ジェダイ辞めたら何をするかとさえ検討していたオビ=ワンの眉が僅かに動いた。
「だからこそ、我々自身が確認する必要がある。今回、君たちがアウター・リムで何を行ったのかを──正確、かつ、完璧に、だ」
正確と完璧に思い切りアクセントを置いたメイスの言葉に場は沈黙した。
「提出された報告書は読んだ。共和国政府、現地治安当局、航路管理局、税関、司法省、通商関係各局から送られてきた資料も確認している。だが──資料を突き合わせれば突き合わせるほど、何故このような大騒動になったのか分からなくなる」
言葉を切ったメイス・ウィンドゥの隣でキ=アディ=ムンディが僅かに目を伏せ、プロ・クーンは無言で首を振る。他の評議会の面々も思い思いのやりかたで、どうして? と表現した。
ヨーダだけが何時も通りに、杖に両手を重ね半ば瞑目したまま座っている。
「よって、最初から聞く……今回の任務について、最初から述べてくれ。マスター・クワイ=ガン」
「承知しました」
メイスの問いにクワイ=ガンは穏やかに返した。あまりにも普段通りの返事に、弟弟子を得てから更に面が厚くなったなあとオビ=ワンが僅かに横目を向ける。
オビ=ワンに全く同感だがそれを表には出さずにメイスは続けた。出来る限り穏やか、かつ自然に。
「任務開始時点からだ。後になって関与した出来事ではない。君とパダワン・スカイウォーカーがコルサントを出発した時点から、順を追って話してほしい」
「分かりました」
「省略もしないでくれ」
「無論です」
「……君ら三人の場合、その返答が最も不安なのだがな」
え? 私も? という顔をするオビ=ワンを完全に無視し、小さく息を吐いてから、メイスは背もたれに身体を預けた。
「始めてくれ」
「はい」
何一つとして後ろめたい事はないという顔のクワイ=ガンが一歩進み出た。
「すべての始まりは、約三か月前に受領したアウター・リム方面の調査任務でした」
室内中央に設置されたホロ投影機が作動し、暗い宇宙空間に、共和国領域を示す星図が浮かび上がった。
銀河中心部から遠く離れた外縁の、辺境宙域が拡大される。
「共和国通商省及び航路管理局から、当該宙域において輸送船の失踪、通信途絶、積荷の不自然な消失が相次いでいるとの報告がありました。
そして、現地星系政府からは海賊活動の可能性が指摘されていました。しかし、共和国側の記録では組織的な海賊行為を裏付ける証拠が不足していた。また、一部の船舶については正式な航路記録そのものが残っていなかった」
「故にジェダイへ調査依頼が来て、我々は君とパダワン・スカイウォーカーを向かわせた。そうだな」
メイスが確認する。ここからが大切だと匂わせながら穏やかに。
「その通りです」
「任務内容は?」
「当該宙域へ赴き、輸送船失踪の原因を調査。必要に応じて現地政府及び共和国機関と協力し、航路の安全確保に必要な情報を収集することです」
「そう、それが君たちに評議会が命じた任務だ。間違いないな」
「はい」
「では、武力による重犯罪者摘発は?」
「任務に含まれていませんでした」
「企業犯罪の捜査は?」
「含まれていませんでした」
「企業従業員と合同での企業資産持ち出しは?」
「含まれていませんでした」
「民間企業の設立支援は?」
「含まれていませんでした」
「違法賭博を行うマフィア摘発は?」
「含まれていませんでした」
「そうだな。…………それと、マンダロリアンへの兵器融通及びドロイド武装組織との戦闘及びジャビーム星における戦闘支援及びナブー救援などなどは?」
「それも含まれていませんでした」
「君が任務内容を忘れていなくて、今、私は心の底から安堵しているよ。マスター・クワイ=ガン」
自らを落ち着かせる為に皮肉を言わざるを得ないメイス・ウィンドゥ。
オビ=ワンがそっと目を閉じた。アナキンは気まずげに目を逸らした。「恐縮です」クワイ=ガンはサラリと流した。
『まだ弟子は可愛げがある』と四年前から厚みを増し続ける心の黒手帳に追記するために、メイスは数秒間黙ってから額を指先で押さえた。
「……結構。続けてくれ」
「はい」
マスタークラスのジェダイであっても目の前に立てないほどに威圧感たっぷりにメイスが睨みつけても、クワイ=ガンは何一つ気にした様子もなく続ける。
「任務を受領した私は、パダワン・スカイウォーカーを伴いコルサントを出発しました。最初に向かったのは、問題となっている航路に最も近い共和国加盟星系です」
星図上に一つの惑星が表示された。
「そこを拠点として過去半年分の遭難記録、船舶登録、貨物記録を調査しました。その結果、失踪船の多くに共通点があることが分かりました」
「共通点?」
プロ・クーンが興味深く訊ねる。一言も聞き漏らさないようにと。
──そんなプロ・クーンを含めた評議員たちは知らないが、クワイ=ガンの説明からは、その調査の過程で師弟が裏社会にまで足を運び、そこで情報を集めたことが綺麗さっぱり抜け落ちていた。
先ほどメイス・ウィンドゥから「省略するな」と念を押されたばかりで省略したように思えるのだが、これに関しては(※強調)別にクワイ=ガンは省略しているつもりなどない。ただ思考法が違うだけである。
裏社会に詳しい者から裏社会について話を聞く。彼とその系譜に連なる者たちにとって、それはごくごく普通の情報収集であり、わざわざ報告する必要がある重要な出来事ではないのである。
──そう、彼らにとっての思考法においては。
当然、そんな思考法なんて共有していない一般的ジェダイであるプロ・クーンをはじめとする評議員たちは、裏社会で情報収集したなど考えることさえ出来なかった。
フォースがあろうと、同じジェダイであろうと、分かり合えるとは限らない好例だろう。
「はい。いずれも同一企業グループ、あるいはその関連企業との取引履歴を持っていました」
ちなみに、その情報は、裏社会の重鎮との取引で手に入れたものである。評議員の中に知っている者がいれば『そこを省略するな』と即座にツッコミが入っただろう。
だが、評議員の誰も知らない。故に誰もツッコまない。
何事もなくホログラムが切り替わり、評議員たちの前に幾つもの企業名が浮かび上がった。その上位には、銀河中に支社を持つ巨大企業ツェルカ社の名があった。
「ツェルカ……大企業だな」
イース・コスが小さく呟く。
「共和国に正式登録された企業だな」
「はい」
「問題となったのは、その子会社だったのだな」
「その時点では、そう判断しました」
「……その時点では?」
「はい」
「………………続けろ」
「調査のため、我々は当該企業が所有していた辺境の中継拠点へ向かいました」
『問題が小さな対象で済まないなど何時もの事ではないか、驚くなメイス・ウィンドゥ。お前はジェダイなのだ』と心の黒手帳に書き込みながら言うメイスに対して、淡々と応えるクワイ=ガンの横で、アナキンが僅かに表情を変えた。
ここからだ、彼には分かっている。秘密裏に潜入し、奴隷たちを目にした途端、躊躇なくライトセーバーを抜いて救出したのだから。
当然それを見て何があったか悟った評議会の面々だが、そのくらいは若い正義感として片づけた。公には褒めることは出来ないが、基本善人なジェダイたちはよくやったという空気を出す。クワイ=ガンの発言までは。
「そこで我々は、貨物として輸送されていたジャビーム星人たちを発見しました」
アナキンの様子で何があったのか悟っていたが、断言された評議会の空気が変わりメイスが低く確認する。
「貨物として人をか?」
「はい」
「共和国の記録上は?」
「従業員でした」
「……なるほど」
「企業側は、全員が正式な契約労働者であると主張しました」
「実態は?」
クワイ=ガンの声から、僅かに温度が消えた。
「奴隷でした」
ホログラムに映像が浮かぶ。
痩せたジャビーム星人たち。
首や腕に識別具を付けられ、貨物区画へ押し込められている彼ら彼女ら。そして、ライトセーバー片手に監視たちを打ち倒して彼らを救出する奴隷だった少年アナキン……までは評議会の想像通りだった。いや、そうしない方がおかしかった。
それ以降は想像から外れた。
同じく囚われていた運輸会社社長を救出し、その礼として譲られた中型貨物船の医務室で体内スキャンし、埋め込まれた小型装置が発覚。装置を無効化。さらに助けたジャビーム軍人アルト・ストラタスから仲間たちの救難を求められるや即座に頷き、その中型貨物船まで彼に譲り渡していた──これらは当時、評議会への伺いも報告もないし、想像の斜め上なので想像だにしていなかった。
「逃亡防止のため、体内に爆発物が埋め込まれていました」
それらを初めて見せられ、ヨーダ以外の評議員から「「「この時点でもうツッコミどころが多すぎる。今となっては問題無しになったが、救出した運輸会社社長から中型貨物船を譲られた時点で、報連相くらいちゃんとしろ」」」と言わんばかりの視線の砲火を浴びても、クワイ=ガンは微動だにしない。視線に応じて淡々と船舶譲渡書類などを映しながら報告を続ける。
その横では、彼らを解放したアナキンの拳が誇らしげに握られていた。
その師弟を見た評議員は「「「彼らは意図的に省略しないが、疑問点はこちらから更に聞くべきだ」」」と決意した。
悲しい事にあまりにも続く大事の数々に消え去る決意を。
「契約は強制。賃金は住居費、食料費、輸送費、契約更新費の名目で企業側へ還流。退職は認められず、命令違反及び逃亡を試みた者には爆発物の起動を示唆していた──紛れもなく奴隷でした」
「実際に起爆された例はあったのか?」
「我々が居る際にはありませんでしたが、映像で数件確認しました」
「現地法では?」
「奴隷制度は禁止されています」
「共和国法でもだ」
「はい」
『違法奴隷労働。身体への爆発物埋設。共和国法及び現地法の二重違反。許しがたい』心の黒手帳に書き込みながら落ち着くためにメイスは腕を組んだ。
「……君たちがどうやって彼等の現状を確認したかは理解した。では、その時点で現地の共和国治安当局へ通報すれば済んだのではないか? なぜ、あんな事になった?」
「通報したからです」
「……何?」
「彼らの現状を確認した直後に通報した。それで状況が変わったのです」
『治安当局をもグル、か。腐敗極まりない。絶対に許さない』心の黒手帳に書き込みながら、何があったのか悟った共和国を愛するメイスの眉が動く。
「治安当局からの回答は?」
「当該企業は共和国に正式登録されており、現地での営業許可も得ている。従業員との契約も書面上は合法であるため、強制捜査を行うには証拠が不足している、と」
「爆発物があるだろう」
「企業側は『危険労働区域における位置確認及び生命維持装置』と説明し、それを治安当局も受理していました」
その時は現地にいなかったオビ=ワンが半眼で呟いた。
「随分な生命維持装置ですね」
まったくもって同感だが、それを表には出さないメイスがオビ=ワンを見る。
「ナイト・ケノービ。今は君の証言を求めていない」
「失礼しました」
「後で嫌というほど聞く。君が合流してからの案件。とりわけ、マンダロリアン関係をな。サティーン・クライズ公爵やボ=カターン・クライズ氏を含めたマンダロリアン上層部や、各星政府との間に何があったのかを。君からは特に、な」
「…………はい」
観念した眼差しのオビ=ワンを横に、クワイ=ガンは何事もなかったかのように続けた。
「そこで、我々は追加の証拠を集めることにしました」
「任務の範囲を越えて?」
「失踪船事件との関連が疑われましたので、調査任務の延長線上です」
「…………なるほど」
メイスが一度だけ頷いた。
「そこまでは理解できる。確かにそこまでは調査任務の範囲だ。そう、そこまでは、な」
いや、何度も頷いた。感情を整理するために、そこまでは、を思い切り強調しながら何度も頷くメイス。そんな彼から若いアディ・ガリアが目を逸らした。
「それで?」
「ストラタス氏と協力して企業施設内部の記録を確認した結果、失踪船の一部が同社によって拿捕され、乗員が拘束されていたことが判明しました。失踪船は所有権を書き換えて略取し、乗員は奴隷としたことも含めて」
「合法企業が?」
「はい」
「共和国登録企業が?」
「はい」
「治安当局と手を組んだツェルカ社の子会社が?」
「はい」
「……続けろ」
短く告げたメイスの声には、先ほどまでは表に出さないように抑えていた硬さ──義憤が滲んでいた。
共和国の法を守るべき治安当局が法を踏み躙り、共和国が認可した企業がその庇護の下で人を奴隷として扱っている。
共和国を愛するメイスにとって、それはクワイ=ガンの越権行為などとは比較にもならない、決して看過できない事態だった。
心の黒手帳には当該企業と現地治安当局に対する大量の罵倒が何頁にもわたって書き込まれている。
「更に調査を進めたところ、当該企業の従業員として登録された者は一万人余りでしたが──」
それでもメイスはジェダイとして感情を抑え、黙って報告の続きを待った。
その眼前でクワイ=ガンがホログラムを切り替え、その内容に、評議会室が凍りついた。
「ツェルカ社及びその系列企業のネットワーク内には、同様の条件下に置かれたジャビーム星人が、複数星系にわたり約六百万人存在することが判明しました。そして近々、その全員が五日間だけ一か所へ集められる予定であることも。それを知ったストラタス氏は、直ちに我々へ救援を求めました」
ここに至って、評議員たちも今回の一件が何故これほど複雑怪奇な騒動へ膨れ上がったのかを理解した。
一企業の奴隷売買ではない。大企業グループであるツェルカ社の企業網を通じて複数星系に広がる六百万人もの奴隷、失踪船の略取、現地治安当局との癒着、共和国官僚機構をすり抜ける偽装された契約と船籍、さらには元老院議員との不正取引まで繋がっている。
司法省だけでは捉えきれない。通商当局だけでも、航路管理局だけでも、現地政府だけでも全貌には届かない。それぞれが持つ記録を重ねて、ようやく巨大な犯罪網の輪郭が浮かび上がるほどに、銀河規模で絡み合った事件だった。
先ほどメイスが口にした通り、資料を突き合わせれば突き合わせるほど訳が分からなくなったのも当然だった。
しかも、その六百万人が一か所へ集められるのは僅か五日間だけ。コルサントへ戻って評議会へ報告し、共和国政府を動かし、関係各所との調整を始めていては、救出の機会そのものが失われかねない状況だった。
そして、その状況に偶然踏み込んだのが、よりにもよってクワイ=ガン・ジンとアナキン・スカイウォーカーだったのである。
そう、よりにもよって!!!???
奴隷を救ったことは喜ばしいが、あまりな大事になってしまった根本的原因を悟った評議会室から、完全に音が消えた。
その静寂の中で、まだ大分残っていた心の黒手帳の余白が、今回明らかになった犯罪者たちへの罵倒だけで埋まりきったメイス・ウィンドゥは、数秒だけ目を閉じた。そして、ゆっくりと開く。
「……マスター・クワイ=ガン」
「はい」
「この時点で、君たちに命じた調査任務は終わっている。本来ならば、証拠を持ち帰り、評議会へ報告すべきだった。だが君たちは何をした?
──周囲のほとんどが敵。六百万人が一か所に集められるのは、僅か五日間。評議会へ報告し、正式な対応を待っていては間に合わない可能性が高い。……その状況下で、君たちは何をした?」
洗い浚い吐けという眼差しのメイス・ウィンドゥに、クワイ=ガン・ジンはいつもの穏やかな表情のまま答えた。
「フォースの導きに従い救出しました」
オビ=ワンが天井を見上げた。
アナキンは胸を張った。
キ=アディ=ムンディが目を閉じた。プロ・クーンは何も言わず、ただ僅かに肩を落とした。サシー・ティンは眉間を押さえ、イーヴン・ピールは深々と背もたれへ身体を預けた。オポー・ランシシスは何か言いたげに口を開き、閉じた。デパ・ビラバは助け舟を出さんと師であるメイスへ視線を向けたものの、今まで見たことがない圧を纏う師の姿にそっと目を逸らした──等など、評議員たちは皆、諦観した。大事になってしまったのは仕方がなかった。これからどうするかを考えなければ、と。
ヨーダだけは何一つ驚いた様子もなく、杖に両手を重ねたまま静かにクワイ=ガンたちを見ていた。
メイス・ウィンドゥも他の評議員と同じく(仕方がなかった)と諦観したかったが、彼はメイス・ウィンドゥなのでしなかった。
メイスには、四年前、自分を含めた評議員が師弟関係を結ぶことを許可した師弟のやらかしに対する責任がある。
ナブーの件の直後に『タトゥイーン奴隷調査』という題目で奴隷を解放しやがった──しかも、パダワンになったばかりのスカイウォーカーまで連れて行った──のを始まりとして、数々のやらかしを積み重ねてきた問題児師弟(弟子はまだ胃に優しい)による史上最大のやらかしを前に、評議員として答えを出さなければならない責任がある。
具体的には、これまでなかった『信じてた』『ありがとう。本当にありがとう』『誰も助けてくれないと諦めてたのにジェダイは助けてくれた』市井の人々から届く無数の感謝の手紙を、評議会が、いやジェダイがどう受け止めるのかという責任が。
大人たちからだけではない。幼い子供が覚えたばかりの文字で綴った、『たすけてくれてありがとう、ジェダイ』という手紙まで沢山届いているのだ。
そして、それが一番効いた。
そんなものを今まで一度も受け取ったことのなかったジェダイたち──メイス・ウィンドゥを含めて──にとって、その短い一文は、評議会へ爆弾を放り込まれたような衝撃だった。元老院からの感謝状も、政府機関からの表彰も、救った要人からの謝辞もあった。
だが、名も知らぬ子供たちから「ありがとう、ジェダイ」と綴られた手紙が、これほどの数、ジェダイ聖堂へ直接届いた記憶は、少なくともこの場の誰にもなかった。
個々の任務で感謝されたことならある。救った者から礼を言われたこともある。だが、銀河各地の名も知らぬ市井の人々から、ただ「助けてくれてありがとう」と、ジェダイそのものへ感謝が殺到したことなどなかった。少なくとも彼らの知る限りでは──クワイ=ガン・ジンと、その系譜を除いて。
だから──教条主義に陥っているが善人揃いの──ジェダイ全員が混乱していた。
我々は間違っていたのではないか。このままで良いのか。そもそも、これほど感謝されたクワイ=ガンたちは具体的に何をしたのか。今回の査問会の根底には、そんな問いがあった。その『ジェダイとは何ぞや』という問いに対する回答を、評議会は出す責任がある。
その責任を果たすべく、問うべきことを問い、答えをだすため、メイス・ウィンドゥは深く息を吸って吐きながら言葉を出した。
「そうか」
「はい、そこで──先ずは我々と同じ情報を掴み治安当局に訴えるも握り潰された共和国エージェントが居たので彼らと協力することになりました」
「当該企業からテロ行為を行ったとして告発され、現地治安部隊に追跡されていた者たちだな」
それはそれ、これはこれ。結果として正しかったし感謝されたからといって、当時の判断まで美化する気はないメイスが新たな心の黒手帳に書き込みながら即座に修正すると、クワイ=ガンは平然と返した。
「はい。責任感と使命感に満ちた素晴らしいエージェントの人々です」
「ああ、それは今となっては私も認めよう。だが当時の君たちが知っていたのは、企業犯罪を告発し、その企業からテロ容疑で訴えられ、現地治安部隊に追われている者たちだということだけだ──捕えんとした現地治安部隊の鼻先で、君らが確保してそのまま連れ出したという情報も加える必要があるかな。
加えるならば、当時、企業と現地治安当局の連名で『ジェダイが指名手配犯を不当に連行した』との正式な抗議まで評議会へ届いている。我々は『双方の主張に食い違いがあるため、事実関係を確認する』と回答し、君たちへの処分要求もエージェントの身柄の引き渡し要求も拒否した。──君たちから、まともな報告が届くものと信じてな」
「すいません。信じていただいていたのに」
信用を裏切っていたんだ、とクワイ=ガンの横で謝罪しながら頭を下げたアナキンに、メイスの険しかった眼差しが僅かに和らいだ。
「謝罪はまだ必要ない、パダワン・スカイウォーカー。君はパダワンだ。評議会への報告は、まず君のマスターが果たすべき責任だ。我々は、その報告が何故届かなかったのかも含めて聞いている」
「はい」
「君たちの判断が正しかったのか、誤っていたのか。それを決めるのは君のマスターから全てを聞いてからだ。君は報告の重要性を学んでくれればそれで良い」
「はい、マスター・ウィンドゥ」
素直に頷いたアナキンから、メイスは再びその師へと視線を戻した。
「そう──届いたのが、当該企業と複数の元老院議員との不正取引についての至急調査依頼だけだったことについて、詳しく聞かせてもらうぞ。マスター・クワイ=ガン」
皮肉に満ちたメイスの言葉を、クワイ=ガンは丁重に聞き流した。
「話を聞くと、彼らの話には信憑性がありましたので」
「そして君たちは彼らを信じ、共に行動したのだな。何としても奴隷を解放するために」
「はい」
「……そうだろうとも。ああ、そうだろうとも。マスター・クワイ=ガン、パダワン・スカイウォーカー─―君たちなら、そうするだろうとも」
四年前、アナキンをクワイ=ガンの弟子にすることに賛同した自分を、称賛半分、心の黒手帳で殴り飛ばしたい半分でメイス・ウィンドゥは呻いた。
アナキンは史実では、そろそろ評議会やジェダイそのものを疑い始める時期ですが、クワイ=ガンに育てられているこちらでは、評議会を「厳格ではあるが、公正で信頼できる人たち」と認識して、ジェダイであることを誇っています。
今回のようにクワイ=ガンと意見を衝突させても、母を含めた奴隷解放や人命救助などアナキンから見て大切なことは一切否定しない姿を見続けているので、「偉い人は大変なんだな」と評議会を信頼しているしジェダイへの誇りは揺るぎません。
やはりクワイ=ガンが生きてると違いすぎます。シディアスが入る隙間が欠片もない。