タコダナへの航路中。
六百万人もの人々をどう食わせ、何処へ住まわせ、どうやって自立させるのか。
船舶の登録、物資の確保、共和国政府との交渉、そして彼ら自身による組織作り。
問題は山ほどあった。
しかも、今やそれは生活の問題だけではない。
彼らを追撃した秘密武装組織が何者なのか。誰の命令で動いているのか。それすら分かっていない。四十八機のスターファイターはある。だが、六百万人と十八隻の輸送船を抱えたまま、正体も規模も分からない軍事勢力を相手にし続けられる保証などなかった。
自由になっただけでは足りない。 その自由を守れるだけの力も必要だった。
その多忙な時間の中で、アルト・ストラタスは三人のジェダイを見ていた。
クワイ=ガン・ジン。オビ=ワン・ケノービ。そして、アナキン・スカイウォーカー。
三人とも違う。ほかのジェダイとは良い意味で違う。
クワイ=ガンは、目の前に救える者がいればまず手を伸ばした。
オビ=ワンは、その後に発生する政治と法律と面倒事を見越して、どうすれば通せるのかを考えた。
そしてアナキンは──まだ幼かった。
十三歳の少年。ブロンズ・ニンバスを率いて幾つもの戦場を経験してきたアルトから見れば、どう見ても子供だった。
だが、その少年が最初に自分を助けた。
奴隷だと知ったから。体内に爆弾を埋め込まれていると知ったから。助けを求められたから。
ただ、それだけで助けてくれた。
共和国の管轄がどうだとか、企業との契約がどうだとか、助ければ自分たちがどうなるかなどと考えるより先に、アナキンはライトセーバーを抜いた。
六百万人がいると知れば、六百万人を助けようとした。
爆弾が埋め込まれているなら、その制御システムへ潜り込んで止めた。
逃げる船が撃たれるなら、戦闘機を持ち出して守ればいいと言った。
そして自由になった後の生活がないと知れば、今度は彼らが自分たちで食べていける方法を考え始めた。
馬鹿みたいに真っ直ぐな少年が、アルトには眩しかった。
共和国へ何度助けを求めても届かなかった男にとって、そんな少年がまだジェダイにいるという事実そのものが、その少年の周りのジェダイがこういう人たちだという事が、失いかけていた何かを取り戻させていた。
そして今、自分たちは正体不明の軍事組織に追われている。この先も生き残るためには、何処から武器と兵が流れ、誰が裏で糸を引いているのかを知らなければならない。
アルトには、その手掛かりになり得る場所が一つあった。
ジャビームだった。
外から武器と金を与えられ、企業と海賊によって食い荒らされ続けている自分たちの故郷。今回押収された奴隷ギルドの記録にも、そこへ繋がる名前が幾つも残っていた。
もう一度、三人を見る。
小さな訴えでも拾い上げて誠実に対応することで、船団を落ち着かせるクワイ=ガンを。
様々な調整や交渉をして、急速かつ的確に船団を安定した組織にするオビ=ワンを。
彼方此方に行っては機械整備などをして、船団の生活を良くするアナキンを。
……ヒーローだった。アルトはその三人を見て、その言葉でしか表せなかった。
巻き込まれた仕事で此処までしてくれる三人は、それ以外の何者でもなかった。
船団の皆が話している通り、御伽噺のジェダイだった。
ならば。この三人になら、話してもいい。三人が揃った食事の席を見計らってアルトは腹を括った。
「マスター・ジン」
「何でしょう、ストラタスさん」
「いや」
アルトは一度言葉を止めた。そして三人のヒーローを見た。
「三人に頼みがある」
オビ=ワンが顔を上げ、アナキンは振り返った。
「私たちにですか? では三番船のミルク不足ではない?」
「僕たちに? なら、八番船の33ブロックのヒーターの修理じゃないんですね?」
「ああ、そうだ。そうだよ」
寸時を惜しまずに自分たちの為に働いてくれているジェダイたちに、泣きそうになりながらアルトは頷いた。
「ジャビームを助けてくれ」
涙声になってしまったアルトの声に、アナキンの表情が変わった。
「ジャビームを?」
「俺たちの故郷だ」
卓上へ惑星ジャビームのホログラムが浮かび上がる。
「俺たちの多くは、そこで捕まった。海賊、奴隷商人、それと手を組んだ連中にな。村を焼かれ、家族を殺され、生き残った者を商品として連れて行かれた。星も、星から出る鉱物目当てに企業に占拠されているんだ」
「…………」
「俺の両親も企業が支援するリシアン海賊に殺された」
アナキンは何も言わなかった。だが、アルトには分かった。少年の拳が握られていることに。
「共和国には何度も助けを求めた。だが来なかった。だから俺は軍に入った。ブロンズ・ニンバスで戦った。それでも終わらなかった。外から武器も金も流れ込んでくる」
ホログラムに幾つもの情報が追加される。
「今回の戦闘記録を見て分かった。俺たちを売った連中と、今ジャビームを荒らしている連中は繋がっている」
アルトは、そこへ先ほどまで自分たちを追撃していた秘密武装組織の記録を重ねた。ジャビームを焼いている戦闘機と巡洋艦と同じ物だった。
「武器が同じだからと言って、同じ連中だと断言するつもりはない。だが、俺には無関係だとも思えない」
「じゃあ──まだ、ジャビームには同じように苦しんでる人がいるんですね?」
「ああ」
「助けを待ってる人が?」
「ああ」
「だったら助け──」
「アナキン」
速やかに請負おうとした弟子を、クワイ=ガンが穏やかに止めた。アナキンはショックを受けた目で師を見た。
「これは先ほどまでとは事情が違う」
「……戦争だからですか?」
「そうだ。目の前で奴隷にされている者を救出することと、一つの惑星で行われている戦争へジェダイが介入することは同じではない。我々が独断で一方へ加担すれば、ジェダイそのものが政治勢力として戦争へ参加したと見なされかねない」
「…………はい」
理解はできる。納得は出来ない。助けたい。それが丸分かりの顔だった。
アルトはそんなアナキンを見て、僅かに笑った。
「分かってるよ、アナキン。難しいってことはな」
「アルトさん?」
「だから、俺はお前たちに頼んでるんだ。俺たちだけで殴り込むだけなら、黙ってジャビームへ向かってる。共和国もジェダイも当てにはしないとな」
だが、今のアルトはそう思っていなかった。少なくとも、目の前にいる三人については。
クワイ=ガンは、自分たちの話を聞いた。共和国にも企業にも見捨てられ、奴隷として使い潰されるだけだった人間の訴えを、最初から最後まで聞いてくれた。
「だが、あんたは俺たちの話を聞いた」
その隣にいるオビ=ワンだって同じだった。クワイ=ガンやアナキンほど迷いなく突っ走る男ではない。何度も文句を言い、法律や政治や評議会への報告まで考えながら、それでも最後には自分たちを守るために動いてくれた。
「こいつは文句を言いながら、それでも俺たちを守ってくれている」
「文句については余計だな」
「事実だろ」
「否定はしないよ」
そんな二人に挟まれている十三歳の少年を見れば、アルトの表情は自然と緩んだ
「こいつは──俺が助けてくれと言ったら、本当に助けやがった」
「だって、助けられたから」
あまりにも当然のように答えるアナキンに、アルトは涙を浮かべて笑った。
「ああ。そういうところだよアナキン・スカイウォーカー」
「?」
意味が分からない顔のアナキンにアルトは好意だけの笑みを浮かべた。
「共和国には何度も言ったよ助けてくれと。
そして、証拠が足りない。管轄が違う。現地政府と協議する。検討する。と何度も聞いた」
それらは全て、もっともらしい言葉だった。共和国には共和国の法律があり、役人には役人の事情があり、簡単には動けない理由もあったのだろう。
だが、そんな事情で待っている間にも、同胞は死んだ。
アルトの笑みが消えた。代わりに浮かんだのは、今も消えることのない苦痛を刻み込まれた男の顔だった。
「その間にも人は死んだ。みんな奴隷になっていった」
三人とも何も言わなかった。クワイ=ガンは静かにアルトの言葉を聞き、オビ=ワンも先ほどまでの軽口を消している。アナキンだけは、何かを堪えるように拳を握っていた。
「だが、お前たちは違った」
だからこそ、アルトの目は自然と三人へ向かった。
「俺が助けてくれと言ったら、『分かった』と言ってくれた……だから頼む」
もちろん、同じことをもう一度やってくれとは言えない。今度は六百万人の奴隷を逃がすだけではない。一つの惑星で続いている戦争に、この三人を巻き込むことになる。
だから、戦ってくれとは頼まない。自分たちの言葉を無条件に信じろとも言わない。
「俺たちの言うことを信じろとは言わない。俺たちのために戦えとも言わない」
ただ一つだけ。この三人ならば、見てくれる。
「ただ、ジャビームへ来てくれ。その目で見てくれ」
アルト・ストラタスは真正面からジェダイたちを見据えた。
「自分たちの目で見てくれ。俺たちの故郷で何が起きているのかを」
クワイ=ガンは少しの間口を閉じると、ゆっくりと開いた。
「我々はジェダイです……独断で戦争へ介入することはできません」
「ああ」
「介入するにも、評議会への報告と連絡と相談が必要です」
「分かっている」
「共和国政府との調整も必要になるでしょう」
「それも承知してる」
「ですが──」
クワイ=ガンはジャビームのホログラムを見る。
「何が起きているのかを確かめることまで、禁じられてはいません」
何かを確信したオビ=ワンが覚悟を決めて目を閉じた。
「マスター」
「何だ、オビ=ワン」
「一応申し上げておきますが、その言い方をした時の貴方が、本当に『確かめるだけ』で帰ってきた記憶が私にはありません」
「状況を確認してから判断するだけだよ」
「ええ。存じていますとも、現地で砲火を浴びながら状況を確認する、とね」
「じゃあ助けに行くんですね! よし! 僕、戦闘機パイロットの皆と惑星内での戦闘シミュレーションしてきます!」
何時も通りに助けに行くと理解したアナキンの顔が一気に明るくなり、速やかに行動に映った。敵戦力を叩き潰してから状況を確認するときに、味方の犠牲を出来る限り出さないようにするために。
「アナキン。まだ行くとは──」
「ありがとうございます、マスター! オビ=ワン!」
「…………」
笑顔で感謝しながら、たったと走っていった歳の離れた弟に甘いオビ=ワンがクワイ=ガンを見る。
「貴方の教育の成果ですよ」
「良い弟子だろう?」
「否定できないのが困るところです」
アルトはそんな三人を見て穏やかに涙を流しながら微笑んだ。
(やはり、このジェダイたちに頼んで正解だった)
お伽噺のジェダイたちは、ヒーローたちはまだいてくれたのだ。