そこまでの報告で一時休憩を終え、再開となった席でアディ・ガリアが手元の端末へ目を落とした。
「ナイト・ケノービが合流後に送った報告については、適切だったと私は考えています」
「ありがとうございます、マスター・ガリア」
「現地治安機関及び元老院内部への情報漏洩が疑われる以上、確認した事実を無制限に通信へ載せるべきではない。確実な証拠がある議員関係者のみを先行して報告し、それ以外は証人の安全確保と証拠保全を終えるまで秘匿する、と記されている通り。素晴らしい判断です」
「はい。そのように判断しました」
「また、現地で新たに確認された事象についても、状況が流動的で全容を把握できていないため、詳細な報告は安全を確保してから行うとありますね」
「不正確な情報で評議会の判断を乱すべきではありませんので」
「正しい判断です。本件のような機密性の高い案件では、何を伝えるかと同じくらい、何をまだ伝えないかも重要です。特に暗号化されていても通信するとあっては」
「恐縮です」
「混乱の最中に、よくそこまで冷静に情報を整理しました。ナイトとして模範的な対応だったと思います」
「ありがとうございます」
六百万人も、大型輸送船十八隻も、四十八機のスターファイターも、ジャビームが企業により占拠されていることも、すべて『現地で新たに確認された事象』の一言に押し込んだド畜生は、実に慎ましく一礼した。
唯一、秘密武装組織についてだけはキッチリ別ルートで連絡したのだからアディも褒めるしかない。
通信には詳細を一切載せず、共和国エージェントに証拠そのものを持たせてメイス・ウィンドゥ本人へ直接届けさせる。そしてメイスから評議会へ共有するという、情報漏洩の危険を可能な限り排した経路を選んでいたのだ。
つまり、共和国と評議会が直ちに知る必要のあることは確実に伝え、それ以外は見事なまでに『現地で新たに確認された事象』へ押し込んだのである。
オビ=ワン・ケノービ。本質的に政治家な男は「自分もアナキンもマスターも解放奴隷もエージェントも皆悪くない。悪いのは奴隷とか秘密軍や汚職なんて事をしている元老院議員含めた悪党どもだよ」と誰もが認めるしかないほど完璧かつ見事に報告していたのであった。
つまりは、此処までならば保身を達成できていたのだ。そう、此処までならは。
当然ながら、此処までで済まなかったのが問題なのである。
「…………そう、ここまでの報告ならばな。六百万人もの解放奴隷を抱え、大型輸送船十八隻と四十八機のスターファイターからなる船団で逃走中。その上、共和国すら把握していない秘密武装組織から追撃を受けていた。
六百万人と船団に関しては、現地治安機関と元老院内部からの情報漏洩まで疑われていた以上、彼らの存在と現在地を通信でもエージェント経由でも秘匿した判断は当然だ。
秘密武装組織と議員汚職については、通信に詳細を載せず、共和国エージェントを通じて私へ直接証拠を届けた。情報漏洩が疑われていた以上、その判断は適切だった。証拠は私から評議会へ共有し、議長府をはじめ関係各所にも知らせ、既に対処を始めている──ここまではいい。続けろ」
二ヶ月半前、突然集められ「今から元老院議員を逮捕しに行く。続け」とだけ言われ慌てながら一緒に元老院議員を逮捕したデパに「共有? あれ……が?」という眼差しで見られるメイスは、何を聞かされても受け止める覚悟で澄み切った眼差しをクワイ=ガンへ向けた。
六百万人の奴隷を解放した。企業の秘密武装組織に追撃された。その過程でアルト・ストラタスから、企業勢力に占拠された故郷ジャビームの救援を求められた。
ここまでは、各所から集められた報告書とも大筋で一致している。
各機関がそれぞれの最重要事項だけを追った結果、全体像が滅茶苦茶になっていただけで、どうやらここまでは、それほど想像を外れたことは起きていないらしい。
ならば、この後の流れも分かる。ジャビームへ赴き、何らかの事態に巻き込まれて反撃ということにして(※現地政府も正当防衛による反撃だと言っているから、法的に何ら問題はない)企業戦力を叩き潰してジャビームを解放し、その後ナブーへ向かったのだろう。
そこまで分かってしまえば、後は聞くだけだ。もう何を聞かされても驚くまい。何が出てこようとも、評議員として、ジェダイとして、そして何より共和国の一員として受け止め対処しよう。
ジェダイとはなにかという問いに対する回答は勿論重要だが、あくまでもジェダイの問題だ。
だが秘密武装組織を始め、今回明らかになった数々の問題には、これから共和国そのものが立ち向かわなくてはならない。
だからこそメイスは、この一件を通じて司法、内務、通商、航路管理を始めとする共和国各省庁の実務者と、ジェダイとの間に直接の窓口が出来たことを何よりの収穫だと考えていた。
秘密武装組織の情報と元老院議員の汚職証拠を持ち込んできたセラという女性を始めとした共和国エージェントたち。元老院議員たちを逮捕したあとで、彼らが信頼できると見込んだ各省庁の実務者とその場で資料を広げて情報を突き合わせたあの日。僅かな時間だったが、それだけでメイスは二つのものを得た。
一つは、驚愕だった。企業犯罪、秘密武装組織、元老院汚職──それぞれ単独ならば別々の事件として処理されていたものが、各省庁の情報を重ねるほどに一つの巨大な胎動として姿を現していく。
どう考えても、単なる一企業の犯罪ではない。銀河全体を揺るがしかねない何かが、共和国の内部で動き始めていると結論した。
そして、もう一つは希望だった。
同じ事実を前にした実務者たちもまた、驚愕していた。 そして彼らは、所属省庁の権限だの縄張りだのを持ち出すより先に、今回の逮捕のようにジェダイへ協力を求めた。
共和国を守らなければならない、と。
司法官も、内務官僚も、通商担当官も、航路管理の職員も、議長府官僚も本気だった。 共和国という国を愛し、その法と社会を守るために、それぞれの立場で出来ることをしようとしていた。 中には数少ない清廉潔白な政治家であるパルパティーン議長から直接その能力を評価され、重要案件を任された経験を持つ者さえいた。
だからこそ、メイスは彼らを信用して協力した。
評議会の正式な決議を待つつもりなどなかった。必要な協力は、その場で自らの責任において約束した。
そうして、秘密武装組織の共同調査や司法警備隊への協力、元老院議員を始めとする関係者への捜査協力など、直ちに必要とされたものについては議長府へ上げられ、パルパティーン議長自身の承認を受けて正式な任務にもなっている。
しかし、そこから先の、共和国各省庁の実務者と日常的に情報を交換し、互いの任務へ必要に応じて人員を出し、さらには共和国自身の治安・航路防衛戦力の在り方まで共に検討し始めたのは、誰かに命じられたからではなかった。メイス自身が必要だと判断し、自らの責任で始めたことだった。
もっとも、評議会に隠しているわけではない。自分が誰と会い、何について協力し、何を検討しているのかは逐次報告している。
ただ、評議会の正式な決議を待たず、必要だと思った協力を先に進めているという、かなりグレーなことをしているだけだった。(※なお、ヨーダには当然のように全部把握され、見守られている)
だが、メイス・ウィンドゥは気にしていない。
共和国を守ろうとする者同士が、所属の垣根を越えて協力する。そこに何の問題があるというのか。
むしろ、これまでジェダイが彼らと直接話す機会すらほとんど持たなかったことの方が問題だった。自己保身だけしか考えていない上位官僚としか接してないのに、官僚組織は腐敗していると見なしていた自分の傲慢と愚かさを含めて。
必要ならば責任は自分が取る。
評議会から越権だと咎められようとも構わない。この件を理由に評議員の席を追われるというのなら、それも受け入れる。
評議員でなくなろうと、自分がジェダイであることまで失うわけではない。
ただ一人のジェダイとなってでも、彼らと協力する。
──共和国を、祖国を、祖国の法と市民を護るために。
『共和国には少なくとも、自らの法と市民を守るための恒常的な治安・航路防衛戦力が必要なのではないか』レベルの突っ込んだ会話を二カ月半前に始め、今や『共和国は軍を持つべきであるが、どのような戦力とするべきか』まで突っ込んだ会話を共和国実務層と始めている漢の腹は決まっていた。
規律を重んじる。だが、それ以上に守るべきものがあるならば、いざとなれば責任ごと背負って踏み越える漢。
既にプロ・クーンを始めとする実務者たちと協力した任務で「これからも実務者と協力したい」と言った数人のジェダイ・マスターを誘い共和国実務者たちと会合しているメイスは、覚悟と決意の澄み切った眼差しでクワイ=ガンを見据える。
「次はジャビームでの戦いかね。それともナブー救援での顛末かね」
「いえ」
クワイ=ガンは穏やかに否定した。
「次はタコダナで出会ったマンダロリアンの戦闘派一派デス・ウォッチと、非合法賭けレースと、それを運営するマフィア、通称ブラック=サンの話になります」
「…………」
決意で澄み切っていたはずの眼差しを頭痛の色に染めて、心の黒手帳の新たなページを開きながらメイスは黙った。
ジャビームへすぐに行ったのだろう。そう考えていた数秒前の自分は、どうやらまだこの問題児師弟三人を甘く見ていたらしい。
「……………………続けてくれ」
そうだ。まずはそれがあった。司法省や財務省などにはブラック=サン絡みの組織犯罪として、内務省や外交部門などにはマンダロリアン勢力との接触として、その他の省庁にもそれぞれ別件として断片的に記録されていた、謎に満ちた件が。あれは全て一緒の案件だったのか。次の休憩時間に早急に各省庁の実務者に連絡しなければならない。
断片が一つに繋がってしまえば、単純な話だった。六百万人を守りながら企業の秘密武装組織と戦い、その後ジャビームやらナブーやらにまで介入したというのなら、どう考えても今まで出てきた戦力だけでは足りない。
そして今回の一件を境に、共和国とジェダイへの態度を軟化させたマンダロリアン勢力が存在することも、メイスは共和国実務者と共に直に会って既に知っている。
──つまり、共和国にとっては悪くない。
そう結論づけた瞬間、メイスの眼差しから僅かに戻りかけていた頭痛の色が少しだけ薄れた。
非合法賭けレースについては、とりあえず報告されるまでは深く考えないことにした。
メイス・ウィンドゥの共和国への愛は、かくも純粋かつ強かった。
……海賊女王やらなんやらを『省略』されたため、耐えられたとも言う。