そして、サティーンが欲しがったその才能を、オビ=ワンは別のところでも使っていた。
HG-44の共和国法上の所有者はマンダロア政府。しかし、マンダロアが独占するわけではない。六百万人が設立するジャビーム運輸会社と共同で使用し、造船所も修理設備も補給施設も双方が公平に利用できるに交渉して合意をまとめていた。
それだけではない。巨大なドックに残されていた十二隻のドレッドノート級重巡洋艦。四隻のプロキュレーター級スター・バトルクルーザーについても、オビ=ワンは双方が納得できる分配交渉をまとめていた。
軍艦を見て「何でこんなものが犯罪組織に。良かった先に潰せて」と安堵したオビ=ワンは、直ぐに船団側と話し合って一つの合意に達していたのだ。
公平に分けるならば、当然その半数近くはジャビーム側の取り分になるのだが、ジャビーム側はまったく喜ばなかった。
十八隻の大型輸送船と一隻の巡洋艦を動かし、整備し、荷物を運ぶだけでも大量の人員が必要になる。そこへ更に重巡洋艦や戦艦を何隻も手に入れたところで、軍艦だけがドックに浮かび、動かす人間がいないという笑えない事態になりかねない。と。
いや、なる。ジャビーム船団における軍艦動かせるスキル持ちは、巡洋艦一隻とスターファイター四十八機で尽きた。そんなスキル持ちが他に居るはずが無い。てか、ブラック・サンが修理終えた軍艦をドックに眠らせてたのは宇宙軍艦何て動かせるスキル持ちを確保できなかったに尽きる。
はっきり言って、宇宙軍艦を動かせるスキル持ちは銀河で希少なのだ。
人口四百万の戦闘民族マンダロリアンを除いて。
「第三砲塔、まだ生きてる。いや、全部の砲塔が生きてるぞ! この軍艦修理終わってる!」
「機関もだ! 好調だ! これなら動かせる! 何で動かさなかったんだ? ブラック・サン??」
「プロキュレーター級の乗員、うちの氏族から出せるぞ!」
「俺たちマンダロリアンにまた戦艦がとはなぁ。直ぐに訓練するぞ!」
「幾つか面倒なとこあったからマニュアル書いたわよ。他に書いてる人いる? 突き合わせましょう」
そう、そういう技能を身につけることを当然としている戦闘民族マンダロリアンは当然動かせるのだ。
彼らは、「こいつどうかな?」と軍艦を見せただけで、誰に言われるでもなく艦内へ潜り込み、整備状態を確認し、人員の算段まで始められるどころか、速やかに訓練始めてマニュアルを立ち上げられる民族である。
使える者へ渡した方がいいな。信用出来る相手だし。
共に戦ってマンダロリアンと信頼関係を作ったオビ=ワンたち船団側は、速やかに合意に達した。
だから──こうなったのだ。
HG-44中央司令室。
半日ほど前までブラック・サンの幹部が銀河各地の犯罪組織へ命令を飛ばしていた場所には、今やマンダロア政府の旗とジャビームの旗が並び、その中央にはホロカメラが三台設置されていた。
その場に居たのは、マンダロリアン。ジャビーム人。そして三人のジェダイ。そして、共和国司法省特別捜査局のエージェントたちに、急遽呼び出された共和国の司法・運輸・企業登録関係の実務官。
更には、司法省とジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンの名で連絡を受け、何事かと取材船を飛ばしてきた中立系通信社が四社。
銀河全体へ向けた正式な発表を行うための顔触れとしては、十分すぎるほどだった。
六百万人のジャビーム人の今後と、復興途上にあるマンダロアの将来。その双方に関わる、二つの企業の設立の発表の為の場として完璧だった。
──なお、ジェダイ評議会には『現地で新たに確認された事象についても、状況が流動的で全容を把握できていないため、詳細な報告は安全を確保してから行う』以降連絡してないからこの件も報連相していない。まあ、ジェダイ・マスターの権限内だから大丈夫だろう…………制度を巧く解釈すれば。
放映が始まり、最初にホロカメラの前へ立ったのは、アルト・ストラタスだった。
普段の戦闘服ではないとはいえ、急な話なので共和国企業家が着るような上等な服が用意出来るわけでもない。比較的傷みの少ない服へ着替えただけだったが、それで十分だった。後ろにいる質素な服装であるジェダイたちを合わせれば現場主義企業だと皆に思わせられるから。
アルトは一度だけ息を整えた。
「本日、我々ジャビーム人は、新たな運輸会社を設立します」
司令室へ静かな力強い声が響いた。
「保有する十八隻の大型輸送船を中心として、貨物輸送、旅客輸送、救援物資の運搬、その他共和国法で認められた運輸業務を行います。将来的には、アウター・リム各地を結ぶ定期航路の開設も目指します」
輸送船と共に《ジャビーム運輸会社》の企業名がホロで浮かび上がる。それを見る銀河の目は冷めたものだった。アウター・リムでそれを目指した者達が尽く失敗したのを知っているから。
「船を動かし、荷物を運び、必要としてくれる者から正当な対価を受け取る。そして会社を大きくしていきます」
気の早い海賊が何人か何時襲うかを話し始める中、アルトは一度言葉を止めた。
「六百万人が自分たちの力で生活し、次の世代へ仕事と船を残せるように。そのための会社です……ご覧の皆さんは安全について疑問の方が多いでしょう。ですので、我々は彼らと業務提携を致しました」
アルトが一歩下がる。
次に前へ進み出たのは、サティーン・クライズだった。マンダロア公爵としての正装に身を包み、背筋を伸ばしてホロカメラの前へ立つ彼女。その少し後ろにはプレ・ヴィズラ。そして各氏族と各宗派の代表者たち。
その姿に銀河のマンダロリアンを詳しく知る者たちがどよめいた。マンダロリアンっ、それも政府だけでなく各氏族と各宗派が、ありえないっ、と。
穏やかに微笑むサティーンの背後に、もう一つの企業名が浮かび上がった。《マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーション》と
「マンダロア政府からも、本日ここに新たな企業の設立を発表します」
それと同時に、背後に映るのは宙に浮かぶ巡洋艦五隻とその周りを飛ぶスターファイターたち。弱小惑星ならば叩き潰せる戦力がマンダロリアン塗装されて、マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションの企業章が描かれていた。
銀河の各星系政府のトップや企業トップたちが、慌てて部下たちにホロを見るようにと要望される。とんでもないことが起きている。と。
なお、ムスタファーにいたブラック・サンのトップは「俺たちの拠点と戦力がマンダロリアン、に……」とだけ叫んで昏倒して数日起き上がらなかった。
「社名は《マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーション》。マンダロア政府の出資及び監督下に置かれる半官営企業です」
銀河の注目を浴びるサティーンは、そこで一度周りに視線を向けた。
「主な業務は、民間施設の警備、ジャビーム運輸会社のような船舶及び輸送船団の護衛、要人警護、海賊行為への対処、遭難船及び遭難者の救難。それらに付随する合法的な警備業務となります」
記者たちが一斉に記録を取っている。当然だった。マンダロリアンが、銀河へ向けて武力を用いた事業を始める。最低でも巡洋艦五隻を含めた大戦力を持って! 大型輸送船十八も保有する企業と業務提携して!! そんな場所で僅か四社による独占スクープが今からできる!!!
記者の興奮と同時に、銀河には不安が満ちた。マンダロリアンが、あれほどの戦力を、という不安が。だからこそ、サティーンは曖昧にしなかった。
「この会社は、戦争を売るための企業ではありません。護るための企業です」
平和主義者で知られるサティーンがはっきりと言ったことで、直接会ったことがあるナブーのアミダラ女王などは「実務者による協議を始めてください。必要があれば私が行きます」と口にしていた。サティーンに対する信頼は高かったのだ。
──尤も、彼女の頭は(アニー、なんでそこに? ……本当に色々してるわね。これは間違いなく銀河を良くするわ。また背が伸びたわね)と友人に対する感心が大半を占めていたが。
「我々マンダロリアンが持つ技能を、他者とその生活を守るために用いる企業です。船を守り、交易路を守り、救助を必要とする者を助け、その正当な対価を得る。それによって得られた利益は、企業の運営と雇用だけではなく、マンダロアの復興にも還元されます」
その場にいたマンダロリアンたちが、両腕をクロスさせてリスト・ガントレット(腕当て)部分をぶつけ合い賛意を示した。「ザ・ウォッチまでも……まさか、マンダロリアンの総意か! マンダロリアンが意思を統一したのか!!」と、銀河最強の戦闘民族を内ゲバ起こさせて弱体する為に色々しているドゥークー伯爵がセレノーで呻いた。
「もちろん、我々の過去を知る方々が懸念を抱くことも理解しています」
誤魔化さない姿にマンダロリアンへの恐怖で満ちていた銀河の空気が、穏やかな美女である公爵の語る姿に様子見へと変化していた。
「故に、共和国法を遵守し、活動はマンダロア政府の監督下に置きます。契約についても政府が審査し、侵略を目的とした戦争、犯罪行為への加担、その他マンダロア政府が不適切と判断する業務については認可しません」
そこで言葉を切り、少しだけ強い声で付け加えた。
「また、異なる依頼主との契約によって、マンダロリアン同士が敵味方に分かれて戦うことも認めません」
そこだけは、譲るつもりがないことが伝わる声に、その場にいたマンダロリアンたちが再度両腕をクロスさせてリスト・ガントレット部分をぶつけ合い賛意を示した。
「同士討ちは……ほぼ不可能か。銀河最強の戦闘民族が、確たる組織と星間戦闘能力を得たか。共和国制度上問題ない形で──戦略を修正せねばな」と、マンダロリアンを難癖付けて虐殺するつもりだったシディアスが舌打ちした。
背後にいるジェダイの中に、クワイ=ガンの姿がある事を確認して「やはり、貴様か」と戦慄しながら。
「我々が再び銀河へ出て行くのは、過去へ戻るためではありません。未来のマンダロアを作るためです。皆さんの隣人として生きていくためです。そのことをジャビーム運輸会社と業務提携して行う仕事でご覧いただきたい」
言い終えると、サティーンは一歩横へ移動した。
「企業代表は、私、サティーン・クライズが務めます。そして、実際の企業運営を担う最高経営責任者にはプレ・ヴィズラを任命します」
「デス・ウォッチのですか!」
思わず一人の記者が叫ぶ中、プレ本人が満面の笑みを浮かべて前へ出た。
「そういうことです。デス・ウォッチにして、ヴィズラ家のプレが公爵閣下の信を受け、この企業のCEOを務めさせていただきます」
その姿を見た銀河の大手通商企業を率いる者たちも、この企業がマンダロリアンの総意によるものだと理解した。が、動く者は少なかった。まだ様子見だった。
動いたのは──この企業たちは銀河の通商関係を変える。と確信した一人のみである。
「速やかに下交渉を始めるんだ。運輸会社は将来的に我々のライバルになり得る。だが、敵に回すな。今は我らが採算の問題で手を出していない通商路を補完してくれる相手として交渉しろ! こちらが貨物を回し、奴らが運ぶ。それだけでも双方に利益がある! そもそもアウター・リムに通商の担い手自体が足りんのだ! 最重要なのは、マンダロリアンの戦力だ。絶対に敵に回すわけにはいかん! だが味方に付ければこれ以上ない──いや、違うな。味方である必要すらない。サティーン政権ならば間違いなく契約を守ってくれる! ビジネスの相手として最高だ! 株が発行されたら可能な限り押さえろ。ただし経営権を脅かして警戒されるな! 半官営だから株が発行されなくとも、最低でも護衛契約を結んで来い! 最初の運輸が成功すれば依頼が殺到する。枠が埋まってからでは遅いぞ!」と、通商連合のヌート・ガンレイは流石というべき速さで動いた。
「我々は戦闘民族と言われてます。そのため畏れられ怖がられていることも、全て承知です」
プレは堂々と胸を張った。
「ですが、戦えるからといって戦争を探し回りはしません。それでは獣です。戦争の獣でしかない。我々はマンダロリアン。戦闘民族マンダロリアンです。守って欲しい船がある。海賊に困ってる奴がいる。危険な宙域を通らなきゃならない商人もいる。だったら、彼らを護るのです! そして彼らを害する者たちと戦う! 仕事を受ける! 守る! きっちり仕事を終わらせる! そして正当な報酬を貰って、故郷へ持って帰る! これぞマンダロリアンなのです」
その場にいたマンダロリアンたちが、またも両腕をクロスさせてリスト・ガントレット部分をぶつけ合い賛意を示した。
「マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションをよろしくお願いいたします!」
プレは満面の笑顔で断言した。