──もっとも。
サティーンが最初から、この会社の設立を認めていたわけではない。
「流石に、それは認められません」
数時間前。HG-44の中央司令室で、ジャビーム側から譲渡される軍艦の扱いについて話していた最中、サティーンはきっぱりと言った。
軍艦をこれ以上マンダロリアンが受け取ることも予算から不可能だと渋ったが、その対価こそに。
将来、ジャビーム側が祖国解放する際に、マンダロリアンと契約して戦闘支援をしてもらい、その報酬としてクレジットを受け取る。その元手を稼ぐ為に運輸企業を設立するから、マンダロリアンも会社を立ち上げて護衛してくれ。業務提携しよう。
そこまで聞けば、サティーンが警戒するのは当然だった
「それでは結局、傭兵産業の復活ではありませんか」
周囲にいる(((いい仕事だ)))と内心大歓迎していたマンダロリアンたちが、一斉にオビ=ワンを見た。説得してくれという目で。
ここ1週間で、マンダロリアンからそんな目を向けられることに慣れたオビ=ワンは、こういう場合には急所から掴めばいいと交渉人の手腕を発揮した。
「では、サティーン(※呼び捨てにしていることに本人気付いていない)。マンダロアはどうやって外貨を稼ぐのです?」
「…………」
初手から痛いところを突かれたサティーンは沈黙した。今のマンダロアに必要なものは、何より金だった。なのに稼ぐ術が殆ど無いのである。
荒廃した土地を再生するための設備。都市を建て直す建材。工場を動かす機械。食料。燃料。
それらを国外から買うためには、当然国外で通用するクレジットが必要になるのに。マンダロリアンには、コレといったモノが無いのだ。いや、あるにはあるのだが。それは──
「マンダロリアンには、銀河でも一級品、いえトップの技術がある。戦闘技術です。警備、護衛、艦艇運用、危険宙域での活動において貴方がたマンダロリアンに勝るものは銀河に存在しない。銀河の市場で渡り合うための、極めて有効な武器です。ですが、それで稼ぐなというのなら、何を売って復興資金を稼ぐんです?」
「それはそうですが。だからといって、金で戦うことを認めれば──」
「何処までなら認めるんです?」
揺れに揺れるサティーンに対して、オビ=ワンはそこで遮った。そうすればサティーンには、一番効くと知っているのである。
「戦争への参加は駄目。分かります。では海賊から輸送船を守るのは? 要人警護は? 遭難船の救出は? 民間施設の警備は? 賞金首を捕らえるのは? アウター・リムで交易船団を護衛するのも駄目ですか?」
サティーンが黙った。それらまで否定するつもりはない。むしろ、必要な仕事だと理解している。そんなサティーンにオビ=ワンはゆっくりと穏やかに囁いた。
「もし、それらが大丈夫ならば、線を引けばいい」
「線、ですか?」
何か案があるのかと探るサティーンに対して、オビ=ワンは変化球で攻める。
「はい、そして、線を引けば得られるのは金だけではありません」
「……何です?」
「信用です」
その言葉に、サティーンの表情が激変した。それこそが、彼女が何年もかけて欲しがってきたものだったからだ。
マンダロリアンは恐れられている。
強いから、戦うから、過去に何度も周辺へ攻め込んだから、共和国に対しても「お前強いんだな。よし戦うぞ(意訳)」という理由で正面から戦ったのだから、当然恐れられている。
そのため、復興したマンダロアへ投資しようとする者でさえ、心の何処かでは警戒しているのだ。それほどまでにマンダロリアンに信用はない──当たり前だが。
「アウター・リムには、戦える者なら大勢います」
自分の言葉がサティーンのハートを鷲掴みにしたことを見て取ったオビ=ワンは、ゆっくりと言葉を続けた。ジェダイの中立が危うくなるから普段は此処まではやらないが、マンダロリアンの分断に苦労して居るサティーンのためだ。ジェダイの規制を拡大解釈しようと頭に浮かべながら
――そうすることで、ガンガン堀を埋め尽くして壁を築いてることに本人だけが気付かないまま。
「ですが、ご存じの通り、信用出来る護り手は驚くほど少ないのです」
金を受け取っておきながら、危険になれば逃げる。より高い金を提示されれば寝返る。護衛対象の航路を海賊へ売り飛ばす。下手をすれば護衛として雇った連中が、海賊となり自分たちで荷物を奪う。だから商人、いや企業が圧倒的な戦力を備え、その企業が奪う。
アウター・リムの日常だった。
「ならば、マンダロリアンが信用出来る護り手になればいい」
「私たち、が、信用できる、護り手、に」
自分の殺し文句が十分にサティーンに効いたと確信したオビ=ワンは、周囲にいる彼らを見回しフォースが伝えてくる感情に満足した。弱い者を嬲るより弱い者を護って敵と戦う方を望む周りのマンダロリアン達にも、自分の殺し文句は効いている、と。
「マンダロリアンに任せれば、契約を守る。依頼人を裏切らない。海賊が来れば逃げない。約束した場所まで必ず護る。絶対に戦ってくれる。そう思われるようになればいい」
恐怖の代名詞だった名前を今度は信用の代名詞へ変えるのです。と締めて、畜生政治家は言葉を切った。
「外貨を稼ぎながら、マンダロリアンという名前そのものに対する信用も稼ぐ。十年、いえ、五年も続ければ、貴方たちは信用される護り手となる。いえ、もっと早いかもしれない。銀河の商人たちはこう考えるようになるでしょう。『マンダロリアンが護衛なら安心だ』と。そうなれば、今、一番銀河で欠けている信用できる護り手が貴方がたとなっているでしょう」
そこでオビ=ワンは言葉を切って周囲のマンダロリアンを見回し、第二の殺し文句を、穏やかに、だからこそ誰もが聞き逃さない口調で告げた。
「あなた方が培ってきた技術で、今度は銀河の交易と人々を護ればいいのです。そう──あなた達の培ってきた技術が銀河を救うのです」
周囲のマンダロリアンたちも、そしてサティーンも、ド畜生政治家の第二の殺し文句に魂まで掴まれた。
「……ならば条件があります」
原則としてマンダロア国外。政府の認可制。侵略戦争への参加は禁止。共和国法を遵守する。契約内容は政府が事前審査し、犯罪組織や違法行為に関わる依頼は拒否する。そして何より。
「異なる依頼主に雇われたマンダロリアン同士が、戦場で撃ち合うことは絶対に認めません」
それだけは、サティーンも一歩も譲らなかった。同じ氏族の者。同じ故郷を持つ者。そんな者たちが、他人の金のために殺し合う。それでは内戦を終わらせた意味がないからだ。
「当然でしょう」
オビ=ワンは即座に同意した。マンダロリアンたちも、両腕をクロスさせてリスト・ガントレット部分をぶつけ合い賛意を示した。
それに頷いたサティーンは言葉を続ける。更に利益の一部は復興税としてマンダロアへ納める。国外で稼いだクレジットを、荒廃した故郷へ戻す。と。
そこまで決まったところで、サティーンは深く息を吐いた。
「……私は傭兵産業を復活させることを認めたのではありません。マンダロア市民が合法的な警備業務に従事することを、一定の条件の下で許可しただけです」
一瞬。そして。
マンダロリアンたちは、両腕をクロスさせてリスト・ガントレット部分を大きくぶつけ合い賛意を示した。
武器を捨てなくていい。戦士としての技能を捨てなくていい。それを使って金を稼ぎ、その金で故郷を直せる。
マンダロリアンにとっては、それで十分だった。いや、そういう生き方を望んでいた。
満足するマンダロリアン達は頷きながら見る。
オビ=ワン・ケノービを。
最初から最後までサティーンと議論し、彼女が気にするところを理解し、その上で現実的な落とし所を作ったオビ=ワンを。
公爵と真正面から言い合える。公爵の考えを理解している。公爵も最後には納得している。
しかも、自分たちには無い視点で戦闘技術で稼ぐ方法をわかりやすく教えてくれる政治家。
何より強くて偉大な戦士を。
──良い夫君だな。
その認識が、マンダロリアンたちの間で確定した瞬間でもあった。