もしクワイ=ガン・ジンが生きていたら   作:サリエリキキ

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オビ=ワンの溜息~②~

 しかも、問題はそれだけではない。過去にはジェダイの結婚が認められていた時代もあったと明かされたことで、それを知らなかったジェダイたちは更に混乱していた。いや、こっちのほうが混乱の割合が大きかった。

 その中には評議員まで混じっていた。歴史学などという専門分野の知識を、全ての評議員が持ち合わせているはずもなかったからである。

 評議員のデパからすら、こんな質問文が届いていたのだから──どうやらクワイ=ガンに質問するつもりだったらしいが、宛先の指定がなかったため、オビ=ワンが開いてしまったのである。

 

『何処に書かれた記録があるのでしょうか。あくまでも学術的な興味しかありません。知識とは力ですので。仮に、そう、あくまでも仮定の話としてですが。将来を共にしたい相手がいたとしても、昔の制度を参考にできるのでしょうか。ああ、恋愛目的ではありません。もちろん結婚目的ではありませんよ。仮の話です。本当です。マスター・ジンに比べると若輩者ですが、これでも評議員の一員。かつてのジェダイオーダーが、誤った掟改編を行なったのならば、修正する義務が評議員にはあるのです。そう、義務です。これは務めを果たすための義務です。ですからジェダイは結婚していいという前例が記された資料の在処を教えてください』

 

 オビ=ワンは天を仰いだ。

 

(そういえば、ジェダイ・オーダーは未来に重きを置いていて、今のフォースに耳を傾けるマスターは異端だったな)

(だから、今どころか過去の歴史なんて誰も興味を持つわけない。マスターくらいしか詳しく知らなくても無理はない)

(マスター・ビラバ、分かりやすすぎる)

 

 そんな思いを噛みしめながら溜息をついたところで、また通信が届いた。

 

『オビ=ワン、資料は何処です? ジェダイは結婚して良いと書かれている資料はどこです』

 

 送信者はアイラ・セキュラ。既に数えるのもアホらしくなるほど、同じ問い合わせを繰り返し送ってくる友人だった。こんなことをしてくる女性ジェダイが何人も居るのだ。

 頭痛がした。

『過去の婚姻制度は前例だから、今のジェダイも結婚出来るはずだ。いや、それが当然だ。だって前例があるのだから』そう認識した女性ジェダイが多すぎる。

 

「……………………なんで、私に、聞くんだよ」

 

 胃の辺りを押さえながら、オビ=ワンは呻いた。もっとも理由は分かっている。三十手前の丁度手頃な相談相手だからである。クワイ=ガンに聞く前に歳が近い相手に聞きたくなるのは当然だろう。

 マスコミ対応についても、クワイ=ガンに聞けば『自分の言葉で話せばいい。私はインタビューでそうした』と返ってくるだけだし。アナキンはパダワンだ。船団側のアレコレについて(ヴァンに貰った台本を読み上げて)マスコミに対応した姿を見せたオビ=ワンを頼りにしたくなるのだろう。

 理不尽だったが割といつもの日々だった。

 

 

 

 先日、兄弟弟子揃ってクワイ=ガンに「「過去のジェダイが結婚してよかったって本当ですか?」」と詰め寄り、「ああ、勿論だ。具体的には~」とようやく歴史に弟子たちの興味が向いたと安堵する師にルーサン改革前後のホロ資料を見せてもらいながら、実例まで詳しく教わった。

 そんな、今、恋愛相談通信を送る者たちが羨む事実を心の中の別の棚に叩き込んだオビ=ワンは、『証拠及び重要参考人の安全確保を最優先と判断し~』という定型文を送るため、鳴り響く通信機を握りしめ──

 

(マスター、しかけやがった)

 

 ──現状のジェダイの混乱はクワイ=ガンの策だと確信した。

 思えば、アナキンを弟子として迎えてから、師は以前にも増してジェダイと外の世界との認識の差を口にするようになっていた。聖堂の常識を何一つ知らずに、外の世界で聞いたジェダイ像に憧れていたアナキンが、聖堂で何度も「僕が聞いていたジェダイと違う」と首を傾げる姿を、一番近くで見続け、その疑問を聞き続けていたクワイ=ガン。

 彼は、そこで確信したのだろう。自分が以前から感じていた違和感は、単なる個人的な感覚ではない、と。

 そして、ずっと機会を待っていた。だからこそ、マスコミ対応について「インタビューは自分でやる」と言ったのだ。

 

(もっとも、マスターも想定外があった)

 

 マスコミが集まるこの機会を利用し、自ら質問に答えることで「ジェダイも外の世界と直接交流出来る」と示す。そこまでは最初から狙っていた。

 だが、市民である記者たちがジェダイを「個別に取材を申し込むような相手ではない」とまで思い込み、自分たちとは違う神秘的な存在として遠ざけていたことまでは、クワイ=ガンも知らなかった。だからこそ、あの時は本気で驚いた。そして意味を理解した途端、危機感と諦観を噛みしめていたのだ。

 そして、その認識の溝が想像以上に深いと知ったからこそ、クワイ=ガンはこの機会を更に利用することにして、あれだけの情報をぶちまけたのだ。つまりは──

 

(有無を言わさずに世間の荒波にジェダイ・オーダーをぶち込みやがったんだ。私たちに何も言わずに)

 

 悪態をつきながらも、政治家オビ=ワンは必要性を理解していた。今回は不信にまで至らなかったが、自分たちと世間との間にこれほどズレがある以上、それが不信へと変わるのは容易い。もしジェダイに対する不信が広まった時、自分たちの言葉すら市民に届けられなかったらどうなるのか。

 

(破滅だ。絶対にろくなことにならない。軍人や政治家ではなく、報道のプロである記者たちと直接やり取りした今回のインタビューでよく分かった。ルーサン改革から千年余り経ち*1。ジェダイは世間から乖離してしまったんだ)

 

 リビングフォースに導かれ、ジェダイと外の世界との交流を説いてきたクワイ=ガン。その行動の意味を、オビ=ワンは遂に理解した。

 人助けを存在意義とするジェダイが、その助けようとしている人々から不信を持たれる。本末転倒にも程がある。だが、ジェダイと世間との間にこれほどまでの認識のズレがある以上、決してあり得ない話ではなかった。

 いや、それどころではない。今のままでは、ジェダイがどれほど善意で行動しようと、その善意が人々に伝わらず、かえって悪意として受け止められる日が来るかもしれない。人々を護るために行動した結果、その人々から憎まれ、敵として扱われる。そんなことになれば、ジェダイは存在意義そのものを失いかねない。

 それを以前から危惧していたクワイ=ガンは、外の世界からやって来たアナキンを育てる中で、その危惧が自分一人の思い込みではないと確信したのだろう。

 ジェダイが当然と思っていることを、アナキンは何度も「僕が聞いていたジェダイと違う」と不思議そうに問うた。それを聞いて頷き、クワイ=ガン式(※今のジェダイからしたらほぼ異端)の在り方を教え、アナキンが「ああ……それなら僕が聞いていたジェダイだ」と納得する度に、師はジェダイと銀河の人々との間にある認識の溝を見せつけられていたのだ。

 だからこそ、ジェダイが人々と直接交流し、自分たちの言葉で語り、人々の言葉にも耳を傾けなければならないと考え、その機会を虎視眈々と待って実行したのだ。

 もっとも、クワイ=ガンが望んでいるのは、評議会を困らせることでも、ジェダイ・オーダーに反旗を翻すことでもない。彼が求めているものは昔から単純だった。ジェダイが人々の中へ入り、奴隷を救い、弱者を守り、困っている者を助けられること。ただそれだけである。

 評議会が硬直しているのならば、反抗して自分の正しさを押し付けるのではない。今回のようにまず自分でやってみせる。そして、その結果を彼らの前に置き、彼ら自身に考えさせる。それがクワイ=ガン・ジンというジェダイだった。

 そして今、そんな師が長年持っていた危機感を、遂にオビ=ワンも共有した。

 

(ジェダイが自認しているジェダイ像と、銀河が期待している、いや認識しているジェダイ像が違う。不味いなんてものじゃない)

 

 ──それはそれとして、(機会が来たからって、ジェダイ・オーダー丸ごと世間の荒波にぶん投げなくても良いじゃないか! みんなパニックだぞ! 講義を聞いたアナキンの「ルーサン改革、間違ってますよ。共和国の中にジェダイを組み込むためだったのは分かりますけど、これじゃジェダイが官僚になってしまう。僕、絶対そういうの向いてないですよ。他にも向いてない人、いっぱいいますよね。それなのに、みんな同じように官僚みたいなことまでやらされたら……そっか。だから、僕が聞いていたジェダイと違ったんだ。ルーサン改革より前のジェダイの話を、タトゥイーンで僕は周りから聞いてたんだ……いや、タトゥイーンだけじゃないんだ。銀河の人たちが思ってるジェダイって、そっちなんだ……これ、不味くないですか、オビ=ワン」という言葉が意味する危険に即座に気付いて真っ青になれるほど、皆が皆、外からジェダイを見る視点を持っているわけじゃないんだよ! アンタに育てられた私やアナキンみたいにな!!!)そんなドロドロしたものが胸の奥で蠢くオビ=ワンだった。

 とはいえ、そこで感情を切り離せるのが政治家オビ=ワンだった。

 

(だが、今ならまだ間に合う。アナキンが言った通り、銀河の人々が思い描くジェダイと、我々自身が考えるジェダイとの間にはズレがある。だが、それはまだ不信ではない。それどころか、市民たちはジェダイに興味を持っていてくれている。しかも好意的な興味を。今のうちに何とかしなければ。ルーサン改革前後で変えた掟を一つずつ検証し、残すべきものは残し、戻すべきものは戻すんだ)

 

 そう確信したオビ=ワンは、師匠を庇うため、そしてジェダイが自らの言葉で銀河に語りかける機会を潰さないために。

 とりあえず、心の中の別の棚を開き、クワイ=ガンから教えてもらった結婚関連資料の在処を恋愛相談した全員(※評議員含む)に送るという火種にガソリンぶっ掛ける所業から始めた。

 

(前例がある。これだけの賛同者もいる。評議員の中にすら関心を持つ者がいる。外の世界との交流を進めるために、ジェダイ・オーダーの制度そのものも見直す必要がある。その一環として過去の婚姻制度を検証するのは当然だ。資料を揃えて正式な手続きを踏めば、現行の掟を改正することだって出来る)

 

 そんな風に考えるオビ=ワンの顔は、式典前のジェダイオーダーを嵌めるために「インタビューは自分でやるから大丈夫だ」と断言した師クワイ=ガン・ジンの顔とそっくりな穏やかな畜生顔だった。

 

(そう、これは善意だ。あくまでも善意だ。結婚願望あるジェダイに資料の在処を教えただけなのだ。別にジェダイの規則を改正するための運動を起こすつもりはない。知りたい人に資料の在処を教えただけなのだ。ルーサン改革前後と今を比べてどちらが正しいかを皆に考えてもらうだけだ)

 

 オビ=ワン・ケノービ。ジェダイの掟に逆らうつもりがない彼は、前例があると分かり、多数のジェダイに結婚願望があると理解した瞬間、結婚関連を起点としてジェダイの掟に対する復古運動を巻き起こすと決断したのだった。

 

(マスター・ビラバのような変化に慎重な方でも、旧に復するならば賛同する。先ずはそこからだ。この結婚禁止から徐々にかつ確実に変えていこう。タトゥイーンに行くマスターが「責任は私が取るから好きにしてくれ」と言ってくれた通りに)

 

 思考が革命家のそれとなっている事に気付かないオビ=ワンは、穏やかな顔で溜息を一つついた。

 

(そうだ。私とサティーンは一切関係ない。これは今のそして未来のジェダイの為だ)

 

 そんな、する必要のない言い訳を内心でしながら。

 

 

 

 

 

 …………なお、言うまでもないが、掟に関して協議して調整して改編を検討する全ての苦労を背負うのは、こんな仕掛けをしているオビ=ワンでも世間の荒波に放り出したクワイ=ガンでもなく、現在マスコミ対応等々で大混乱中の評議員たちである。

*1:
日本で例えるなら、平安時代に作られた『延喜式』を二〇二六年になっても制度として使い続けているようなもの。当時は「人が死ねば三十日、出産すれば七日、肉を食べれば三日間は穢れとして職場への出入りを制限」「月経中の女官は穢れているとして仕事を制限」「穢れた人と同じ場所にいた人まで、穢れ扱いされる」などを規則で決めていた。そんな時代の制度を千年後まで使っていれば、そりゃあ社会とズレる。

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