一方、その頃。
兄弟子を一人コルサント方面から飛んでくる通信の矢面に残しながら「過去良かったなら制度を元に戻せば良いんだ。パドメと結婚するんだ」と改めて決意したアナキンは、ジェダイを含めた恋人がいた師のクワイ=ガンと共にタトゥイーンへ降り立っていた。
──兄弟子も兄弟子なので、ジェダイは結婚しては駄目だけど恋愛はオーケーと認識していた少年が一歩進んだ麗しい光景である! ──
タトゥイーンに向かった理由は、この一連の騒動にしては珍しいほど平和なものだった。
設立準備が進む輸送会社では、これから様々な惑星や種族を相手に商売をする以上、契約交渉や通訳を担当できるプロトコル・ドロイドが欲しいという話が出ていた。数か国語程度なら人材を揃えれば済むが、銀河規模の輸送業ともなればそうはいかない。共和国標準語を理解しない種族も珍しくなく、言葉そのものは通じても文化的禁忌を知らなければ商談一つで戦争になりかねない地域すらある。
手配したが、届くまで数カ月はかかるマンダロア政府にはそこまで良いプロトコル・ドロイドが無い不味い今欲しいのに。と困る船団の皆を見てアナキンが思い出したのが、自分の作ったC=3POだった。だから迎えにきたのだ。
もっとも、それだけが目的ではない。
どうせタトゥイーンまで帰るのである。実家の凝結器と警備機を見ておこう。聖堂で埃を被っていたワトーが欲しがってたパーツも届けよう。同じく埃を被っていたパーツで以前から作っていた農作業用ドロイドも一体完成しているから、持って行けば役に立つだろう。というわけで一度帰省したいと師に相談したのだ。
ジェダイになったからといって、母親含めた家族や友人との縁を意図的に断ち切らせる必要があるとは考えていないクワイ=ガンも何時も通り当然認めた。
執着に囚われることと、大切な人間との繋がりを保つことは同じではない。むしろ自分が何処から来たのかを知り、帰れる場所を持っている方が、アナキンには良い。
だから任務の合間に都合が付けば、今のようにこうして師同伴でタトゥイーンへ顔を出させていたのだ。
──ジェダイ・オーダーを世間の荒波にぶん投げた事と、弟子の為に動く。これらを全くの同格の大切にしている辺りにクワイ=ガンの本質と凄みがあった。
だからラーズ家の農場へ小型船が降りた時も、家族は『アナキンが帰って来たな』と受け止めた。
「アニー、おかえりなさい!」
だからこそ、久しぶりに帰って来た息子を迎えるためにシミは急いで出て来て顔を輝かせた。
「母さん、ただいま!」
アナキンも同じだった。十三歳となり、九歳の頃より遥かに背が伸び、ライトセーバーを腰に下げて銀河を飛び回るようになっても、母親へ駆け寄る時だけは何も変わらない。シミもそんな息子を抱き締め、少し離れて顔を眺めてから、また大きくなったと嬉しそうに笑った。
本人は自覚が薄かったらしく首を傾げているが、成長期の四年は大きい。あの頃は自分の胸にも届かなかった少年は、今では自分よりも背が高くなっていることに母はもう一度笑った。
クワイ=ガンとシミが丁寧に挨拶を済ませた後、アナキンが次に向かったのはクリエッグの所だった。
久しぶりの義父との会話が、体調でも旅の話でもなく「警備機、どう?」「お前が前に弄ったやつか? 調子いいぞ」から始まる辺りが、実にアナキンとクリエッグだった。
ラーズ農場の周囲には、野生生物だけでなく、タトゥイーン連盟代表が上手く交渉を続けているとはいえ未だ完全に安全とは言えないタスケン・レイダーや、危険極まりない野盗への備えとして簡単な警戒装置が置かれていた。
以前ここへ来た時、アナキンはそのあまりの頼りなさが気になって仕方なくなり、古いセンサーや農業機械の部品まで引っ張り出して、警備機の索敵範囲と反応速度とショック銃を改善していた。
砂漠で使う以上、砂塵で光学センサーが曇っては意味がない。だから防塵カバーを追加し、距離センサーも調整した。夜間なら人型の熱源を拾い、農場へ近付きすぎれば家の端末へ警報を送る。さらに一定以上の人数を検知した場合には、最寄りの保安官事務所へも自動で警報が届くようにしてあった。
ついでに言えば、アナキンが作り上げたこの警備機は、既にラーズ家だけの物ではなかった。安価な市販部品で組めて、砂漠でも壊れにくく、タスケンや盗賊の集団まで自動で警戒してくれる。農家が欲しがらない理由がない。
クリエッグから近隣の農家へ話が伝わり、設計データまで共有された結果、今ではタトゥイーンの農家における標準装備になりつつあった。
自分の家だけでなく、タトゥイーンの農家の為にも正常に動いているか気になるアナキンへ、クリエッグは使っていて気付いたことを率直に伝えていく。
「前よりずっといいな。夜にバンサが近付いた時もちゃんと拾った。誤報も無い。周りの家もこいつには感謝してる」
「よかった。西側は?」
「そっちは時々反応が鈍い」
「やっぱり。砂丘が動くから死角が出来るんだよ。予備のセンサー持ってきたから、あとで一基増やそう。調整したデータも保安官のところに送っておいて。向こうで共有してもらえば、他の農場にも使えるから」
「帰って来て早々仕事か」
「だって、本当に必要になってから壊れてたら遅いでしょ?」
それを聞いてクリエッグは笑った。農場を守る設備についてそうと言われれば、農夫として反論する理由などない。任せたと一言いうと自分の仕事へと戻った。
義兄オーウェンとの関係も似たようなものだった。
「アナキン、三号凝結器を見てくれ。二日前から出力が落ちてる」
「制御基板?」
「そこは前にお前が替えたから正常だ」
「じゃあポンプかな。音は?」
「少し重い」
「ああ、それなら多分砂噛んでる。今から開けるよ」
「頼む。機材は何時もの所だ」
それで話が終わり自分の仕事に戻る家族だった。そして、アナキンは、こういう会話と家族が好きだった。
クリエッグもオーウェンも、派手な人間ではない。銀河政治について熱く語るわけでもなければ、大きな理想を掲げるわけでもない。朝起きて、凝結器を動かし、機械を整備し、作物と水を確保し、家族が暮らしていけるよう働く。
彼らは働かなければ生活出来ないことを知っている。彼らは機械は手入れしなければ壊れることを知っている。壊れたまま放っておけば、困るのは明日の自分たちだと知っている。
奴隷時代から、自分の手で物を作り、修理しながら生きてきたアナキンにとって、そういう地に足の付いた働き者は非常に分かりやすく、信用できる人間だった──一番大嫌いなコルサントの政治家どもと真反対の家族をアナキンは好んでいた。
ラーズ家側から見ても同じだった。
ジェダイが具体的に何をする職業なのか、クリエッグもオーウェンも詳しくは知らない。何やら共和国の偉い連中と仕事をして、犯罪者と戦い、たまに戦争まで止めるらしい、くらいの認識である。
そのジェダイの一員であるアナキンは、帰って来れば先ずは農機具などの機械の下へ潜り込み、それを偉いジェダイであるクワイ=ガンが許すのだから、ジェダイってのは悪い連中じゃないんだろうなと思うだけだ。
アナキンは、工具を握る。油に汚れる。壊れている場所があれば直す。その上、今回は、作業用ドロイドまで持ってきてくれる働き者だ。だから、同じ働き者である家族の一員だった。それでよかった。
「これ、置いていくよ。古い型だけどしっかりしてるんだ」
そう言って置かれたドロイドを、オーウェンが感心した顔で見ていた。
新品ではない。見れば分かる。各所の装甲色さえ微妙に違うように、中古の使える部品を集めて組み上げたものだった。
だからこそ、ラーズ家には向いていた。
砂に弱い部分は密閉され、凝結器の保守手順と農場内の地形データまで入力されている。重量物も運べる上に、故障しても市販部品で直せるようにした扱いやすい代物だった。
「高かったんじゃないのか?」
「タダだよ。使える部品集めて僕が組んだからね」
「……相変わらずだなぁ、お前」
早速起動したドロイドの動きに満足するオーウェンの言葉に悪意はなく、働き者の義弟への感心だけがあった。
だが、その感心を向けられるアナキンは特別なことをしているつもりはない。使われずに余っている部品があり、組み合わせれば一台のドロイドになり、それを持って来れば家族の仕事が少し楽になる。なら作ればいい。九歳の頃から変わらない理屈でアナキンは動いていた。
クワイ=ガンの弟子であるから、その尊い理屈を曲げることも損ねることもなくアナキンは育っていた。
そして農場の機械を一通り見終えやるべき修理の算段をつけたところで、ようやく今回の本来の目的である金色のドロイドへ向かった。
「久しぶり、3PO」
「アナキン様!」
C=3POは、製作者の姿を見るなり大袈裟に両腕を広げた。四年前までは骨格を剥き出しにしていた自作ドロイドも、今ではすっかりプロトコル・ドロイドらしい外見になっている。帰ってくるたびにアナキンにレトロフィットされ、シミがクリエッグと暮らすようになってからは外装を付けて貰い、農場で家事や作業や通訳の手伝いをしていたのだ。
「アナキン様ではありませんか! また随分とお背が高くなられて! 私は以前からジェダイという職業が成長期の少年へ必要な栄養を供給しているのか非常に心配しておりまして──」
「元気そうだね」
「勿論ですとも。ただ、最近左膝のサーボが時折、非常に不吉な音を立てておりまして。製作者として是非一度確認を──」
「前に替えたジェネレーターと相性悪いのかな。分かった、分かった。あとで見るよ」
その言葉だけで3POは良かったと喜んでいた。シミは少し離れた場所から、昔と変わらない二人のやり取りを楽しそうに見ていた。
「それで、今日は3POを連れて行くために帰って来たのよね?」
「うん。ちょっと手伝ってほしくて」
「私を、ですか?」
「今、会社を作る手伝いをしてるんだ。色んな星の人と取引することになるから、言葉とか習慣が分かるプロトコル・ドロイドが必要なんだって」
「分かりました。私でよければ何でも致します!」
農場よりも自分のスキルを活かせる仕事に喜ぶ3POを見ながら、会社という言葉にシミは少しだけ不思議そうな顔をした。
ジェダイの仕事に会社設立があるのだろうかと疑問一杯な顔になったが、視線の先の農場で休んでいるクワイ=ガンが頷くのを見て理解した。
まあ、そういうこともあるというか。何時も通り無茶をして、冒険して、人を助けて、宇宙を飛び回っているのだろう。
それで充分だった。とりあえず帰って来てから働きづめだから休ませなければ。