「マンダロリア社だと? ああ、あの新しく出来た傭兵会社か。なら、大したことないだろ。仕掛けるぞ」
海賊船団の首領は、部下からの報告に襲撃を決断した。
目の前にいるのは大型輸送船五隻。その護衛として巡洋艦二隻が随伴している。見た時は巡洋艦にドン引きして襲撃を諦めようかと思ったのだが、部下が調べてきた情報によれば、巡洋艦で護衛を担当しているのは設立されたばかりの《マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーション》なる会社だという。
しかも巡洋艦は、ブラック・サンから奪い取った軍艦ときた。
その話を聞いた首領から、襲う以外の選択肢は消えた。
マンダロリアンの中核にいるのは平和主義者として有名なサティーン・クライズ公爵である。そんな甘ちゃんの下に居る連中が軍艦を手に入れたところで、動かせるスキルを持った人間がどれほどいるのか。見た感じ動かせてはいるようだが、会社を設立して間もない今、乗員の連携だって出来てはいまい。何より個々のマンダロリアンは強いが、連中は基本的に群れない、だから集団戦に慣れてはいない。
──結論。あの巡洋艦は案山子である。
それに対して、我ら海賊船団は改造小型船が主とはいえ二十隻を超えており、乗員は粒ぞろい。
案山子の巡洋艦2隻に比べて、客観的にみてこちらの戦力が勝っている。長年にわたってアウター・リムを荒らしてきた自分たちに、案山子が護衛になると思っているとは笑わせる。
大型輸送船五隻と満載された貨物は、クレジットにして億を優に超える価値がある。
護衛に不安があるそれだけの獲物を前にして、何もせず帰るという選択肢はあるはずがなかった。
「警告してきています。マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションと名乗り、直ちに退去しろと」
「ハッ! わざわざ会社を名乗った上にまずは警告だぁ!? 戦闘民族マンダロリアンさまも落ちたもんだなぁオイ!」
首領が笑うと、艦橋にいた部下たちも一斉に笑った。
かつて「なんで『オメェ強いんだな。オラ、ワクワクすっぞ』で星間戦争ふっかけるんだよ!? 何なんだよお前ら!!?? 国力差が万倍はあるのに舐めやがって……ひぃぃ、国力万分の一以下の連中に負けそうっ!? 助けてぇジェダイ!!!???」と共和国を悲鳴を上げさせるまで追い詰め、「なんなんだアイツラ!!!???」とジェダイすらも慌てて参戦させるほどに銀河を震撼させた伝説の戦闘民族が、今では金を貰って運送屋の護衛とは。しかも先ずは来ないでくれ! ときた!
「通信を繋げ!」
マンダロリアンを屈服させ、共和国へ加入させたからこそ共和国は軍を解体した。もはや敵はいない、と認識したからという伝説を。
人口数千兆を誇る銀河規模の共和国を人口数百万の戦闘民族が滅亡寸前まで追い込んだ伝説に憧れていた首領は、憐れみさえ覚えながら椅子へ深く腰掛け尊大な態度で言った。
「聞こえるか、マンダロリアン! 輸送船と貨物を置いていけば命までは取らねえ! 大人しく引き返せ!」
脅しに対する返答というか、通告は早かった。マンダロリアン的には最後通告は本当に早かった。
『退去する意思はないと判断してよろしいか?』
「ああ!? そう言ってんだろうが! ああ、巡洋艦も置いてけよぉ! テメエらにはもったいねえからよぉ」
『貴様らの意思は了解した』
通信が切れ、最後通告だと気付かなかった首領と海賊たちは笑った。
そして、次の瞬間──
「CEO、戦闘機中隊が敵旗艦のエンジンを破壊しました。敵はもう動けません。今現在は、混乱中の他の敵艦エンジンを攻撃中です」
「伏兵に気づかねぇとはなぁ。海賊ってのは、ここまでド素人なのか。宇宙戦のイロハも知らねえとはなぁ」
「まったくですなぁ。船団に対する妨害さえなかったので、逆に罠かと思って警戒していたのに」
「……まあいい。久々の宇宙における艦隊戦だったが、俺たちのドクトリンが通用することは確認できたからな」
「ですが、まだまだです。制圧完了まで予定より時間がかかっています。戦闘記録を全部回収して、各隊から問題点を出させます。検討会の後、改善案と合わせて報告書を上げますので確認を」
「ああ。特に戦闘機隊の展開時間を洗え。それと──『海賊相手に戦力を投入しすぎた』なんて報告を書いた奴がいたら再訓練だ」
「当然です」
「戦力の過剰なんてものは、戦場を舐めてる奴だけの台詞だ。戦場では敵を過小評価して戦力をケチる奴から、余裕と過剰と見なす馬鹿から死ぬ。無い無いだらけで少しでも余裕を絞り出して勝つ、それが戦場だ。それを理解していない奴をマンダロリアンとは呼べねえ」
「もちろんです、CEO。そんなマンダロリアンたり得ないマンダロリアンがいたら、基礎訓練から叩き直してやりますよ ……あ、終わりましたな」
「よし、なら、行き先の惑星までトラクタービームで曳航して金にするぞ」
「了解しました!」
──かつて共和国を滅亡寸前まで追い込んだ宇宙戦ドクトリンを、数千年にわたって継承し磨き続けてきた戦闘民族の餌食になった。
数時間後、『ブラック・サンが戦艦を含むマンダロア社艦隊に攻められ崩壊!』というニュースが銀河を駆け巡っているなか。
五隻の大型輸送船と二隻の巡洋艦が、予定通り目的地の宇宙港へ到着したときに宇宙港はちょっとしたパニックになった。
巡洋艦の後ろに二十隻の海賊船をトラクタービームで引っ張りながら船団が入港してきたのだ。宇宙港の管制官が何事かと問い合わせたのは当たり前である。
『海賊船団を拿捕しました。共和国司法当局への引き渡しと、船舶及び押収物資の処理をお願いします』
そして、船団からの通信を聞き、管制室全体から大歓声が上がった。
既に乗員は拘束済み。負傷者の治療も終わり、押収物資についても目録が作成されていた。所有者が判明している貨物と、海賊自身の所有物と考えられる物資にまで分類されていたのだから、喜びは増すばかりだ。
戦闘だけでなく、こういう技能まで持ち合わせているのがマンダロリアンという戦闘民族だった。
おかげで、慌てて駆けつけた港湾市長や運輸大臣をはじめ出迎えた者たちは大喜びだった。長年手を焼いていた海賊たちが、証拠品と一緒に届けられたのである。
何よりも、塩や砂糖など惑星で産出しない貴重品たる生活必需品が、約五十年ぶりにまとまった量で運び込まれたのだ。
驚きと喜びに惑星全体が揺れたのは当然だろう。
当然、記事になった。
アウター・リム以外の銀河の一般人が「「「必需品が貴重品扱い!? どんな状況なんだアウター・リム!!!???」」」とアウター・リムの末期的な状況に戦慄し、アウター・リムの修羅人が「「「真っ当に荷が運ばれるなんて!!!???」」」と驚愕する記事に。
「追加料金はなかったのですか?」
ジャビーム運輸会社の担当者へ今質問している、今回無理を言って輸送船へ同乗した通信社の記者によって。
「追加料金? 何の料金でしょうか?」
「海賊との戦闘で発生した追加費用ですよ。弾薬費や燃料費、拿捕作業の費用もあるでしょう」
「え? …………いや、追加が発生するわけないじゃないですか。契約通りなんですから」
「そんな馬鹿な!? 海賊と戦っただけじゃなく、船団を丸ごと制圧したんですよ!? 弾薬も燃料も使って、拿捕作業までしているじゃないですか!」
「そうですね。流石はマンダロリアンです」
「そうですね、って! それだけの戦果を上げたんですよ!? 契約料金とは別に、戦闘代や成功報酬が発生するでしょう!?」
ジャビーム担当者は、心底不思議そうに目を白黒させる記者を見た。
「何故、上乗せされるんですか?」
「……え?」
「契約では目的地まで護衛してもらうことになってますから。海賊が襲ってきたら撃退するのも仕事でしょう? ですよね?」
「ああ、当然だろ。そうじゃないと護衛じゃないだろ」
誰一人再訓練が必要なかった事に満足しながら傍で書類を確認していたマンダロリアンにも当然のように答えられて、記者は言葉を失った。
ジャビーム人たちとマンダロリアンにとっては驚くような話ではなかった。それが護衛の仕事だもの。マンダロリアンはやってくれるもの。当然だもの、と。
だが、アウター・リムの護衛の実際を知る記者にとっては当然ではなかった。
危険宙域へ入ったから追加料金。海賊が出たから危険手当。戦闘になれば弾薬代を別途請求。下手をすれば、護衛業者自身が海賊と通じている。そもそも、積荷が価値があると見たら護衛業者が海賊になる。
それがアウター・リムである。
そんな修羅の地を知る記者は、「最初の仕事だからCEOたるもの現場に出ないとな。後は任せたぞサティーン代表」とかなんとか言ってウキウキと現場に出ているプレCEO(※これからも出る)へ直接確認した。
「本当に追加料金は請求しないのですか?」
「当然でしょう。我々は契約通りに仕事をしただけですから」
「しかし、これほど大規模な戦闘が発生したのですよ!? 弾薬代などで赤字ではないでしょうか!?」
「その点は大丈夫です。大幅な黒字となりました。押収物から得られる正当な報酬もありますし、賞金首も大勢捕らえましたから」
「……賞金?」
「ええ。海賊を捕らえれば金となりますからな。素晴らしいことです」
そう、今回拿捕した海賊船団には個人として賞金を懸けられている者が複数おり、さらに海賊船団そのものも一派として賞金対象になっていた。加えて、拿捕した船舶や物資についても、返還・売却を問わず、正式な司法手続きを経れば相当な収入が見込めるのだ。
つまり、それだけで十分な利益が出た護衛料金とは別に、海賊を叩きのめしたことで更なる利益が出たのである。戦闘民族らしく戦えたこともあり、プレに笑顔は絶えない。
──そのインタビューを「CEOだってのに、前線に行って……男っていつまで経っても子供だな」と本社で悟った眼をしてみる年下のサティーンも笑顔なくらいに初仕事は上手くいった。
「依頼人を守るだけでなく、海賊を捕らえた事で、臨時報酬まで得られた。実に良い仕事でした。記事には、今後とも弊社をよろしくお願いいたします! と書いてくださいね記者さん」
「…………質問に答えていただきありがとうございます」
記者は満面の笑顔のプレを見つめて暫く絶句した後、猛烈な勢いで端末を操作し始めた。
『マンダロア社、海賊船団を壊滅させるも追加料金なし! ジャビーム社、所有する超大型船による輸送成功! 物流改善される! アウター・リムの救世主となるか!』
その記事も銀河へ配信され大反響となる頃、海賊の身柄と押収物資を司法当局へ引き渡したマンダロリアンたちは、賞金の支払い手続きが順調に進んでいることを確認し、実に満足そうに頷き合っていた。
戦えて、稼げて、依頼人から感謝までされる。
何とも素晴らしい仕事ではないか。これが我らの天職だな。と。