「二番手か、いや、実質的には一番手だ。アウター・リムを確実に運輸する企業に対して唾を付けられた。いいぞ。いいな」
ヌート・ガンレイは、本拠地で歓声を上げた。
マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションとジャビーム運輸会社。
発表段階でその二社と可能な限り早く交渉するよう命令していたガンレイは、往路とはいえ完璧かつ確実に運輸してくれた結果とそれがもたらす未来に満足していた。
その星でしか産出しない産物が多々ある上で日常品すら欠乏しているという、通商におけるブルーオーシャン。なのに治安が悪すぎて手出しできなかった修羅の地アウター・リム。
そんな所へジャビーム運輸会社が航路を設立し、マンダロリアンが護衛を担当する流れが出来、それに一番手で乗れたのだから喜びは一入だった。
「これからだ。これからだぞ」
貨物を通商連合から回せば、ジャビーム側は運賃を得られる。マンダロリアン側は護衛料金を受け取り、通商連合は今まで商品を売れなかった地域へ進出し、その特産物を手に入れる。
そんな全員が儲かる商売の見本となりうる雛が生まれた事に室内の全員が喜んでいた。
「往路で姿を見せた海賊を追い払うとは。積荷はもちろん船にも傷一つなく完璧に運んでくれるなんて! マンダロア社だけでなくジャビーム社も見事です! 総督。これで、今まで断念していた星系への進出が可能になりますな」
「ああ。ようやくだ。その地の特産物を手に入れ、不足する品を用意する。そして新たな顧客を作る──我々通商連合の本懐を遂にアウター・リムで出来るのだ!」
部下の嬉しそうな声に、通商連合総督としてガンレイは大きく頷いた。
今まで銀河中心近くのコロニーズを本拠とする通商連合がアウター・リムへの進出が出来なかった最大の理由は、採算が合わないことに尽きる。
輸送船を送り込めば海賊に襲われる。護衛艦隊を付ければ護衛費用が膨れ上がる──スターファイターで輸送船を囲んできた現地政府から安全保障を名目とした法外な金銭を要求されることもあるくらいに!
そんな地域へ進出しても、商品を売っても利益にならないどころか赤字だ。だから通商連合は、アウター・リムがブルーオーシャンだと分かっていても手を出せなかったのだ。
マンダロア社とジャビーム社が出来るまでは!
ナブー封鎖出来る通商連合が諦める修羅の地アウター・リム。それが過去のものになろうとしている事に、皆笑顔だった。
「我々が輸送船や護衛艦隊を用意する必要すらない。貨物を回すだけでいい。現地で商品が売れれば、帰りにはその星の産品を積み込む契約を結べる。今回のようにな。いや、素晴らしい! これぞ商売だ!」
「海賊の被害も減るでしょう。今回の報道を見れば、襲おうという連中も減るはずです。我々の積み荷を運んだ時の海賊への対処といい! ブラック・サンの壊滅といい! 素晴らしい! 流石はマンダロリアン! 戦闘民族は違う!」
「その通りだ! マンダロリアンが航路を安全にしてくれるなら、我々が自前で護衛などという畑違いの事をする必要などない。契約通りに運輸してくれるジャビーム社には船を増やしてもらわねばな。十八隻では足りんぞ! そして、マンダロリアンにも更に軍艦を回さねばな」
「次の契約前に安価で提供せねばなりませんな! マンダロア復興の為のテラフォーミング技術などを我々が所有してることも明かして! 更に稼ごうと頑張ってくれるでしょう! 必要なものがたくさんあって、外貨を得る手段を持つ相手はかくも素晴らしい商売相手になるという見本ですな!」
「まさにだ、彼らが求めるものを我らは通商のプロとして用意し提示する。それが商売だ! 護衛や戦いや運輸はその道のプロに任せるべきだ! 我らのような素人が手を出しても(ナブーのように)ろくな事にはならん!」
マンダロアというかサティーンが喉から手が出るほど欲しているテラフォーミング技術などなどを、商品として取り扱う通商連合トップのガンレイは実に上機嫌だった。
長年、アウター・リムの輸送費用と安全に頭を悩ませてきた部下たちも同様である。
ああ、待っていてくれアウター・リムの特産物たちと、物不足に悩む星系たちよ。我々はすぐにでも取引に向かう!
そんな前途にやる気を高める部下たちの一人が、そういえば、と呟いた。
「しかし、発見した海賊を追い払うだけで追わなかったのは何故でしょう? 折角ですから撃滅してくれればよかったのに」
「ん? ……ああ、私しかまだその資料を見てなかったな。罠の可能性があるらしい。追わせておいて、その隙に輸送船を襲う罠の可能性がな。これをみろ」
「なるほど、言われてみれば、確かに。いや、ちゃんと分かりやすく説明してくれるとは有難いですな」
「ああ、言われて見せてもらえば、確かにだ。護衛が仕事だから、護衛対象の貨物や船に被害を出さないように護衛を優先する。当然だな」
「まったくですな。それに、ちゃんと分かる限りの海賊の情報も書いてますし、その分析まで載せてくれている──プロですな」
「その通り、これぞプロだ。念のために海賊殲滅を出来るのかを聞いたが、「海賊殲滅は今回の仕事ではないし、拠点まで潰すとなれば捜索、偵察、補給まで必要な別仕事である。何よりも星系政府と繋がりがある海賊の可能性があるため、そこまで大規模ならば共和国と交渉して許可を貰う必要があるから難しい」と答えてくれた。
……そもそも、共和国の仕事だろう海賊殲滅は! 今回の航路安全も含めて! 本来は!」
「まったく、我々、共和国へ税金を払っているのですがねっ! 大量の税を!」
「まったくだ!」
部屋にいるニモーディアンたちは露骨に舌打ちした。共和国が仕事しないのは今に始まった事ではないが、改めて思う。酷すぎる、と。
「税金を取るなら、仕事をしてほしいものだ」
「まったくです。我々が好き好んで自分たちで護衛戦力を養っているとでも思っているのでしょうかね!」
「そのとおりです! 護衛戦力などコストがかかるだけで何の利益にもならない代物! 共和国がしっかりしてれば要らないものなのに! あの連中は!」
「護衛戦力養えるくらい余裕があると解釈しおってからにぃ! 腐敗も大概にしてほしいものです!」
欠片も仕事しないのに「俺ら(腐敗元老院議員プラス腐敗官僚)のポッケに入る金減ってきたから新たに税金作るぞ。通商連合景気良いから狙い撃ちな」され、「「「ふざけんな!!!」」」と(シディアスに唆されて)抗議の意を込めてナブー封鎖した通商連合幹部たちは、あまりの共和国の腐敗っぷりに義憤と悲しみを抱く。
──もちろん、敗れて捕まった自分たちが税金作ろうとした腐敗議員や腐敗官僚含めた権力者に金バラ撒いて無罪放免された事は「この弱肉強食の銀河で生きるのに当然」と割り切っているし、実際そうであるのが共和国が末期たる所以である。
──ついでに言えば、腐敗した人々の懐に金が入ったため増税論は消えた。これには増税論を消した議長と声望を高めた黒幕ことパルパティーンも「(指示もしてないのに)ここまで意のままに動くとはな」と苦笑するしかなかった。
──そして、今、メイス・ウィンドゥたちにより豚箱に叩き込まれている人たちはそういう腐敗議員や腐敗官僚だったりする。
ああ、これぞ銀河の日常。弱肉強食たる銀河の現実。正義などなく、あるのは強さの強弱み。己の力だけが頼りの自助社会。例外的に教条主義かつ人手不足なジェダイだけが無償で助けてくれる日々である。ジェダイへの信頼と表面的な治安を戦争で焼き尽くせば「安全にしてやるから権力を寄越せ!」と出来る下地があるのだ…………史実では帝国から新共和国と時代が下るにつれて、ただでさえ少なかった助けの手がさらに減っていく、修羅に成らざるをえない者たちの世界である。
「その点、契約を完璧にこなしてくれるマンダロリアンは実に素晴らしい。これぞ戦いのプロだ」
それはさておき、マンダロリアンの手際の鮮やかさと在り方に、アミダラ女王への復讐心は兎も角として、ナブーでのアレコレで自分たちが戦いの素人なのではないかと疑っていたガンレイを始めとするニモーディアンたちは、「「「やはりプロは違う! 自分たちは素人だ!! だから通商のプロとして取引しよう!!!」」」 と疑いを確信に上げて感動していた。
「しかし総督。一つ懸念がございます」
「何だ?」
「シディアス卿です。マンダロリアンとの取引について、あの方が何と仰るか……」
部下の懸念は当然だった。シディアスはマンダロリアンの動向に強い関心を持っている。だから、今回の統一行動についても快く思っているとは限らない。なのに、通商連合が大量の仕事を発注してよいものか。
だが、ガンレイはそんな部下の心配を鼻で笑った。
「心配するな。シディアス卿は商売に関しては利益しか見ない方だ。今回の取引で我々が儲かり、通商連合の影響力が更に拡大するのだぞ。文句を言う理由が何処にある?」
「ですが、マンダロリアンの国力が更に増強されることを懸念されるのでは?」
「それは政治の話だろう。これはビジネスの話だぞ! そもそも我々が契約しなくとも、彼らには仕事が殺到している! 自社製の軍艦が使われている事を知ったレンディリィ・スタードライブやクワット・ドライブ・ヤードからもな! あの連中は、間違いなくマンダロア社との軍艦の整備契約や追加建造まで狙っているぞ! いや、二社の本社にある造船設備の運用請負もな! 設備はあるのに専門技師とノウハウが足りず、満足に動かせていないらしい。あの二社なら技師を送り込んで自分たちのテリトリーにするに決まっている! その前に、最初に契約を結んだ我々が更なる商売上の関係を構築した方がシディアス卿にとってもよほど有益だろう!」
ガンレイは報告書を指で叩いた。通商連合が契約を見送ったところで、マンダロリアンの仕事がなくなるわけではない。むしろ他の企業に契約枠を奪われ、通商連合だけが商機を逃すことになる。
それに、商売相手となれば、彼らが何処で何をしているのかも把握しやすくなる。シディアスにとっても悪い話ではないはずだった。
てか、ガンレイの危機感どおり、いや、それ以上に生き馬の目を抜く銀河の企業たちが動いてる──具体的には、 レンディリィ・スタードライブとクワット・ドライブ・ヤードは、既に企業重役によるサティーン公爵との面会を取り付けている──のだから、シディアス(政治)に構っている余裕などない。
「さあ、次の仕事だ! ジャビーム運輸会社へ、我々の貨物をどれだけ引き受けられるか確認しろ。船が足りないというなら融資でも船舶の貸与でも検討する! マンダロリアンとの護衛契約も拡大しろ! 軍艦やスターファイターの安価な販売も含めてな! アウター・リムのシェアを得られるかは此処半年が勝負だ!」
「承知しました、総督!」
新しい交易路が開ける。貨物が増える。利益が増える。客を得られる。即ちシェアが得られる。
ガンレイにとっては、それだけで十分だった。
だから、シディアスがマンダロリアンの統一について何を考えているのかなど、知ったことではなかった。少なくとも、通商連合の総督としては。
何しろ、シディアスがパルパティーン議長その人だとは知らないのである。ジェダイを滅ぼし共和国を破壊して銀河を支配し、最終的には通商連合さえも解体して自分の支配下へ組み込むつもりだなどと知るはずもなかった。知れば造反する商売人なのだから、シディアスが教えるはずがなかった。
「あと、セレノーのドゥークー伯爵が言っている『自由な通商路と減税を保障する組織』だが」
「アレですか? あのアウター・リムへの通商路も可能とする見込みという?」
「ああ、アレだ。話を停滞させろ。見込みではなく、今実施してくれているジャビーム社とマンダロア社との商売拡大こそが最優先だ。人員も物資もドロイドもこっちに回せ。彼らと商売し少しでも関係を深めるのだ」
「わかりました! ただちに!」
他の誰もと同じく利用価値が無くなったら始末する予定なのだから教えるはずがなかった。