マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションとジャビーム運輸会社が、最初の輸送任務を成功させてから半月ほどたったある日。早く戻ってこいというジェダイからの連絡と二社へ殺到する依頼の中で、内容が暗号になっている通信が紛れ込んだのを発見したのは当然というべきかC‐3POだった。
宛先はジャビーム運輸会社。送信者はジャビーム政府。
当然、速やかにアルトへ回された。
「……政府だ。本物のジャビーム政府関係者だ。海賊共に適当にでっち上げられた連中じゃなく、今も必死に政府を運営している人達だ」
HG-44の会議室で無表情のアルト・ストラタスが低く呟いた。手元の端末を握る指には力が入っている。ジャビーム軍特殊部隊ブロンズ・ニンバスを率いていた彼にとって、そこに記された暗号は見間違えようのないものだった。政府と軍との緊急通信で使われていた暗号形式。非常時に正規の政府関係者であることを証明するための識別情報が含まれた暗号だったのだから。
本物の政府関係者でなければ出せない信号にアルトは勿論、アルトに現在のジャビームの状況を教えられていた人々が表情をこわばらせた……気付いたらジャビーム社の重役みたいなことしているヴァレックも含めて。
端的に言えば──共和国の記録において、惑星ジャビームでは今も昔と変わらずジャビーム政府が統治を続けていることになっているのだ。
共和国から脱退してもいないし、もちろん政府が海賊へ降伏したという記録も存在しない。だから、議会があり、政府があり、共和国中央へ必要な報告も送られているのだ。
──何の問題も無いと
記録の上ではそうなっていることこそが、ジャビームの現状の凄まじさを表していた。
十数年をかけて、海賊と奴隷商人、それを支援する鉱山に目が眩んだ企業勢力は、そうやってジャビーム社会の中へ入り込み支配した。金を渡し、脅し、反抗する者を排除し、自分たちに都合の良い者を議会へ送り込んでいった。そうして外から政府を倒すのではなく、政府そのものを内側から変えていったのだった。
アルトも、その過程で排除された一人だった。
軍人として海賊と戦い、企業から流れ込む武器と資金を追い、その結果として捕らえられ、最後には故郷から連れ出されて奴隷となった。
そのように軍人や公務員や政治家や地方有力者から真っ先に捕らえられ、鉱山か工場か、もしくは奴隷として星の外へ売り飛ばされた。
──売り飛ばされた人だけで六百万人になるほどの圧政だった。
だから、何人もの政府関係者が金や人質などの様々な理由で海賊側に寝返った。
だが、全ての人間が海賊側へ寝返ったわけではない。脅されながらも政府に残った者。形だけでも行政を維持しようとした者。少しでも住民を守ろうと、海賊や企業側と折り合いを付けながら時間を稼いできた者。そんな者たちが、今も政府の中には残っている。
そして今回の通信を送ってきたのは、その中でもアルトが絶対に間違えるはずのない人物だった。この通信がバレれば命が危ないと知りつつ連絡を送ったのはアルトが間違えようがない人物だった。
「間違いないのですね?」
集まった人の一人、ジャビーム解放の約束をここで果たすべきかと意志を込めてサティーン──ついさっきまでお得意様である通商連合特使ハーコ氏と素晴らしい契約結べて「これでマンダロア復興の道筋が出来た」と笑顔だった──が確認すると、アルトは即座に頷いた。
「ああ。通信を送ったのは俺の妻だからな」
「「「…………」」」
一瞬、会議室が静かになった。
アルトに妻がいることを初めて知った驚きもあったが。それ以上に、その妻がジャビーム政府内にどのような気持ちで残り。どのような気持ちでこの通信を送ったのかを悟り胸を詰まらせた。
夫が捕らえられ、奴隷として星の外へ売られた後もジャビームに残り、海賊と企業の影響力が政府内部にまで及ぶ中で、少しでもマシな状態を維持しようとしている人なのだ。アルトの妻は。
そんな女性が、自分の命まで危険に晒しかねない暗号通信を送ってきたのだった。
アナキンが拳を握りしめる音が響く中、アルトは静かに、そして激情を噛みしめて呟いた。
「本文を出してくれ」
「はい、勿論でございます」
C-3POが速やかに端末を操作すると、卓上へ復号された文章が表示された。
現在、ジャビーム政府内部では海賊及び協力企業の影響力が更に増していること。軍どころか警察さえ解体され、海賊が入れ替わっていること。地方では未だ抵抗を続ける部隊や住民が存在するものの、このままでは殲滅されると。海賊は十万人近くいて、改造戦闘船三十隻以上、スターファイター百機以上を持っているから抵抗しようがない、と。
そして。ジャビーム運輸会社へ正式な救援を求めること。同社を通じ、マンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションへ軍事支援を依頼したいこと。
──最後に、政府内部で未だ自由意思を保っている者たちの認証が複数添えられていた。
助けてください。という言葉と共に。
「……なるほど、状況は分かりました」
よし助けに行こうと、前へ踏み出ようとしたアナキンに、目線で「分かってます」と伝えて大人しくさせたサティーンは文章を二度読み返した。
これは商船護衛とは違う。いや、マンダロア社が掲げる民間施設の警備、船舶及び輸送船団の護衛、要人警護、海賊行為への対処、遭難船及び遭難者の救難。それらに付随する合法的な警備業務とも違う。
戦争だ。
マンダロリアンがジャビームへ向かえば、間違いなく海賊との戦争になる。
海賊を撃退するだけでは済まない。政府庁舎、宇宙港、鉱山、通信施設。既に海賊側の影響下に置かれている場所を武力で奪還する。
それが戦争でなく何なのだ。
表面だけを見れば、マンダロリアンが艦隊を率いて再び他惑星へ攻め込んだと捉えられかねない。せっかく高まりつつマンダロリアンへの信用を不意にするかもしれない。……海賊に占拠された惑星を解放したことで逆に信用高まるかもしれないがそんな政治的賭けをするつもりはない。
だからこそ、サティーンは慎重に確認した。「これでアウター・リムが救われます」と熱い思いを語りながら起業した後すぐに来てくれて、それから今までずっと二社の信用裏書などを手伝ってくれた共和国官僚に。
「この救援要請を、ジャビーム政府による正式なものとして扱えるのですか?」
会社設立から今まで、共和国政府側の立場から二社を手伝いながら海賊をもっと叩き潰して欲しいと公言していた官僚へサティーンが慎重に問いかけると、男は直ぐには答えず、アルトが本物だと断言した通信を自分の端末へ移して内容を確認し始めた。
暗号そのものの真正性だけではなく、最後に名前と認証を添えている政府関係者たちが現在どの役職にあり、どの程度の権限を持っているのかを共和国側の行政記録と一つずつ照合していく。
確認にはそれほど時間を要することなく、男は職務を誇り知り抜いた者だけが出来る断言をした。
「間違いありません。この認証を行っている者たちは現在もジャビーム政府で正式な職務権限を持っていますし、共和国中央とも行政上の連絡を継続している現職の政府関係者です。我々も日常的に実務上のやり取りをしていますから、本人確認も権限の確認も取れています」
共和国中央からすれば、彼らは過去の政府関係者でも、反政府組織でもない。現在もジャビーム政府の一員として予算、通商、行政報告などを共和国側とやり取りしている人々である。
つまり、この救援要請は共和国中央においても救援要請として扱えるのだった。それでもサティーンは念のため確認した。
「では、彼らがジャビーム政府の名で救援を求めることには問題ないのですね? 正式な救援要請として扱えるのですね?」
「はい、問題ありません。彼らには治安維持と住民保護に関する緊急要請を出す権限がありますし、何より現在のジャビームでは警察組織すらまともに機能していないという、これまで共和国中央へ上がってこなかった現地の実情まで記されています。ジャビーム政府関係者が支援を外部へ求めることについて、共和国側から異議を唱える根拠はありません」
その断言を聞いて部屋にいる者達の表情が僅かに緩んだが、官僚はそこで話を終わらせなかった。
「ただし、法的に問題がないことと、政治的に問題にならないことは別です。いえ、問題になる可能性が高いでしょう──元老院で」
汚物を吐き捨てるように元老院の単語を口にした官僚氏の発言に、部屋に居るものが同じように全員顔をしかめた。元老院がどれだけ腐っているか、どれだけのことがナアナアにされたか知らない者はいなかった。
「ゆえに手を打つ必要があります」
「というと?」
「もう一段上まで通しておくべきでしょう。最高議長府、いえ、パルパティーン議長に」
「最高議長に話を通す? 出来るのですか!?」
マンダロア代表とはいえ、今回の件では当事者側である。サティーン自身が最高議長へ直接話を持ち込めば、マンダロア側による政治的な働きかけと見られる。だからといって、議長へ直接繋がるような私的な伝手なんかないサティーンは驚愕した。
「ええ、議長府には友人がいます。彼を経由します。ご安心ください。彼は腐敗していない官僚です……それに議長には以前から目をかけていただいてましたから、私だけでも話だけは持って行けます」
(え? この方そんな大物なの? ──いえ、信じられないくらい清廉潔白で有能だものね。このような方に脈を通じないような政治家ではないわ。同じく清廉潔白で有能なパルパティーン議長は)
一人の為政者として議長パルパティーンを知るサティーンが納得した表情をするなか、官僚氏は必要な手続きをしながら言葉を出す。
「ジャビームからの情報が正しければ、今回マンダロア社が動かすのは小規模な部隊ではならないでしょうからな──そうですよね?」
「ええ、少なくとも戦艦を含めた艦隊を出します。七隻、いえ九隻。戦艦三隻と巡洋艦六隻に加えて中型輸送船を二十。スターファイター百八十。そして、ガンシップも輸送船に四百は積みます。強襲戦力だけで15万人を超えるでしょう。こういう状況ならば大戦力での各所同時奇襲をすべきですから」
戦闘の専門家ではない官僚氏の疑問に対して、銀河でも数少ない惑星強襲ノウハウを持つマンダロリア公爵サティーンは専門家として応えた。
その戦力を聞いた官僚氏は(銀河でここ千年で見てもそうそうない軍事行動を躊躇わずに! これがマンダロリアン!)流石に驚いたあと直ぐに理解して頷いた。
「大戦力ですね。それだけのマンダロア戦力が共和国加盟惑星にて、現地の武装勢力と戦闘を行うとなれば大事です。法的に正しくても、後から元老院で《マンダロリアンがジャビームへ軍事介入した》とやられれば面倒なことになります。下手をすればここまで高まった信用を失いかねません。絶対に避けてみせます」
官僚氏と同じく、それこそサティーンが最も避けたいことだった。ようやく銀河の人々から得始めたマンダロリアンへの信用を、政争一つで失うわけにはいかない。
「ジャビーム政府からの救援要請を、共和国最高議長に正式に確認していただき、マンダロア社による支援も認めていただくのです。出来れば共和国政府からも正式な協力要請を出して頂きます。それならマンダロリアンが勝手に他惑星へ攻め込んだとは誰にも言わせません」
「そこまで出来るのですか!?」
「出来るようにするのが我々共和国官僚の仕事です」
何でもないことのように答えると、官僚氏は救援要請、認証情報、ジャビーム政府関係者の現職確認、共和国中央との実務上の通信記録、六百万人の奴隷事件、ジャビーム社の財布で救助したという事にする為にジャビーム社をジャビーム政府の半官営組織として登録するなどの資料を作成してまとめ始めた。
「マンダロア社側の作戦目的及び報酬も明記しましょう。住民保護、海賊勢力の排除、正常な行政機能の回復。報酬はジャビーム社を経由したジャビーム政府からクレジットにて。政府機関や公共施設を確保した場合は速やかにジャビーム社を経由してジャビーム政府へ返還する。この条件でよろしいですね」
「「お願いします」」
腐敗していると言われていても、こういう官僚が居るって凄いなあ共和国政府は流石だと感嘆するサティーンとアルトが頷くと、まとめられた資料が共和国最高議長府へ送られた。