共和国最高議長ともなれば銀河全域から政治、経済、治安、外交に関する報連相が絶え間なく集まっている超多忙な仕事。だから、返答には少なくとも数時間、場合によっては翌日、いやもっと待つことになるだろうと誰もが考えていたのだが、実際には四十分もしないうちに議長府から正式な返答が届いたことに部屋の大半の者が驚嘆した。
「流石は議長」「凄いなやり手だと聞いていたが」「ここ二百年で最高の議長との呼び名に嘘は無いな」
部屋の者達が異口同音に感嘆する中、三人のジェダイだけが怪訝な顔をしていた。
「……早いですね。いえ、早すぎる」
ジェダイだけに聞こえる声でそう呟いたのはオビ=ワンだった。
「ああ、早いな。有り得ないくらいに」
クワイ=ガンも同じように端末へ視線を向け、アナキンはフォースから戸惑いの意志を受け取り「早すぎないですか?」と顔をしかめた。
三人のジェダイだけが揃って微妙な表情をしている部屋で、最高議長の迅速な対応に素直に感心しながら返信文書を開いた官僚氏は、読み進めるうちに少し驚いたように眉を上げた。
「これは……承認だけではありません。ご覧ください」
「これは」
映された映像に、部屋でどよめきが起きた。そこに表示されていたのは、シーヴ・パルパティーン最高議長の電子署名が入った共和国政府の正式文書だったからだ。
ジャビーム政府内の現職関係者から正式な救援要請が出されたことを共和国政府として認証し、同惑星では武装海賊勢力の浸透により正常な行政機能の維持が著しく困難となっていることを認定。住民保護及び正規行政機能の回復を目的とする活動について、共和国政府としてこれを支持する。
その上で、共和国政府には現在直ちに派遣可能な軍事力が存在しないことから、ジャビーム政府内の現職関係者より救援を求められたジャビーム運輸会社、及びその依頼を受けるマンダロリアン・セキュリティー・コーポレーションに対し、住民保護、武装海賊勢力の排除、正常な行政機能回復への協力を共和国最高議長名で正式に要請する。
また、両社の設立及び活動に関与し、現在現地に滞在するジェダイ騎士団員についても、住民保護及び治安回復に必要な範囲で協力されるよう、共和国政府としてジェダイ評議会へ正式に要請している。
最後まで読み終えたサティーンは、その鮮やかな文章を直ぐに出せた周到さと情報収集に政治家としての敗北と感嘆を刻み込まれた顔で呻いた。
「これで共和国政府からも、正式に依頼されたということですね」
「ええ。しかも最高議長名です」
官僚氏ことルーシャス書記官は感動していた。
「こちらが懸念していた政治的な問題まで最初から潰してくださいました。これなら後から元老院で何を言われても、ジャビーム政府と共和国政府の双方から正式な要請を受けて活動したと説明出来ます」
「流石は議長ですね」
司法相エージェントのヴァンもトップの有能さに感心していた。
「ありがたい。共和国は俺たちを見捨てなかった」
アルトにとっても、予想以上の返答だった。何度助けを求めても具体的な軍事支援を得られなかった故郷へ、共和国中央が正式な責任を負うと表明してくれたのである。共和国への失望を議長への希望へ塗り替えるには十分すぎた。
周囲にいるマンダロリアンたちも感嘆していた。これだけ共和国政府が明確に支援してくれるなら、後から侵略者扱いされる可能性は大きく減る。少なくとも今の議長は話せるのだな。と。
一方、先ほどから最高議長の異様なまでの仕事の早さに引っ掛かっている三人のジェダイも、文書そのものには何一つ反対するところを見つけられなかった。だからこそ、引っかかっていた。
「マスター」
「なんだアナキン」
ジャビーム政府が海賊勢力の浸透によって正常に機能していないことを認めながら、共和国中央と今も実務上のやり取りを続けている現職の政府関係者から出された救援要請を正式なものとして認めている。その上で、マンダロリアンが一方的に他惑星へ軍事介入したと受け取られないよう共和国政府がマンダロア社へ協力を依頼し、現地にいる三人のジェダイについても、ジェダイ評議会へ正式な協力要請を出している。完璧だった。いや、完璧すぎた。40分で資料を読んでやってのけたにしては完璧すぎた。
パルパティーンへの隔意だけでは表せないきな臭さがあった。
「なにか……嫌な予感がします」
「私もだアナキン」
「……実は、私も」
「君までか、オビ=ワン」
ジェダイ三人は嫌な予感を振り払えなかったが、疑う材料が『あまりにも仕事が早く、あまりにも完璧』しかない以上、それだけで助けを求める人々を見捨てる理由にはならなかった。
暫くして今度はジェダイ評議会から通信が届いた。
最高議長府からの要請を受領し、ジャビームの現状と救援要請を確認した結果、現地に滞在しているクワイ=ガン、オビ=ワン、アナキンの三名について、住民保護及び治安回復への協力を任務とするという内容だった。
「……任務になりました、ね。理由をつけて参加する手間が省けました、が」
通信を読み終えたオビ=ワンが、何とも言えない顔で告げた。
つい先日まで評議会から『余剰人員なし。待機せよ。これ以上何もするな。何もだ。いいな。会社を見守るだけにするんだ。これ以上何もしないでくれ』とまで言われていたのを思い出していたからであるーー何時評議会にジェダイ聖堂に連れ戻されるかを心配していたのだ。
それが今では、最高議長から正式な協力要請が届き、評議会からジャビーム救援への参加を命令されている。少なくとも連れ戻されることは無い。
輸送船の失踪事件を追うという任務を拡大解釈していただけの頃と比べれば、自分たちの立場は遥かに安定したのだ。なのに――
「……やっぱり物凄く嫌な予感がします、マスター」
「私もだよ、アナキン」
「私もです、マスター」
「ああ。そうだな、オビ=ワン」
――何故か三人とも、先ほどより更に嫌な予感がしていた。