「パルパティーンは悪魔だぞ!」――政治を知るジェダイマスター・オビ=ワンが所業の全てを悟り、弟アナキンへ放った愛情こもった魂の叫び(エピソード3より)
そして、三人が感じた嫌な予感は正しかった。
「現地で孤軍奮闘しているルーシャス書記官の応援に、至急君に行ってもらいたい。彼一人にこれ以上の負担を強いるわけにはいかないからね。その際、この書類も頼む。ジャビームからの救援要請を正式なものと認め、マンダロア社とジャビーム運輸会社へ共和国政府として協力を要請するものと、ジャビーム復興支援のものだ」
「承知いたしました、議長。ルーシャスとも通信を繋ぎ、暫定行政立ち上げの法的手続きは粗方整えさせてあります。直ちに合流し、彼と現地を支えます」
「素晴らしい手際だ、助かるよ。書類の伝達だけなら誰にでも頼めるが、現地で必要になるのは戦闘だけではない。行政の復興、物流の調整、治安機構の再建……これらを束ねるには、権限を行使できる君のような優秀な官僚が直接赴かねばならないのだ。多忙なところに、さらに重荷を背負わせてしまってすまないね」
「そのための共和国官僚です。ルーシャス一人に全部押しつけるわけにもいきません」
「苦労をかける。君にはもう一月近くもまともな休息を取らせていないというのに……君たちのような頼れる者にばかり甘えてしまう、議長としての私の力不足だ。ジャビームの人々にも申し訳ないことをしてしまった」
「議長、そのような事はおっしゃらないでください。ジャビームの市民が今この瞬間も受けている苦難に比べれば、我々の疲労など些末な問題です。それに……」
「それに?」
「議長が就任時におっしゃったではありませんか。『この共和国を、真に市民のためのものへと少しずつ変えていくのだ』と。我々はその理想を共に形にするために働いているのです」
「ああ……そうだったな。私は就任時にそう誓ったのだ。ありがとう、君の言葉でまた前を向けるよ。では、頼んだよ」
「はい、必ずや」
「……ところで、出発の手配が完了するまで半日ほど猶予があったね。君の奥さんとお子さんを、既にコルサント市内のホテルに呼んである」
「え?」
「どうか今夜は、ご家族と共に過ごしてくれたまえ。かかった費用は全て私の個人口座から引き落とされるよう手配済みだ。遠慮はいらない。激務に耐える君と、君を支えてくれているご家族への、私からのささやかな感謝の印だ。どうか受け取ってくれないか」
「議長……ありがとうございます、心より感謝申し上げます」
共和国最高議長執務室。署名を終えたパルパティーンは、「頭を下げないでくれ。こんな苦労をかけるのだ。このくらいは当然だよ」慈父の笑みを浮かべながら文書を担当官僚へ渡した。
「ルーシャス書記官が志願して現地へ行ってくれて良かった。彼が政府関係者の身元と権限まで必要な事を全て纏めてくれたから、これだけ早く判断出来たのだ。君からも私が感謝していたと伝えてくれ」
「はい、議長。ルーシャスの志願を特例として認めていただき、上司としても御礼申し上げます。あいつも今、楽しくしています。アウター・リムを今回のようにようやく良くできると」
「有能な者が必要な場所へ行きたいと言うなら、行かせるべきだからね」
そう温かく笑ったパルパティーンは、ふと、その慈愛に満ちた表情を僅かに曇らせた。
「しかし、本来これは手放しで喜ぶべき話ではないのだ。共和国加盟惑星で十万もの武装海賊が住民を脅かしているというのに、共和国中央には直ちに派遣出来る戦力がない。我々に出来るのは、今のようにジェダイに介入を要請し、戦える者たちを探して合法的に動けるよう支援することだけだ」
「……共和国に軍がないから、ですね」
「ふぅ……平和であることと、平和を守る手段を持たなくてよいことは、同じではないのかもしれないね」
「まったくおっしゃる通りです、議長! 実は現在、我々、そうジェダイ・マスターも含めた我々の間でも共和国軍創設の機運が──」
日頃から軍創設の必要性を痛感し、問題を共感したジェダイと共和国軍創設討論をしている官僚は、議長が暗にそれを認めるような発言をしたことに歓喜し、身を乗り出して語ろうとした。
だが、穏やかな笑みを浮かべたパルパティーンが静かに片手を上げ、その言葉を遮る。
何故、という顔をする官僚に対し、パルパティーンは若者の焦りを全て分かっているというような、優しく思慮深い声で言葉を紡いだ。
「言いたい事は分かるよ。もっとも、その議論は後にしなければならない。今はまず、ジャビームの人々を救うことが先決だ」
「…………はい、議長。おっしゃる通りです。先走りすぎました──最高議長が、あなたで本当に良かった」
「大袈裟だよ。私は最高議長として当然のことをしたまでさ。ルーシャス書記官にも、よくやってくれていると伝えてくれ。『これからも共に、この共和国を少しずつ良くしていこう』とな」
「はい。では、失礼いたします」
「ああ。くれぐれも、ご家族を大切にな」
深い感銘を受けた面持ちで官僚が深く一礼し、執務室を去る。
重厚な扉が音もなく閉まり、完全に気配が消えた。
直後。
慈父の笑みを打ち消したパルパティーンは、記録に残らない通信を開いた。
『オーダー1192に従い、速やかに関係者を退避させろ。残っている資料も完全に処分しろ。そして……海賊どもをマンダロリアンがどう潰すのか、情報収集を抜かるなよ』
『はっ! シディアス卿! 愚か者どもの統制にしくじったこの私に、挽回の機会を頂きっ、誠にありがとうございます!』
ジェダイによるジャビームでの奴隷解放を端緒とした騒動。その不手際から、自身の脳裏に「粛清」の二文字を浮かべ、恐怖に震え続けていたツェルカのトップ。
彼に指示を一言だけ下し、通信を切ったダース・シディアスは、静かに背もたれへ身体を預け、昏い悪魔の笑みを浮かべた
「これでいい」
ジャビームを支配している海賊など、シディアスにとって惜しむほどの存在ではない。金と武器を与えれば働く者など銀河には幾らでもいる。使い捨ての駒だ。
今回護るべきは、その海賊へ武器や資金を流していたツェルカ系列の企業関係者と、その更に奥──シディアスと直接繋がる者たちへ捜査の手が伸びないようにすることだった。
替えの利く海賊共は、このままマンダロリアンに始末してもらうに限る。
「その方が好都合だ。存分に暴れるがいい、マンダロリアン」
これで、パルパティーンは共和国最高議長としてジャビームを救う存在に成れる。
長年、密かに海賊と企業勢力に蝕まれていた共和国加盟惑星から救援要請を受け、直ちに派遣可能戦力無き共和国の現状を鑑みて、果断にマンダロリアンへ協力を依頼し、それに伴う政治的な問題まで先回りして処理した先見性のある偉大な最高議長に。
「実に、この私に相応しい肩書ではないか。来る共和国軍創設論において、統合指揮機構のトップには最高議長パルパティーンこそがと誰もが思うだろう」
それだけではない。十万の海賊を相手としたマンダロリアンの戦闘能力が分かるのだ。マンダロア社がどれほどの軍を短期間で動かせるのか。銀河最強を謳われるマンダロリアンたちが現時点でどれほどの戦闘能力を持っているのか。サティーン・クライズは、血の気の多い武装した同胞たちをどの程度統制できているのか。
それら全てを、共和国政府からの正式な依頼という安全かつ確実な観客席から観察出来る。
「そしてなにより」
ジェダイが戦争へ参加する。最高議長の依頼のもとで。
その事実を思うだけで、シディアスの顔に深く、昏い歓喜の笑みが刻まれた。
「来る大戦で、ジェダイを戦地に立たせるハードルが一つ無くなったわ。感謝するぞ、クワイ=ガン……やはり、真のジェダイはこうでなくてはな。共和国の法よりもリビングフォースを優先し、本質的に組織に向かぬ存在でなくては。そうでなくてはジェダイではないわ」
クワイ=ガンたちが既に二社へ深く関与している以上、彼らの存在を文書から外す方が不自然だったという事もあるが、せっかくだから利用させてもらったのだ。
彼らならば、目の前で助けを求める者がいれば戦ってしまう。共和国の法的手続きよりも、弱者の助けを求める声を優先してしまう『真のジェダイ』だからだ。ルーサン改革によって何とかして組織化すると同時に硬直し教条主義に陥ってしまった連中(最近変わり始めているが)とは違う真のジェダイだからだ。
──だからこそ、未だ最高議長ですら命令出来ないジェダイを、自ら望んで取り返しの付かない道へ踏み込ませることが出来る。
「ああ、ジェダイ、ジェダイ。貴様はジェダイなのだよ、クワイ=ガン。貴様こそが真のジェダイなのだ。嫌な予感がするだろう。これで良いのかとフォースの乱れに迷うだろう。だが──」
これでジェダイは、共和国政府からの要請を受け、マンダロリアンと共に一惑星の武力解放へ参加する。戦争に参加するのだ。
小さく、しかし決して引き返せない一歩を刻むのだ。
長らく共和国政治と一定の距離を取っていたジェダイが、共和国最高議長からの要請によって住民救援という名の軍事行動へ参加する。その前例が、これで出来た。
「──だが、助けを求める者達を見捨てられんのだ。ジェダイだからな」
今回の相手は海賊であり奴隷商人であり、助けを求めているのは罪なき市民だ。ジェダイたちに断る理由などどこにもない。いや、断れるはずが無い。教条主義に陥った評議会の者達すらも自ら望んで参加してしまう案件だ。
「なんと愚かで」
そして英雄になる。共和国において高まり続けるジェダイの評判のまま、彼らは武力解放の英雄となる。助けてくれたことに感謝する市民の声を、次からも無視出来ない正義の体現者に。
共和国政府から求められれば、武力行使へ参加する存在になっていくのだ。
そう、共和国議長から求めれば戦争へ行くようになる。シスが起こす、巨大な戦争に。
「無様で」
価値のなくなった海賊たちを捨てることで、ジャビームを救った最高議長という絶対的な評価を得て、マンダロリアンの実戦能力を測り、そしてジェダイを共和国最高議長による軍事行動へ一歩踏み込ませる。
「恐ろしく」
一つの盤面の駒を捨てるだけで、あまりにも多くのものが手に入った。特に、自分を除く唯一のイレギュラーなプレイヤーたるクワイ=ガンに対し、『行動は止められないが、行き先は用意できる』というこれ以上無い成果が。
「憎らしい」
ジェダイとしては例外的に政治的素養のあるオビ=ワンすら、今の状況の殆どが黒幕の掌の上だなんて読めまい。誰も見ていない執務室で、パルパティーンは僅かに口元を歪めた。
「シスとは違って政治に向かぬ存在──まさにジェダイよなあ」
クワイ=ガンという真のジェダイが存在する。それを受けて戦略を『予定よりも銀河を焼き払う(※史実クローン戦争の犠牲者最低数十億人)』ものに速やかに書き換えたシスは一頻り笑った。
そして何事もなかったかのように、共和国最高議長として次の書類へ手を伸ばした。
それは、ルーシャスを始めとする実務者たちが纏めたジャビーム復興計画だった。予算、物流、行政再建、財政補助、治安維持。どれもよく出来ている。
「しかし、残念だ」
だからこそ、署名を入れるパルパティーンの瞳に僅かな沈鬱と悲哀が浮かんだ。
「ツェルカの連中は勿論だが──ルーシャス書記官のような者たちも、帝国が出来れば速やかに排除せねばならんだろうな」
極めて有能かつ誠実であり、更に揺るぎない理想を持っているからこそ、生かしておけない。
「ただの理想主義者や、無能な者ならばどうとでもなる。有能であっても、私に従い、自らの立場と利益を守ることを選ぶ者ならば使い道はいくらでもある」
マス・アミダのように、恐れ、抗うより従うことを選ぶ能力が高い者ならば生かしておける。
「だが……市民生活を幸福にしようとする者は、帝国には──ダークサイドには必要ない」
彼ら彼女らの献身を想い、パルパティーンは静かに吐息を漏らした。
「理念を語るだけの理想主義者ならば幾らでも操れる。だが、理念を制度へ落とし込み、問題を見つけ、自ら現場へ赴き、腐敗した仕組みを実際に直してしまう者は邪魔になる」
彼ら彼女ら、即ち、いまジェダイと組んでこの銀河を直そうとしている有能な実務者たちがそれだ。
「帝国設立まで生かしておき、帝国の施政予定を見せれば、彼らは必ず反対する。圧政者は地位を失うことを恐れ、圧政される者は怒りと憎しみを抱く。それこそが銀河をダークサイドで満たす最良のシステムだというのに──彼らは、それを《失政》と呼んで直そうとするだろう」
ダークサイドとは地獄のような圧政(※史実帝国圧政の犠牲者最低1兆人以上)によってこそ強まる。ゆえに、あえて地獄を作り上げなければならないというのに、彼らは己の正義に従って反抗してしまうのだ。
その光景が瞼に浮かんだ極めて合理的なシス卿は、心底残念そうに首を振った。
「人の命や幸福などダークサイドの深淵と偉大さに比べれば塵芥という真理を理解出来ぬとは。なんと嘆かわしいことか。彼らがマス・アミダのように、畏れ怯えて私に仕えることを選んでくれるような者たちであればな──ジェダイと組んでしまった今。ジェダイと共に死んでもらわなくてはならん」
デッドラインを越えてしまった彼らにもう一度、溜息を吐いた。
「惜しいものだ」
その言葉だけは、嘘ではなかった。
そしてパルパティーンは議長として次の書類へ、共和国を少し良くするための書類へ流麗な署名を記した。
やがて共和国とジェダイを焼き尽くす、巨大な業火の燃料となる書類に。